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なぜ、恒星は7年間も暗いままだったのか? 原因はチリの円盤に囲まれた伴星にあるのかも…

2023年01月30日 | 宇宙 space
今回の研究を進めているのは、ワシントン大学の博士課程学生Anastasios Tzanidakisさんたちのチーム。
アメリカ天文学会の第241回会合で、“や座”の方向にある「変わった振る舞い」を見せた恒星“Gaia17bpp(2MASS J19372316+1759029)”について発表しています。
約7年間暗いままだった恒星“Gaia17bpp”(奥)と、チリの円盤に囲まれた伴星(手前)のイメージ図。(Credit: Anastasios Tzanidakis)
約7年間暗いままだった恒星“Gaia17bpp”(奥)と、チリの円盤に囲まれた伴星(手前)のイメージ図。(Credit: Anastasios Tzanidakis)

伴星を囲む円盤が光を遮っていた?

ヨーロッパ宇宙機関の位置天文衛星“ガイア”などの観測データから、“Gaia17bpp”は2012年から2019年までの約7年間、最大で約4.5等級(約63倍)も暗くなっていたことが知られています。

研究チームでは、過去の記録を1950年までさかのぼって調査。
すると、66年以上にわたる観測期間のうち、“Gaia17bpp”が減光したのはこの1回だけでした。

また、“Gaia17bpp”の周辺に見える星は、このような減光をしていないことも分かりました。
拡大画像の中央の円で示されている星が“Gaia17bpp”。(Credit: Anastasios Tzanidakis/Pan-STARRS1/DSS)
拡大画像の中央の円で示されている星が“Gaia17bpp”。(Credit: Anastasios Tzanidakis/Pan-STARRS1/DSS)
では、なぜ“Gaia17bpp”は減光したのでしょうか?
分析を進めて分かってきたのは、減光の原因が“Gaia17bpp”をゆっくりと公転する伴星にあるというものでした。

“Gaia17bpp”は半径が太陽の55倍の赤色巨星で、その周囲を1000年近い周期で伴星が公転しているとみられています。

どうやら、この伴星はチリを多く含む大きな円盤に囲まれているようです。
そう、地球から見てこの円盤が“Gaia17bpp”を隠してしまったので、7年間にわたる減光が観測されたのではないかというわけです。

研究チームが考えている円盤の半径は1天文単位以上もあり、この円盤は“Gaia17bpp”からの光を約98%遮断していたそうです。
 1天文単位auは太陽~地球間の平均距離、約1億5000万キロに相当。
さらに、いくつかの予備データからは、この伴星が白色矮星である可能性を示していました。
約27周期で減光する“ぎょしゃ座イプシロン星”(奥)と、チリの円盤に囲まれた伴星(手前)のイメージ図。(Credit: NASA/JPL-Caltech)
約27周期で減光する“ぎょしゃ座イプシロン星”(奥)と、チリの円盤に囲まれた伴星(手前)のイメージ図。(Credit: NASA/JPL-Caltech)
円盤を持つ伴星が減光の原因だと考えられている星といえば、“ぎょしゃ座イプシロン星”が有名です。

“ぎょしゃ座イプシロン星”の場合は、減光の開始から終了まで約2年間ですが、“Gaia17bpp”は約7年間と長いことが特徴的です。

また、“ぎょしゃ座イプシロン星”の減光は約27年周期で起きています。

でも、“Gaia17bpp”の場合は、次の減光が観測されるのは何百年も先と推定されているんですねー
なので、いま生きている人が“Gaia17bpp”の減光を再び目撃することはなさそうですね。


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迷子になった星々が放つ淡く広がった光から銀河団の歴史を理解できるかも

2023年01月28日 | 銀河・銀河団

孤立した星々が放つ淡く広がった光

数百~数千個の銀河が集まった“銀河団”の内部には、どの銀河とも重力的に結びついていない迷子のような星がたくさん存在しています。

銀河団全体を眺めると、これらの星々が淡く広がった光を放っているんですねー
このような星が放つ淡い光は“銀河団内光(intracluster light ; ICL)”と呼ばれています。

銀河団内光は、1951年に天文学者のフリッツ・ツビッキー氏(Fritz Zwicky, 1898 - 1974)によって“かみのけ座銀河団”で初めて検出されました。
かつてツビッキー氏は、この銀河団で微光を発する銀河間物質を観測したと報告しています。

“かみのけ座銀河団”は地球から約3億3000万光年彼方にあり、1000個以上の銀河を含んでいます。
地球に最も近い銀河団の一つなので、当時の小さな望遠鏡でも幽霊のような光を検出することができたそうです。

なぜ銀河間内光を作り出している星々は迷子になったのか

では、銀河団内光を放つこれらの孤立した星々は、いつ、どのようにして銀河団の中に散らばったのでしょうか?

