宇宙のはなしと、ときどきツーリング

モバライダー mobarider

主成分の半分を火山活動が供給している? アルマ望遠鏡による観測で分かった衛星イオの大気

2020年10月30日 | 木星の探査
太陽系の衛星の中では、最も火山活動が活発なことで有名な木星の衛星イオ。
今回、米国立電波天文台が発表したのは、イオの火山活動がその薄い大気に与える影響でした。
アルマ望遠鏡を用いて直接調べることに成功したそうです。

太陽系の衛星の中では最も火山活動が活発な天体

木星を巡るガリレオ衛星の中で最も内側の軌道を公転しているのがイオです。
太陽系の衛星の中では4番目に大きく、半径1800キロ強と地球の3分の1にもなります。
木星を周回する4つの大型衛星(イオ、エウロパ、ガニメデ、カリスト)は、ガリレオ・ガリレイが望遠鏡で発見したので通称“ガリレオ衛星”と呼ばれている。衛星が大きいのでガリレオ手製の低倍率の望遠鏡でも見ることができた。

また、太陽系の衛星の中では最も火山活動が活発なことで有名で、その表面に確認されている火山は400以上。
そこからは硫黄を含むガスが放出されています。

そのガスが凍り付いて地表に降り注ぐことで、イオの表面は黄色やオレンジ、赤といった暖色系の彩の模様で覆われているんですねー

そうした際立った特徴を持つイオには、地球の約10億分の1という、ほんのかすかな大気が存在しています。

イオの大気の30~50%は火山から直接供給されている

これまでの研究から分かっているのは、イオの大気が火山活動に由来する二酸化硫黄が主成分であること。

では、その二酸化硫黄は直接火山から噴き出したものなのでしょうか?
それとも、一度地表に降り積もって凍り付いた二酸化硫黄が、太陽光で温められて昇華して大気に混じったものなのでしょうか?
この答えは、まだ分かっていませんでした。

このことを見分けるため、今回の研究ではアルマ望遠鏡を用いてイオが木星の影に入るときと出るときの観測を実施。
イオからすると、日食になる直前と直後のタイミングになります。

イオが木星の影の中に入っているときは、太陽光が当たらないので低温になります。
すると、二酸化硫黄はイオ表面に氷となって降り積もることになります。

この期間、大気に含まれるのは火山から直接供給された二酸化硫黄だけになります。
これを観測することで、大気成分が火山活動により、直接的な影響をどの程度受けているかが分かるはずです。

アルマ望遠鏡の高解像度と感度を用いて観測した結果、イオの火山から吹きあがる二酸化硫黄と一酸化硫黄のガスをとらえるとらえることに初めて成功。
この観測結果から見積もられたのは、イオの大気の30%から50%は火山から直接供給されているということでした。

さらに、アルマ望遠鏡での観測では、火山から噴出する第3のガス“塩化カリウム”を検出。
塩化カリウムは、二酸化硫黄や一酸化硫黄が検出されない場所で検出されているので、地域によって地下のマグマの組成が異なっているのかもしれません。
アルマ望遠鏡が電波で観測したイオの二酸化硫黄の広がり(黄色)。イオの表面画像は惑星探査機“ボイジャー1号”と木星探査機“ガリレオ”で撮影されたもの。土星探査機“カッシーニ”が撮影した木星の画像を背景に合成している。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), I. de Pater et al.; NRAO/AUI NSF, S. Dagnello; NASA/JPL/Space Science Institute)
アルマ望遠鏡が電波で観測したイオの二酸化硫黄の広がり(黄色)。イオの表面画像は惑星探査機“ボイジャー1号”と木星探査機“ガリレオ”で撮影されたもの。土星探査機“カッシーニ”が撮影した木星の画像を背景に合成している。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), I. de Pater et al.; NRAO/AUI NSF, S. Dagnello; NASA/JPL/Space Science Institute)

