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火星の衛星フォボスはどうやって形成されたのか? 小惑星捕獲説か巨大衝突説かは元素組成の観測から判別できるようです

2024年06月18日 | 火星の探査
月の研究によって地球の歴史が明らかになってきたように、火星の衛星の研究は衛星そのものだけでなく火星の歴史の理解にも繋がります。

火星にはフォボスとダイモスの2つの衛星があり、それらの形成過程については、これまで天体表面の色や地形を根拠とする“小惑星捕獲説”や公転軌道の特徴を説明する“巨大衝突説”が提唱されてきました。
でも、その議論に未だ決着はついていないんですねー

JAXAの火星衛星探査計画“MMX(Martian Moons eXploration)”では、様々な科学観測とフォボス表面から採取するサンプルの地上分析を組み合わせることにより、火星衛星の形成過程を解明することを目的としています。

そこで、今回の研究では元素組成に注目し。
衛星フォボスの形成過程の違いを見分けることを目指しています。

異なる形成過程を経験したフォボスが、それぞれどのような元素組成を持つことになるのか?
このことについて、火星表面や隕石の元素組成データベースを用いてモデル化し、それらが相互にどの程度重なり合う、あるいは異なるかを明らかにしています。

本研究の結果が示唆しているのは、MMX搭載の元素組成観測装置“MEGANE”を用いると、70%の確率で形成仮説が判別できること。
他の搭載機器による科学観測と併せて、MMXの科学目標の達成に大いに貢献することが期待されます。
この研究は、東京大学 理学系研究科 地球惑星科学専攻 平田佳織大学院生(JAXA 宇宙科学研究所(ISAS)太陽系科学研究系所属)、宇宙科学研究所(ISAS)太陽系科学研究系 臼井寛裕教授、同・兵頭龍樹 国際トップヤングフェロー、同・深井稜汰特任助教たちの研究チームが進めています。
本研究の成果は、2024年3月1日発行のアメリカ天文学会 惑星科学部門の科学雑誌“Icarus”に、“Mixing model of Phobos’ bulk elemental composition for the determination of its origin: Multivariate analysis of MMX/MEGANE data”として掲載されました。


火星の衛星フォボスはどうやって形成されたのか

2つの火星衛星フォボスとダイモスは、これまで火星探査機や地上望遠鏡を用いて研究されてきました。
でも、その形成過程は未だに明らかになっていません。

有力な仮説として提唱されているのは、火星近傍を通過した小惑星が重力捕獲されたとする“小惑星捕獲説”や、火星への天体衝突により宇宙空間に放出されたチリやガスが再集積(※1)して形成されたとする“巨大衝突説”です。(図1)
※1.衝突によって放出されたチリやガスが重力によって集まり、再びまとまること。
これらの形成仮説を見分ける上でカギとなるものがあります。
それが元素組成です。

捕獲説の場合だと、火星衛星は捕獲された小惑星に相当する組成を持つことが想定されます。
これに対して、衝突説の場合には、火星組成(パルク・シリケイト・マーズ組成)(※2)と衝突した天体の組成の中間的な組成を持つと考えられます。
※2.バルク・シリケイト・マーズ組成とは、火星のケイ酸塩質部分、すなわち、岩石により構成される地殻とマントルの平均組成のこと。火星衛星の巨大衝突説では、バルク・シリケイト・マーズに対応する、火星の地殻とマントルの物質が天体衝突による宇宙空間へ放出され、火星衛星の一部を構成することになると予測される。


衛星フォボスの元素組成から形成仮説を判別

火星衛星の起源解明を目指すJAXAの火星衛星探査計画MMXでは、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学応用物理研究所で開発されたガンマ線中性子線分光計“MEGANE”(※3)を用いた、フォボスの表層1メートル以内の平均元素組成の測定が計画されています。
※3.“MEGANE”は、MMX探査機に搭載されるガンマ線中性子線分光計(Mars-moon Exploration with GAmma rays and NEutrons)の通称。天体表面に宇宙線が入射することで表面物質(を構成する元素)から生成されるガンマ線や中性子線を検出することで、その元素組成を測定する。
本研究では、“MEGANE”の観測誤差や捕獲された、あるいは衝突した小惑星の種類や組成の未確定性などの現実的な条件を考慮して、“MEGANE”により観測されるフォボスの元素組成から形成仮説を判別することを目指しています。
図1.火星衛星の形成仮説と火星衛星を構成する物質。(左)小惑星捕獲説:火星近傍を通過した小惑星が重力的に捕獲され火星を公転する衛星になる。捕獲された小惑星に由来する物質が火星衛星を構成すると考えられる。(右)巨大衝突説:火星への巨大衝突により発生した周火星円盤物質が再集積して火星衛星を形成する。衝突天体由来の物質と火星から掘削・放出された物質の混合物が火星衛星を構成すると考えられる。(Credit: Kaori Hirata)
図1.火星衛星の形成仮説と火星衛星を構成する物質。(左)小惑星捕獲説:火星近傍を通過した小惑星が重力的に捕獲され火星を公転する衛星になる。捕獲された小惑星に由来する物質が火星衛星を構成すると考えられる。(右)巨大衝突説:火星への巨大衝突により発生した周火星円盤物質が再集積して火星衛星を形成する。衝突天体由来の物質と火星から掘削・放出された物質の混合物が火星衛星を構成すると考えられる。(Credit: Kaori Hirata)
まず、フォボスの元素組成を火星組成と小惑星組成の混合(捕獲説の場合は、火星成分0%+小惑星成分100%、衝突説の場合は火星成分50%+小惑星成分50%)により表現するモデルを考案。(図2)