このことについては、
1.銀河団の中を銀河が運動することで星々がはぎとられた。
2.銀河の衝突合体で星々が放出される。
3.銀河団が形成された数十億年前には既に存在していた。
など、いくつかの説があって決着はついていません。
 今回の研究を進めているのは、韓国・延世大学のHyungjin Jooさんたちの研究チームです。
今回の研究では、ハッブル宇宙望遠鏡を使って、赤方偏移zがおよそ1~2(80億~100億光年)までの距離にある10個の銀河団を近赤外線で観測。
すると、銀河間内光が銀河団全体の明るさに占める割合は、過去数十億年にわたってほぼ一定であることが明らかになります。
 膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移といい、この量が大きいほど遠方の天体ということになる。110億光年より遠方にあるとされる銀河は、赤方偏移の度合いを用いて算出されている。
このことは、銀河間内光の光源である迷子の星々が、数十億年前から既に銀河団の中に存在していたことを示しています。
ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた大質量銀河団“MOO J1014+0038”(左)と“SPI-CL J2106-5844”(右)。3つの波長の近赤外線画像から疑似カラー合成した画像に、銀河間光の成分を青色で重ねている。(Credit: NASA、ESA、STScI、James Jee(延世大学)、画像処理: Joseph DePasquale (STScI))
ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた大質量銀河団“MOO J1014+0038”(左)と“SPI-CL J2106-5844”(右)。3つの波長の近赤外線画像から疑似カラー合成した画像に、銀河間光の成分を青色で重ねている。(Credit: NASA、ESA、STScI、James Jee(延世大学)、画像処理: Joseph DePasquale (STScI))
一般に、銀河団のメンバー銀河が銀河団の内部を運動すると、銀河団ガスの抗力を受けて銀河内のガスやチリが銀河から失われ、銀河の星々も銀河外に散乱すると考えられています。

でも、今回の観測結果からは、このような比較的新しい時代に起こる力学的な作用は、迷子星ができる主な原因ではないらしいことが分かっています。
もし、こうしたメカニズムが原因なら、銀河間内光の明るさ(=迷子星の数)は時代とともに増えていくはずなんですねー

銀河間内光を作り出している星々が迷子になった原因は、まだ正確には分かっていません。
ただ、今回の観測結果から、宇宙の初期段階には既に、何らかの原因で大量の迷子星が銀河団の中に存在していたことになります。

銀河団が形成された初期の時代には、銀河はまだかなり小さくて重力が弱かったので、簡単に星が銀河外へ流出できたのかもしれません。

もし、迷子星が宇宙の初期に生まれたのであれば、こうした星々は長い時間をかけて、既に銀河団の隅々まで広く散らばっていることになります。
そうすると、銀河や銀河団を重力でまとめている“暗黒物質”の分布を探るのに、迷子星を利用できるのかもしれません。

銀河団内の暗黒物質の分布は、現在は背景銀河の像が銀河団の重力レンズ効果で歪む様子をたくさん調べることで推定しています。
それが、銀河間内光を使うことで、これまでの手法を補える可能性があるんですねー

近赤外線で高い感度を持つジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で迷子星を観測して、銀河団全体の暗黒物質の分布を調べられるようになれば、銀河団の歴史を理解するのに大いに役立つはずです。
 重力レンズとは、恒星や銀河などが発する光が、途中にある天体などの重力によって曲げられたり、その結果として複数の経路を通過する光が集まるために明るく見えたりする現象。
光源と重力源との位置関係によっては、複数の像が見えたり、弓状に変形した像が見えたりする。その効果を重力レンズ効果と呼んでいる。


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かに星雲の2倍以上… 理論上許される最大値に近いものに! 高感度X線偏光観測衛星がとらえた“ほ座パルサー星雲”からの強く偏光したX線の放出

2023年01月26日 | 宇宙 space
高感度X線偏光観測衛星“IXPE”を用いて“ほ座パルサー星雲”のX線偏光を観測してみると、極限的な強さがあることが明らかになったんですねー