天体そのものが変形させられて熱を持つ現象

木星の巨大な重力による潮汐力が、イオの火山のエネルギー源になっています。

木星を周回するイオの軌道が完全な円形ではないことや、イオが潮汐ロックによって常に同じ面を木星に向けていることで、イオは木星に接近すると決まって同一面方向に引っ張られることになります。
潮汐ロックとは、主星からの潮汐力の影響で自転周期と公転周期が一致し、常に主星に対して同じ面を向け続けている状態。主星の近くを公転している場合など、受ける潮汐力が大きい場合に比較的よくみられる現象。月が地球に同じ面を向けているのも同じ現象。

これにより、木星から遠いときはほぼ球体のイオも、接近するに従って赤道方向に引っ張られ、極端にいえば卵のような形になるんですねー
そして、木星から遠ざかると、また球体に戻っていきます。

これを繰り返すことで発生した摩擦熱によりイオは熱せられているわけです。
このような強い重力により、天体そのものが変形させられて熱を持つ現象を潮汐加熱といいます。
木星の衛星エウロパ、土星の衛星エンケラドス、海王星の衛星トリトンといった天体では、潮汐作用による惑星内部の過熱“潮汐加熱”を熱源とした低温火山活動によって、地下から水などの物質が噴出していると見られている。

また、木星による潮汐加熱に加え、すぐ周囲をエウロパやガニメデなど、太陽系屈指の大型の衛星が公転しているので、これらの影響も受けることになります。

こうしてイオは変形させられて加熱されることで、火山活動が活発に起きていると考えられています。
潮汐加熱やイオの内部については、大気と火山活動を調べることで分析可能なようです。

今回の研究で解明に至っていないものに、イオの下層大気の温度があります。
今後、アルマ望遠鏡による観測で目指すのは、この下層大気の測定になります。

ただ、イオの下層大気の温度を測定するには、より高い解像度が必要になってきます。

高い解像度を実現するのに必要になるのは長時間の観測です。
でも、長時間になるとイオが数十度も自転してしまうんですねー
なので、それを補正するためのソフトウェアも必要になります。

すでに研究チームでは、アルマ望遠鏡と超大型干渉電波望遠鏡群“VLA”を駆使して、木星本体の観測において、この仕組みを実現しています。
なので、イオの下層大気の温度測定も見通しは明るいようですよ。
カール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群“VLA”は、アメリカ国立電波天文台が持つ電波望遠鏡の一つでニューメキシコ州ある。宇宙からの微弱な電波をとらえるための施設。


こちらの記事もどうぞ


アメリカ宇宙探査史上初めての小惑星からのサンプルリターン! NASAの“オシリス・レックス”がベンヌへの着地とサンプル採取に成功

2020年10月26日 | 太陽系・小惑星
NASAの小惑星探査機“オシリス・レックス”が小惑星ベンヌへの着地に成功しました。
“オシリス・レックス”のミッションは、日本の“はやぶさ”や“はやぶさ2”と同様に小惑星からサンプルを採取して地球に持ち帰ること。
順調に進めば、小惑星からのサンプルリターンは日本に続き2番目の成功になり、アメリカ宇宙探査史上でも初めてのことになるんですねー
サンプル採取の成否は今月末にかけて確認されるそうです。
“オシリス・レックス”のカメラがとらえた着地の様子。機体が降下し(左)、ロボットアームの先端がベンヌの地表に触れると、小石などが舞い上がっている。(Credit: NASA/Goddard/University of Arizona)
“オシリス・レックス”のカメラがとらえた着地の様子。機体が降下し(左)、ロボットアームの先端がベンヌの地表に触れると、小石などが舞い上がっている。(Credit: NASA/Goddard/University of Arizona)

小惑星ベンヌへの降下

“オシリス・レックス”が小惑星ベンヌへ降下を開始したのは日本時間10月21日午前2時50分。
北半球にあるクレーター“ナイチンゲール”の中を目指していました。
“オシリス・レックス”はNASAとロッキード・マーティン社、アリゾナ大学などが開発した小惑星探査機。打ち上げ時の質量は約2110キロで、同じようなミッションを背負った日本の“はやぶさ2”の約3.5倍にもなる。2016年9月9日午前8時5分(日本時間)に、フロリダ州のケープカナベラ空軍ステーションからアトラスVロケットで打ち上げられた。

