行政書士・社会保険労務士 大原事務所

人生も多分半ばを過ぎて始めた士業。ボチボチ、そのくせドタバタ毎日が過ぎていく。

父の掌

2016-04-08 21:58:54 | 日記・エッセイ・コラム

 子供の頃、父が失業していたことがある。

 父と一緒に職安に行った。もちろん私の職探しではない。父が失業中母が働いていて私の面倒を父がみていたのか?子供と一緒に職安に行くなどあまりほめられた話ではないだろうに。

 はっきりとした記憶はないが、広場のような所に大人が沢山集まっていた。それはまるで学校の朝礼のようで、ただ整列ではなく、ばらばらに立っていて、台のようなものに載った大人が拡声器でなにか説明していた。内容は覚えていない。

 みんな前を向いて男の話を聞いている。私も訳は分からないがその男の方を見ていた。

 一度離して、暫くしてもう一度握ろうと父の手を探った。目は前を見たまま、父のだと思う手を握った。ところがその感触が少し違う。父は銅山の工夫だったから、怪我でその仕事を辞めていたが、それでも掌がゴツゴツしていた。でもその手はゴツゴツが感じられなかった。変だなと思って手の主見た。手の主も私を見ている。私はたちまち泣き出した。父ではなかった。

 私の泣き声で、少し前に立っていた父が振り向いた。

 「アホ!離れたらいかん言うたじゃろ」

 と言いながら、私が掴んだ手の持ち主に会釈した。

 男は笑いながら

 「父ちゃんはあっちや。けどええ子やったらおじちゃんとこの子になってもええで」

 

 なぜ、こんなことを思いだしたかというと、今日スーパーで同じ目にあったからだ。勿論私が手を握ったわけではない。突然袖を引っ張られた。

 「ママ、チョコ買って」という。

 見ると幼稚園の年少さん位の女の子。私と目が合うと一瞬ベソをかきそうになった。

 「チョコは良いけど、ママは多分あっちだよ」と少し離れた所にいたお母さんと思しき人を指さした。女の子は少し怒ったような、安心したような顔をして母親に飛びついていった。

 「離れちゃダメって何時も言ってるでしょ」

母親が私に会釈した。

 いつの時代も子供は可愛い。多分私も可愛かった。