宇宙のはなしと、ときどきツーリング

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着陸地点探し、キーワードは過去に水が存在していたこと NASAの次期火星探査

2017年02月27日 | 火星の探査
“キュリオシティ”や“オポチュニティ”が探査を続けている火星に、
新しい探査車が加わることになりそうです。

それは2021年の2月頃。
NASAが進めている火星探査計画“Mars 2020”により、
新しい探査車が“生命が存在した痕跡”の調査を始めるんですねー。
3箇所に絞られた着陸地点。
探査車が走行する適性も考慮されている。


水が存在していた場所

今回発表されたのは、
火星のどの地点に探査車を降下させるかについてでした。

発表されたのは3箇所に絞られた着陸地点、
グセフ・クレーター内のコロンビア・ヒルズ、
過去に湖があったと推測されるジュゼロ・クレーター、
そして過去に火山活動があった北東流砂でした。
ジュゼロ・クレーターには、
水が長期間存在したことで粘土の厚い層があると思われる。
(探査機がとらえた分光画像)

これらの地点に共通するのは、
すべて過去に水が存在したことが期待されてる場所ということ。
もちろん生命が存在した痕跡を探すためです。
グセフ・クレーター内のコロンビア・ヒルズ。
(2004年に探査車“スピリット”が撮影)


生命体の発見に特化した装備

“Mars 2020”では、費用を節約するため多くのハードウェアが、
2012年8月から活動を続けている探査車“キュリオシティ”と共通化されています。

“Mars 2020”のミッションは生命体の発見に重点をおいているので、
“キュリオシティ”の設計と一部の余剰部品を活用することで、
開発のコストや日数を抑えているんですねー

その分、ミッションに特化した機器を装備することが出来るわけです。
新探査車“Mars 2020”(イメージ図)。

“Mars 2020”が火星に到着するのは2021年の2月。

土壌サンプルを採掘したり、さまざまな観測機器を使って、
火星から“生命が存在した痕跡”を探すことになります。

さらに、将来の有人ミッションで、
周囲から酸素や、その他の物質を手に入れられる可能性の調査、
そして期待されるのが火星からのサンプルリターンです。

“Mars 2020”では、
採取したサンプルを将来的に地球へ持ち帰ることも計画されています。

打ち上げは2020年の7月。フロリダのケープ・カナベラル空軍ステーションから、
ユナイテッド・ローンチ・アライアンスのアトラスVロケットで行われる予定。

そして探査車の着陸地点が決まるのは、打ち上げの1年から2年前になるそうです。

それまで科学者たちは、
この地点が探査車による探査に最適なのかの議論を続けることになります。


こちらの記事もどうぞ
  NASAの火星探査車“オポチュニティ”が、走行距離で新記録を樹立
    
  火星探査車“キュリオシティ”、目的地のシャープ山に到着!
    

ビッグバン理論に残された問題解決せず… さらに謎が深まった“宇宙リチウム問題”

2017年02月26日 | 宇宙のはじまり?
ビッグバン元素合成

量子力学的な粒子が衝突し、
反応を起こす確率を表す量のことを断面積といいます。

ビッグバン理論によると、
宇宙の始まり10秒後から20分後にかけて“ビッグバン元素合成”が起こり、
水素、ヘリウム、リチウムなどの軽い元素が生成されます。

このうち、水素とヘリウムの同位体については、
生成量の観測推定値と理論予測値が良く一致。

その一方でリチウム同位体の1つになるリチウム7(7Li)については、
生成量の観測推定値が理論予測値の約3分の1しかないという、
不一致が知られています。

このことは“宇宙リチウム問題”と呼ばれ、
ビッグバン理論に残された深刻な問題として注目されているんですねー


リチウム7が少ない理由

7Liはベリリウム7(7Be)が崩壊して生成されたと考えられています。

なので、(a)7Beの生成量そのものを小さくしたり、
(b)7Beから7Li以外へ変わる反応を大きくしたりして、
7Liの少ない生成量を説明する試みが行われてきました。

