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まとまった質量を持つ分子雲を作るには? X線連星から噴出する宇宙ジェットで分子雲の粒を掃き集めるといいようです

2023年06月29日 | 宇宙 space
今回の研究では、野辺山45メートル電波望遠鏡とASTE望遠鏡を用いた観測により、X線連星“SS433”から噴出する宇宙ジェットの先端領域に複数の分子雲を新たに発見しています。
この研究を進めているのは、鹿児島大学理工学研究科天の川銀河研究センター所属の酒見はる香研究員と国立天文台、名古屋大学からなる研究チームです。
これらの分子雲の特徴的な構造から分かったのは、宇宙ジェットと相互作用している可能性が高いこと。

さらに、これらの分子雲はそれぞれ1つの大きな塊ではなく、観測の解像度では見えないより小さな分子雲の粒が集まってできている可能性も示唆されました。

この結果を踏まえ研究チームは、周辺に散らばる小さな分子雲の粒を、宇宙ジェットが掃き集めることでまとまった分子雲を作るという形成シナリオを提案しています。

X線連星から噴出する宇宙ジェットは、星の素になる分子雲の形成を促進する働きを持っているようですよ。

コンパクトな天体と恒星の連星系

ブラックホールや中性子星などの重くてサイズがコンパクトな天体は、しばしば恒星とペアになって連星系を作っています。
太陽の30倍以上重い恒星が、一生の最期に大爆発した後に残される高密度な天体がブラックホール。強い重力のために光さえも逃げ出すことができない。
中性子星は、太陽の10~30倍程度の恒星が、一生の最期に大爆発した後に残される宇宙で最も高密度な天体。主に中性子からなる天体で、ブラックホールと異なり半径10キロ程度の表面が存在し、そこに地球の約50万倍の質量が詰まっていている。一般に強い磁場を持つものが多い。
このような連星系は、X線で明るく輝くのでX線連星と呼ばれています。

X線連星では、コンパクトな天体の重力の影響を受けて恒星の表面からガスが剥ぎ取られ、コンパクトな天体に向かって落ち込んでいくことがあります。

ただ、落ち込んだガスの全てがコンパクトな天体に吸い込まれるわけではなく、その一部は非常に細く絞られて外に向かって噴き出すことになります。

この噴き出したガス流のことを宇宙ジェットといいます。

宇宙ジェットが分子雲の形成において果たす役割

X線連星は宇宙ジェットによって物質やエネルギーを遠方に伝播させることで、銀河の組成や進化に影響を及ぼしています。

X線連星が多く存在するのは、星が多く作られる銀河面周辺。
そこには星の材料になるような星間物質と呼ばれるガス状の物質が漂っています。

この星間物質にX線連星から噴き出した宇宙ジェットが衝突すると、星間物質の温度や密度などの状態が変化すると考えられています。

星間物質のうち、低温で密度が高くなったガスは分子雲と呼ばれ、この状態からさらに圧縮され高密度になるとその領域から新たに星が誕生することになります。
星間空間に撒き散らされた原子やチリが集まって雲のようになった際、周囲からの紫外線(星間紫外線)が内部まで届かなくなると、紫外線によって分子が壊されなくなるので、原子から分子が作られ始める。そのような雲を“分子雲”と呼ぶ。数光年~数十光年と様々な大きさのものがある。分子雲の中で、自己重力でガスやチリが集まってできた高密度な場所を分子雲コアと呼び、いわゆる星の卵に相当する。分子雲コアがさらに収縮することによって、太陽のような恒星や、それよりもさらに重い星(大質量星)その連星が誕生する。
宇宙ジェットは、周辺の星間物質を圧縮して高密度にし、星の素になる分子雲ができやすい環境を作るという示唆が先行研究から得られています。

ただ、宇宙ジェットは周辺の星間物質を熱することで低温・高密度な分子雲の形成を妨げるという説もあるので、宇宙ジェットが分子雲の形成において果たす役割は、まだ完全には解明されていません。

電波星雲の内部に位置するX線連星

研究チームは、このような宇宙ジェットと星間物質との相互作用を観測的に調査するため、天の川銀河の中で最も活発なX線連星の1つである天体“SS433”に着目。
“SS433”は“わし座”の方向に位置し、光速の26%の速度の宇宙ジェットを噴出しています。

