宇宙のはなしと、ときどきツーリング

モバライダー mobarider

金星から水分を奪ったのは激しい天体衝突だった?

2015年09月26日 | 宇宙 space
かつての金星には、地球の海水ほども表層水があったと考えられています。

でも現在では、ほとんど無くなっていて、
その行方は、惑星科学の重要な未解決問題の1つなんですねー

今回の研究では、
激しい頻度の天体衝突“後期重爆撃期”が、
惑星形成末期の金星で起こったことで海が失われた、
という可能性を示しています。


兄弟星、金星と地球の比較

地球の兄弟星と呼ばれる金星の表層には、
かつては地球の海水と同程度の水があったと考えられています。

でも現在では、地球の海水量の10万分の1しか存在していません。

なので、金星表層にあった水の行方については、
「地球と金星が、いかにして作り分けられたか」という問題に直結した、
比較惑星学における最重要問題の1つになっています。
レーダー観測に基づきコンピュータシミュレーションで作成された金星全球像。


金星の水はどこへ

金星は太陽に近いので、
海は蒸発し、水蒸気の大気をまとっていた可能性が高いことが指摘されています。

その水蒸気は、若い太陽からの強い紫外線で水素と酸素に分解され、
軽い水素は宇宙空間に逃げていくことに…

ところが金星サイズの惑星から、
地球の海洋相当量の水に含まれる酸素を、宇宙空間に逃すことは容易ではなく、
分厚い酸素大気が、どのように消費されたのかが問題になっていました。

今回発表された説は、
形成末期の金星では、現在の1万倍以上の頻度で天体衝突が起こっていて、
その衝突で初期金星から水分が取り除かれたというもの。

この時期は“後期重爆撃期”と呼ばれ、
水星・金星・地球・火星といった惑星が多くの天体衝突を受けていました。

そして金星では、
太陽の紫外線が強く、水蒸気大気の光化学分解が進行する時期と重なるんですねー

天体の衝突を受けた金星は、地殻やマントルが砕かれ、
岩石チリが高温の初期金星大気中に放出されることになります。

そのチリが高温の酸素大気と反応して岩石の酸化が起こり、
大気から酸素が取り除かれ、金星が乾燥して行ったということです。

初期金星への“後期重爆撃”の数値モデルを用いて、
粉砕される岩石の総量を計算してみると、
大気に放出される岩石チリは、
現在の地球大気質量の1万倍にも及ぶことが分かります。

これは原始の金星において、主要な酸素消費源になり得るもの。

強い紫外線による宇宙空間への水素散逸の効果と合わせると、
金星表層から地球の海洋質量相当の水分を消失させる可能性があることが、
示せたことになります。
衝突天体の総質量に対する除去可能な水分量の計算結果。


地球と金星の作り分け

初期の地球にも“後期重爆撃”があったと推定されているのですが、
地球は太陽からの距離が金星よりもわずかに遠いんですねー

なので、水蒸気大気が凝縮して海を作り、
若い太陽からの紫外線による光化学分解を逃れたと考えられています。

っということで、兄弟星である地球と金星が作り分けられたのは、
表層水が液体だったか、気体だったかという形態の違いでした。

これにより、惑星形成過程の末期に必然的に起こる“後期重爆撃”に対する、
表層環境の反応に劇的な違いが生じたのが原因のようです。

“後期重爆撃”が金星の表層水問題だけでなく、
系外惑星の大気進化にも、大きな役割を果たす可能性があることも、
今回の研究は示唆しているんですね。


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  地球に衝突した小惑星が、大陸移動のきっかけになった?

太陽の10兆倍以上の赤外線! チリに覆われた銀河“DOG”を多数発見

2015年09月25日 | 宇宙 space
すばる望遠鏡の観測データから、チリに覆われた銀河“DOG”の探査が行われ、
新たな“DOG”が48個発見されました。

“DOG”の赤外線光度は、太陽の10兆倍以上にもなると推定されていて、
急成長を遂げつつあると考えられているんですねー

銀河とその中心の超大質量ブラックホールの進化を知る上で、
大きな手がかりになるそうです。


銀河の進化を理解する

ほぼすべての銀河の中心部には、
太陽の10万倍から10億倍もの質量を持つ、
超大質量ブラックホールが存在しています。

ブラックホールの質量と銀河の質量には強い相関が見られので、
銀河と超大質量ブラックホールは、
お互いに影響を及ぼし合いながら成長(共進化)してきたと考えられています。

そして、銀河進化を理解するのには、
銀河に影響を及ぼす超大質量ブラックホールが、
銀河とどのような物理過程を経て共進化しているのかを、
知ることが必要不可欠になります。