これは、かに星雲と比べて偏光度が平均で2倍以上もあり、理論上許される最大値に近いもの。
この結果から推測されるのは、ほ座パルサー星雲内の磁場は極めて均一で、ほとんど乱れなく粒子が加速されていることでした。

でも、そのような高度に秩序だった磁場は、不安定な流れや乱流が粒子の加速に重要な役割を果たすという理論モデルによる予測に反しています。
今後、さらに新たなパルサー星雲についても観測を行い、今回分かったよく揃った磁場の起源が何に関連しているのかを、より深い研究で進めていくようです。

X線など非常に高いエネルギーの電磁波を放出するパルサー星雲

太陽よりも数十倍重い星が一生の最期を迎えると超新星爆発を起こし、その爆発の中心部には中性子星が形成されることがあります。

中性子星は密度が地球の数100兆倍、磁場が地球の約1兆倍もある天体。
その多くが超高速で自転していて、地球から観測すると非常に短い周期で明滅する規則的な信号がとらえられるので、パルサーとも呼ばれています。
 中性子星は、太陽の10~30倍程度の恒星が、一生の最期に大爆発した後に残される宇宙で最も高密度な天体。主に中性子からなる天体で、ブラックホールと異なり半径10キロ程度の表面が存在し、そこに地球の約50万倍の質量が詰まっていている。一般に強い磁場を持つものが多い。
パルサーから勢い良く放出された荷電粒子は周囲の超新星残骸とぶつかり、X線など非常に高いエネルギーの電磁波を放出することがしられています。

そのため、パルサーの周りには、X線を放出する“パルサー星雲”と呼ばれるものがよく観測されるんですねー

パルサー星雲から放出されるX線は、超新星残骸の中にある磁場と荷電粒子がぶつかって絡みついている最中に放出されたものだと考えられています。

でも、その磁場がどのようにしてできたのか? また、どの程度きれいに磁場が揃っているのか? 詳しいことは分かっていませんでした。

このような磁場の情報を知るための強力な手段があります。
それは、その領域から放出される電磁波の偏光、すなわち波の振動が特定の方向に偏っている度合いを観測すること。
磁場が揃っているほど偏光度が高くなります。

これまでにX線の偏光が測定されたパルサー星雲は、おうし座のM1“かに星雲”だけ。
かに星雲全体の平均的な偏光度はせいぜい20%程度でした。

“ほ座パルサー星雲”からの強く偏光したX線の放出

今回、中国・広西大学のFei Xeiさんたちの研究チームは、高感度X線偏光観測衛星“IXPE”を用いて“ほ座超新星残骸(Gum 16)”を観測。
“ほ座超新星残骸”は、ほ座(南半球からは観測できない星座)の方向にあり、光の速度で行ったとしても、地球から約1000年近くかかる距離に位置しています。
 “IXPE(Imaging X-ray Polarimetry Explorer)”は、2021年12月9日に打ち上げられた世界初の高感度X線偏光観測衛星で、NASAとイタリア宇宙機関の主導する国際共同プロジェクト。日本グループは、主要観測装置の一部を提供するとともに、マグネターをはじめとする様々な天体のX線偏光観測とデータ解析に参加している(山形大学、広島大学、理化学研究所、大阪大学、千葉大学、名古屋大学、東京理科大など)。
残骸の中心に位置するパルサーが超新星爆発とともに生まれたのは、今から約1万1000年前と比較的新しく、パルサー星雲からは強いX線やガンマ線が放出されています。
ほ座パルサーとパルサー星雲。高感度X線偏光観測衛星“IXPE”とX線天文衛星“チャンドラ”、ハッブル宇宙望遠鏡の観測データを合成した疑似カラー画像。(Credit: NASA/CXC/SAO/IXPE)
ほ座パルサーとパルサー星雲。高感度X線偏光観測衛星“IXPE”とX線天文衛星“チャンドラ”、ハッブル宇宙望遠鏡の観測データを合成した疑似カラー画像。(Credit: NASA/CXC/SAO/IXPE)
当初予想されていたのは、“ほ座パルサー星雲”の偏光度も、かに星雲と同程度になることでした。

でも、“IXPE”の観測結果はこの予想を覆し平均的な偏光度は45%と、かに星雲に比べ2倍以上強いことに…
さらに分かってきたのは、領域を絞ってみた場合には、60%を超えるような領域があること。
これは、荷電粒子と磁場の相互作用で生じる電磁波の偏光度としては、理論上許される最大値に近いものでした。

