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火星の深部には、誕生直後から変化していないマントルが存在している!? 火星隕石“NWA7533”から分かったこと

2020年11月29日 | 火星の探査
今回の研究では、東京大学総合研究博物館が火星隕石“NWA7533”に含まれる鉱物のジルコンを用いて、詳細な年代測定や鉱物分析、化学分析を実施しています。
その結果分かってきたのは、古い時代のジルコンには木星と土星の移動が関係していることや、火星誕生直後から変化を受けていないマントルの存在など。
長期間にわたる火星の内部構造とダイナミクスを明らかにすることに成功したそうです。

太古の火星についての情報が得られる隕石

2012年にアフリカのサハラ砂漠で発見された火星由来の隕石が“NWA 7533”です。

“NWA 7533”は、これまでに全く見つかっていないタイプの火星隕石でした。
44億年以上前に形成された岩片や、その後の様々な時代に形成された岩片、鉱物片などを含む角礫岩で貴重な存在といえます。

このため、“NWA 7533”は太古の火星についての情報を得られる唯一の隕石として、これまでに多くの研究が“NWA 7533”を用いて行われてきました。

ただ、先行研究では年代測定に用いられるジルコンの分析数が少なく、長期間にわたる火星内部構造の変遷などについて、ほとんど議論が行われてきませんでした。

なお、宝石として知られるジルコンはケイ酸塩鉱物の一種でジルコン、シリコン、酸素の化合物。
生成時に鉛をほとんど取り込まず、その一方でウランの含有量が多いので、ウラン・鉛年代測定法の試料として用いられることが多い化合物です。

古い時代のジルコンには木星と土星の移動が関係している

今回の研究では、約50グラムの“NWA 7533”から50個以上の大きなジルコンもしくはジルコンを含む岩片を分離。
それらに対し、まず走査型電子顕微鏡や四重極型誘導結合プラズマ質量分析など、5種類以上の分析法を用いて入念な鉱物分析を実施しています。

その後に行ったのは、表面電離型質量分析法や二次イオン質量分析法による、鉛とウランを用いた年代測定でした。

分析の結果、“NWA 7533”には約44.7億年前と約44.4億年前のふたつの形成年代をピークに持つジルコンが多く含まれていて、その他のものは約15.5憶年前~3億年前という幅広い形成年代を持つ新しい時代のジルコンであることが判明します。

ハフニウム同位体などの化学的特徴から考えられるのは、約44億年前~45億年前にできた古い時代のジルコンが、約45.5億年前に始まったマグマオーシャンの固化後にできた最初の地殻を元々の起源としていることでした。

近年になって提唱された、太陽系初期の巨大ガス惑星の移動を扱ったグランド・ダック・モデルという説があります。
この説によれば、43億年前頃までに起きた木星と土星の移動によって、小天体は大きくかき乱されたそうです。

それらの小天体が火星表面に衝突したとされる年代と、今回のジルコンの形成年代は一致しているんですねー
なので、このような大規模な天体衝突で地殻の再溶融が起こり、そのマグマから結晶化して“NWA 7533”のジルコンができた可能性があります。
研究に用いられた約50グラムの火星隕石“NWA 7533”。右のサイコロは一辺が1センチ。(Credit: The University Museum,The University of Tokyo)
研究に用いられた約50グラムの火星隕石“NWA 7533”。右のサイコロは一辺が1センチ。(Credit: The University Museum,The University of Tokyo)

新しい時代のジルコンの起源は火星誕生直後から変化を受けていないマントル

また、約15.5億年前~3億年前の幅広い形成年代を持つ新しい時代のジルコンには、ほぼ同じ時代に形成された他の火星隕石には見られない始原的な化学的特徴が、ハフニウムの同位体組成に見られることも確認されました。

このことが示しているのは、約45億年前の火星誕生直後から変化を受けていない、これまで未知だった始原的マントルが火星地下に存在していて、対流するマントル深部から地表にもたらされたホットプリューム(上昇プリューム)が、ジルコンの起源であること。
マントル内の大規模な対流運動をプリューム(plume)、この変動をプリュームテクトニクスと呼ぶ。

15.5億年前~3億年前に、このようなプリュームテクトニクスの影響を受けて火山活動が生じた地域としては、火星北半球のタルシス平原とエリシウム平原のそれぞれにある巨大火山地域しか考えられないそうです。

また、若い形成年代を持つジルコンは、丸みをおびたような形状のものが多いことも確認されています。

そのため、もともとマントルからのプリュームを起源とする、これらの地域の火山活動によってできたマグマから、それらのジルコンは結晶化してできたことが考えられます。

その後に、岩石は風化により削られてダストとして火星南半球まで移動。
最終的に古い岩石などとともに、3億年前よりも最近に起きた岩石衝突によって“NWA 7533”の元となる岩石が形成されたと考えるのが適当なようです。

これらのことから明らかになったのは、火星深部には惑星の形成当時から変化していない、始原的な化学的特徴を持った対流マントルが存在していることです。

そして、その上にリソスフェア(岩石圏)に相当するマントルと地殻が乗った構造となる不動蓋型のテクトニクスが、42億年にわたって続いていたことが初めて解明されました。

