宇宙のはなしと、ときどきツーリング

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大質量原始星を育むガス円盤を探る上で“塩”が重要なツールになるようです。

2020年09月28日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
アルマ望遠鏡を使って二つの大質量原始星“IRAS 16547-4247”を観測してみると、それぞれの原始星を囲むガス円盤の中に、チリが砕かれて飛び出した塩化ナトリウムや、高温に加熱された水蒸気が含まれているのが見つかりました。
さらに、それら分子から放たれる電波を解析することで明らかになったのが、二つのガス円盤が逆回転する様子でした。
ガス円盤の様子を明らかにできたのは、原始星近傍のみに含まれる塩化ナトリウムなどの分子を検出することができたおかげ。
大質量星の誕生を探る上で重要な手掛かりになることを示しているようです。

大質量星の形成メカニズム

夜空に輝く星には、太陽のような小質量星もあれば、ベテルギウスに代表されるような太陽の約10倍以上の質量を持つ巨大な星“大質量星”もあります。

いずれも、宇宙に漂うガスやチリの雲を材料にして生まれます。

でも、大質量星は小質量の星に比べて数が少なく、その誕生現場も地球から遠くにあります。
なので、大質量星の形成メカニズムの理解は、小質量星のそれに比べて十分には進んでいません。

一方、大質量星は強烈な光を放ち、一生の最期には超新星爆発を起こして周囲の宇宙環境に大きな影響を与えます。
このため、大質量星の形成メカニズムを理解することは、さまざまな宇宙現象を理解するための重要な要素と言えるんですねー

特に重要なのは、生まれたばかりの星が周囲からどのように物質を取り込んで大質量星に成長していくのかを理解すること。

小質量星の場合だと、生まれたばかりの原始星の周囲をガスの円盤が取り巻いていて、原始星の重力によって引き付けられた物質はいったん円盤に滞留し、さらに原始星へと流れ込んでいくという過程が明らかになっています。

大質量星も同じような過程をたどると考えられます。
ただ、これまで大質量原始星の周囲のガス円盤の観測は十分にできていませんでした。

これは、大質量原始星の周囲には非常に大量のガスが存在し複雑な分布をしていて、ガス円盤を見分けるのが困難だったためです。

これまでのアルマ望遠鏡を使った観測でも、大質量原始星周囲のガス円盤をとらえた例は限られています。

分子が放つ電波を解析する

今回、この問題に挑んだのは国立天文台の研究チームでした。

研究チームは、さそり座の方向約9500光年彼方に位置している大質量原始連星“IRAS 16547-4247”をアルマ望遠鏡を用いて観測。
太陽の1000倍もの質量を持つ巨大なガスの雲の中に深く埋もれている“IRAS 16547-4247”は、二つの原始星からなる“連星系”であることが知られていて、その質量の合計は太陽の25倍と見積もられています。

研究チームは、アルマ望遠鏡の高い分解能と感度を活かして、原始連星“IRAS 16547-4247”の周囲にある様々な分子が放つ電波をとらえることに成功。
そして、明らかになったのは、分子によって分布が大きく異なることでした。

有機分子シアン化メチル(CH3CN)や二酸化硫黄(SO2)といった大質量原始星観測でよく調べられる分子は、二つの原始星を大きく取り巻く領域から検出されたので、原始星近くの様子を調べるのには適していませんでした。