チリに覆われた銀河

今回の研究では、共進化を調べるため、
“DOG(Dust Obscured Galaxy)”と呼ばれるチリに覆われた銀河に注目。

“DOG”は可視光線では極めて暗いんですが、
赤外線で見ると明るいという特徴を持っています。

その中心のブラックホールは、
今まさに急成長をしているような「成長期ブラックホール」であることが、
理論的研究から期待されています。

また“DOG”の多くが、
銀河の星生成活動が最も活発だったと考えられている時代(80~100億年前の宇宙)に、
集中的に存在していたことも知られています。

なので“DOG”と中心のブラックホールは、
両者が共に急成長しているような興味深い段階にあり、
共進化の物理を理解する上で重要な「共進化途上期」にあると期待できるんですねー

でも“DOG”は、
可視光線で非常に暗い上に空間個数密度も低いので、
可視光線での探査で多数の“DOG”を発見し、
その統計的性質を明らかにすることは困難でした。

そこで今回の研究では、
すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ“HSC”で得られた初期データを用いて、
“DOG”を探査。

“HSC”による広視野で高感度の観測と、
NASAの赤外線天文衛星“WISE”などによる赤外線データを比較することで、
新たに48個の“DOG”を発見しています。
“DOG”の波長別画像。
左:可視光線(すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ“HSC”)
中央:近赤外線(ヨーロッパ南天天文台ビスタ望遠鏡)
右:中間赤外線(NASAの赤外線天文衛星“WISE”)


HSCによる今後の観測に期待

発見された“DOG”の赤外線光度は、太陽の10兆倍以上にもなると推定され、
“DOG”が極めて明るい天体種族であることが分かりました。

さらに、“DOG”の明るさの波長依存性や個数密度の光度依存性などを踏まえると、
赤外線で極めて明るい“DOG”の中心部には、
急成長を遂げつつある超大質量ブラックホールがあると考えられるんですねー

この成果は、銀河と超大質量ブラックホールの共進化の謎を解明する上で、
観測的視点から、これまでにない大きな手がかりを与えてくれるかもしれません。

特に、赤外線で非常に明るいチリに覆われた銀河に、
本当に活動的なブラックホールが存在しているのかどうかは、
これまで謎でした。

でも今回の研究によって、その存在を確認することができました。

“DOG”探査という点では、現状HSCの独壇場と言える状態にあるので、
今後HSCの観測から、数千個の“DOG”の発見が見込まれています。

そのデータに対してX線などの多波長データを使用し、
“DOG”やその中心のブラックホールの性質がより詳細に分かるといいですね。


こちらの記事もどうぞ ⇒ 太陽1億4000万個分もある!? 銀河中心の超大質量ブラックホール

【冥王星探査】“ニューホライズンズ”が最接近のデータを本格送信

2015年09月24日 | 冥王星の探査
7月14日のこと、NASAの探査機“ニューホライズンズ”が、
冥王星を接近通過“フライバイ”しました。

この時、“ニューホライズンズ”が取得したのは膨大な観測データ。
このデータの送信が本格的に始まったんですねー

新たなデータからは冥王星のクローズアップ画像も作られ、
約1か月半ぶりに公開されています。


膨大なデータから分かったこと

これまでに公開された画像などは、
“ニューホライズンズ”が取得した情報のうち、
ほんの一部から作成されたものでした。

なのでデータ送信が始まると、
完了までには約1年半ほどかかるそうです。

約1か月半ぶりに公開された最新画像は、
1ピクセルあたり400mの高解像度。

そこに写っていたのは、砂丘のような地形や、
山岳地帯から平原に向かってじわじわと流れる窒素の氷河、
冥王星の表面を流れる物質によって削り取られて出来たと思われる渓谷、
さらには無秩序に乱立する山々などでした。
7月14日に8万キロの距離からとらえたクトゥルフ領域(右下の暗い領域)と、
その上のスプートニク平原(地名はどちらも非公式)。

冥王星の表面はどこから見ても火星と同様に複雑。

雑然と存在する山々は、
スプートニク平原内の凍った窒素の堆積物中に浮かぶ、
巨大な水の氷塊なのかもしれません。
7月14日に8万キロの距離からとらえられた冥王星の表面。
幅350キロの領域に暗く深くえぐられたような古いクレーターと、
平らな若い地形が見られる。

見えているものが砂丘のようなものだとすると、
完全に誕生当時のままの状態だと考えることができます。

なぜなら、今日の冥王星の大気は非常に薄いので、
砂丘の形成は、今よりも厚い大気を持っていた過去の冥王星で、
行われた可能性が高いからです。

ひょっとすると、
私たちの知らないプロセスが働いてできたのかもしれません。

また、冥王星の大気のもやが、
予想以上に多くの層を持っていることも明らかになりました。

さらに、研究者にとってボーナスといえるデータもありました。

それは、太陽光が直接当たらなかったところも観測できたこと。
もやが冥王星の夜側の地形を、ほのかに照らしてくれたので可能になったそうです。
再接近から約16時間後に、77万キロの距離からとらえられた冥王星のもや。
画像処理を進めた右の画像では、
もやの多層構造や、夜側の冥王星の地形(右上)が見える。

“ニューホライズンズ”は現在、
地球から約50億キロの距離を航行していて、
冥王星からは、すでに7300万キロ以上も遠ざかっています。

探査機の状態は良好で、
システムもすべて正常に稼動しているそうです。


こちらの記事もどうぞ
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  【冥王星探査】フライバイ(接近通過)を振り返ってみると

なぜ土星の環は、Aリングだけ高密度で若いのか?