そこで考えられるのは、火星表面には幅広い形成年代を持つジルコンが広く存在している可能性が高いこと。
このようなサンプルを、地球に持ち帰って詳細に分析することができれば、火星の地質学的な歴史を正確に理解できるはずです。

このサンプルリターンは意外と早く実現されるかもしれません。

現在、人類史上初の火星サンプルリターンを狙うミッション“Mars 2020”が進行しています。

このミッションでは、NASAの探査機“Mars 2020”に搭載された探査車“パーサヴィアランス”が火星でサンプルを採取し、ヨーロッパ宇宙機関のローバーがこれを回収。
サンプルはNASA開発の帰還ロケットに積み込まれ、火星軌道上で待機する地球帰還機まで送られます。
地球帰還機は2年かけて地球に到達し、サンプルを収めたカプセルを地球に投下することになっています。

壮大なミッションに思えますが、“Mars 2020”は現在火星への航海中です。
いくつもの機体のリレーが上手くいけば、2030年代の初めには“パーサヴィアランス”が採取した火星のサンプルが地球に届く予定ですよ。


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一番の理由は打ち上げ頻度の向上! ロケットラボ社が超小型ロケット“エレクトロン”の回収試験に成功。

2020年11月28日 | 宇宙へ!(民間企業の挑戦)
アメリカの宇宙企業ロケットラボ社が、打ち上げたロケットの第1段機体を回収する試験に成功しました。
回収された第1段機体を再使用できれば、打ち上げコストを下げることができます。
ただ、ロケットラボ社が目指しているのは、第1段機体の回収と再使用による打ち上げ頻度の向上なんですねー
これは、衛星の打ち上げ需要に対して、ロケットの製造が追いつかないということが理由でした。
今回の試験で第1段ロケットは太平洋上に着水するのですが、最終的なゴールはヘリコプターを用いた回収。
この成功により実現に一歩近づいたようです。

なぜロケットを再使用するのか

ロケットラボ社はアメリカの宇宙企業で、小型・超小型衛星を打ち上げることを目的とした超小型ロケット“エレクトロン”を開発・運用しています。

これまでに打ち上げられた“エレクトロン”は16機。
このうち15機が成功し、失敗は1号機のみで2号機以降は連続して打ち上げに成功しています。

これによりロケットラボ社は、小型・超小型の商業打ち上げ市場におけるリーダーとして確固たる地位を築いています。

でも、その一方で世界中で高まる小型・超小型衛星の打ち上げ需要に対して、ロケットの製造が追いつかないという課題を抱えることに…
さらに、アメリカを中心に複数の企業が近い性能のロケットの開発を進めていて、今後競争が激化することが予想されていました。

そこで、ロケットラボ社が2019年に発表したのは、“エレクトロン”の第1段機体を回収し再使用できるようにすることで、打ち上げ頻度を高める計画でした。

ロケットの回収と再使用というと、スペースX社のロケット“ファルコン9”がすでに実用化しています。

ただ、スペースX社の再使用は、打ち上げコストを低減するためのもの。
これに対してロケットラボ社は、あくまで打ち上げ頻度の向上が目的で、打ち上げコストの低減は副次的なものとされています。

ロケットの回収方法

ロケットの回収方法でも、スペースX社とロケットラボ社では大きく異なっています。

“ファルコン9”はロケット・エンジンを噴射しながら高度を下げていき着陸するのに対して、“エレクトロン”では翼の形をしたパラシュート“パラフォイル”を使って降下し、ヘリコプターにより空中で捕まえる方法をとっています。
ブルー・オリジン社が開発している“ニューシェパード”も、ブースターはロケット・エンジンを噴射しながら着陸する。

2019年12月と2020年1月に行った“エレクトロン”の打ち上げでは、第1段機体に誘導・航法システムやテレメトリー・システム、コンピュータ、そしてスラスターなど、回収に必要なハードウェアやシステムを搭載。
実際に打ち上げ後の第1段機体を大気圏に再突入させ、実証試験を行っています。

さらに、今年の4月には、ヘリコプターから“エレクトロン”の第1段機体を模した試験機を投下。
パラフォイルを展開し降下している試験機を、別のヘリコプターで捕まえるという試験を実施しています。

そして、今回は実際の打ち上げを利用し、想定している回収方法とほぼ同じ流れの試験を実施。
ただし、ヘリコプターでの回収は除かれていました。

この試験のミッション名は“Return to Sender(差出人に返送)”。
打ち上げに用いられた“エレクトロン 16号機”の第一段機体は、差出人の元に届くのでしょうか?
“エレクトロン 16号機”によるReturn to Senderミッションの打ち上げ。(Credit: Rocket Lab)
“エレクトロン 16号機”によるReturn to Senderミッションの打ち上げ。(Credit: Rocket Lab)
2020年11月20日12時20分(日本時間)、“エレクトロン 16号機”はニュージーランドのマヒア半島にあるロケットラボ社所有の発射場から離昇。
順調に飛行し、第1段と第2段の分離が行われたのは離昇から約2分半後、高度約80キロの地点でした。