一方、それぞれの原始星の近傍から検出されたのは、高温の水蒸気(H2O)や塩化ナトリウム(NaCl)、一酸化ケイ素(SiO)の分子が放つ電波でした。
アルマ望遠鏡が撮影した原始連星“IRAS 16547-4247”周囲の構造。チリが放つ電波を黄色、シアン化メチル(CH3CN)が放つ電波を赤色、塩化ナトリウム(NaCL)が放つ電波を緑色、水蒸気(H2O)が放つ電波を青色で合成していて、画像下にはそれぞれの中心部の様子をクローズアップした様子を示している。原始連星を大きく取り巻くように広がっているチリとシアン化メチルに対して、塩化ナトリウムと水蒸気が個々の原始星の周りに集中して存在していることが分かる。全体画像で原始星の上側には、原始星から放たれるジェットの電波を水色で合成している。
アルマ望遠鏡が撮影した原始連星“IRAS 16547-4247”周囲の構造。チリが放つ電波を黄色、シアン化メチル(CH3CN)が放つ電波を赤色、塩化ナトリウム(NaCL)が放つ電波を緑色、水蒸気(H2O)が放つ電波を青色で合成していて、画像下にはそれぞれの中心部の様子をクローズアップした様子を示している。原始連星を大きく取り巻くように広がっているチリとシアン化メチルに対して、塩化ナトリウムと水蒸気が個々の原始星の周りに集中して存在していることが分かる。全体画像で原始星の上側には、原始星から放たれるジェットの電波を水色で合成している。
アルマ望遠鏡がとらえた分子などからの電波を解析することで、連星系を取り巻く大きなガス円盤、それぞれの大質量原始星を囲む二つの小さなガス円盤、そこから噴出するアウトフローとジェットといった、原始連星“IRAS 16547-4247”の詳細な姿が浮かび上がりました。

特に二つの小さな円盤は、それぞれの原始星にガスを供給していて、大質量原始星の成長を探るカギになるはずです。
観測結果をもとに描いた原始連星“IRAS 16547-4247”周囲のイメージ図。連星を成す個々の原始星の周囲に小さなガス円盤があり、これらはより大きなガス円盤の中に位置している。右側の原始星から細く絞られたジェットが噴き出していて、周囲のガスと衝突していくつかの明るい電波源を作っている。
観測結果をもとに描いた原始連星“IRAS 16547-4247”周囲のイメージ図。連星を成す個々の原始星の周囲に小さなガス円盤があり、これらはより大きなガス円盤の中に位置している。右側の原始星から細く絞られたジェットが噴き出していて、周囲のガスと衝突していくつかの明るい電波源を作っている。

大質量原始星を取り巻く二つの円盤は互いに逆方向に回転している

さらに、研究チームが見つけたのは、個々の大質量原始星を取り巻く二つの円盤が、互いに逆方向に回転している兆候でした。

二つの星からなる連星系が、一つの巨大なガス円盤の分裂から誕生した“双子”だとすれば、個々の原始星円盤の回転は同じ方向になるはずです。

もし、本当に二つの円盤が逆回転しているとしたら、それぞれの原始星は少し離れた場所にあった別々のガスの集まりから生まれ、やがて出会ってペアを組んだ可能性があります。

つまり、“IRAS 16547-4247”は本当の双子ではなく、隣り合って生まれた他人だったというわけです。

ガス円盤を探る上で“塩”が重要なツールになる

ガス円盤の様子をつぶさに明らかにできたのは、原始星近傍のみに含まれる塩化ナトリウムなどの分子を検出することができたおかげでした。

食卓塩としても馴染みのある塩化ナトリウムですが、実は宇宙ではありふれた分子ではありません。
大質量原始星の周りの円盤に塩化ナトリウムが見つかったのは、オリオンKL電波源Iに次いで今回が2例目でした。

オリオンKL電波源Iは、大質量原始星の中でも少し変わった特性を持つ星なので、塩化ナトリウムが本当に大質量原始星の周りを見るのに適しているかどうかは分かっていませんでした。

今回観測した“IRAS 16547-4247”は、一般的な大質量原始星です。
なので、今回の研究によって、大質量原始星のガス円盤を探る上で“塩”が本当に重要なツールになる事がはっきりしたことになります。

高温に熱された水蒸気やチリが砕かれることで飛び出したと考えられる塩化ナトリウムが検出されたことで、大質量原始星を育むガス円盤の熱くダイナミックな姿が明らかになってきました。

今まさに検討が進む次世代超大型電波干渉計“ngVLA”は、塩化ナトリウムのようなチリの破壊で飛び出す分子が放つ電波を観測するのに適した性能を持っています。
“ngVLA(next generation Very Large Array)”は、アメリカ国立電波天文台が中心になって検討を進めている次世代の電波干渉計。アルマ望遠鏡より少し低い周波数の電波を非常に高い解像度で観測し、惑星の形成や星間化学、銀河の進化、パルサー研究やマルチメッセンジャー天文学などに大きな進展をもたらすと期待されている。