この結果から推測されるのは、ほ座パルサー星雲内の磁場は極めて均一で、ほとんど乱れなく粒子が加速されていること。

でも、そのような高度に秩序だった磁場は、不安定な流れや乱流が粒子の加速に重要な役割を果たすという理論モデルによる予測に反しています。

このような予想を超える結果が得られたので、IXPEチームの中でいくつものグループが個別にデータ解析を実施。
山形大学の渡邊瑛里プロジェクト研究員や郡司教授もその解析に参加しています。
そして、間違いなくこのように強く偏光したX線が放出されていることを確認しました。

高感度X線偏光観測衛星“IXPE”を用いた観測は、今後さらに新たなパルサー星雲についても行われる予定です。
今回分かったよく揃った磁場の起源が何に関連しているのかを、より深い研究が進められる予定です。
(左)“ほ座パルサー星雲”を形成した超新星爆発の残骸。(右)“ほ座パルサー背雲”と磁場の様子。(Credit: (左)Digitized Sky Survey, ESA/ESO/NASA FITS Liberator, Color Composite: Davide De Martin (Skyfactory)、(右)NASA/CXC/Univ of Toronto/M.Durant et al.)
(左)“ほ座パルサー星雲”を形成した超新星爆発の残骸。(右)“ほ座パルサー背雲”と磁場の様子。(Credit: (左)Digitized Sky Survey, ESA/ESO/NASA FITS Liberator, Color Composite: Davide De Martin (Skyfactory)、(右)NASA/CXC/Univ of Toronto/M.Durant et al.)


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“ケプラー1658b”は公転軌道が小さくなりすぎて破壊される運命!? 主星のすぐそばを公転する灼熱の木星型惑星“ホットジュピター”

2023年01月24日 | 宇宙 space
ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのShreyas Vissapragadaさんを筆頭とする研究チームは、はくちょう座の方向約2571光年彼方で見つかった、太陽系外惑星“ケプラー(Kepler)1658b”に関する新たな研究成果を発表しました。

研究チームによると、“ケプラー1658b”は公転軌道が少しずつ減衰し主星に近づき続けていて、最終的には破壊される運命にあるようです。
主星の恒星“ケプラー1658”と太陽系外惑星“ケプラー1658b”(イメージ図)。(Credit: Gabriel Perez Diaz/Instituto de Astrofísica de Canarias)
主星の恒星“ケプラー1658”と太陽系外惑星“ケプラー1658b”(イメージ図)。(Credit: Gabriel Perez Diaz/Instituto de Astrofísica de Canarias)

主星のすぐそばを公転する灼熱の木星型惑星“ホットジュピター”

“ケプラー1658b”はNASAの系外惑星探査衛星“ケプラー”による観測で最初に検出され、2019年に系外惑星であることが確認されました。
 “ケプラー”は、太陽系外にある惑星(系外惑星)を見つけることを目指して、2009年に打ち上げられたNASAの系外惑星探査衛星。2013年5月までのメインミッションで発見した系外惑星の数は2300億近く。姿勢制御装置の故障による主要ミッション終了後にも、2014年からは太陽光圧を姿勢制御に利用する“K2ミッション”を開始し、さらに数百個の系外惑星を発見している。残念ながら燃料切れにより“ケプラー”の運用は2018年の10月30日に終了。“ケプラー”は、これまでの観測で膨大なデータを取得しているので、このデータの解析を進めていけば、まだまだ新しい発見が出てくると期待されている。
系外惑星の検出にはトランジット法という観測方法が用いられます。
“ケプラー”は、地球から見て惑星が恒星(主星)の手前を通過(トランジット)するときに見られる、わずかな減光を観測し惑星の存在を探っているんですねー

“ケプラー1658b”の直径は木星と比べてほぼ同じですが、質量は約5.9倍。
公転周期は約3.8日で、ホットジュピター(公転周期が約10日以下の巨大ガス惑星)に分類されています。
 ホットジュピターは、木星ほどの質量を持つガス惑星が、主星の恒星から近い軌道(わずか0.015~0.5au程度:1天文単位auは太陽~地球間の平均距離)を、高速かつ非常に短い周期(わずか数日)で公転する天体。主星のすぐそばを公転し表面温度が非常に高温になるので、灼熱の木星型惑星“ホットジュピター”と呼ばれる。系外惑星の発見初期に多く見つかっていた。
主星の“ケプラー1658”は準巨星(主系列星から赤色巨星に進化しつつある恒星)になります。