“オシリス・レックス”はスラスターを噴射して、地球から約3億2000万キロ離れた小惑星ベンヌ上空の周回軌道から離脱。
上空約800キロで長さ3.35メートルのサンプル採取アーム“TAGSAM”を伸ばし、4時間かけて高度を約125メートルまで下げています。

ここで、スラスターを噴射してベンヌへ一気に降下し、10分後に再びスラスターを噴射して減速。
“オシリス・レックス”の動きをベンヌの自転速度に合わせたんですねー

最後の11分間は、“オシリス・レックス”の自動航行システム“ブルズアイTAG”を使い、岩石を避けてナイチンゲールを目指しています。
“ブルズアイTAG”ではベンヌ表面の画像を使い探査機が表面に接地するまで高い精度で誘導する。
直径約8メートルの“ナイチンゲール”は、予想外に岩塊に覆われているベンヌの表面の中で、比較的開けている数少ない地点の一つでした。

サンプルの採取方法

“オシリス・レックス”のサンプル採取方法は“タッチ・アンド・ゴー(Touch And Go:TAG)”と呼ばれています。

“はやぶさ2”は地表に向けて弾丸を発射して舞い上がった地表物質を採取します。
これに対して、“オシリス・レックス”が採用したのは、地表に窒素ガスを吹き付けて舞い上がった物質を採取する方法。
採取時には、探査機本体から“TAGSAM”と呼ばれるアームを伸ばし、その先端をベンヌの表面に接地すると同時に窒素ガスを噴射します。

送られてきた信号によれば、21日午前7時8分に“オシリス・レックス”は無事タッチダウンし、サンプルの採取に成功したとみられています。

サンプル採取アーム“TAGSAM”先端のサンプリングヘッドが、ベンヌの表面に接地していたのは6秒間ほど。
その間に窒素ガスを噴射して、巻き上げられた地表物質を容器に回収し、その後“オシリス・レックス”は正常に上昇しています。

小惑星からのサンプルリターンを世界で初めて成功させたのは2010年の“はやぶさ”でした。
彗星からのサンプル回収を2006年に成功させたアメリカですが、小惑星では今回が初めての挑戦になります。
サンプル採取のため小惑星ベンヌへ降下する“オシリス・レックス”のイメージ図。(Credit: NASA/Goddard/University of Arizona)
サンプル採取のため小惑星ベンヌへ降下する“オシリス・レックス”のイメージ図。(Credit: NASA/Goddard/University of Arizona)

サンプルが採取されているかの確認

サンプル採取の成否確認も“オシリス・レックス”と“はやぶさ”では異なっています。

“はやぶさ”が地球帰還後にカプセル内を調べて確かめるのに対して、“オシリス・レックス”のサンプル確認は現地で行われます。

“TAGSAM”先端のカメラ“SamCam”がタッチダウンの前後に撮影した82枚の画像や、機体を回転させて回収装置の重さの変化を調べ、採取されたサンプルの量を見積もることになります。
“オシリス・レックス”のカメラが撮影した画像から作成されたタッチダウン時の動画。(Credit: NASA)
サンプルが少なくとも60グラム採取されていることが確認できれば、“TAGSAM”から探査機本体のカプセルへとサンプルが格納されます。
もし、目標量に達していない場合は、2021年1月12日に再びタッチダウンを実施。
2度目のサンプル採取地点は、ベンヌの赤道付近に位置するクレーター内にある比較的岩塊の少ない“オスプレイ”と呼ばれる場所になります。

その後の運用チームにより、サンプルの採取装置はベンヌの地表に対して水平に接地し、数センチもめり込むほど完璧なタッチダウンだったことが確認されました。
装置内部はチリや石で一杯になっていて、60グラム以上という目標をはるかに上回る量が採取できたそうです。