そのため、“熱い円盤”に含まれる分子の観測は今後ますます発展し、大質量星の誕生メカニズムの解明につながるはずです。

また、46億年前に私たちの太陽系を生んだ原始太陽系円盤でも、チリが蒸発するような高温を経験したことが隕石に含まれる様々な証拠から知られています。

今後、塩化ナトリウムと高温の水などを手掛かりに“熱い円盤”の観測を進めることで、太陽系誕生時の様子を探るヒントが得られるかもしれませんね。


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銀河中心のガンマ線過剰放出は“ダークマター”の有力候補“WINP”の対消滅では無かったようです。

2020年09月25日 | ダークマターとダークエネルギー
ガンマ線天文衛星“フェルミ”が10年以上前に観測した天の川銀河中心部から過剰に放出された高エネルギーガンマ線。
この高エネルギーガンマ線の過剰な放出は、“ダークマター”の有力候補の一つ“WINP”の対消滅によるものと考えられていました。
ところが、観測データの詳細な解析と、最新モデルによる徹底的な分析を実施してみると、“WINP”の対消滅によって生じたという可能性の余地がほぼ無いことが判明したそうです。

光などの電磁波を出さずに重力だけを及ぼす物質“ダークマター”

2008年6月、高エネルギーのガンマ線を対象とした天文衛星“フェルミ”が、NASAによって打ち上げられました。

この“フェルミ”の観測により検出されたのが、天の川銀河の中心部で過剰に放出された高エネルギーガンマ線でした。

銀河系の中心部は“ダークマター(暗黒物質)”が高密度で存在している領域と考えられています。

このことから一部の物理学者が考えたのは、高エネルギーガンマ線の過剰な放出が“ダークマター”の素粒子が対消滅したことによるものだということでした。

光などの電磁波を出さずに重力だけを及ぼす物質… “ダークマター”は質量を持っているけど光学的に直接観測できないとされる仮想上の物質です。

宇宙には“ダークマター”が大量に存在しているはずですが、その正体は不明のまま。
全宇宙において通常の物質の約5倍も存在すると考えられていて、ダークマターが無ければ宇宙に銀河も誕生しなかったとも考えられています。
“ダークマター”は宇宙の全質量・エネルギーの約27%を占めていると考えられている。銀河を構成する星がバラバラにならず形をとどめている原因を、光を放射しない物質の重力効果に求めたのが“ダークマター説”の始まり。
ガンマ線天文衛星“フェルミ”がとらえた、天の川銀河の中心部からの過剰な高エネルギーガンマ線の放出。(Credit: Oscar Macias)
ガンマ線天文衛星“フェルミ”がとらえた、天の川銀河の中心部からの過剰な高エネルギーガンマ線の放出。(Credit: Oscar Macias)

“ダークマター”の有力な候補“WINP”

“ダークマター”の正体については、さまざまな説が唱えられては否定されてきました。

理論上の素粒子“WINP(Weakly Interacting Massive Particle)”もその一つで、粒子の運動速度が遅い“コールドダークマター”とも呼ばれています。
電磁的な相互作用をほとんど起こさない、重い質量を持つ素粒子で、電子の100万倍の質量を持つと推測されています。

今回、東京大学国際高等研究所カリブ数物連携宇宙研究所のチームが行っているのは、銀河中心で起こる天体物理現象を調べ上げ最新モデルとしてまとめること。

銀河中心で過剰なガンマ線放出を引き起こすと考えられている現象には以下のものがあります。
星形成に関連する恒星の質量放出、分子ガスによる宇宙線の制動放射、中性子星の発するミリ秒パルサー、低エネルギーの光子を散乱させ逆コンプトン散乱を引き起こす高エネルギー電子など。