2015年09月23日 | 土星の探査
「土星のAリングは他の環よりも密度が高く若い」可能性があることが、
探査機“カッシーニ”による土星の環の温度変化データとモデル計算の比較から、
示されました。


土星の環の消失

土星は約29年で公転していて、
その半分にあたる約15年ごとに、赤道の真上から太陽が照らします。

地球での「春分、秋分」にあたるこのタイミングでは、
土星の環の真横から太陽の光が当たることになります。

なので見かけ上、土星の環が消失したように見えるんですねー

また、この前後の数日間には、
環の中に見慣れない影や、波立ったような構造が現れ、
環の温度が下がります。
“カッシーニ”がとらえた2009年の春分時の土星



なぜAリングの温度は下がらないのか

NASAのジェット推進研究所の研究チームは、
土星が春分を迎えた2009年8月ごろに、探査機“カッシーニ”が取得したデータを調査。

コンピュータでモデル計算した温度データと比較しています。

すると、環の大部分では温度の下がる様子がモデルと一致しました。

でも、明るい環のうちで一番外側にあるAリングの温度だけは、
モデル計算よりも高いことが分かるんですねー

さらに詳しく調べたところ、
Aリングを構成する粒子の大半が1メートルくらいの大きさで、
成分のほとんどが氷であると考えれば、
観測されたような温度に最もよく合うことが分かってきます。

粒子が一部分に集まっている原因として考えられるのは、
過去数億年以内に、衛星が巨大天体の衝突で破壊されたという可能性。

残骸が環全体に均等に拡散するほど、時間が経っていないということです。

あるいは、複数の小衛星が環の内部に移動し、
氷の粒を外から運んできたのかもしれません。

この小衛星たちが、土星や他の衛星の重力で破壊され、
氷塊がAリングに広がったという説です。

こうした説が正しければ、
Aリング(とくに温度上昇が顕著な中央部)の年齢は、
土星本体と同じくらい古いと考えられている他の部分よりも、
ずっと若いことになるんですねー


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  土星の1日は、予測よりも短かった

もっとも遠い銀河の記録を更新! 132億年前の初期宇宙に存在

2015年09月22日 | 宇宙 space
ハッブル宇宙望遠鏡や赤外線天文衛星“スピッツァー”などによる観測で、
132億年前の初期宇宙に存在するとみられる、これまでで最も遠い銀河が発見されたんですねー
銀河“EGS8p7”。
全体と右上はハッブル宇宙望遠鏡による撮影、右下は“スピッツァー”による撮影。


最も遠い銀河“EGS8p7”

ハッブル宇宙望遠鏡と赤外線天文衛星“スピッツァー”の観測から、
最遠銀河候補に挙げられた天体が銀河“EGS8p7”です。

遠方の銀河までの距離(つまり古さ)を知るために、
重要な手掛かりになるのが銀河の色になります。

なぜかと言うと、
膨張する宇宙の中では、遠方の銀河ほど高速で遠ざかっていくので、
光のドップラー効果(赤方偏移)により、
高速で遠ざかる銀河ほど赤みがかって見えるからです。

このため、赤方偏移の値が大きいほど、
より初期の宇宙に存在する、つまり遠くにあることを示すんですねー

銀河“EGS8p7”は、
ケック天文台の近赤外線撮像分光器“MOSFIRE”を使った追加観測で、
赤方偏移の値が8.68と求められました。

赤方偏移8.68から分かることは、“EGS8p7”が今から132億年前の宇宙にあること。

宇宙の年齢は138億年なので、
誕生から6億年後の宇宙に“EGS8p7”が存在していることになります。


宇宙再電離の謎

宇宙誕生後、5億年から10億年ごろに起こった“宇宙再電離”以前は、
宇宙には中性水素原子の雲が存在していました。

その雲が、若い天体からの放射を吸収してしまうことになります。

なので、銀河中の星形成や若い星の存在を示す指標となる、
スペクトル中の特徴“ライマンα輝線”は、
再電離以前の宇宙に存在する“EGS8p7”からは理論的に見えないはずでした。

でも、実際には検出されているんですねー

これまでの観測で、
再電離プロセスにはムラがあったことが示唆されているので、
“宇宙再電離”が一様に起こらなかったのかもしれませんね。


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