地球から見ると、“ケプラー1658b”は主星の手前を横切る“トランジット”を定期的に起こしています。

トランジットの間は、惑星が主星の一部を隠してしまうので、主星の明るさがごくわずかですが暗くなります。
この明るさの変化を詳しく調べることで、系外惑星の存在だけでなく、その公転周期や直径などの情報を得ることができます。
惑星のトランジットによって恒星の明るさが変化する様子を示した動画。(Credit: ESO/L. Calçada)

ホットジュピターの軌道が減衰している証拠を発見

研究チームでは、13年分の観測データを元に“ケプラー1658b”の明るさの変化を分析。
すると、毎年約131ミリ秒(1ミリ秒は1000分の1秒)という、ごくわずかな変化ではあるものの、“ケプラー1658b”の公転周期が短くなり続けていることが分かりました。

分析には“ケプラー”だけでなく、パロマー天文台のヘール望遠鏡やNASAの系外惑星探査衛星“TESS”の観測データが用いられています。
 2018年4月18日に打ち上げられたトランジット惑星探査衛星“TESS(Transiting Exoplanet Survey Satellite)”は、マサチューセッツ工科大学が中心になって実施しているNASAの衛星計画。2年間ほぼ全天のトランジット惑星を探索する計画を実施し、第1期延長計画までの4年間で発見したのは、5000個を超えるトランジット惑星候補。観測は5年目に入っていて現在は第2期延長計画を実施中。“TESS”が狙うのは、地球からおよそ300光年以内にあり、恒星の明るさによって大気が照らされている惑星。調査する恒星の多くはM型矮星という銀河系に最も多いタイプで、私たちの太陽よりも小さくて暗い恒星。“TESS”が目指しているのは、“ケプラー”よりもはるかに広い範囲を観測し、より多くの系外惑星を発見すること。
公転周期が短くなったということは、公転軌道が小さくなって、主星により近づくことを意味します。

“ケプラー1658b”は、主星から約0.054天文単位(太陽から水星までの平均距離の7分の1程度)しか離れていないので、長い時間をかけて螺旋(らせん)を描くように主星に接近し、いずれ破壊されるのは確実だと見られています。

準巨星のように進化した恒星の周囲で、こうした現象が観測されたのは、今回の“ケプラー1658b”が初めてのことでした。

研究チームでは、“ケプラー1658b”の軌道減衰の原因は、主星である“ケプラー1658”との潮汐作用だと考えています。

“ケプラー1658b”は、予想よりも明るく温度が高いように見えています。
このことから、火山活動が起きている木星の衛星イオのように、潮汐作用によって内部が加熱される潮汐加熱が起きている可能性もあるようです。

“ケプラー1658”星系の他にも、これから同様の惑星系が発見されるかもしれません。
発見された惑星系の観測により、潮汐作用の理解を深めることが期待されますね。


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生命の誕生には複雑な有機分子が不可欠! ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が原始星の周りで複雑な有機分子を初観測

2023年01月22日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
今回の研究では、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を用いて、おおかみ座にある太陽型原始星“IRAS15398-3359”を中間赤外線で観測。
原始星周辺のチリに付着した氷の化学組成を調べています。
 今回の研究を進めているのは、理化学研究所 開拓研究本部 坂井星・惑星形成研究室のヤン・ヤオルン研究員、坂井 南美主任研究員らの国際共同研究グループです。
これまでよりも圧倒的に高い感度で得られた吸収スペクトルから検出されたのは、水や二酸化炭素、メタンなどの単純な分子の他に、ホルムアルデヒドやメタノール、ギ酸などの有機分子でした。

また、エタノール、アセトアルデヒドといった複雑な有機分子についても、モデル構築による確認が必要なものの、氷に含まれている可能性があることが分かっています。

これらの有機分子は、最終的には原始惑星系円盤に取り込まれる可能性があるようです。
原始惑星系円盤は数千万年程度をかけて、ゆっくりと惑星系へ進化していくので、原始星を取り巻くガスやチリの化学組成は、将来の惑星系の化学組成の起源になるはず。
星の誕生から太陽系のような惑星系に至るまでの化学進化の特徴を明らかにできそうですね。
 原始惑星系円盤とは、誕生したばかりの原始星の周りに広がる、水素を主成分とするガスやチリからなる円盤状の構造。この円盤からガスやチリが降着するとともに、円盤に垂直な方向へジェットが放出される。
ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(Background image credit:Gabriel Rodrigues Santos)と原始星周囲の氷による赤外線吸収スペクトル(Credit: 理化学研究所)
ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(Background image credit:Gabriel Rodrigues Santos)と原始星周囲の氷による赤外線吸収スペクトル(Credit: 理化学研究所)