でも、研究チームがまとめた最新モデルを用いると、天の川銀河の中心におけるガンマ線過剰放出の要因として、“WINP”の対消滅によって生じたという可能性の余地がほぼ無いことが判明。

これまで知られている天体物理現象のみで、ガンマ線の過剰放出について説明することができたそうです。

また、ガンマ線の過剰放出のされ方からも“WINP”の対消滅の可能性が低いことが確認されています。

仮に“WINP”の対消滅で過剰放出が起きたのだとすると、ガンマ線の放射は天の川銀河の中心から滑らかな球形もしくは楕円形に放出されると予測されています。

でも、“フェルミ”によって観測されたガンマ線の過剰放出を詳細に分析した結果、放出の形状は棒のような構造を持つ三軸状に現れたそうです。

また、銀河中心のバルジと呼ばれる膨らみを通して観測すると、恒星は非対称な箱のように分布していて、非常に特殊な形状をしていることが分かります。

この分布による形状では、“WINP”の対消滅によってガンマ線の過剰放出が起きる可能性がほとんどないことも示されます。
天の川銀河中心部で星が“箱型”に分布する様子を示すイメージ図。(Credit: Oscar Macias)
天の川銀河中心部で星が“箱型”に分布する様子を示すイメージ図。(Credit: Oscar Macias)
今回の研究成果により、天の川銀河にダークマターが存在するという可能性が無くなったわけではありません。
否定されたのは“WINP”が“ダークマター”の正体である可能性です。

ダークマターの正体の有力な候補の一つとして考えられてきた“WINP”。
今回の結果も含めて、近年はその可能性が低いという結果が報告されていました。

ただ、“ダークマター”が他の素粒子として存在している可能性は十分あります。
当分、ダークマターの正体探しは続きそうですが…


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次の目標天体は小惑星“1998KY26”。地球帰還後の“はやぶさ2”はカプセル分離後に拡張ミッションへ!

2020年09月21日 | 小惑星探査 はやぶさ2
小惑星“リュウグウ”のサンプルを持って、2020年12月に地球に戻ってくる探査機“はやぶさ2”。
12月6には小惑星“リュウグウ”のサンプルが入っているカプセルを分離し、ミッションは完了するはずでした。
ただ、“はやぶさ2”にはイオンエンジンの燃料が半分以上残っていて、まだまだ使用可能な状態だったんですねー
そこで、JAXAが考えたのは別の天体を目指す拡張ミッション。
目標天体は多くの候補から2案にまで絞られていたのですが、小惑星“1998 KY26”に決まったようです。
地球に帰還するカプセルと飛び去る“はやぶさ2”のイメージ図。(Credit: JAXA)
地球に帰還するカプセルと飛び去る“はやぶさ2”のイメージ図。(Credit: JAXA)

なぜカプセルを12時間も早く分離するのか

地球に向けて順調に飛行中の“はやぶさ2”は、8月28日には復路の第2期イオンエンジン運転がほぼ完了。
今後は、軌道を精密に測定してから、9月半ばに微修正を行うことで、往復でのイオンエンジン運転は完了になります。

これにより、“はやぶさ2”は高度1000キロ以下という、地球ギリギリを通過する軌道に入る見込みです。

注目のカプセルの分離は12月5日の14時~15時頃。
地球からの距離は月軌道との中間よりやや遠い約22万キロで、分離は着地の12時間も前になります。

もともと8~12時間前の分離を想定して設計されていた“はやぶさ2”の再突入カプセル。
今回、その中で最も長い方の時間に設定されたのは、探査機本体の退避のためには分離は早い方が良いという理由がありました。

カプセルを早く分離すれば、その分退避運用も早く実施することが可能になり、余裕を持って運用でき、化学エンジン(スラスター)の推進剤も節約できます。
“はやぶさ2”は、地球帰還後に別の天体を目指す拡張ミッションを計画しているので、なるべく推進剤を残しておきたいところです。