(b)については、
ベリリウム7と中性子から2個のヘリウム4ができる反応“7Be+n→4He+4He”が、
高い確率で起こるという仮説が考えられています。

でも、7Beと中性子が短寿命の不安定核なので、
その確率の測定は簡単なことではありませんでした。


逆反応の利用

そこで研究グループが思いついたのは、
“7Be+n→4He+4He”の逆反応になる“4He+4He→7Be+n”を測定に用いること。

“4He+4He→7Be+n”反応の断面積を測定するという手法で、
“7Be+n→4He+4He”反応の断面積を決定しようということです。

加速した4He2+ビームをHeガス標的に照射し、
放出された中性子を測定することにより、
7Beの基底状態と第一励起状態が生成されたことを確認し、
その生成断面積を決定しています。

  量子力学的な安定状態のうち、エネルギーが最低の状態を基底状態、
  これ以上のエネルギーをもつ状態を励起状態という。


この結果から、
“詳細釣り合いの原理”という原子核反応の時間反転不変性から導かれる性質を用いて、
7Be+n→4He+4He反応の断面積を決定することに成功したんですねー

7Be+n→4He+4He反応と、
今回測定された逆反応のイメージ図。


有力な解決策の否定

同反応の断面積は、
これまで“ビッグバン元素合成”の理論計算に広く用いられていた測定値より、
約10倍も小さい値でした。

そして、この値から明らかになったのが、
宇宙初期において中性子が7Beに衝突して2つの4Heに分解する反応の寄与は、
非常に小さいこと。

これにより、7Be+n→4He+4He反応が高い確率で起こっているという仮説では、
“宇宙リチウム問題”の説明が難しいことが分かってきます。

そう、“ビッグバン元素合成”の謎は、
さらに深まることになったんですねー

今回の研究結果により、
“宇宙リチウム問題”の有力な解決策が否定されてしまいました。

でも、これにより原子核反応率の見直しや、
標準ビッグバン模型を越える新しい物理の探索など、
“宇宙リチウム問題”へのさらなる研究が進むといいですね。


こちらの記事もどうぞ ⇒ ビッグバン直後の元素から生まれた第一世代星を発見?

地球外生命の探査へ! NASAがエウロパ探査のコンセプトを発表

2017年02月24日 | 地球外生命っているの? 第2の地球は?
木星の衛星エウロパの地下には海があり、
そこには生命が存在する…

このことを確かめるためNASAでは探査計画を作っていて、
その計画の詳細や着陸船のデザインが今回公開されたんですねー

探査機と着陸船は2020年頃の打ち上げになるようです。
NASAが計画している衛星エウロパで探査を行う着陸船(イメージ図)。


地球外生命の探査

エウロパは表面が氷で覆われていて、
その下には液体の海が存在していると考えられています。

また以前には、その水分の噴出の証拠も報告されています。
  衛星エウロパの表面から水柱! 地球外生命探しが一歩前進
  

さらに、この液体の海には生命が存在する可能性が指摘されていて、
その探査には大いに期待が寄せられているんですねー

そこで、NASAの科学的定義チームはエウロパの探査の目標を定めています。

目標は3つあり、
1つ目は、生命の存在を確かめる探査、
2つ目は、エウロパが生命が存在しうる環境かの確認、
そして3つ目が、エウロパの表層下の探査の可能性でした。
NASAのガリレオミッションによって送られてきた
エウロパの詳細なモザイク画像。


エウロパへの着地

ただしエウロパの探査が、
他の惑星の探査とは様子が異なる点もあります。

まず、エウロパには大気が無いので、
着陸船には耐熱シールドが不要になります。

大気が無いということはパラシュートが使えないんですねー
このため、着地にはエンジン出力やクレーンを利用することになります。

さらに、エウロパは地球からかなり離れているので、
着地のプロセスは全て自動で行われる必要もあります。

そして着地した後には、搭載された観測装置により、
エウロパでの生命探査や環境調査を行うことになります。
 
着陸船には生命の探査に必要な、
有機物の分析機や顕微鏡の搭載が予定されることになります。

太陽系の中には、複数の天体が地下に海をもっていると考えられています。

もしエウロパの海で地球外生命が見つかれば…

土星の衛星エンケラドスやミマス、
木星の衛星ガニメデなどの海にも生命が存在する可能性が高くなります。
太陽系は生命にあふれている場所なのかもしれませんね。


こちらの記事もどうぞ
  エンケラドスの地下には衛星全体に広がる海がある!?
  土星の衛星“ミマス”の地下には海がある?
  木星最大の衛星ガニメデにも地下海が存在する

太陽系もこうして作られた? 原始惑星系円盤の問題が解決

2017年02月22日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
アルマ望遠鏡による原始惑星系円盤の観測から、
ガスが円盤に降着する際に、角運動量の一部を円盤の垂直方向に放出していることが、
明らかになったんですねー