その後、第1段機体は大気圏再突入に適した姿勢にするため、スラスターを噴射し機体を180度反転。
大気圏に再突入すると機体を安定させつつ、降下速度を落とすためのドローグ・シュートを展開しています。
人員の降下や物資の空中投下などに用いられるパラシュートとは違い、減速や姿勢制御に用いられるものをドローグ・シュートと呼ぶ。

高度1キロに差しかかると、メインのパラシュートを展開し発射場から数百キロ離れた太平洋上に着水。
船で回収された機体はロケットラボ社の施設へ運ばれ、今後検査やデータの分析などが予定されています。

ロケットラボ社では着水時の速度は秒速10メートルほどで、ロケットが海水で濡れる以外は大きなダメージが加わることはないとしています。
なので、着水した機体も海水の洗浄やメンテナンスを行い、問題が無ければ再使用するそうです。

もちろん、最終的なゴールはヘリコプターによるロケットの回収なので、洗浄などをすることなく再使用することを目指しています。
打ち上げ後に太平洋に着水した“エレクトロン 16号機”の第1段機体。(Credit: Rocket Lab/Peter Beck)
打ち上げ後に太平洋に着水した“エレクトロン 16号機”の第1段機体。(Credit: Rocket Lab/Peter Beck)

ノーム・チョンプスキーのフィギュアが宇宙へ

一方で第2段機体は、そのまま宇宙へ向けて飛行し、搭載していた約30基の衛星を所定の軌道に投入。
これにより、ロケットラボ社が打ち上げた衛星の総数は95機になったそうです。

打ち上げられた衛星に含まれていたのは、スペース・デブリを除去する技術の試験機“ドラッグレーサー”2機、海上監視システムの構築を目指した衛星“BRO(Breizh Reconnaissance Orbiter)”2機、宇宙からのインターネットの実現を目指した衛星“スペースBEE”23機など。

さらに、オークランド大学が開発したニュージーランド初の学生衛星“APSS-1”が搭載されていました。
この衛星の目的は、地球の上層大気を監視し、電離層の乱れが地震と関連しているかどうかを調べること。
ロケットラボ社では打ち上げを無償で提供することで、このプロジェクトを援助しています。

変わった搭載物としては、ビデオゲーム“ハーフライフ”などに登場するガーデン・ノームの“ノーム・チョンプスキー”のフィギュアがあります。

これは“ハーフ・ライフ”などを開発したValveの共同設立者であるゲイブ・ニューウェル氏の発案によるもの。
打ち上げ中継の視聴者一人につき1ドルを小児病院に寄付するというキャンペーンのために製作され打ち上げられています。

ロケットラボ社によって製作されたチタン製のフィギュアは、将来の宇宙機の部品に使用することを目指した新しい3Dプリント技術の試験という役割も果たしています。
衛星と共に打ち上げられた“ノーム・チョンプスキー”のフィギュア。小児病院への寄付以外に新しい3Dプリント技術の試験という役割も果たしている。(Credit: Rocket Lab)
衛星と共に打ち上げられた“ノーム・チョンプスキー”のフィギュア。小児病院への寄付以外に新しい3Dプリント技術の試験という役割も果たしている。(Credit: Rocket Lab)


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キロノバと同時発生するガンマ線バーストは、史上最長の“宇宙のものさし”になれるのかも?

2020年11月26日 | 宇宙 space
新星の約1000倍の明るさで突発的に光る天体現象“キロノバ”と同時発生する“ガンマ線バースト”が、人類史上最長の“宇宙のものさし”、つまり宇宙の距離を測る“標準光源”として有効なようです。
この“宇宙のものさし”は、遠方宇宙のより正確な観測はもちろん、宇宙そのものの進化を理解する上で重要な役割を果たしてくれるのかもしれません。

標準光源を用いた距離の計測

宇宙では、遠方の天体になるほど正確な距離を測ることが難しくなります。

天の川銀河に属していても地球から離れた天体になると、地球の公転を利用した三角測量ができなくなり、距離に幅が出てしまうことに…
ましてや、他の銀河になると、さらに計測は難しくなるのは言うまでもありません。

では、そうした遠方の銀河までの距離は、どうやって測っているのでしょうか?

現在の天文学では、白色矮星が起こす爆発現象“Ia型超新星”など、標準光源と呼ばれるいくつかの種類の天体(天体現象)を利用して距離が見積もられています。

その仕組みは、標準光源の天体は絶対高度(真の明るさ)が分かっていて、また宇宙のどこであってもほぼ同じ明るさで輝くことから、遠方であればあるほど暗いということが成り立つことにあります。

つまり、見かけの明るさが真の明るさよりもどれだけ暗いかによって、距離の計算が可能というわけです。

ガンマ線バーストを標準光源として利用する

“Ia型超新星”を標準光源に用いても観測できる距離には限界があります。

それは、およそ110億光年が最遠とされ、そこからさらに先になると、地上や宇宙にある現在の望遠鏡の感度では“Ia型超新星”を標準光源として利用できなくなってしまいます。
110億光年より遠方にあるとされる銀河は、赤方偏移の度合いを用いて算出されている。
膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移といい、この量が大きいほど遠方の天体ということになる。