一方、カプセルを精度良く着地させるためには分離は遅い方が良く、分離が早いことはデメリットになってしまいます。

ただ、初号機からの10年間で大幅に向上したのが軌道推定の精度です。
分離が12時間前でも“はやぶさ(初号機)”と同程度の着地精度を実現できるそうです。
初号機のカプセル分離は、“はやぶさ2”に比べるとかなりギリギリの約3時間前に行われている。これは、初号機には退避する能力がすでに無かったので、そのための時間を考慮する必要が無かった。

カプセルの分離と“はやぶさ2”の軌道変更

カプセルの分離で注目したいのは分離する方向です。

カプセルは探査機の進行方向に分離すると思いそうですが、実は姿勢を大きく変えてから、進行方向に対してほぼ直角に分離することになります。

カプセルは姿勢を安定させるため、分離時にはコマのような回転を与えられます。

この回転軸の向きは飛行中に変わらないので、このままだと横向きで再突入しそうでが、カプセルの軌道は地球の重力により大きく曲げられます。
再突入のタイミングで、ちょうどカプセルの飛行方向と回転軸が重なるように考えて、この角度で分離するそうです。

一方、“はやぶさ2”はスラスタ4本を全力で噴射。
軌道を外側にズラし地球への再突入を避ける行動に入ります。

この動作にはカプセル分離から1~2時間くらいしか時間がなく、最もクリティカルな運用になります。

ここで必要になる噴射量は“はやぶさ2”としては最大のもの。
1回30秒の噴射を3回行い、各噴射の間は冷却のため30分~1時間ほど空けることになっています。
“はやぶさ2”の地球帰還説明CG動画。(Credit: JAXA)
そして、今回最も注目したいのは、再突入するカプセルの撮影です。

探査機はカプセルの上空を並行する形になるので、再突入時の発光を観測できる可能性があります。
ただ、撮影は探査機の側面にある広角カメラ“ONC-W2”を使うため、写ったとしても「点が見えるくらい」になるそうです。

残念ながら、初号機の“ラストショット”のような地球の撮影は、時間的な余裕がなく今回は行われません。
地球については通過した後、離れていくときに撮影する予定。

拡張ミッションの目標天体

JAXAは2020年7月、地球帰還後に実施する拡張ミッションとして、小惑星“2001 AV43”と“1998 KY26”の2つを最終候補としていました。

その後、詳細な技術的成立性などの検討を進めてきた結果、“1998 KY26”の方が実現可能性が高いと判断。
カプセルを分離した“はやぶさ2”はエスケープ軌道に入り、拡張ミッションのため“1998 KY26”を目指すことになります。

“はやぶさ2”は2021~2026年中ごろまで巡行運用を行った後、小惑星“2001 CC21”をフライバイ観測。
そして、2027年下期に1回目の地球スイングバイ、2028年上期に2回目の地球スイングバイを行い、2031年下期に目標天体の小惑星“1998KY26”に到達する予定です。

ミッション期間はやや長くなりますが、2つの小惑星の観測が可能になります。
さらに、注目すべき点は、“1998 KY26”が“リュウグウ”と同じC型小惑星の可能性があること。
そう、探査では“はやぶさ2”の観測装置を最大限に活用できそうです。

そうは言っても、拡張ミッションには到達までにさらに10年前後の長い年月がかかり、地球帰還時の“はやぶさ2”は打ち上げからすでに6年経過…

過酷な宇宙空間での長旅に耐えられるのでしょうか?
“はやぶさ2”は“リュウグウ”でのミッションを達成済みなので、失敗を恐れずに拡張ミッションにチャレンジできる強みはありますね。


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寿命を迎えた恒星の中に入り込むことで起こる“スーパーチャンドラセカール超新星”

2020年09月19日 | 宇宙 space
極めて特異な性質を示す超新星“LSQ14fmg”は、白色矮星を起源に持つIa型に分類されています。
ただ、“LSQ14fmg”は明るさが最大になるまでの時間が異常に長く、最大光度はIa型として最も明るいもの…
なぜ、通常よりも明るいIa型超新星になったのでしょうか?
今回の研究によれば、この爆発は白色矮星が別の恒星の内部で起こしたもので、これにより“チャンドラセカール限界質量”を突破したようです。