2つの形成仮説に加えて、小惑星組成として12種類のコンドライト(※4)質組成を仮定し、合計24パターンの異なる形成過程を経験したフォボスのモデル元素組成が互いにどのように重なり合う、あるいは異なるかについて、“MEGANE”で測定可能な6種類の親石元素(※5)(鉄、ケイ素、酸素、カルシウム、マグネシウム、トリウム)に着目して調査しました。
※4.コンドライトは、石質隕石(金属ではなくケイ酸塩鉱物を主成分とする隕石)のうち、コンドリュールと呼ばれる粒上の組成を内部に含むもの。マグマ状に溶解したケイ酸塩鉱物が急冷されることにより形成されたと考えられるコンドリュールが再度溶解することなく保存されていることから、高温による分化を経験していない始原的な天体が母天体だとされる。
※5.親石元素は、天体が均質な溶融状態から分化する過程で、岩石(ケイ酸塩)相に集まりやすいと考えられる元素(ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素など)。親石元素の他には、鉄とともに金属相に濃集しやすい親鉄元素、気体になりやすい親気元素などがある。

図2.フォボスの元素組成モデルの概念図。フォボスの元素組成を、火星の組成(赤)と小惑星の組成(青と緑)の混合によって表現する。捕獲説の場合、フォボスの組成は捕獲された小惑星に相当するコンドライト隕石の組成になると考えられる。一方、衝突説の場合に考えらるのは、衝突した小惑星に対応するコンドライト隕石の組成と火星組成の中間的な組成になること。複数の種類のコンドライト組成を考えると、捕獲説と衝突説のどちらでも説明できるような組成(矢印)が存在することになる。(Credit: Kaori Hirata)
図2.フォボスの元素組成モデルの概念図。フォボスの元素組成を、火星の組成(赤)と小惑星の組成(青と緑)の混合によって表現する。捕獲説の場合、フォボスの組成は捕獲された小惑星に相当するコンドライト隕石の組成になると考えられる。一方、衝突説の場合に考えらるのは、衝突した小惑星に対応するコンドライト隕石の組成と火星組成の中間的な組成になること。複数の種類のコンドライト組成を考えると、捕獲説と衝突説のどちらでも説明できるような組成(矢印)が存在することになる。(Credit: Kaori Hirata)
その結果、“MEGANE”により観測されるフォボスの元素組成から形成仮説の判別が可能かどうかについては、その観測誤差に依存して変化することが定量的に示され、現在想定される観測誤差(20~30%)を仮定した場合、70%程度の確率で捕獲説と衝突説を判別できることが明らかになりました。(図3)

さらに、形成仮説が決定できた場合には、50%程度の確率で捕獲された、あるいは衝突した小惑星の種類を12種類の中から一意に決定できるということも示唆されました。
図3.仮想的なフォボスの鉄・ケイ素(Fe-Si)組成と、それを説明できる形成仮説の関係(“MEGANE”の観測誤差0~30%の場合)。本研究は、“MEGANE”により観測されるフォボス組成を、[1]捕獲説にのみによって説明できる組成(黄色)、[2]衝突説のみによって説明できる組成(青)、[3]両方で説明できる組成(グレー)、[4]どちらでも説明できない組成(黒)の4種類に分類している。“MEGANE”の観測から形成仮説が決定される([1]または[2])割合を「“MEGANE”の形成仮説判別性能」として定量化している。(Credit: Kaori Hirata)
図3.仮想的なフォボスの鉄・ケイ素(Fe-Si)組成と、それを説明できる形成仮説の関係(“MEGANE”の観測誤差0~30%の場合)。本研究は、“MEGANE”により観測されるフォボス組成を、[1]捕獲説にのみによって説明できる組成(黄色)、[2]衝突説のみによって説明できる組成(青)、[3]両方で説明できる組成(グレー)、[4]どちらでも説明できない組成(黒)の4種類に分類している。“MEGANE”の観測から形成仮説が決定される([1]または[2])割合を「“MEGANE”の形成仮説判別性能」として定量化している。(Credit: Kaori Hirata)
本研究が提案するフォボスの元素組成モデルとデータ解析方法は、将来MMXにより実際に取得される“MEGANE”の観測データに適用することができます。

