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超新星“SN 1987A”では中性子星が生成されていた! 重い恒星が一生の最期に起こす大爆発で残されたコンパクトな天体の正体

2024年03月18日 | 宇宙 space
1987年に観測された超新星“SN 1987A”は、現代の天文学者が間近で観測できた“II型超新星”として、現在でも大きな注目を集めています。

ただ、爆発から間もないことから多くの謎も抱えているんですねー
その一つが、“SN 1987A”によって生成された天体が中性子星なのか、それともブラックホールなのかという謎です。

今回の研究では、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡がとらえた“SN 1987A”の観測データを分析。
その結果、中心部の環境が中性子星以外では説明がつかない、という直接的な観測証拠を提示しています。

この研究結果は、“SN 1987A”や一般的な超新星爆発に対する新たな視点を提供することになるはずです。
この研究は、ストックホルム大学のC. Franssonさんたちの研究チームが進めています。
図1.ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で撮影された“SN 1987A”の疑似カラー画像。右側は高度にイオン化されたアルゴン原子からの放射を示している。(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, C. Fransson (Stockholm University), M. Matsuura (Cardiff University), M. J. Barlow (University College London), P. J. Kavanagh (Maynooth University), J. Larsson (KTH Royal Institute of Technology))
図1.ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で撮影された“SN 1987A”の疑似カラー画像。右側は高度にイオン化されたアルゴン原子からの放射を示している。(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, C. Fransson (Stockholm University), M. Matsuura (Cardiff University), M. J. Barlow (University College London), P. J. Kavanagh (Maynooth University), J. Larsson (KTH Royal Institute of Technology))


重い恒星が一生の最期に起こす大爆発

1987年2月24日のこと、かじき座の方向で突然星が増光する超新星が観測されました。

すぐに、その増光は地球から約16万光年離れた大マゼラン雲の内部で発生した、重い恒星が一生の最期に起こす大爆発“II型超新星”だと確認されました。

1987年に観測された1つ目の超新星なので“SN 1987A”と名付けられたこの超新星爆発は、最大視等級が2.8等級と肉眼で見える明るさとなります。
これは、1604年に観測されたケプラーの超新星以来383年ぶりの出来事でした。

現代の天文学者が宇宙のスケールでは近所ともいえる距離で遭遇した“II型超新星”として、“SN 1987A”は非常に注目を集めることになります。

例えば、“SN 1987A”の光が地球に届く2~3時間前に、超新星爆発に伴って発生した素粒子“ニュートリノ”が地球に降り注いだことです。
当時、日本に設置されていた水チェレンコフ検出機“カミオカンデ”が、偶然にもこの“ニュートリノ”をとらえることに成功。
これにより謎多き素粒子“ニュートリノ”の性質の理解が大幅に進みました。

カミオカンデは、もともと陽子崩壊と呼ばれる全く別の物理現象をとらえるために設置されています。
このため、超新星爆発に伴う“ニュートリノ”の検出は全くの偶然で、嬉しい誤算でした。

この出来事は、カミオカンデの建設を主導した小柴昌俊さんが、2002年にノーベル物理学賞を授与されるきっかけにもなっています。


爆発後に残されたコンパクトな天体の正体

“SN 1987A”は、発生から37年経った現在でも注目され続けています。
それは、距離が近いことに加え、爆発から間もない超新星の環境を詳細に観測できる数少ないサンプルと言えるからです。

でも、数10年の観測にもかかわらず、未だに良く分かっていないこともあるんですねー
その一つが、“SN 1987A”が何を残したかです。

太陽のおよそ8倍以上の質量を持った恒星が、進化の最終段階で鉄の中心核を作ると、鉄は宇宙で最も安定した元素なので、それ以上は核融合を行えなくなってエネルギーを作り出せなくなります。

恒星は、中心核で起こる核融合反応により自らエネルギー(外向きの圧力)を生成することで、重力(内向きの圧力)によって潰れるのを回避しています。
なので、核融合ができなくなると重力によって潰れる“重力崩壊”を起こすことになります。

この重力崩壊によって中心核の密度が十分高くなると、外側から落ちてくる物質を中心核で跳ね返して“II型超新星爆発”を起こすと考えられています。

そして、爆発の後に残されるのがコンパクトな天体です。
重力崩壊に対抗できる力が存在せず、無限に潰れてしまった天体はブラックホールとなり、ブラックホールになる手前で重力崩壊が停止した天体は中性子星となります。
ただ、重力崩壊後のプロセスの詳細は、現在でもよく分かっていません。