特異な超新星

ペガスス座の方向約1億光年彼方に位置する特異な超新星“LSQ14fmg”は、ヨーロッパ南天天文台のラシーヤ天文台で行われているサーベイ観測“La Silla-QUEST”で、2014年に発見された超新星です。

今回、この“LSQ14fmg”をアメリカ・フロリダ州立大学の研究チームが分析。
超新星を観測して特性を調べる“カーネギー超新星プロジェクトII”の一環として行われたものでした。
超新星“LSQ14fmg”(Credit: Carnegie Supernova Project/Las Campanas Observatory)
超新星“LSQ14fmg”(Credit: Carnegie Supernova Project/Las Campanas Observatory)
“LSQ14fmg”はスペクトルの特徴からIa型超新星に分類されています。

Ia型超新星は、白色矮星に伴星などからガスが流れ込むことで質量が増加し、“チャンドラセカール限界質量”を突破したときに起こる爆発です。
“チャンドラセカール限界質量”とは、白色矮星が自分の重さを支えられる限界の質量(太陽の約1.4倍)。

同じ質量で爆発するので、Ia型超新星の絶対的な明るさや光度変化は一定だと予想され、遠方銀河までの距離を判定するのにも使われてきました。
ダークエネルギーによって宇宙の膨張が加速しているという現代宇宙論の基本知識も、Ia型超新星の観測から判明したことでした。

“チャンドラセカール限界質量”を突破する白色矮星

ところが、Ia型超新星のスペクトルを示しながらも、異なる挙動を示す超新星がいくつか見つかってきているんですねー
その中でも“LSQ14fmg”は差異が際立った存在でした。

爆発が始まったと推定される瞬間から明るさが最大になるまでの時間は異常に長く、その最大光度はIa型としては最も明るい部類。
逆に減光は急激に進みました。

このように通常よりも明るいIa型超新星の元になった白色矮星は、何らかの要因で“チャンドラセカール限界質量”を突破していたのではないかと推測され、“スーパーチャンドラセカール超新星”と呼ばれることもあります。

この超新星“LSQ14fmg”の発見及び研究を通じて期待されているのは、“チャンドラセカール限界質量”を突破するメカニズムを説明できる可能性があることです。

寿命を迎えた恒星の中に入り込む白色矮星

“スーパーチャンドラセカール超新星”は本当に独特で奇妙な現象です。
ただ、この現象に対する研究チームの説明も同じくらい面白いものなんですねー

今回、研究チームが超新星“LSQ14fmg”の観測に用いたのは、チリのラスカンパナス天文台にあるスウォーブ望遠鏡とデュポン望遠鏡、およびスペイン・カナリア諸島ラ・パルマ島のラ・パルマ天文台北欧光学望遠鏡でした。

観測データを分析してみると、“LSQ14fmg”は超新星爆発自体の光に加えて、爆発の噴出物が周囲の物質に衝突することでさらに明るくなっていたことが分かります。
さらに、一酸化炭素が形成されていた証拠も見つかっています。

この観測結果に基づき、研究チームは“LSQ14fmg”の元になったのは白色矮星と漸近巨星分枝星と呼ばれるタイプの恒星の連星で、両者が合体することで超新星爆発を起こしたのだと結論付けています。
年老いた軽い星である漸近巨星分枝星は、太陽のような低質量星の一生の末期にあたる。

漸近巨星分枝星は寿命を迎えて白色矮星となる寸前の恒星であり、大きく膨らみ赤く輝きます。
その表面からは絶えず物質が放出され、これが後に惑星状星雲になります。

爆発を起こした白色矮星は、表面から大量の物質を放出しつつある漸近巨星分枝星の中に入り込み、その中心核と合体することでチャンドラセカール限界質量を大きく超えたと考えられます。

爆発で飛び散った物質がすでに放出されていた物質と衝突したときの輝きは“LSQ14fmg”をさらに明るくしただけでなく、その増光のピークを遅らせる効果も生み出します。