一方、判明したのが採取したサンプルの一部がこぼれだしていること。
運用チームは、やや大きめの石が入っていたので、採取装置の蓋が締まりきらず、その隙間から小さな断片が通過していると考えています。

当初、探査機を回転させることで採取装置に入ったサンプルの量を測ったり、探査機にブレーキをかけるためスラスターを噴射したりといった運用を計画していたのですが、探査機を動かすとサンプルがさらに失われる可能性があるので、これらを取り止めています。
まず、サンプルを回収カプセルに収容することを優先させるそうです。

サンプルを格納した“オシリス・レックス”は、2021年3月にベンヌを出発し、2023年9月24日にサンプルを地球へ届ける予定です。

地球近傍小惑星の一つであるアポロ群に属しているベンヌは、1999年に発見された直径約560メートルの小惑星で、そろばんの玉のような形をしています。

有機物(炭素を含む化合物)や水を多く含む“C型小惑星”と呼ばれる天体に分類されていて、これは“はやぶさ2”が探査した小惑星リュウグウと同じ特徴といえます。
現在のベンヌの軌道から、将来的に地球に衝突する可能性がわずかにあることも知られている。
左が小惑星ベンヌ(Credit: NASA/Goddard/University of Arizona)、右がリュウグウ。形や表面の様子が互いに似ている。(Credit: JAXA/University of Tokyo)
左が小惑星ベンヌ(Credit: NASA/Goddard/University of Arizona)、右がリュウグウ。形や表面の様子が互いに似ている。(Credit: JAXA/University of Tokyo)
こうした小惑星は、46億年前の太陽系形成時の始原的物質を保持している“化石”と考えられているんですねー

なので、探査や持ち帰ったサンプルを詳しく分析することで、太陽系初期の様子や惑星形成などに関する手掛かりが得られるはず。
さらに、生命の起源の謎を解く手がかりも得られると期待されています。

一方、今年12月6日の地球帰還に向けて、“はやぶさ2”は地球から約1700万キロの位置を航行しています。
日本とアメリカは小惑星からのサンプルリターンで成果を競うかたちになりますが、回収したサンプルを交換して分析するなどの協力関係も結んでいるようですよ。


こちらの記事もどうぞ


アマゾン創業者が設立したブルー・オリジン社が宇宙船“ニューシェパード”の飛行に成功! NASA開発の月面着陸技術も試験

2020年10月23日 | 宇宙へ!(民間企業の挑戦)
2020年10月13日、アメリカの民間宇宙企業ブルー・オリジン社が、サブオービタル機“ニューシェパード”の打ち上げに成功したんですねー
機体は宇宙空間に到達後、着陸にも成功。
今回の打ち上げでは、将来の月面や火星への着陸に使う新開発のセンサーの試験を含む、12個の実験も行われたそうです。
宇宙に到達した後に着陸する“ニューシェパード”のブースター(Credit: Blue Origin)
宇宙に到達した後に着陸する“ニューシェパード”のブースター(Credit: Blue Origin)

10か月ぶりのミッション“NS-13”

“ニューシェパード”が西テキサスにあるブルー・オリジン社の試験施設から離床したのは、日本時間の10月13日22時35分のことでした。

機体は計画通り飛行し、ブースターとクルー・カプセルを分離。
両機は高度約105キロに到達したのち、まずブースターが着陸し、その後カプセルもパラシュートで着陸しています。

“ニューシェパード”の飛行は今回が通算で13回目で、その中で成功は12回になるんですねー
また、今回飛行した3号機のブースターとクルー・モジュールを使った飛行は、今回で7回続けての成功になりました。

今回のミッション“NS-13”では、ブースター部分にNASAが開発した“軌道離脱・下降・着陸センサー”を搭載し、試験が行われています。

これらの装置は、月面の複雑な地形への精密着陸を行うために開発されたもの。
指定された地点に、100メートル以内の精度で自律的に着陸することを可能にしています。

この技術により、将来的にはクレーターの近くの複雑な地形など、アポロ計画では着陸できなかったような場所に宇宙飛行士や無人探査機を着陸させることが可能になるそうです。
さらに、その先の火星着陸への応用も可能としています。