“SN 1987A”は、太陽の約20倍の質量を持つ恒星が、核融合によるエネルギーを作り出せなくなり、重力によって潰れることで中心核の密度が充分高くなることで爆発し生じたことが分かっています。

現在の理論では、この質量を持つ恒星が爆発後に生成するのは、中性子星という宇宙で最も高密度な天体です。

“SN 1987A”の研究開始の当初、“ニュートリノ”が観測されたことから、中心部で生じたのは中性子星ではないかとする推定がありました。

また、2019年頃より、観測結果の分析から、やはり中性子星ではないかとする研究が複数提出されています。
ただ、これらは間接的な証拠に基づくもので、中性子星が存在するという確実な証拠ではありませんでした。


中心部で起こる極めて高エネルギーな放射活動

今回の研究では、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による“SN 1987A”の観測データを分析し、中心部にある天体の正体に迫っています。

“SN 1987A”は、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の初回の科学観測で対象となった最初の天体で、2022年7月16日に観測が行われました。

今回の観測では、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡に搭載された中間赤外線観測装置“MIRI”を使用。
これにより、“SN 1987A”の画像化と分光観測の精度を両立するモードで観測が行われています。
この観測モードでは、中心部にある物質の種類や状態、および位置と移動速度を細かく知ることができます。

分光観測を行うことでスペクトルを得ることができます。
スペクトルは、光の波長ごとの強度分布で、そこに現れる吸収線や輝線を合わせた呼称がスペクトル線です。

個々の元素は、決まった波長の光を吸収したり放出したりする性質があります。
その波長での光を吸収し強度が弱まると吸収線、光を放出し強まると輝線としてスペクトルに現れます。

光の波長ごとの強度分布スペクトルに現れる吸収線や輝線を調べることで、元素の種類を直接特定することができます。

また、スペクトルに現れる吸収線や輝線は、光のドップラー効果によって、私たちの方へ動いている元素が発する光の波長は短く(青く)なり、遠ざかる元素からの光の波長は長く(赤く)なります。
なので、この波長の変化量を測定することで、元素の動きを知ることができます。

観測の結果、アルゴン原子と硫黄原子から放出される、特定波長の赤外線の観測に成功。
特に、アルゴン原子は普段18個持つ電子を最大で5個失うほど高度にイオン化された原子が、豊富に存在することが分かりました。

通常の環境ではイオン化しないアルゴン原子が高度にイオン化しているということは、中心部の周辺では極めて高エネルギーな放射活動があることを意味しています。

そこで、研究チームでは、イオン化された原子の配列や速度を元にシミュレーションを実施。
すると、中心部に中性子星が存在すると仮定した場合に、シミュレーションと観測結果が最も一致することが分かりました。

ブラックホールなど、その他の仮定によるシミュレーションは観測結果と一致しないことから、“SN 1987A”で生じたのは中性子星の可能性が極めて高いことが考えられます。

“SN 1987A”において、中性子星から放出される高エネルギー放射の影響を直性観測で示したのは、今回が初めてのことでした。


将来の“SN 1987A”に対する研究へ

“SN 1987A”では、超新星爆発に伴って発生した素粒子“ニュートリノ”が観測されました。

特定の超新星爆発に関連付けられた“ニュートリノ”の観測は、現時点で“SN 1987A”が唯一の事例で、II型超新星の内部の貴重な情報を持っています。

今回の研究により、“SN 1987A”で発生したのが中性子星であることが絞り込まれたことで、II型超新星に関する研究がさらに進むと予想されます。

例えば、観測できた“ニュートリノ”の数から実際に発生した“ニュートリノ”の数が分かれば、II型超新星で起こる核反応を推定することができます。
また、“ニュートリノ”のエネルギーや到達時間から、中性子星の性質を知ることもできるはずです。

将来の“SN 1987A”に対する研究では、仮定する前提条件が絞り込めるようになるので、より集中的な研究を行うことも可能でしょう。
さらに、得られた研究成果は、“SN 1987A”に限らず一般的な超新星の研究にも活かすことができますね。


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