その際には、MMXによる別の科学観測結果に基づいて捕獲・衝突天体の種類を追加あるいは限定するなど、形成過程の理解を深めるための応用も考えられます。

このように、“MEGANE”によるフォボスの元素組成観測は、MMXの他の科学観測と併せて、火星衛星の起源解明に大いに貢献することが期待されます。


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NASAとの協力拡大で火星探査車を2028年に打ち上げへ! ロシアによるウクライナ侵攻で中止になっていたエクソマーズ2022

2024年05月25日 | 火星の探査
2024年5月16日のこと。
ヨーロッパ宇宙機関とNASAは、ヨーロッパ宇宙機関の火星探査計画“エクソマーズ(ExoMars)”における、火星探査車“ロザリンド・フランクリン(Rosalind Franklin)”のミッションに関する覚書に署名したことを発表しました。
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図1.火星表面で探査を行うヨーロッパ宇宙機関の火星探査車“ロザリンド・フランクリン”のイメージ図。(Credit: ESA/Mlabspace)
“ロザリンド・フランクリン”は、かつて火星に存在していた、あるいは今でも存在するかもしれない、生命や生命の痕跡の探索を目的として開発された探査車です。

放射線や厳しい温度環境から保護されているとみられる地下2メートルからサンプルを採取するためのドリルをはじめ、ラマン分光装置、赤外線ハイパースペクトルカメラ、有機分子分析装置などが搭載されています。
マリネリス渓谷の北東に位置するオクシア平原に着陸する予定です。

これまで、ヨーロッパ宇宙機関およびロシアの国営宇宙企業ロスコスモスの共同計画として、“エクソマーズ”は進められてきました。
その“エクソマーズ”の2回目のミッション“エクソマーズ2022(ExoMars 2022)”として、“ロザリンド・フランクリン”はロシアの着陸機“カザチョク(Kazachok)”に搭載され、2022年9月に打ち上げられる予定でした。

でも、2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻の影響を受けて打ち上げは中止。
ヨーロッパ宇宙機関では、“ロザリンド・フランクリン”を火星へ送り込むための代替案を検討していました。

今回、ヨーロッパ宇宙機関とNASAが合意したのは、“ロザリンド・フランクリン”のミッションにおけるヨーロッパ宇宙機関とNASAの取り組みを拡大する協定です。

この合意によりNASAは、“ロザリンド・フランクリン”の打ち上げサービス、着陸に必要となる推力可変機能を備えたロケットエンジン、それにアメリカ合衆国エネルギー省との協力の下で放射性同位体を用いたヒーターを、ヨーロッパ宇宙機関へ提供します。

ヨーロッパ宇宙機関は、“カザチョク”に代わる着陸機を調達するために、ヨーロッパの民間宇宙企業タレス・アレニア・スペース(Thales Alenia Space)と契約を締結。
NASAが提供するロケットエンジンやヒーターは、この着陸機(開発中)に搭載されることになります。

また、“ロザリンド・フランクリン”を搭載した着陸機を火星へ送るための打ち上げサービスプロパイダーは、NASAがアメリカで調達することになります。

もともと、“エクソマーズ”はヨーロッパ宇宙機関とNASAが共同で取り組む予定でした。
その後、NASAが脱退しロシアとの共同体制で進められてきたという経緯があります。

ヨーロッパ宇宙機関とNASAの協力が拡大したことで、火星に向けて一歩前進した“ロザリンド・フランクリン”は、2028年10月~12月の期間にアメリカから打ち上げらる予定です。


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初期の火星では有機物は生命活動ではなく大気中の一酸化炭素から作られていた!? 生命探査における有機分子の由来特定に役立つかも

2024年05月17日 | 火星の探査
火星の堆積物中に含まれる有機物は、大気中の一酸化炭素(CO)から生成されたものがあるようです。

火星の有機物は、異常な炭素の安定同位体比(※1)を持つことが知られていました。

でも、その原因は不明だったんですねー

そこで、本研究では大気中でCO2の光解離によって作られるCOが、この同位体異常を持つことを、室内実験と理論計算によって明らかにしています。
さらに、このCOは還元的な初期火星大気中では、有機物となり堆積することも分かりました。

研究チームでは、こうした実験結果を元にモデル計算を実施。
すると、驚くべきことに、最大で大気中のCO2の20%が有機物として地表に堆積したことも分かりました。

このような結果は、今後の火星探査に新しい展開をもたらすはずです。
また、さらなる研究により、生命発生前の初期惑星環境で、どのように有機分子が合成されていったのかについて、詳細が明らかにされることが期待されます。
今回の研究は、東京工業大学 理学院 地球惑星科学系の上野雄一郎教授、Alexis Gilbert准教授、藏 暁鳳研究員、東京大学 黒川宏之准教授、青木翔平講師、JAXA 臼井寛裕教授、コペンハーゲン大学 Matthew Johnson教授、Johan Schmidt博士たちによって進められました。
本研究の成果は、5月9日付のイギリスの科学雑誌“Nature Geoscience”に、“Synthesis of 13C-depleted organic matter from CO in a reducing early Martian atmosphere”としてオンライン掲載されました。