そこで、今回の研究ではガンマ線バーストに注目。
ガンマ線バーストは、突然大量のガンマ線が放出される、宇宙で最も明るい天体現象の一つになります。

そのエネルギーは非常に強力で、ガンマ線バーストによる数秒の輝きだけで、太陽が一生の間に放出するのと同等のエネルギーが放出されることが分かっています。

このガンマ線バーストの大きなポイントは、110億光年以上先の“Ia型超新星”が標準光源として利用できない超遠方でも観測されていること。

つまり、ガンマ線バーストを新たな標準光源として利用できれば、宇宙を測定する“最長のものさし”を手に入れることになるんですねー
110億光年よりも先のより初期の宇宙までの正確な距離が測れるようになり、宇宙の進化を理解するのにも大きく役立つはずです。

観測が容易でないガンマ線バースト

ガンマ線バーストを標準光源として利用するには問題もあります。

ガンマ線バーストは1967年に初めて観測された現象。
現在では、NASAの“ニール・ゲーレルス・スウィフト”のようなガンマ線バースト観測衛星まで打ち上げて研究が進められています。
でも、多くの謎が残されたままになっています。
NASAのガンマ線バースト観測衛星“ニール・ゲーレルス・スウィフト(旧称スウィフト)”は、ガンマ線バースト現象の解明を目的として、2004年に打ち上げられた天文衛星。バースト現象を検出するための検出器やX線での撮像や分光観測を行える装置などを搭載している。

ガンマ線バーストを標準光源として利用するには問題もあるんですねー

ガンマ線バーストには、継続時間が10秒程度の長時間型と、1秒程度の短時間型あります。
長時間型は非常に大きな恒星の爆発で、短時間型は中性子星などの二つのコンパクトな天体の合体とする仮説があり、まだ結論は出ていません。
その他にもブラックホールや高速回転する強磁場中性子星など、様々な説がある。

謎が多く残っているのは、この現象が突発的かつ短時間に起き、ほぼ単発のため、観測が容易でないことが大きな理由になっています。

そして、謎多きガンマ線バーストに関連すると考えられているのが、これもまた突発天体現象であるキロノバです。

こちらは、可視光や赤外線で観測される突発天体現象で、新星の約1000倍の明るさに達することからキロノバと呼ばれています。

キロノバは中性子星のような超高密度天体同士が合体した後の爆発により発生し、その際には短時間ガンマ線バーストが発生すると考えられています。

実際にキロノバが観測されたのは2017年8月17日のこと。
連星中性子星合体に伴う重力波と短時間ガンマ線バースト、そしてキロノバがほぼ同時に検出され、そこからガンマ線バーストとキロノバを関連付けた研究が本格化しています。

ガンマ線バーストでは、ガンマ線の放出(即時放出)が消えた後に、X線の光が残る(残光放出)場合があります。

この特徴は、すべてのガンマ線バーストに共通しているわけではありません。
でも、ガンマ線バーストを複数のグループに分類した場合、いずれかのグループに普遍的な特徴であれば、条件を満たしたガンマ線バーストの一部を標準光源へと導くカギになる可能性がありそうです。

キロノバと同時発生する短時間ガンマ線バースト

2016年、“ニール・ゲーレルス・スウィフト”で観測された183個のガンマ線バーストが解析されます。

この研究で行われたのは、“X線残光プラトーフェーズの継続時間”、“X線残光プラトーフェーズ終了時のX線光度”、“即時放出中におけるガンマ線光度”を3軸に取った3次元物理空間に、ガンマ線バーストの物理量をプロットすること。
その結果、明らかになったのはデータが一つの平面に集まるという法則でした。

この平面は“ガンマ線バーストの基本平面”と命名され、この法則を用いると絶対光度を求められることから、ガンマ線バーストを標準光源として利用できる可能性が大きく高まることになります。
ガンマ線とX線の違いは、原子核内部が起源のものをガンマ線、そうでないものをX線と呼んでいる。どちらもエネルギーが高く、波長の短い電磁波のこと。エネルギーが同じで起源が分からない場合は、区別を付けることができない。

研究では、“ニール・ゲーレルス・スウィフト”で観測された372個のデータを新たに活用。
ガンマ線バーストのサンプル数を増やしています。

そして実施されたのは、ガンマ線バーストの特定のグループが、基本平面からどの程度ズレているのかの詳細な解析。
すると、キロノバと同時発生する短時間ガンマ線バーストは、短時間ガンマ線バーストの基本平面からのズレが小さく、かつ基本平面の下側に分布することが判明します。