複雑な有機分子は、どこで、どのように作られたのか

私たちはどこから来たのか?
この質問は単純ですが、宇宙物理学者にとっては最も難しい質問の一つになります。

地球上で生命が誕生するのに不可欠なのが複雑な有機分子です。
でも、複雑な有機分子は、どこで、どのように作られたのでしょうか?

星間化学分野では、メタノールなどの有機分子が宇宙空間でどのように作られ、どのような化学反応を起こして、複雑な有機分子へと進化していくのかを調べています。

この20年間に、生まれたての星“原始星”や太陽系で最も古い物質を含むと考えられている彗星から、地球で知られている有機分子と同様の分子が検出されるようになりました。

それらの有機分子は、星が誕生する場所である分子雲に含まれるチリの粒の表面で、水分子(氷)とともに作られたと考えられています。
 星間空間に撒き散らされた原子やチリが集まって雲のようになった際、周囲からの紫外線(星間紫外線)が内部まで届かなくなると、紫外線によって分子が壊されなくなるので、原子から分子が作られ始める。そのような雲を“分子雲”と呼ぶ。数光年~数十光年と様々な大きさのものがある。分子雲の中で、自己重力でガスやチリが集まってできた高密度な場所を、分子雲コアと呼び、暗黒星雲“B228”もその一つになる。
このチリの粒の周りに凍り付いた有機分子を特定するのに有効なのが赤外線分光法です。

原始星から赤外線が放射されると、その赤外線のエネルギーを得て、氷に含まれる有機分子が振動。
その結果、特定のエネルギー(波長)の赤外光が中間赤外線の波長領域で弱くなり、吸収線として観測されます。
 波長の違いによって、電磁波(光)は電波・赤外線・可視光・紫外線など異なる名称で呼ばれている。波長1~400μmのものを赤外線と呼び、この範囲で波長が短いもの(1~3μm)を近赤外線、長いもの(40~400μm)を遠赤外線と呼ぶ。中間赤外線は、近赤外線と遠赤外線の中間に相当する波長(3~40μm)の赤外線の総称。赤外線のうち、地球大気に吸収されずに地上まで届くのはごく一部なので、観測は主に宇宙から行われる。
これを理論計算や実験などで得られているデータと比較することで、この赤外光の吸収の原因となる氷を特定し、氷に含まれる分子の組成を調べることができます。

中間赤外線の分光観測研究は、日本の赤外線天文衛星“あかり”注1やアメリカの赤外線天文衛星“スピッツァー”注2によって先駆的に進められました。

実際、原始星周囲からは、氷(H2O)や二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)などの単純な分子が見つかっています。
でも、有機分子を観測するには、これらの赤外線天文衛星では感度が十分ではなかったんですねー

一方、赤外線分光観測の感度が100倍に向上したジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が2021年12月に打ち上げられ、2022年7月に科学運用が始まっています。
これで、ようやく氷に含まれる様々な有機分子の観測が可能になりました。

また、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡はチリ表面の氷だけでなく、一部のガス状の分子も十分な空間分解能で観測することが出来ました。
 ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、NASAが中心になって開発した口径6.5メートルの赤外線観測用宇宙望遠鏡。ハッブル宇宙望遠鏡の後継機として、2021年12月25日に打ち上げられ、ヨーロッパ宇宙機関と共同で運用されている。名称はNASAの第2代長官ジェームズ・E・ウェッブにちなんで命名された。