※1.ある元素のうち、質量数の異なるものを同位体と呼び、放射壊変せずに安定に存在するものが安定同位体となる。炭素の安定同位体には質量数12の12Cと質量数13の13Cの2種類があり、その比率13C/12Cを安定同位体比と呼ぶ。太陽系内の物質については、炭素のおよそ99%が12Cで、13Cは1%程度。ただ、13C/12Cを精密に計測すると、その比率は起源物質ごとにわずかに異なる。これを利用して環境物質の由来を推定することが可能となる。
図1.研究を元に復元した初期火成のイメージ。30億年以上前の火星には海もしくは湖が存在し、大気中では有機分子がCOから作られ地表に堆積していた。(Credit: Lucy Kwok)
図1.研究を元に復元した初期火成のイメージ。30億年以上前の火星には海もしくは湖が存在し、大気中では有機分子がCOから作られ地表に堆積していた。(Credit: Lucy Kwok)


初期火星の有機物はどうやって作られたのか

最近の火星探査によって、30億年以上前の初期火星には液体の水(海または湖)が存在していて、現在の火星と全く異なる環境にあったことが判明しています。

さらに、NASAの火星探査車“キュリオシティ”などによる現場分析では、当時の火星堆積物(約30億年前)の中には、有機物が含まれていることも明らかにされています。

でも、この有機物が生命活動によって作られたものなのか、隕石によって宇宙空間から火星にもたらされたものなのか、あるいは無機的な化学反応によって作られたのか、その起源は全く分かっていませんでした。

有機物の由来を推定する手がかりとして、探査車はこの有機物の安定同位体比(13C/12C)を精密に計測しています。

探査車の測定によると、火星の有機物はそれを構成する炭素の13C存在度が0.92%~0.99%。
この値は、生物の名残りである地球の堆積有機物(およそ1.04%)や大気中のCO2(1.07%)と比べると極端に少なく、また隕石中の有機物(およそ1.05%)とも似ていませんでした。

ここから推定されるのは、宇宙空間での反応や地球上の生物代謝とは異なる反応で火星の有機物が作られたこと。
ただ、このように極度の13C同位体異常を引き起こす反応“同位体分別(※2)”は、これまでに一つも知られておらず、どのようにすれば火星の有機物が作られるのかは全く分かっていませんでした。
※2.同位体比が変化するプロセスのことを同位体分別と呼ぶ。たとえば、植物などの光合成生物が大気中のCO2から有機物を合成する際には、12Cの反応速度がわずかに速いので、CO2(13C:1.07%)と比べて生物が作った有機分子は13Cの割合が少ない(およそ1.04%)。同位体分別がどれほど大きいかは、反応の種類や温度など環境条件によって異なっているが、火星有機物に見られるほどに13Cの割合を減らすことのできる同位体分別は、これまで知られていなかった。
図2.NASAの火星探査車“キュリオシティ”は約30億年前の堆積物をドリルで掘削し、その成分を分析している。図中の数字は、分析の結果得られた有機物の安定同位体比(13C/12C)を示している。(出所:東工大プレスリリースPDF)
図2.NASAの火星探査車“キュリオシティ”は約30億年前の堆積物をドリルで掘削し、その成分を分析している。図中の数字は、分析の結果得られた有機物の安定同位体比(13C/12C)を示している。(出所:東工大プレスリリースPDF)


太陽光によるCO2の光解離反応

今回の研究でチームが注目したのは、惑星大気中で有機物が作られる反応でした。
大気化学反応による同位体分別を、室内実験と理論計算の両面から調べています。

その結果分かったのは、様々な反応の中でも、太陽光(紫外線)によるCO2の光解離反応において、例外的かつ極端に13C存在度の低いCOが生成されることでした。

また、共同研究者で共著者の東京大学の青木講師たちが実施した火星大気の分光観測でも、CO2から生成した火星のCOは予測通り極端に13C存在度が低いことを明らかにしています。

これらの実験・観測・理論に基づくと、火星を含む地球型惑星の大気においてCOは主にCO2の光解離によって作られ、そのCOにおいては13C同位体存在度が低いことが考えられます。


有機物は火星大気中のCOから作られた

このCOのほとんどは、現在の地球や火星において、酸化され再びCO2に戻されてしまいます。

一方、酸素のない冥王代(※3)の地球や、地表に強力な酸化物がない初期の火星においては、大気は現在よりも還元的であったと考えられています。
※3.冥王代は、地球形成(約45億年前)から40億年前までの期間を指す地質年代。この期間の岩石記録は地球上には残っていない。生命が誕生する前の冥王代の地球は、大気に酸素(O2分子)が無く、現在よりも還元的な環境にあったと考えられる。
水素ガス(H2)などを含む還元的な初期大気中では、COがさらに反応し、ホルムアルデヒド(HCHO)や有機酸などの有機分子を生成することも、別の実験から明らかになっています。