通常のIa型超新星では生成されない一酸化炭素も、“LSQ14fmg”のゆっくりと増光する環境により生成。
同時に一酸化炭素の生成は、超新星を急激に冷却させ減光に転じさせる効果があったと研究チームは考えています。
惑星状星雲“NGC 7662(青い雪玉星雲)”。超新星“LSQ14fmg”は、このように物質が周りに放出された環境で起こったと予想されている。(Credit: Eric Hsiao)
惑星状星雲“NGC 7662(青い雪玉星雲)”。超新星“LSQ14fmg”は、このように物質が周りに放出された環境で起こったと予想されている。(Credit: Eric Hsiao)
今回、研究チームが行った“LSQ14fmg”の分析は、漸近巨星分枝星の段階を終えて惑星状星雲になろうとしている系において、Ia型超新星が起こり得ることを示す、初めての強力な観測的証拠。
また、Ia型超新星の起源を理解する重要な一歩とも言えます。

この研究は、Ia型超新星の起源に関する理解を深めるとともに、将来のダークエネルギーの研究にも役立つはずです。

ただ、これらの超新星は、ダークエネルギーの研究で使われる普通の(Ia型)超新星に紛れることもあるので、特に厄介な問題になる可能性があるようです。


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金星の大気には微生物が存在している? 検出されたリン化水素は生物由来のものかもしれない。

2020年09月16日 | 金星の探査
英米日の研究者からなるチームが、アルマ望遠鏡とジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡を用いた観測で、金星にリン化水素を検出しました。

このリン化水素の起源として、金星大気中における太陽光による化学反応、あるいは火山からの供給などの可能性を検討するのですが、いずれも観測された量のリン化水素を説明することができず…
そこで、研究チームが考えているのは、リン化水素が未知の化学反応によって作られた可能性でした。
地球上にはリン化水素を排出する微生物が存在するので、生命由来の可能性も捨てきれないとも考えています。

リン化水素は、太陽系外惑星における生命存在の指標の一つと考えられている分子です。
なので、今回の発見はその妥当性を検証するために非常に重要な材料になり、今後の金星大気の詳細観測の重要性を示す結果にもなるようです。
金星の中に見つかったリン化水素のイメージ図。(Credit: ESO/M. Kornmesser/L. Calçada & NASA/JPL/Caltech)
金星の中に見つかったリン化水素のイメージ図。(Credit: ESO/M. Kornmesser/L. Calçada & NASA/JPL/Caltech)

地球とは全く異なる金星の大気や環境

地球の内側を公転し、その大きさや質量が地球と似ていることから、しばしば地球の双子星と呼ばれる金星。

でも、その大気や環境は地球とは全く異なっていて、金星には二酸化炭素を主体とする非常に分厚い大気があるんですねー
地上で90気圧にもなる二酸化炭素の大気は強烈な温室効果をもたらし、金星の表面温度は460度にもなっています。

さらに、金星は大気も含めて非常に乾燥していて、地球上に生きているような生命が存在する可能性は低いと考えられています。

ただ、気圧も温度も下がる高度50キロ付近では、微生物が存在できるのではないかとして、一部の研究者は検討を続けてきました。

生命の指標となる分子“リン化水素”

惑星において生命の存在の有無を判断する方法の一つに、大気の成分があります。

例えば、ある分子が生命体によって排出されるものであり、同時に大気での化学反応などで作られにくい性質を持ったものであれば、その分子は生命の指標となりえます。

そして、近年注目されている生命指標の一つにリン化水素(PH3)があり、地球ではリン化水素は生命活動と関連することが分かっています。

金星大気のように酸素原子が多く存在する環境では、リンは水素原子よりも酸素原子と結合する可能性が高くなります。

また、塩化物イオンなどが大気中に存在すると、リン化水素は破壊されてしまいます。

そのような環境で安定的にリン化水素が存在するためには、これを絶えず供給し続けるメカニズムが必要になります。
リン化水素は、木星と土星の大気ではすでに検出されている。木星や土星のリン化水素は、大気の奥深くの高温高圧の場所で作られ、大気循環によって上層帯に運ばれると考えられている。ただ、金星は岩石惑星なので同様の科学反応でリン化水素が作られることはないと考えられている。