このことで「惑星系がどうやって作られたのか」が少しずつ分かってきたようです。

角運動量の放出が必要

星や惑星系は、星と星との間に漂うガスやチリからなる分子雲が、
自らの重力で収縮することで誕生します。

そして、生まれたばかりの原始星の周りには多くのガスが存在し、
そのガスが原始星へ引き寄せられ、渦を巻いて落下していくことに…

これにより原始星の周りでは、
惑星系の元になるガス円盤“原始惑星系円盤”が成長。

落下していくガス“エンベローブガス”は、
角運動量(回転の勢いを表す量)を持っているので、
原始星の周りには回転する円盤構造が形成されていきます。

ただ、ガスの角運動量の一部が外部に放出されなければ、
安定して回転する原始惑星系円盤を形成できないんですねー

それは、“エンベローブガス”が原始星にある程度まで近づくと、
原始星の重力よりも回転による遠心力が大きくなり、
ガスが原始星から離れていってしまうからです。

この角運動量を放出するメカニズムの問題は、
“惑星系円盤誕生における角運動問題”と呼ばれ、
円盤形成の研究で最大の謎になっていました。

この問題に対しては、理論的には研究されてきているので、
今度の課題は、実際に星が誕生する現場を詳しく観測することになります。


衝撃波による回転エネルギーの消費

観測の対象になったのは、
分子雲コアの中心に、生まれたばかりの太陽型原始星を持つ、
“L1527分子雲コア”でした。

研究チームはアルマ望遠鏡を用いて、
地球から450光年離れた、おうし座にある“L1527分子雲コア”を観測。

“エンベローブガス”中に含まれる、
炭素鎖分子の一種“CCH分子”の分布を詳細に調査しています。

  炭素鎖分子は、多くの炭素原子が鎖状に結合した化合物。
  炭素鎖には水素・窒素・酸素・硫黄などが結合するが、
  不飽和結合のものが多く反応性が高い。
  このため、地球環境では通常存在せず、星間空間の分子雲に見られる。


すると、ガスが遠心力バリアの手前で厚く膨れていることが分かります。

  遠心力バリアとは、ガスが原始星に最大限近づける距離、
  原始惑星系円盤の端に相当する。


この観測結果から考えられるのは、外側から原始星に落下してきたガスが、
遠心力バリア手前で滞留・衝突を起すことで衝撃波が発生。

その衝撃波によって、回転のエネルギーが消費(角運動量が放出)され、
ガスが原始星に落下できるということです。

さらに、この衝撃によって円盤と垂直方向にガスが膨れ出ているようです。

おうし座“L1527”分子雲コアにおける、
原始惑星系円盤の周りのCCH分子の分布。
(赤・青)CCH分子の依存量が高い領域。
等高線は星間チリの分布でピーク位置(中心)に原始星がある。
南北方向に伸びた原始惑星系円盤を真横から観測している。
遠心力半径と遠心力バリアの間で、
円盤の垂直方向(東西方向)の厚みが変化していることが分かる。


回転エネルギーを円盤垂直方向に放出

また、衝撃波でガス中に放出された一酸化硫黄分子の温度を調べたところ、
“エンベローブガス”の温度よりも160度も高温になっていました。

さらに、遠心力バリア付近でのガスの回転速度は、
“エンベローブガス”の回転速度より明らかに低くなっていました。

これらの結果が示しているのは、
衝突によって回転のエネルギーが消費されるとともに、
円盤垂直方向への動きを得た一部のガスが角運動量を放出することで、
残されたガスの角運動量が減少したということでした。

つまり、“エンベローブガス”が円盤に降着する際に、
ガスが滞留・衝突し衝撃波が発生することで、
ガスが自ら角運動量の一部を円盤垂直方向に放出していることが分かったんですねー

観測で明らかになった惑星系円盤形成の様子(イメージ図)。
中心に原始星、
周りに原始惑星系円盤(断面で表面がオレンジ色、内部が紫色)が
形成されている。
赤線のように、外側から落下してきたガス(低温)が
遠心力バリア手前で滞留・衝突し、
生じた衝撃波によって円盤と垂直方向にガスが膨れ出し、
高温になっている。

今回の研究では、これまでほとんど観測されなかった、
円盤の“垂直方向の構造”に着目しています。

その構造を明らかにすることで、
角運動量問題解決への糸口を発見することが出来ました。

今後、他の円盤形成領域でも同様の現象が確認できれば…

角運動量問題の全容解明へとつながり、
「太陽系がどのように形成されたのか?」
という問いへの答えに結び付くのかもしれませんね。


こちらの記事もどうぞ ⇒ 原始星を取り巻く大型有機分子が惑星系の特徴を決めている!?