つまり、初期火星の堆積物に含まれている13Cの少ない有機物は、当時の火星大気中でCOから作られたものだと考えられます。

さらに、今回の同位体分別の実験結果と上記の最新の知見を元に、モデル計算による初期火星炭素循環の解析を実施。
すると、当時の火星では、火山活動などを通して大気に流入したCO2のうち、最大で20%がCOを経由して13C同位体異常を持つ有機物に変換され、地表に堆積していたことが判明しました。
図3.(左)同位体分別のモデル計算による初期火成炭素循環の解析結果。当時の火星大気に存在したCO2の20%(0.8)がCOを経て有機物に変換されたとして同位体比を計算すると、観測で得られた火星CO2と有機物の炭素同位体比と一致する。(右)地球の有機物とCO2の同位体比。CO2と有機物(0M)の間には、火星で見られるほど大きな炭素同位体分別は見られない。(Credit: 出所:東工大プレスリリースPDF)
図3.(左)同位体分別のモデル計算による初期火成炭素循環の解析結果。当時の火星大気に存在したCO2の20%(0.8)がCOを経て有機物に変換されたとして同位体比を計算すると、観測で得られた火星CO2と有機物の炭素同位体比と一致する。(右)地球の有機物とCO2の同位体比。CO2と有機物(0M)の間には、火星で見られるほど大きな炭素同位体分別は見られない。(Credit: 出所:東工大プレスリリースPDF)


生命探査における有機分子の由来特定

今回の推定が正しければ、火星の堆積物中には有機物が想定外の量で存在している可能性があり、今後の火星探査によって大量の有機物が見つかるかもしれません。

現在、地球外の惑星環境における生命探査が国際的に進められていて、地球以外の天体に存在する有機分子の由来を特定するために、13C同位体異常が有用な手掛かりになることが期待されます。

また、大気中のCOから有機分子が生成される過程は、生命発生以前の初期地球でも同様だったと考えられます。
今回の研究は、生命がどのように発生したのかという根源的な人類の問いに対して、一つの重要なヒントを与えてくれたのかもしれません。

今後、研究チームでは、生命発生以前の惑星環境中で、どの種の有機分子がいかに生成されたのかについて、実験的に明らかにしていくそうです。
これにより、火星環境の進化についての詳細な解読が進むことが期待されます。

なお、国際的には火星堆積物のサンプルリターン計画が進行中です。
今回の研究では、初期火星の大気中でCOから有機分子が生成されたことを突き止めました。
ただ、この結果は、火星有機物の生命起源説を否定するものではありません。

大気由来の有機分子がさらに地表の生命の食料となった可能性や、他にも有機分子を合成する反応があったのかについても、研究を展開していくようですよ。


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火星ミッションで食料を賄う農業は可能か? フランスの研究グループが可能性を探る探査車“AgroMars”を提案

2024年05月07日 | 火星の探査
2016年に日本でも上映された映画“オデッセイ(原題はThe Martian(火星の人))”では、マットデイモン演じる宇宙飛行士マーク・ワトニーが火星に一人取り残されて、ジャガイモを栽培しながらサバイバルを続けるシーンがあります。

NASAでは、2040年までに火星への最初の有人飛行を実現するとしていますが、このような長期ミッションでは克服すべき課題がいくつかあります。
その一つが、火星滞在中の食料をどう確保するのかという問題です。

もちろん、最初の有人探査では、必要となる物資は地球から運搬することになるはずです。
では、続けて行われる火星での長期滞在ミッションでも、物資は地球から運搬されるのでしょうか?

やはり、火星ミッションでの生活に必要な物資は、一部でも火星で賄う必要があるはずです。

今回の研究では、火星で農業を実現できるかどうかを検証するために、土壌や大気を調査する探査ローバー(探査車)“AgroMars”を提案しています。
この研究は、フランス高等科学技術学院のSamuel Duarte Dos Santosさんが率いる研究グループが進めています。


火星の土壌を活用した宇宙農業

火星で農業を始めようとすると障害となるものがあります。
それは、地球の約1000分の6しかない気圧の低さや、摂氏マイナス153度からプラス20度の範囲内という極端な温度(差)、地球の約700倍もある高い放射線量といった過酷な環境条件です。

こうした困難に対処するため、土壌を必要としない“ハイドロポニックス(水耕栽培)”や“エアロポニックス(空中栽培)”の研究が進められています。

また、人工照明を備え、温度・湿度を調整できる特殊な“グリーンハウス”の実現や、過酷な環境でも農作物を生育できるようにする遺伝子工学の進展も、火星での農業を実現するための重要なカギとなるようです。
図1.火星で作物を育てる温室のコンセプト。LED照明と水耕栽培の利用を想定している。(Credit: NASA/SAIC)
図1.火星で作物を育てる温室のコンセプト。LED照明と水耕栽培の利用を想定している。(Credit: NASA/SAIC)
ただ、今回の研究では、こうしたハイドロポロニックスやエアロポロニックスとは別の角度から、火星での農業の可能性を追求しています。