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を用いた中間赤外線分光観測

今回の研究では、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を用いた中間赤外線分光観測により、太陽型原始星“IRAS15398-3359”の周りに存在する様々な分子を含む氷を調べています。
 太陽型原始星は、将来、太陽と同程度の質量の星に進化する若い星を指す。分子雲の中で、ガスやチリが自己重力によって収縮することで誕生する。
“IRAS15398-3359”は、おおかみ座の方向約500光年の彼方に位置する暗黒星雲“B228”で形成途中の若い原始星です。(図1)
 暗黒星雲は分子雲の別名で、背後の星からの光を遮って真っ黒に見えるのでそう呼ばれている。
図1.おおかみ座にある暗黒星雲(Background image credit:Gabriel Rodrigues Santos)青線で囲んだ場所が“B228”と呼ばれる場所で、今回の観測対象となった若い原始星“IRAS15398-3359”はここで誕生している。(Credit: 理化学研究所)
図1.おおかみ座にある暗黒星雲(Background image credit:Gabriel Rodrigues Santos)
青線で囲んだ場所が“B228”と呼ばれる場所で、今回の観測対象となった若い原始星“IRAS15398-3359”はここで誕生している。(Credit: 理化学研究所)
観測では、中間赤外線観測装置の中分解能分光(MRS)モードを用いて、波長5~28マイクロメートル(μm、1μmは100万分の1メートル)の赤外線吸収スペクトルを取得。
得られたスペクトルには、水、二酸化炭素、メタンといった単純な分子の他に、これまでの観測では確定できていなかったホルムアルデヒド(H2CO、波長6.7μm)、メタノール(CH3OH、波長9.74μm)、ギ酸(HCOOH、7.24μm)などの有機分子による吸収がはっきりと見られました。(図2)

また、他の分子による吸収線と混合しているものの、エタノール(C2H5OH)、アセトアルデヒド(CH3CHO)など、より複雑な有機分子による吸収の影響を受けていると思われるスペクトルも得られています。(図2上の枠内)
図2.観測された赤外線吸収スペクトル<br><br><br><br><br><br>
上:今回ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で観測された赤外線吸収スペクトル。メタノール(CH3OH)のはっきりとした吸収が見られる。左上の枠内には、ホルムアルデヒド(H2CO)、ギ酸(HCOOH)といった様々な有機分子の吸収が見られる。エタノール(C2H5OH)、アセトアルデヒド(CH3CHO)などの、より複雑な有機分子による吸収の影響を受けていると思われるスペクトルも検出されている(*は他の分子による吸収と混合しているため暫定検出)。<br><br><br><br><br><br>
下:過去に赤外線天文衛星“スピッツァー”で観測された赤外線吸収スペクトル(オレンジ)と今回ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で観測されたスペクトル(青)の比較。左は図2上の5~8μmの波長域における比較、中は波長分解能の違い、右は空間分解能の違いに起因する吸収強度の違いを表している。(Credit: 理化学研究所)
図2.観測された赤外線吸収スペクトル
上:今回ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で観測された赤外線吸収スペクトル。メタノール(CH3OH)のはっきりとした吸収が見られる。左上の枠内には、ホルムアルデヒド(H2CO)、ギ酸(HCOOH)といった様々な有機分子の吸収が見られる。エタノール(C2H5OH)、アセトアルデヒド(CH3CHO)などの、より複雑な有機分子による吸収の影響を受けていると思われるスペクトルも検出されている(*は他の分子による吸収と混合しているため暫定検出)。
下:過去に赤外線天文衛星“スピッツァー”で観測された赤外線吸収スペクトル(オレンジ)と今回ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で観測されたスペクトル(青)の比較。左は図2上の5~8μmの波長域における比較、中は波長分解能の違い、右は空間分解能の違いに起因する吸収強度の違いを表している。(Credit: 理化学研究所)
さらに、水素(H2)、一酸化炭素(CO)、電離したネオン(Ne)や鉄(Fe)原子などについては、吸収ではなく発光のスペクトルも検出されました。
このことは、原始星周辺の温度や衝撃波領域の有無、原始星から放出された物質と周囲のガスとの相互作用などを調べられることを意味しています。

実際、この相互作用が起こっている領域の中間赤外線画像が偶然観測視野に入っていたため、原始星から噴き出したジェットによって作られた殻状の痕跡を発見することもできました。(図3)

この痕跡は、これまでの赤外線観測では、ぼやけて形が全く分からなかったもの。
観測では、明らかに殻状になっている様子が初めてとらえられ、原始星から放出されたガスによる衝撃の様子が明らかになっています。
図3.原始星“IRAS15398-3359”から噴き出したジェットによって作られた殻状構造左から順に、5.6μm、7.7μm、10μmの波長での中間赤外線画像。赤の×で示した原始星から右下に向かって3つの殻のような構造が検出されているのが分かる。一番右は、過去に赤外線天文衛星“スピッツァー”で観測された5.8μmの波長での赤外線画像。(Credit: 理化学研究所)
図3.原始星“IRAS15398-3359”から噴き出したジェットによって作られた殻状構造
左から順に、5.6μm、7.7μm、10μmの波長での中間赤外線画像。赤の×で示した原始星から右下に向かって3つの殻のような構造が検出されているのが分かる。一番右は、過去に赤外線天文衛星“スピッツァー”で観測された5.8μmの波長での赤外線画像。(Credit: 理化学研究所)