その一方で、キロノバを伴わない短時間ガンマ線バーストはズレが大きく、基本平面の上下に分布することも分かります。

キロノバと同時発生する短時間ガンマ線バーストのズレは、キロノバを伴わない短時間ガンマ線バーストに比べて29%も小さく抑えられていたようです。
3次元物理空間における短時間ガンマ線バーストの分布。X線残光プラトーフェーズの継続時間(T*x)、X線残光プラトーフェーズ終了時のX線光度(Lx)、即時放出中におけるガンマ線光度(Lpeak)を3軸に取った3次元物理空間のグラフ。ガンマ線バースト観測衛星“ニール・ゲーレルス・スウィフト”によって観測された、“キロノバ”と同時発生する短時間ガンマ線バースト(8イベント)が黄色で、“キロノバ”を伴わない短時間ガンマ線バースト(35イベント)が赤色でプロットされている。“キロノバ”と同時発生する短時間ガンマ線バーストは、短時間ガンマ線バースト基本平面(灰色)からのズレが小さく、かつ全てが基本平面の下側にあることが見て取れる。(Credit: RIKEN)
3次元物理空間における短時間ガンマ線バーストの分布。X線残光プラトーフェーズの継続時間(T*x)、X線残光プラトーフェーズ終了時のX線光度(Lx)、即時放出中におけるガンマ線光度(Lpeak)を3軸に取った3次元物理空間のグラフ。ガンマ線バースト観測衛星“ニール・ゲーレルス・スウィフト”によって観測された、“キロノバ”と同時発生する短時間ガンマ線バースト(8イベント)が黄色で、“キロノバ”を伴わない短時間ガンマ線バースト(35イベント)が赤色でプロットされている。“キロノバ”と同時発生する短時間ガンマ線バーストは、短時間ガンマ線バースト基本平面(灰色)からのズレが小さく、かつ全てが基本平面の下側にあることが見て取れる。(Credit: RIKEN)
さらに確認されたのは、さまざまなガンマ線バーストのグループの中で、キロノバと同時発生する短時間ガンマ線バーストのグループは、基本平面からのズレが最も小さいこと。

これらの結果が示していたのは、キロノバと同時発生する短時間ガンマ線バーストが標準光源として優れた性質を持つことでした。

ガンマ線バーストの宇宙論的進化(同現象が示す物理量が宇宙年齢とともに規則的に変化している可能性)やサンプル選択の偏りを考慮した場合でも、キロノバと同時発生する短時間ガンマ線バーストは、短時間ガンマ線バーストの基本平面からのズレが非常に小さいことも解明されました。

この補正が小さいことからも、キロノバと同時発生する短時間ガンマ線バーストは標準光源として非常に良い特性を備えているといえます。
補正後の短時間ガンマ線バースト基本平面からのズレを表すヒストグラム。ガンマ線バーストの宇宙論的進化やサンプルの選択バイアスを考慮した上で、“キロノバ”と同時発生するガンマ線バースト(左)及び“キロノバ”を伴わない短時間ガンマ線バースト(右)のイベント数、それぞれの短時間ガンマ線バースト基本平面からの距離が示されている。“キロノバ”と同時発生するガンマ線の方が、短時間ガンマ線バースト基本平面からのズレが小さいことが分かる。(Credit: RIKEN)
補正後の短時間ガンマ線バースト基本平面からのズレを表すヒストグラム。ガンマ線バーストの宇宙論的進化やサンプルの選択バイアスを考慮した上で、“キロノバ”と同時発生するガンマ線バースト(左)及び“キロノバ”を伴わない短時間ガンマ線バースト(右)のイベント数、それぞれの短時間ガンマ線バースト基本平面からの距離が示されている。“キロノバ”と同時発生するガンマ線の方が、短時間ガンマ線バースト基本平面からのズレが小さいことが分かる。(Credit: RIKEN)
キロノバと同時発生するガンマ線バーストを距離指標に使用することの大きな利点は、この現象の他のグループと比較して、物理的メカニズムをより明確に理解できる点です。

2017年8月17日の連星中性子星合体では、重力波とガンマ線の他にも、可視光、赤外線、電波など、マルチメッセンジャーで同時に観測されていました。
マルチメッセンジャーとは、電磁波や重力波、ニュートリノ、宇宙線などを協調して観測すること。それぞれが異なる発生メカニズムを持っているので、これらの観測結果を統合することで発生減の正体に迫ることができる。

この観測により明らかになったのは、2017年8月17日の連星中性子星合体が、まさに二つの中性子星が合体して起こった現象であり、その結果として短時間ガンマ線バーストとキロノバが引き起こされたこと。
さらに詳細な理論研究や追加観測により、キロノバと同時発生するガンマ線バーストの物理的メカニズムも明らかになるはずです。

今回の研究成果が示しているのは、ガンマ線バーストという宇宙の距離を測定する人類史上最長の“ものさし”が実現できそうなこと。
この“ものさし”は、遠方宇宙のより正確な観測はもちろん、宇宙そのものの進化を理解する上で重要な役割を果たしてくれるはずです。

そして、ガンマ線バーストを用いた宇宙論が開拓されれば…
この現象を用いて、ダークエネルギーやダークマターに関するエネルギー密度の推定もできるのかもしれませんね。


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ブラックホールの強い重力からは逃げられないはず… それでも逆らって逃げるガスがあるようです。

2020年11月24日 | ブラックホール
ブラックホールの強大な重力に逆らって逃げ出す“風”があるそうです。
今回の研究で着目しているのは、降着円盤の“光の力”を使って“風”が加速するという説。
紫外線の力を使ってガスが加速されることで、ブラックホールからも逃げ出せる強風になるというものです。
京都大学の発表によると、X線の疑似観測によって実際に観測されている“風”の様子を定量的に再現し、ブラックホールの周りで生み出される紫外線の力によって“風”が生まれるということを実証できたそうです。