火星の表面は、“レゴリス”と呼ばれる細かい砂状の物質の層で覆われています。
研究グループが探ろうしているのは、レゴリスによる“土壌”を活用して宇宙農業が実現できるかどうか。
映画オデッセイに近いやり方なのかもしれません。


火星の土壌を測定する探査車

今回の研究で提案しているのは、重量が約950キロの火星探査車“AgroMars”です。
NASAが運用中の“パーサビアランス”や“キュリオシティ”と似た性能を持つよう設計することが想定されています。
図2.研究グループが提案する火星探査車“AgroMars”。火星の土壌や大気を調査するために使用される。(Credit: M. Duarte dos Santos, et al. )
図2.研究グループが提案する火星探査車“AgroMars”。火星の土壌や大気を調査するために使用される。(Credit: M. Duarte dos Santos, et al. )
“AgroMars”の重量を考慮すると、打ち上げに必要なのは、20トン以上のペイロードを宇宙空間に輸送できるロケット。
スペースX社のファルコン9ロケットでの打ち上げを、研究グループでは想定しているようです。

“AgroMars”に搭載が想定されているのは、火星上の鉱物の組成を調べるための“X線・赤外線分光装置”、土性(※1)を調べるための“高解像度カメラ”、土壌が酸性なのかアルカリ性なのかを計る“pH計”、有機化合物の検出および分析のための“ガスクロマトグラフ質量分析計”などの科学装置です。
研究グループでは、これらのパラメータを計測することが、火星の土壌が農業に向いているかを検査するのに必要だと考えています。
※1.どの程度水分を含む(含みうる)のか、粒の粗さ、吸収出来る養分の量など、土壌性質のこと。
さらに、土性の計測を助けるドリルも“AgroMars”に搭載することが計画されています。

ミッションは5つの段階に分けられています。

まず、準備段階としてミッションの目的を定義し、導入段階でコンポーネントの信頼性を検証した後に、打ち上げ段階で火星への安全かつ精密な着陸を実現。

“AgroMars”が現地で探査した土壌サンプルのデータを地球へ転送し、追加のデータ分析によって火星の土壌が農業に向いているかどうかの評価が下されることになります。

研究グループの試算では、“AgroMars”の開発や打ち上げに約22億ドル、火星探査に約5億ドル、合計27億ドル程度の費用が必要となるようです。

こうした費用には、“AgroMars”に電力を供給するための放射性同位体熱電気転換器(※2)の費用も含まれています。
※2.放射性同位体熱電気転換器(Radioisotope Thermoelectric Generator; RTG)は、放射性同位体の崩壊時に発生する熱エネルギーを電気エネルギーに変換する原子力電池の一種。
“AgroMars”によるミッションを取り上げた宇宙開発・天文学ニュースサイト“Universe Today”は、ミッションが成功するかどうかは不明だが、火星に恒久的な基地を建設するのであれば、“AgroMars”のように火星の環境を理解することが必要だと記事を締めくくっています。


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観測史上2番目となる火星のL4トロヤ群小惑星を発見! 火星と同じ公転軌道を同じ距離を保ちながら運動する小惑星群の起源に迫る

2024年04月13日 | 火星の探査
太陽を惑星が公転しているときに、太陽や惑星と比べて質量がずっと小さい小惑星などの天体が、太陽や惑星の重力に対して静止した状態を保てる5つの場所があります。
その場所をラグランジュ点と言い、その中でもL4・L5付近を運動する小惑星のグループのことをトロヤ群と呼びます。

トロヤ群は、惑星の公転軌道を移動する小惑星のグループのことで、太陽から見て惑星に対して60度前方あるいは60度後方の軌道に分布しています。
ここでは、太陽と惑星の重力や小惑星のグループにかかる遠心力が均衡しているんですねー

これまでに発見された火星のトロヤ群小惑星は16個。
その大半は火星に従うように公転しているように見える“L5点付近(公転する火星の後方)”に属していて、火星に先行し公転しいるように見える“L4点付近(公転する火星の前方)”に属する小惑星は、これまで1個しか発見されていませんでした。

今回の研究では、昨年発見されたばかりの小惑星“2023 FW14”が、観測史上2番目となる火星のL4点トロヤ群小惑星であることを明らかにしています。

“2023 FW14”が火星のトロヤ群に属している期間はかなり短いと予測されているので、火星のトロヤ群小惑星全体の起源に迫る重要な手掛かりになるのかもしれません。
この研究は、マドリード・コンプルテンセ大学のRaul de la Fuente Marcosさんたちの研究チームが進めています。
図1.火星の近くにある小惑星のイメージ図。(Credit: Gabriel Pérez Díaz)
図1.火星の近くにある小惑星のイメージ図。(Credit: Gabriel Pérez Díaz)