電波望遠鏡により金星大気にリン化水素の兆候を検出

今回、イギリス・カーディフ大学を中心とした研究チームが進めたのは、太陽系外惑星におけるリン化水素の調査でした。
ただ、研究チームでは、この調査を行う前に太陽系の惑星大気でリン化水素探しをしています。

まず研究チームは、ハワイのジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡を使って金星を電波で観測。
すると、波長約1ミリの電波でリン化水素の兆候が検出されます。
ジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡は、ハワイ島マウナケア山頂天文台群にある電波望遠鏡。口径15メートルのパラボラアンテナによってミリ波・サブミリ波を観測することができる。

この観測結果をさらに確かなものにするため、アルマ望遠鏡を用いて金星を観測、やはりリン化水素を検出しています。
南米チリのアタカマ砂漠(標高5000メートル)に建設されたのが、アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array = ALMA:アルマ望遠鏡)。高精度パラボラアンテナを合計66台設置し、それら全体をひとつの電波望遠鏡としてミリ波・サブミリ波を観測することができる。

金星のスペクトルにリン化水素の兆候が見えたのは、とても驚くべきことでした。
検出されたリン化水素は、大気分子10億個に対して20個程度の割合で存在していることも分かります。
アルマ望遠鏡が観測した金星の画像に、リン化水素のスペクトルを重ねた画像。グレーの線がジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡、白線がアルマ望遠鏡で観測したスペクトルを表す。より高温の低層部から強い電波が発せられていて、中層大気にある低温のリン化水素が特定の波長の電波だけを吸収するため、スペクトルがへこんだ吸収線になっている。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Greaves et al. & JCMT (East Asian Observatory))
アルマ望遠鏡が観測した金星の画像に、リン化水素のスペクトルを重ねた画像。グレーの線がジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡、白線がアルマ望遠鏡で観測したスペクトルを表す。より高温の低層部から強い電波が発せられていて、中層大気にある低温のリン化水素が特定の波長の電波だけを吸収するため、スペクトルがへこんだ吸収線になっている。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Greaves et al. & JCMT (East Asian Observatory))

どうやってリン化水素は作られたのか

リン化水素の成因を調べるため研究チームが検討したのは、太陽光や雷による金星大気の化学反応、地表から風によって吹き上げられる微量元素、火山ガスによる供給など。
その結果、分かったのは、観測された量のせいぜい1万分の1程度のリン化水素しか作ることができないことでした。

次に研究チームが行ったのは、地球上の微生物を参考に、金星大気に微生物がいた場合のリン化水素供給量の見積もりでした。
地球の微生物には、岩石や別の生物由来物質からリンを取り出し、水素を付加させてリン化水素として排出するものがあるからです。

研究チームは、同様の微生物が金星大気にもいた場合、検出された量のリン化水素は説明できると考えています。
金星の大気へとズームインするアニメーション映像。(Credit: ESO/M. Kornmesser/L. Calçada & NASA/JPL/Caltech)

今回の研究では、大気内での化学反応などでは十分な量のリン化水素が作り出せないと結論付けています。
ただ、生命由来でない化学反応によってリン化水素が作られている可能性が無いわけではありません。

改めて金星を観測し、今回の結果を検証することも含めて、結論に達するまでにはまだまだ課題が残されているんですねー

今回の研究でリン化水素が存在していると考えられた高度50~60キロ付近の大気は、0~30度程度と地球生命にとっても生息しやすい温度になっています。
でも、この高度領域に存在する雲は濃硫酸が含まれる極めて酸性の高い環境… 地球の微生物が生きていくには厳しすぎる環境になります。

アルマ望遠鏡をはじめとする地上の大型望遠鏡による追加観測に加え、金星大気の詳細観測や大気成分のサンプルリターンなどの探査機計画が立案・実現されれば、謎に満ちた金星大気をより詳しく理解できるのかもしれませんね。
アルマ望遠鏡の夜間タイムラプス映像。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/Y. Beletsky (LCO)/ESO)


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