ブルー・オリジン社は、NASAが進める有人月探査計画“アルテミス”で使用される、月着陸船を開発する民間企業の一つに選ばれています。
今回の試験はその開発の一環で、月面着陸を“ニューシェパード”を使ってシミュレートしたことになります。

この他、カプセル部分に搭載されたのは、宇宙で植物を自律的に育てるシステムや、小惑星や月の砂をその天体の地表に固定するためのシステム、宇宙船の電子機器を冷却する新技術など。
これらは11個の実験ペイロードに入れられ、微小重力環境を利用した実験が行われています。

当初打ち上げが9月に予定されていた“NS-13”ミッション。
天候不良や技術的な問題により延期を繰り返し、2019年12月に行われた“NS-12”ミッション以来、約10か月ぶりの飛行になりました。

軌道離脱・下降・着陸センサーの試験は晴れの日に行う必要があったので、天候条件は通常より厳しいものになったそうです。
これらセンサーの試験は、今回を含め計2回行われることになっています。
“ニューシェパード”のブースターに装着された軌道離脱・下降・着陸センサー。(Credit: Blue Origin)
“ニューシェパード”のブースターに装着された軌道離脱・下降・着陸センサー。(Credit: Blue Origin)

サブオービタル宇宙船“ニューシェパード”

ブルー・オリジン社は、インターネット小売り大手のアマゾン・ドット・コムの創業者ジェフ・ベゾス氏が設立したアメリカの民間宇宙企業です。

“ニューシェパード”はブルー・オリジン社が開発中の機体で、ソユーズやスペースX社のクルー・ドラゴン宇宙船などとは異なり、地球を回る軌道には乗りません。
宇宙空間(高度100キロ以上)に到達する“サブオービタル宇宙船”と呼ばれる種類の機体で、地球を1周する前に地上に帰還するサブオービタル軌道を飛ぶことになります。
“ニューシェパード”の打ち上げから着陸。(Credit: Blue Origin)
“ニューシェパード”の打ち上げから着陸。(Credit: Blue Origin)
機体を構成しているのはブースターと呼ばれるロケットとカプセル。
カプセルには最大6人の乗員・乗客や、実験・観測装置をのせることができます。

また、ブースターとカプセルは繰り返し再使用することができ、運用コストの低減が図られています。

“ニューシェパード”の1号機が初飛行を実施したのは2015年。
これまでに3機が建造され、今回までに13回の試験飛行を行っています。
今回は3号機の7回目の飛行でした。

これまでの飛行では、まず宇宙空間に到達できるかということから始まり、ブースターやカプセルを安全に着陸・回収できるのかという試験、機体を再使用できるかどうかという試験、そしてカプセルのパラシュートがすべて開かなかった場合でも安全に着陸できるのかという試験が行わてきました。

2016年には、飛行中にブースターが最も負荷がかかる段階でトラブルが起きたという想定で、カプセルを脱出させる試験にも成功。

さらに2018年には、ブースターのエンジンの燃焼が終わり、ほぼ宇宙まで達したところでトラブルが起きたという想定。
カプセルを脱出させ、そこから安全に帰還することができるかを調べる試験も行われました。

ブルー・オリジン社が将来的に目指しているのは、“ニューシェパード”に科学者や宇宙旅行者をのせて飛行すること。

過去には「数年以内」といった実現目標が語られたり、「1人当たりのチケット代は約2200~3300万円になる」という話が出回ったりもしました。
でも、その後開発・試験計画の見直しもあってトーンダウン…
現在は具体的なスケジュールや金額について、詳しいことを明らかにしていません。

一方、人をのせた飛行に向けた試験を進めるのと並行して提供されているのが、カプセルに実験機器を搭載するサービス。
こちらは、NASAや大学、民間企業などが顧客になり、今回のような様々な試験や実験が行われています。
宇宙から帰還した“ニューシェパード”のクルー・モジュールには、将来的には人が乗り込む予定。(Credit: Blue Origin)
宇宙から帰還した“ニューシェパード”のクルー・モジュールには、将来的には人が乗り込む予定。(Credit: Blue Origin)