惑星と同じ公転軌道を同じ距離を保ちながら運動する小惑星群

ある天体“A”(例えば太陽)を別の天体“B”(例えば木星)が円形の軌道で公転しているときに、天体“A”や“B”と比べて質量がずっと小さい天体“C”が(天体“A”と“B”に対して)静止した状態を保てる5つの場所をラグランジュ点と言います。

例えば、太陽と木星のラグランジュ点のうち、木星の公転軌道上にあるL4点付近(公転する木星の前方)とL5点付近(公転する木星の後方)には、数多くの小惑星が分布していることが知られています。
これらの小惑星は、“木星のトロヤ群”というグループに分類されています。

トロヤ群とは、惑星の公転軌道上の太陽から見てその惑星に対して60度前方あるいは60度後方、すなわちラグランジュ点L4・L5付近を運動する小惑星のグループです。

このような性質を持つ小惑星が初めて見つかったのは木星でのこと。
最初に見つかった小惑星にトロイア戦争の英雄にちなんだ名前“アキレス”が付けられたことから、このグループは“トロヤ群”と呼ばれています。
図2.太陽(黄)を中心に、水星~木星までの惑星(白)と木星のトロヤ群に属する小惑星(緑)の位置を示したアニメーション。トロヤ群の小惑星は木星(Jupiter)に先行するL4点のグループと、後続するL5点のグループに分かれている。(Credit: Astronomical Institute of CAS/Petr Scheirich (used with permission))
図2.太陽(黄)を中心に、水星~木星までの惑星(白)と木星のトロヤ群に属する小惑星(緑)の位置を示したアニメーション。トロヤ群の小惑星は木星(Jupiter)に先行するL4点のグループと、後続するL5点のグループに分かれている。(Credit: Astronomical Institute of CAS/Petr Scheirich (used with permission))

L4とL5は、ラグランジュ点の中でも特に安定しています。
なので、太陽や惑星と比べて極めて小さい小惑星のような天体が、長期的に安定して存在すると考えられています。

同じようなアイデアに基づき、スペースコロニーを配置するという構想やSF作品を通じて、ラグランジュ点という用語を聞いたことがある方もいるかもしれません。

惑星からラグランジュL4点とL5点を眺めると、惑星とほぼ同じ公転軌道を、見た目の上では同じ距離を保ちながら先行あるいは後続して進むように見えます。
図3.小惑星のような質量がずっと小さい天体が、太陽と惑星に対して静止した状態を保てる5つの場所をラグランジュ点と言う。L4とL5の2点は特に安定していて、ここに存在する小惑星のグループをトロヤ群と呼ぶ。(Credit: EnEdC)
図3.小惑星のような質量がずっと小さい天体が、太陽と惑星に対して静止した状態を保てる5つの場所をラグランジュ点と言う。L4とL5の2点は特に安定していて、ここに存在する小惑星のグループをトロヤ群と呼ぶ。(Credit: EnEdC)


太陽系で3番目に多い火星のトロヤ群小惑星

これまで、火星では16個のトロヤ群小惑星が発見されていて、この数は太陽系の全惑星の中で3番目に多いものです。

ただ、そのうちの15個がラグランジュL5点で見つかった小惑星なんですねー
ラグランジュL4点にある小惑星は、1999年に発見され2003年にL4トロヤ群に属することが判明した121514番小惑星“1999 UJ7”の1個だけでした。

なぜL4点とL5点で、これほど小惑星の数に極端な差があるのでしょうか?

この謎は未だ解明されていません。
ただ、部分的な回答として、L5トロヤ群小惑星のいくつかは同じ天体に由来する破片とする仮説があります。

火星のトロヤ群小惑星の表面の色(スペクトル分類)を観測してみると、5261番小惑星“エウレカ”と似た色を持つL5トロヤ群小惑星がいくつも見つかっています。

“エウレカ”は、L5トロヤ群でも最大の小惑星(約1.9キロ)です。
このことから、天体衝突や分裂(※1)によってばら撒かれた破片が、L5トロヤ群小惑星として公転し続けていると考えることができます。
※1.小さく不規則な形状をした天体は、太陽放射によって自転周期が変化する(これをYORP効果と呼ぶ)。YORP効果のシミュレーションでは、自らが分裂するほど自転が加速されることがある。


観測史上2番目の火星のL4トロヤ群小惑星

今回の研究では、発見されたばかりの小惑星“2023 FW14”に注目し、力学的な解析を行っています。

“2023 FW14”が発見されたのは2023年3月18日のことでした。
4月15日には、現在の仮符号と詳しい公転軌道の値が公表され、公転軌道の値が事前にシミュレーションされていた火星のL4トロヤ群の値と一致していたので、トロヤ群小惑星の候補となっています。