このX線連星が位置しているのは、電波星雲“W50”という巻貝のような形をしたガス状の天体の内部。
電波星雲は、星間物質が周辺よりも高い密度で集まり、特に電波の帯域で光を放射し雲のように見えている天体。
この星雲の東西に引き伸ばされたイヤー(ear)と呼ばれる構造は、“SS433”から噴出する宇宙ジェットの表面に対応する構造だと考えられています。

イヤーの周辺に存在する星間物質の観測的研究はこれまでにも盛んに行われていて、特に“SS433”より西側のイヤーの周辺には多数の分子雲が確認されています。(図1中の黄色の楕円領域)

そこで、今回研究チームが注目したのは、これまで分子雲の検出例の無かった東側のイヤー。
野辺山45メートル電波望遠鏡とチリのASTE望遠鏡を用いて観測行い、新たな分子雲の発見を目指すことになります。
国立天文台のASTE(アステ)望遠鏡(Atacama Submillimeter Telescope Expreiment = ASTE : アタカマサブミリ波望遠鏡実験)は、南米チリ北部のアタカマ砂漠の標高4860メートルの高地パンパ・ラ・ボラに設置された直径10メートルのサブミリ波望遠鏡。ASTE望遠鏡は、波長1ミリメートル以下の電波(サブミリ波)によって、私たちの肉眼では見ることのできない暗黒の宇宙を観測する。
図1.X線連星“SS433”(画像中央)とその周辺を取り囲む電波星雲“W50”のイメージ図。黄色の楕円で示される領域では過去に分子雲が発見されている。黄色のコントアで示されているのが今回の研究で発見された新たな分子雲。(Credit: 鹿児島大学)
図1.X線連星“SS433”(画像中央)とその周辺を取り囲む電波星雲“W50”のイメージ図。黄色の楕円で示される領域では過去に分子雲が発見されている。黄色のコントアで示されているのが今回の研究で発見された新たな分子雲。(Credit: 鹿児島大学)

観測の解像度では見ることのできない小さな分子雲

観測の結果、研究チームは、東側のイヤーの先端領域に大きな分子雲の塊が2つが存在していることを、初めて明らかにしています。(図1中の黄色コントア、図2)

研究チームは、これら2つの分子雲を“chimney cloud”、“edge cloud”と命名。
詳しい解析から分かったのは、これらの分子雲はイヤーとの衝突によると思われる特徴的な構造を持っている可能性が高いことでした。

これらの分子雲から放射されている光の種類を詳しく調べてみると、一般的に密度の高い分子雲から放射されるような光が含まれていることも分かってきました。

にもかかわらず、分子から放射されたいくつかの種類の光の情報を組み合わせて行った解析に基づくと、この分子雲は典型的なものに比べ密度が低いという結果が得られることに…

どのような状況を考えれば、これらの結果を矛盾なく説明することができるのでしょうか。

研究チームが考えたのは、発見された分子雲が今回の観測の解像度では見ることのできないような、より小さな分子雲の粒が集まって塊のように見えているということ。

解像度よりも小さい分子雲からの放射の情報は観測によって見逃されてしまうので、解析をすると本当の分子雲の密度よりも過小評価してしまうことが起こります。

なので、今回研究チームが見つけた分子雲も、画像に見られるような大きな塊ではなく、実際にはもっと小さな分子雲が集まっている可能性があるということになります。
図2.“W50”東側イヤーの先端に同定された分子雲から放射される電波強度の分布。マゼンタのコントアは東側イヤーの構造を示している。(Credit: 鹿児島大学)
図2.“W50”東側イヤーの先端に同定された分子雲から放射される電波強度の分布。マゼンタのコントアは東側イヤーの構造を示している。(Credit: 鹿児島大学)

まとまった質量を持つ分子雲を作り出す方法

では、今回新たに見つかった分子雲は、どのようにして誕生したのでしょうか?