原始星ごとの化学組成の違いの原因を解明

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の登場は、赤外線の感度を100倍向上させ、原始星周りの氷の科学の探求に革命を起こしたといえます。

今後、詳細なモデルやガス中に含まれる類似分子との比較研究などが進めば、日本の小惑星探査機“はやぶさ2”注3で検出されている太陽系始原物質に含まれる複雑な有機分子の起源との関連についても解明が進むとものと期待できます。

今回の観測は、氷の化学的特徴の詳細を明らかにした一方で、氷の存在量を導き出すことが非常に複雑であることも示しています。

今後、研究グループでは、実験室での測定と数値モデルを用いて、検出されたスペクトルの特徴をモデル化することで、氷の存在量を推定したいと考えています。

今回の観測は、ヤン研究員が率いるジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の第1サイクル観測プログラムのひとつ。
得られたデータは、総計25時間で4つの原始星にある氷の特徴を観測して比較する計画の一部として活用されます。
そして、2023年の春には、他の3つの若い原始星の観測も予定されています。

今回観測した原始星“IRAS15398-3359”を取り巻くガスには、チリに付着した氷から蒸発したメタンにより生成されたと考えられる不飽和有機分子(炭素間に二重結合や三重結合を持つ分子)が他の天体に比べて多く存在していることが知られています。

4つの原始星の観測結果が揃えば、ガスの化学組成とチリ表面の氷の化学組成の関係を丁寧に比較できるようになり、原始星ごとの化学組成の違いの原因も解明できるかもしれません。

さらに、氷とガス、それぞれに含まれる原子の関係を調べていけば、星の誕生から太陽系のような惑星系に至るまでの化学進化の特徴を明らかにできるはずです。

注1:赤外線天文衛星“あかり”
 “あかり”は、JAXAの宇宙科学研究本部が開発した赤外線天文衛星(別名IRIS)。2006年2月22日にM-Vロケット8号機によって打ち上げられた日本初の赤外線天文衛星。赤外線専用の望遠鏡と2種類の観測装置を搭載し、波長1.7μメートルの近赤外線から180μメートルの遠赤外線まで、幅広い波長域の赤外線を高い感度で観測できる唯一の天文衛星だった。目標寿命の3年を超えて運用されていたが、2011年11月24日に停波され運用を終えている。約130万天体に及ぶ“赤外線天体カタログ”の作成や原始星周りの氷を観測しただけでなく、太陽系内の小惑星に水を発見するなどの成果がある。

注2:赤外線天文衛星“スピッツァー”
 “スピッツァー”は、“ハッブル宇宙望遠鏡”や“X線天文衛星“チャンドラ”、“コンプトンガンマ線観測衛星”と共に、様々な波長の電磁波で宇宙を観測する衛星群“グレート・オブザーバトリーズ”の1機として、NASAが2003年8月に打ち上げた赤外線天文衛星。広い波長範囲や高い感度で赤外線を観測し、暗黒星雲に埋もれた多くの原始星を発見してきたが、2020年1月31日に機体はセーフモードに移行、すべての科学運用を終了している。“スピッツァー”が投入されたのは、地球から距離を置いて、追いかけるような位置関係で太陽を公転する軌道。これにより、地球から出る熱放射の影響を避けることができ、より口径の大きな地上望遠鏡を上回る感度を達成していた。

注3:小惑星探査機“はやぶさ2”
 JAXAが開発した小惑星探査機“はやぶさ2”は、世界で初めて小惑星イトカワのサンプルを採取した“はやぶさ”の後継機。2014年12月3日に種子島宇宙センターからH-IIAロケット26号機で打ち上げられた。2019年2月に地球近傍小惑星“リュウグウ”へ2回タッチダウン(接地)し、“リュウグウ”の表面部室と、弾丸の発射による表層物質をそれぞれ採取することに成功している。2020年12月に地球に帰還し、5g以上のサンプルを持ち帰った。


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