こちらの記事もどうぞ


2020年 オリオン座流星群の見ごろはいつ? 10月21日放射点が高く昇る深夜からがオススメ

2020年10月20日 | 流星群/彗星を見よう
10月21日の水曜日にオリオン座流星群の活動が極大になります。
今年は月明かりが邪魔をすることはないのですが、出現数は少ないようです。
黄色の矢印は“オリオン座流星群”の放射点。(10月22日AM1:00)
黄色の矢印は“オリオン座流星群”の放射点。(10月22日AM1:00)
オリオン座流星群の母天体は、5月の“みずがめ座η流星群”と同じハレー彗星です。

地球はハレー彗星の通り道を毎年この時期に通過しています。
すると、彗星の通り道に残されたチリが地球の大気に飛び込んでくるんですねー
チリは上空100キロ前後で発光、これがオリオン座流星群です。

今年の極大時刻の予想は、10月21日の日の入り前(15時頃)になるので、見ごろは21日の深夜から22日の明け方にかけて。
流星の出現は21日の22時ごろからですが、真夜中になるほど放射点が高く昇っているので観測には好都合です。

ただ、今年のオリオン座流星群は月明かりの影響はなくても活動は低調…
条件の良い場所でも1時間あたり5~10個程度になりそうです。
ちなみに、流れ星が出現する放射点はオリオン座の右腕のあたりです。

オリオン座流星群は速度が速いので明るい流星が多く見れるのが特徴で、火球と呼ばれる明るい流星や流星痕と呼ばれる痕を残す流星が出現することがあります。
また、ピークがなだらかな流星群なので、21日の極大を中心に4~5日間は観測のチャンスがありそうです。

朝晩の冷え込みが増してきているので、防寒に気を使って観測してください。


こちらの記事もどうぞ


中性子星の進化を理解する上でカギになる! “マグネター”なのに“電波パルサー”の特徴も持っている天体。

2020年10月18日 | 宇宙 space
2020年3月に報告された新天体“Swift J1818.0-1607”。
この天体が、これまでに20ほどしか見つかっていない中性子星の一種で、強い磁場を持つ“マグネター”だということが分かったようです。
ただ、“Swift J1818.0-1607”は“マグネター”なのに、中性子星の大半を占める“電波パルサー”の特徴も示していたんですねー
この不思議な天体は、中性子星の研究を発展させるカギになるのかもしれません。

ブラックホールの次に巨大な重力を持つ天体

太陽質量の8倍以上の恒星が超新星爆発を起こすと、後に残るのはブラックホールもしくは中性子星になります。

ブラックホールは、事象の地平面を超えてしまうと光さえ脱出できない強大な重力で知られる天体。
このブラックホールに次ぐ巨大な重力を持っているのが中性子星になります。

中性子星は、太陽質量の1.4倍もの質量が半径わずか12キロ(太陽の直径は70万キロ弱)の中に押し込められた超高密度天体です。
陽子が陽子のままではいられず、電子を吸収して中性子になってしまうほどの圧力のため、それにより大部分が中性子によって構成されています。

強い磁場を持つ“マグネター”

これまで天の川銀河を中心に見つかっている中性子星の数は約2800天体。
これらの中性子星は、観測的な特徴による区別で複数の“種族”に分類されています。

例えば、中性子星の大半は高速自転に伴って電磁波を規則正しく一定間隔で放出する“電波パルサー”に分類されています。

さらに、強い磁場を持つ場合は“強磁場パルサー”、周期がミリ秒の速さの“ミリ秒パルサー”、単独(連星ではない)にもかかわらずX線を放出するパルサー“XINS(X-ray Isolated Neutron Stars)”、連星系の“電波パルサー”、軟X線点源の“CCO(Compact Central Object)”などがあります。