ブラックホールの重力に逆らって逃げ出す“風”

ブラックホールは強大な重力を持ち、事象の地平面を超えてしまうと光すら脱出できないことで知られています。
その重力にとらえられたら最後、あとは吸い込まれる運命しか待っていません。

でも、不思議なことにその重力に逆らって、逆にブラックホールの周囲から逃げ出す方向に吹き飛ばされるガスも存在しています。

それでは、重力に逆らってブラックホールから吹いてくるかのような“風”は、どこに存在しているのでしょうか?

観測されているのは“活動銀河核”という場所。
“活動銀河核”とは、一部の銀河で見られる、中心の大質量ブラックホールが活発に活動している現象です。
星、星間チリ、星間ガスといった通常の銀河の構成要素とは別の部分からエネルギーの大半が放出されている特殊な銀河を活動銀河という。このエネルギーの大半を、銀河の中心1%程度のコンパクトな領域から放出していて、この部分を活動銀河核と呼ぶ。

ブラックホール周囲を回転する物質の流れで“降着円盤”の位置エネルギーが光エネルギーに転換されることで、大質量ブラックホールの周囲は明るく輝くことになります。
ブラックホールによって集められたガスやチリは、降着円盤を形成しブラックホールに落ち込んでいく。一方、降着円盤内のガスの摩擦熱によって電離してプラズマ状態になると、電離したガスは回転することで強力な磁場が作られ、降着円盤からは荷電粒子のジェットとして噴射する。

ブラックホールの強大な重力に逆らって逃げ出す“風”は、この活動銀河核をX線で観測すると、スペクトルに吸収線に現れるので確認することができます。

吸収線が現れる位置が、本来現れるはずの位置よりも大きくズレればズレるほど、“風”の速度が速いことも分かっています。
(左)ヨーロッパ宇宙機関のX線天文衛星“XMMニュートン”によって取得された活動銀河核“PG1211+143”のX線スペクトル。本来であれば青い点線の位置に吸収線が作られるはずだが、実際にはそれより大きくズレた位置に吸収線(青矢印)が作られている。このズレは光のドップラー効果に起因するもので、吸収線を作るガスが高速で噴き出していることを意味している。(右)今回の研究の元になったブラックホールからの“風”の理論モデル。今回の研究では、このグラフの原点の位置から四方にX線を飛ばし、X線が“風”に当たったときにどのような相互作用を起こすかがシミュレーションされている。(Credit: KYOTO UNIVERSITY)
(左)ヨーロッパ宇宙機関のX線天文衛星“XMMニュートン”によって取得された活動銀河核“PG1211+143”のX線スペクトル。本来であれば青い点線の位置に吸収線が作られるはずだが、実際にはそれより大きくズレた位置に吸収線(青矢印)が作られている。このズレは光のドップラー効果に起因するもので、吸収線を作るガスが高速で噴き出していることを意味している。(右)今回の研究の元になったブラックホールからの“風”の理論モデル。今回の研究では、このグラフの原点の位置から四方にX線を飛ばし、X線が“風”に当たったときにどのような相互作用を起こすかがシミュレーションされている。(Credit: KYOTO UNIVERSITY)

“風”が加速する仕組み

なぜ、“風”は大質量ブラックホールの強大な重力から逃げられるのでしょうか?

“風”が吹くための加速の仕組みについては、未解明な部分が多いものの主要な仮説は2つあります。
それは、降着円盤の“光の力”もしくは“磁場の力”を使って加速するという説です。

ただ、これらの説が観測結果をどこまでよく再現できるのかは、分かっていませんでした。

そこで、今回の研究では降着円盤からの“光の力”による説に着目。
紫外線の力を使ってガスが加速されることで、ブラックホールからも逃げ出せる強風になるという理論モデルに基づいて、コンピュータシミュレーションによるX線の疑似観測を実施しています。
コンピュータシミュレーション結果と実際の観測結果との比較も行っている。

今回の研究に用いられた理論モデルによる“風”の様子を見てみると、強い紫外線が降着円盤から放射されていて、紫外線がガスを外側に押していることで“風”がつくられるということが示されています。

この理論モデルを基に実施されたのが、中心にあるブラックホールの周囲からX線が放射されるときにX線と“風”がぶつかることで、どのようなスペクトルがつくられるかというシミュレーション。
その結果、導き出されたのは吸収線の深さまでは完全に再現できていないものの、2本の吸収線がそれぞれ観測と合致した位置に出てくることでした。