中間質量ブラックホールは球状星団の中心に隠れていた

2017年02月21日 | ブラックホール
存在するのかどうか…
決定的な証拠が見つかっていない中間質量ブラックホール。

今回、太陽2,200個分の質量を持つ中間質量ブラックホールが、
球状星団“きょしちょう座47”の中心に隠れていることを示す証拠が、
見つかったというお話です。


存在が予測されたブラックホール

現在知られているブラックホールは、
2つのタイプに分けることができます。

1つは、太陽の数倍程度の質量を持つ恒星質量ブラックホールで、
もう1つが、太陽質量の数百万倍から数十億倍の質量を持つ超大質量ブラックホールです。

ただ一方で、存在は予測されているのですが、
決定的な証拠が見つかっていないブラックホールもあるんですねー

それが、太陽質量の100倍から1万倍という中間質量ブラックホールです。

今回、中間質量ブラックホールが隠れていることを示す証拠を、
研究チームが発見しています。

どうやら球状星団“きょしちょう座47”の中心に、
太陽2,200個分の質量を持つ中間質量ブラックホールがあるようです。


見つけられないブラックホール

“きょしちょう座47”が位置しているのは、
“きょしちょう座”の方向約1万3000光年彼方。

年齢120億歳の星が数十万個ほど、
直径120光年ほどの球状の領域に集まり星団を形成しています。
“きょしちょう座47”の中心にある中間質量ブラックホールのイメージ図

実は“きょしちょう座47”での中間質量ブラックホール探しは、
行われてきたのですが、これまで見つかっていませんでした。

多くの場合にブラックホールは、
その周囲を取り巻く高温の円盤“降着円盤”から放出される、
X線を探すことによって見けられます。

  ブラックホールに落下する物質は角運動量を持つため、
  降着円盤と呼ばれるへんぺいな円盤をブラックホールの周囲に作る。
  降着円盤内のガスの摩擦熱によって落下するガスは電離してプラズマへ、
  この電離したガスは回転することで強力な磁場が作られ、
  降着円盤からは荷電粒子のジェット噴射しX線などが観測される。
 

でも、その方法はブラックホールが周囲のガスを、
活発に飲み込んでいるときだけにしか使えません。

“きょしちょう座47”の中心部にはガスが無いので、
そこにブラックホールが潜んでいても、この方法では見つけられないんですねー

また、ブラックホールの強力な重力によって、
近くの星の運動に影響が生じることがあります。

この様子を観測することでも、
ブラックホールの存在を知ることが出来るのですが、
“きょしちょう座47”の中心部は密集しているので、
個々の星の動きを見ることが出来ません。


ブラックホールの見つけ方

では、今回はどのようにして、
ブラックホールの存在を突き止めたのでしょうか?

まず1つ目の証拠は、星団全体の星の動きから得られました。

球状星団は密集度が非常に高く、
こうした環境では重い星は、星団の中心へと沈んでいく傾向にあります。

でも、星団中心に中間質量ブラックホールがあると、
ブラックホールがスプーンのように星をかき回して、
重い星々が光速で遠くへ飛ばされてしまいます。

そこで今回は、星の動きと距離に関するシミュレーションと、
可視光線観測の結果とを比較することで、こうした現象の証拠が見つけることができました。

そして第2の証拠が、球状星団中のパルサーの観測から得られています。

パルサーもまた、星団中心のブラックホールの重力によって、
遠くへ投げ飛ばされてしまいます。

ブラックホールがないと考えた場合と比べて、
遠いところでパルサーが見つかったので、ブラックホールはあると考えられるんですねー

これらの証拠から、
太陽質量2,200個分の中間質量ブラックホールの存在が、
示唆されることとなりました。

“きょしちょう座47”のブラックホールは、
長い間、検出から逃れていました。

なので他の球状星団にも、
同じように中間質量ブラックホールが隠れているのかもしれませんね。


こちらの記事もどうぞ ⇒ 初の中間質量ブラックホールを確認 “HLX-1”