このような中性子星の中で最も強い磁場を持っているのが“マグネター”で、表面磁場は100億~1000億テスラにも達します。

地球の地磁気は50マイクロテスラほど、磁場が強いことで知られる太陽の黒点ですら0.1テスラほどなんですねー
それらと比較すれば、マグネターの磁場がどれだけ強力かが分かります。

その強い磁場のため“マグネター”では、磁場中における光子の自発分裂や真空の複屈折など、地上では観測できない現象が起きていると考えられています。
複屈折とは、何も光を屈折させるもののないはずの真空中で屈折が起きる現象。

さらに、“マグネター”の特徴としてあげられるのが、自転周期が2~12秒ほどで、他の中性子星よりも自転が遅いこと。
そのため、星の内部に蓄えた磁気エネルギーを開放して輝いていて、回転エネルギーで光る通常の“電波パルサー”とは異なるエネルギー源を持っていると推測されています。

また、“マグネター”は種類としてX線で観測すると常に明るいタイプと、突発的に明るくなるタイプがあることも分かっています。

ただ、総数自体は少なく、これまで20天体ほどしか発見されていません。
宇宙最強の強磁場を持つ中性子星の一種“マグネター”のイメージ図。(Credit: 理化学研究所)
宇宙最強の強磁場を持つ中性子星の一種“マグネター”のイメージ図。(Credit: 理化学研究所)

電波パルスを出す“マグネター”

NASAのガンマ線バースト観測衛星“ニール・ゲーレルス・スウィフト(旧称スウィフト)”は、“ガンマ線バースト現象”の解明を目的として、2004年に打ち上げられた天文衛星です。
バースト現象を検出するための検出器やX線での撮像や分光観測を行える装置などを搭載しています。

その“スウィフト”が2020年3月12日、継続時間10ミリ秒ほどのX線によるバースト現象を検出。
その到来した方向に新天体“Swift J1818.0-1607”が発見されました。
ガンマ線とX線の違いは、原子核内部が起源のものをガンマ線、そうでないものをX線と呼んでいる。どちらもエネルギーが高く、波長の短い電磁波のこと。エネルギーが同じで起源が分からない場合は区別を付けることができない。

その知らせを受けた国際共同研究チームは、発見から4時間後には、国際宇宙ステーションに設置されたX線望遠鏡“NICER”を用いて観測を開始。
NASAのX線望遠鏡“NICER(Neutron Star Interior Composition)”は、中性子星内部の高密度状態を解明するために開発された観測装置。2017年6月3日に国際宇宙ステーションに向けて打ち上げられた。

観測の結果、この新しいX線源からは1.36秒の周期的な信号を検出。
さらに観測を継続してみると、3月25日に周期変化率の測定も報告されます。

それらを組み合わせた結果、見積もられた表面磁場の強さは270億テスラ。
これにより、“Swift J1818.0-1607”が“マグネター”であることが突き止められることになります。

そして分かってきたのが、これまで知られている古典的な“マグネター”の中でも、“Swift J1818.0-1607”は最も自転が速く、高速で回転していること。

一般に“マグネター”が電波パルスを出すことは希ことになります。
でも、この新天体からは電波の信号も検出され、その電波でも同様の周期性が確認されたています。
中性子星の自転周期と自転周期の変化率および中性子星の分類。2020年3月12日にNASAのガンマ線バースト観測衛星“ニール・ゲーレルス・スウィフト”によって発見された“Swift J1818.0-1607”は中性子星であり、それも“マグネター”であることが確認された。(Credit: 理化学研究所)
中性子星の自転周期と自転周期の変化率および中性子星の分類。2020年3月12日にNASAのガンマ線バースト観測衛星“ニール・ゲーレルス・スウィフト”によって発見された“Swift J1818.0-1607”は中性子星であり、それも“マグネター”であることが確認された。(Credit: 理化学研究所)

中性子星の進化を理解する上でカギになる天体

その後、“Swift J1818.0-1607”のX線スペクトルやパルス周期に関するモニタリング観測を実施されていました。

50日間にわたる観測の結果、“Swift J1818.0-1607”がX線で増光を始めてから8日後と14日後に、自転の周期が急激に変化する“グリッチ”と呼ばれる現象が検出されたんですねー