また、“風”に当たって散乱されたX線によって輝線がつくられるも再現できたそうです。

理論モデルから観測を再現する試みは、これまでも行われてきました。
でも、“風”の速度が遅すぎるなどの問題がありました。

今回、理論モデルの進展や疑似観測の方法の改良などにより、“風”の様々な観測的特徴を初めて定量的に再現することに成功しています。

“風”の詳細をより明らかにしてくれる次世代の天文衛星

2022年に日本が打ち上げを予定しているX線分光撮像衛星(X線天文衛星)の“XRISM”は、これまでのX線天文衛星と比べてエネルギー分解能が一桁高くなります。
“XRISM(X-Ray Imaging and Spectroscopy Mission)”は、NASAやヨーロッパ宇宙機関の協力のもと2018年に開始された、JAXAの7番目のX線天文衛星計画。星や銀河、そしてその間を吹き渡る高温ガス“プラズマ”に含まれる元素やその速さを図ることで、星や銀河、銀河の集団が作る大規模構造の成り立ちを、これまでにない詳しさで明らかにする。“XRISM”に搭載されるのは、広い視野を持つX線撮像器と極超低温に冷やされたX線分光器。これらを使って、プラズマに含まれる元素やプラズマの速さを、画期的な精度で測定する。

エネルギー分解能とは、異なるエネルギーを持ったX線を、どれだけ区別して観測できるかという、分光器の解析性能を表す指標のひとつ。
この解析性能から期待されるのは、ブラックホールからの“風”によって作られる吸収線の様子を、より詳細にとらえられることです。

さらに、今回の研究結果を用いて、“XRISM”で模擬観測を行った際のスペクトルを作成しています。

これまでのX線天文衛星のものと“SRISM”のものを比較すると両者の違いは明らかでした。
“XRISM”を使うことで、一つ一つの細かな構造を分離して観測することが可能なことが分かりました。

今後、実際にこのようなスペクトルが観測されることで、ブラックホールの“風”の詳細がより明らかになってくることが期待されますね。
(左)上記左画像で示されたX線スペクトルに、今回の研究成果を重ねて描かれたグラフ。吸収線の深さが完全に再現できているわけではないものの、二つの吸収線の位置がよく合っていることが分かる。(右)上記左画像と左画像と同じ天体をX線分光撮像衛星“SRISM”で観測した場合の模擬観測結果(露光時間30万秒=207日32分でシミュレーション)。これまでのX線天文衛星では観測できなかった細かい吸収線の様子まで詳細に確認することが可能。(Credit: KYOTO UNIVERSITY)
(左)上記左画像で示されたX線スペクトルに、今回の研究成果を重ねて描かれたグラフ。吸収線の深さが完全に再現できているわけではないものの、二つの吸収線の位置がよく合っていることが分かる。(右)上記左画像と左画像と同じ天体をX線分光撮像衛星“SRISM”で観測した場合の模擬観測結果(露光時間30万秒=207日32分でシミュレーション)。これまでのX線天文衛星では観測できなかった細かい吸収線の様子まで詳細に確認することが可能。(Credit: KYOTO UNIVERSITY)


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衛星エウロパは表面の化合物と木星の放射線により発光しているかもしれない

2020年11月22日 | 木星の探査
表面が3キロに及ぶ氷で覆われている木星の第2衛星エウロパ。
どうやら闇の中で光を放っているようです。
光が放たれるのは、エウロパ表面の氷が木星の強力な磁場から絶え間なく放射線を浴びていることが、原因として考えられています。
氷に含まれる化合物により光の色は変わるので、この光を調べればエウロパ表面の組成が分かり、地下の海を知る手掛かりにもなるようです。
木星の衛星エウロパは、分厚い氷の殻に覆われていて、その下にある巨大な海には生命が存在する可能性がある。(Credit: NASA/JPL-CALTECH/SETI INSTITUTE)
木星の衛星エウロパは、分厚い氷の殻に覆われていて、その下にある巨大な海には生命が存在する可能性がある。(Credit: NASA/JPL-CALTECH/SETI INSTITUTE)

衛星エウロパには地下に海があり生命が存在している?

エウロパは、月と同じように太陽に向いた面が明るく輝き、反対の面は暗闇に覆われています。

でも、今回の実験で分かってきたのは、エウロパの裏側が緑色や青みを帯びた白色の光を放っている可能性があること。
原因として考えられるのは、エウロパ表面の氷が、木星の強力な磁場から絶え間なく放射線を浴びていることでした。

研究ではエウロパ表面にあると考えられている、いくつかの化合物を含んだ氷を使って実験を実施。
すると、物質の構成によって放たれる光の色が影響を受けていることも発見しています。

つまり、このことは将来の探査でエウロパ表面の光を調べることができれば、エウロパ表面の複雑な化学的性質を解明できることを意味しているんですねー
この先数年以内に2つの探査機が地球を旅立ちエウロパを間近に観測することが予定されている。一つはNASAの探査機“エウロパ・クリッパー”、もう一つはヨーロッパ宇宙機関の木星氷衛星探査計画“JUICE”。

また、エウロパは木星の潮汐力を受けることで、揺れ動かされ摩擦で熱が生じ星の内部が熱を持っているようです。
この熱により地殻下では氷が解け液体の水が存在していて、そこには生命が存在するかもしれないと考えられています。
衛星の軌道が円形でないとき、惑星から遠いときはほぼ球体の衛星も、接近するにしたがって惑星の重力で引っ張られ極端に言えば卵のような形になる。そして惑星から遠ざかるとまた球体に戻っていく。これを繰り返すことで発生した摩擦熱により衛星内部は熱せられる。このような強い重力により、天体そのものが変形させられて熱を持つ現象を潮汐加熱という。
木星の衛星エウロパ、土星の衛星エンケラドス、海王星の衛星トリトンといった天体では、潮汐作用による惑星内部の過熱“潮汐加熱”を熱源とした低温火山活動によって、地下から水などの物質が噴出していると見られている。