研究チームでは、“2023 FW14”が本当に火星のトロヤ群小惑星なのかを確かめるため、力学的なシミュレーションを実施。
また、スペインのラ・パルマ島に設置されたカナリア大望遠鏡で“2023 FW14”を観測し、より詳しい性質を明らかにしようとしています。
図4.“2023 FW14”を含む確認された火星のトロヤ群小惑星の一覧。(Credit: 彩恵りり)
図4.“2023 FW14”を含む確認された火星のトロヤ群小惑星の一覧。(Credit: 彩恵りり)
シミュレーションにより判明したのは、“2023 FW14”が真に火星のL4トロヤ群小惑星であること。
これにより、“2023 FW14”は21年振りに追加された、観測史上2番目の火星のL4トロヤ群小惑星で、火星のトロヤ群は全体で17個になりました。

また、観測された表面の色などの性質から分かったのは、“2023 FW14”はXc型というタイプに属していて、同じくL4トロヤ群小惑星の“1999 UJ7”と似ていることでした。

さらに、色から推定される反射率と見た目の明るさをからは、“2023 FW14”の推定直径が318メートル(119~811メートル)と計算されています。

このことから、“2023 FW14”はL4トロヤ群のみならず、火星のトロヤ群全体でもかなり小さい小惑星の可能性があります。


一時的に火星の重力で捕獲された小惑星

今回の研究結果により新たな謎も生まれています。
それは、“2023 FW14”の現在の軌道が不安定で、火星のトロヤ群に属する期間は短いと推定されるためです。

今回のシミュレーションでは、“2023 FW14”は約100万年前から火星のトロヤ群小惑星となり、約1000万年後までには現在の軌道から外れると見られています。
図5.“2023 FW14”の火星に対する位置の長期的な変化予測。+60度付近の狭い範囲にグラフが描かれている期間が、“2023 FW14”がL4トロヤ群に属することを意味している。約100万年前までと約1000万年後からはグラフが激しく上下動していて、長期的には不安定であることが分かる。(Credit: R. de la Fuente Marcos, et al.)
図5.“2023 FW14”の火星に対する位置の長期的な変化予測。+60度付近の狭い範囲にグラフが描かれている期間が、“2023 FW14”がL4トロヤ群に属することを意味している。約100万年前までと約1000万年後からはグラフが激しく上下動していて、長期的には不安定であることが分かる。(Credit: R. de la Fuente Marcos, et al.)
また、“2023 FW14”は火星トロヤ群小惑星としては、最も楕円形の軌道を持っています。
これだけを見れば、“2023 FW14”は一時的に火星の重力で捕獲された小惑星の可能性が高いことになります。

一方、“2023 FW14”の起源かもしれない“1999 UJ7”の軌道は数十億年に渡って相当安定していて、太陽系誕生時に火星と同じ公転軌道上で成長した微惑星の名残りである可能性があります。
その場合、“1999 UJ7”は原始的な火星トロヤ群小惑星になります。

でも、類似している“2023 FW14”が原始的な火星トロヤ群小惑星ではなく、捕獲された“他人”だとしたら…
なぜ、お互いはこれほど似ているのかという疑問が生じます。


原始的な火星トロヤ群小惑星

実は、L4トロヤ群の“1999 UJ7”が原始的な火星トロヤ群小惑星だという説は、“2023 FW14”の発見以前からあり、同時に大きな謎となっていました。

L5トロヤ群の“エウレカ”や、それと似ているいくつかのL5トロヤ群小惑星は、“1999 UJ7”と同様に軌道が相当安定していることが分かっています。
その一方で、“1999 UJ7”と“エウレカ”はお互いに似ていないんですねー

原始的な火星トロヤ群は、本来ならば同じ環境と材料で形成されたはず。
本来は似ているべきであることを考えると、このことは矛盾していると言えます。

今回、新たなL4トロヤ群として発見された“2023 FW14”の存在を加えることで、研究チームでは“エウレカ”こそが真に原始的な火星トロヤ群小惑星だと考えています。

“エウレカ”はカンラン石を豊富に含むタイプ(SI型)ですが、これは火星とは起源が異なる小惑星帯の中では少数派です。
一方、“1999 UJ7”は小惑星帯によくみられるタイプのXc型になります。

今回の観測で“2023 FW14”の分類が判明し、また“1999 UJ7”よりも精度の高い観測データが得られたことで、“1999 UJ7”と“2023 FW14”は火星の誕生時とは異なる起源をもつ、つまり後の時代になって火星に捕獲された小惑星の可能性が高いことが分かりました。

では、“2023 FW14”と“1999 UJ7”の関係性はどうなのでしょうか?

この研究以前にも、“1999 UJ7”は元々は火星の公転軌道を横断する小惑星で、約40億年前に火星に捕獲されたという説がありました。
今回発見された“2023 FW14”も、“1999 UJ7”と同じタイミングで捕獲されたか、もしくは“1999 UJ7”が捕獲された後に分裂したときの破片なのかもしれません。

“2023 FW14”が“1999 UJ7”と似ていることや、L4トロヤ群に属する約1000万年という期間は、同時捕獲説と分裂説のどちらでも説明が可能なので、これは新たな注目ポイントとなります。
この説が正しいのかはまだ分かりませんが、いずれにしても“2023 FW14”は火星トロヤ群に関する大きな謎を解くカギとなるはずです。


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