中性子星の内部状態が変化することで発生すると考えらている“グリッチ”。
この観測データは、“マグネター”の内部を理解する上で重要なものといえます。

また、この2回の“グリッチ”の発生間隔は短く、知られている“マグネター”の“グリッチ”の中でも強力なもの。
このことから、今回の観測は“Swift J1818.0-1607”の活動性が高い時期のものだと考えることができます。
さらに、“Swift J1818.0-1607”の推定年齢が420年と、とても若いことも判明しています。

“Swift J1818.0-1607”のX線は徐々に暗くなっていき、50日間の観測で50%ほどX線の明るさ(フラックス)が減少したことも確認されました。

この天体のX線は静穏期にどの程度の明るさなのでしょうか。
まだ確認されていませんが、今後“Swift J1818.0-1607”は再び眠りにつくようです。
“Swift J1818.0-1607”のX線フラックスと自転周期および周期変化率の変化。上段はフラックス、中断は自転周期、下段は周期変化率を示したグラフ。X線フラックスは約50日で50%ほど減少している。左から一つ目と二つ目の青破線は、8日後と14日後に観測された自転周期の急激な変化“グリッチ”に対応している。(Credit: 理化学研究所)
“Swift J1818.0-1607”のX線フラックスと自転周期および周期変化率の変化。上段はフラックス、中断は自転周期、下段は周期変化率を示したグラフ。X線フラックスは約50日で50%ほど減少している。左から一つ目と二つ目の青破線は、8日後と14日後に観測された自転周期の急激な変化“グリッチ”に対応している。(Credit: 理化学研究所)
“Swift J1818.0-1607”は、その観測的特徴から“電波パルサー”の特徴のいくつかも併せ持っています。
また、“強磁場パルサー”の“PSR J1846-0258”や“PSR J1119-6127”などと類似しているとも考えられています。

X線での明るさ(X線光度)と星の回転で放出されるエネルギー(回転エネルギーの放出率)の比較を見ると、“Swift J1818.0-1607”は“マグネター”として振る舞いつつも、これまでに知られていた“電波パルサー”の特徴も備えていることが示唆されています。

今後、中性子星の進化を理解する上で、異なる種族同士を結び付けるカギとなる天体が“Swift J1818.0-1607”なのかもしれません。
中性子星の異なる種族の比較。縦軸はX線光度、横軸は星の回転エネルギーの放出率。知られている“マグネター”は黄線、古典的な回転駆動型“電波パルサー”は緑四角、また“強磁場パルサー”の中で“マグネター”のようなX線バーストを示した2天体“PSR J1846-0258”と“PSR J1119-6127”は青線、“Swift J1818.0-1607”は赤線で示している。(Credit: 理化学研究所)
中性子星の異なる種族の比較。縦軸はX線光度、横軸は星の回転エネルギーの放出率。知られている“マグネター”は黄線、古典的な回転駆動型“電波パルサー”は緑四角、また“強磁場パルサー”の中で“マグネター”のようなX線バーストを示した2天体“PSR J1846-0258”と“PSR J1119-6127”は青線、“Swift J1818.0-1607”は赤線で示している。(Credit: 理化学研究所)
天文学の大きなテーマの一つとして、宇宙論的な距離から到来する謎の“高速電波バースト(FRB:Fast Radio Burst)”という現象があります。

ミリ秒のタイムスケールを持ち、電波できわめて明るい突発バースト現象なんですねー
ただ、その起源は分かっていないので、近年の天文学でのホットな研究対象になっています。

最近の研究で、この“高速電波バースト”に極めてよく似た現象が天の川銀河内のマグネター“SGR 1935+2154”から検出。
このことから、“マグネター”は“高速電波バースト”を解明するためのカギになると考えられるようになってきています。

さらに、X線望遠鏡“NICER”による観測で着目しているのは、X線と電波の同時観測。
今後、多波長観測による中性子星の研究の進展が期待できるのかもしれません。


こちらの記事もどうぞ