さらに、エウロパの表面に見られる黄色い模様が、海水の塩分の主成分で食塩としても利用されている塩化ナトリウムが放射線を受けたものであることも分かっています。

そう、この塩化ナトリウムは、地下にあると考えられている海から噴出したものと考えられているんですねー
なので、エウロパ表面の組成を調べることは、氷地殻の下に存在すると考えられている海の組成について、手掛かりが得られるチャンスにもなります。

氷に含まれる化合物により光の色や強さは変わる

純水の氷が放射線にさらされると光を放つことは、1950年代から知られていました。

高エネルギーの電子線(放射線)が氷の分子に衝突すると、いったん励起した分子が光のかたちでエネルギーを放出するからです。
励起とは、原子や分子が外部からエネルギーを与えられ、元のエネルギーの低い安定した状態からエネルギーの高い状態に移ること。

今回の研究では、南極の氷の中に見られるこのかすかな光の瞬きを利用。
地球に降り注いでいると考えられているエキゾチック粒子を探しています。

でも、地球の分厚い大気と磁気圏が宇宙から日ってくる放射線の多くを遮断してしまうので、そうした分子の輝きは非常にわずかしか起きることはありません。

地球とは対照的に、エウロパはほとんど大気を持っていません。
さらに、木星の猛烈かつ巨大な磁場から放たれる放射線の大渦に見舞われているんですねー

その量はすさまじく、もし人間がそこに無防備で立っていたら、10分から20分で死んでしまうほどのもの。
この放射線はエウロパの氷地殻の性質に、どのように影響を及ぼしているのでしょうか?。

将来、もしエウロパに宇宙船を着陸させるなら、放射線の影響を理解することは非常に重要なことになります。

今回、研究チームが作ったのは、氷の塊に電子線を浴びせて、何が起こるかを追跡できる装置“ICE-HEART(エウロパ高エネルギー電子・放射線環境試験のための氷室)”でした。

実験で注意を引いたのは、電子線を純粋の氷のブロックに照射したとき、氷が輝きを放ったこと。
次に、対象を塩化ナトリウムを含んだ氷に換えると、今度は非常にかすかにしか光りませんでした。

そこで研究チームが行ったのは、過去の数々の研究でエウロパの表面に存在することが示唆されてきた化合物を使った実験。
すると、光を消してしまうほどの炭酸ナトリウムなどに対して、硫酸マグネシウムなどは光を増大させていました。

他に変化していたのは光を構成する色の強さでした。
例えば、緑色の光を抑える塩化ナトリウムや、赤色を増加させる硫酸ナトリウムです。

これら実験の結果が示唆しているのは、異なる化合物の存在が、エウロパの表面から発せられる輝きに影響を及ぼすということ。
この結果は、エウロパを違った視点から見るきっかけになるはずです。

探査機がエウロパの光をとらえるか

研究チームの計算によると、放射線によって生じるエウロパの氷の輝きは、探査機“エウロパ・クリッパー”のカメラで十分にとらえられそうです。
“エウロパ・クリッパー”は、NASAが2020年代に打ち上げを計画している探査機。探査の目的は、液体の水、化学物質、十分なエネルギー源の調査。これらの生命に必要な3つの要素がエウロパに存在するかどうかを決定する予定。

本当にエウロパが自ら光を発していた場合、それをカメラで撮影できれば、非常に多くのことを学ぶことができるはずです。
さらに、こうした手法は、ガニメデなど、木星の他の衛星の研究にとっても有用なものになります。
ただカメラは、いま製造途中のようですよ。

氷地殻にどんな化合物が含まれているかを解明することは、その下にあるとかんがえられる海の化学的性質を推測するヒントにもなります。

エウロパ表面に広がる滑らかな氷と、表面から噴出しているとみられる間欠泉の存在は、その下にある液体が地質学的な時間スケールで上方に向かって染み出していることを示唆しています。
氷地殻の方も、ゆっくりと地下の海に沈みこんでいる可能性がある。

つまり、表面の組成を理解することは、深い海の中に果たして生命がいるのか、いるとすればどのように存在しているのかを解明する重要な手掛かりに成り得るはずです。

エウロパについては、まだ本当にたくさんのことを知る必要があります。

ただ、1990年代の木星探査機“ガリレオ”のミッション以降、エウロパの詳しい調査は行われておらず、この氷の世界について詳しく知るのは簡単なことではありません。

でも、近い将来には“エウロパ・クリッパー”や“JUICE”によって多くの手掛かりがもたらされるかもしれません。

今回の研究結果は、その可能性をさらに高めるものになるはず。
現地に探査機を送る前に多くのことを知っていれば、より多くの科学的成果が得られると思いませんか?


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