先行研究では、宇宙ジェットは周辺に存在する低密度なガスを圧縮して高密度にすることで状態遷移を引き起こし、分子雲を作ることができると考えられています。

でも、このプロセスで分子雲を作る場合、特殊な状況下では、分子雲が作られるまでに必要な時間が、“SS433”から噴出する宇宙ジェットの年齢よりも長いものになってしまいます。

なので、今回発見された分子雲をこの方法で作るのは現実的ではないんですねー

そこで、研究チームが考えたのは、このプロセス以外で宇宙ジェットがまとまった分子雲を作り出す方法でした。

それは、周辺に元々存在していたすぐに星になるほどの質量ではない小さな分子雲の粒を、宇宙ジェットで掃き集めるというもの。(図3)
まるでブロワーで落ち葉を集め掃除するかのように、その空間に散らばっていた分子雲の粒を宇宙ジェットで集めるイメージです。

このような状況は、今回発見された分子雲の特徴である、「より小さな分子雲の粒が集まっている」という解釈とも一致します。

もし、“SS433”から噴出する宇宙ジェットで分子雲の粒を掃き集めて“chimney cloud”や“edge cloud”を作ったのだとすると、宇宙ジェットは太陽の約6000倍もの質量のガスを運ぶことができるほどパワフルなブロワーだといえます。

今回の研究は、宇宙ジェットで直接星間物質を圧縮して分子雲を作り出す以外にも、まとまった質量を持つ分子雲を作り出す方法があるということを、示しているのでしょうね。

X線連星は天の川銀河の形成と進化にどのくらい寄与しているのか

今回の研究では、X線連星から噴出する宇宙ジェットと相互作用しいる可能性の高い新たな分子雲を発見し、その形成過程に関する新たな示唆を与えました。

さらに、これらの分子雲を詳細に観測していくことで、宇宙ジェットが分子雲の形成と進化に与える影響を明らかにしていくことができるはずです。

また、“SS433”に留まらず、その他の活発なX線連星から噴出する宇宙ジェットとその周辺の星間物質の研究も、現在国内外で進められています。

将来的には、X線連星が天の川銀河の形成と進化にどのくらい、どのように寄与しているのか全貌が明らかになると期待されています。
図3.宇宙ジェットで周辺に散らばっている小さな分子雲の粒を掃き集めているイメージ図。(Credit: 国立天文台)
図3.宇宙ジェットで周辺に散らばっている小さな分子雲の粒を掃き集めているイメージ図。(Credit: 国立天文台)


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中性子星と普通の恒星の連星が作り出す熱核爆発“I型X線バースト”で中性子星の物理的な特性に迫る

2023年06月27日 | 宇宙 space
太陽の10~30倍程度重い恒星が一生の最期を迎えると超新星爆発を起こし、その爆発の中心部には極めて高密度な天体“中性子星”が形成されることがあります。

中性子星は、主に中性子からなる天体で、ブラックホールと異なり半径10キロ程度の表面が存在。
そこには、地球の約50万倍の質量が詰まっていて、一般に強い磁場を持つものが多い天体です。

多くが超高速で自転していて、地球から観測すると非常に短い周期で明滅する規則的な信号がとらえられるので、パルサーとも呼ばれています。

中性子星は、密度が地球の数100兆倍、磁場が地球の約1兆倍もあります。
内部は極めて高密度・高エネルギーな環境なので、正確な性質はほとんど分かっていませんでした。

X線で爆発的に輝く天体現象

中性子星は宇宙で最も高密度な物質とも言われていて、その表面ではしばしば“熱核爆発”が発生しています。

この爆発現象ではX線が何度も放出されることから、中性子星の表面で発生する爆発現象は“I型X線バースト”、X線バーストを起こす天体は“X線バースター”と呼ばれています。
X線バーストは、数秒から数十秒の間、X線で爆発的に輝く天体現象。
X線バーストにはI型とII型があり、I型は中性子星の表面で起こる降着円盤の核反応で発生。
II型は白色矮星の降着円盤が落下することによる重力エネルギーの開放で発生します。
X線バースターのイメージ図。中性子星の周辺に恒星からのガスが降り積もることによって生じると考えられている。(Credit: NASA's Goddard Space Flight Center)
X線バースターのイメージ図。中性子星の周辺に恒星からのガスが降り積もることによって生じると考えられている。(Credit: NASA's Goddard Space Flight Center)

中性子星と普通の恒星の連星が作り出すI型X線バースト

I型X線バーストは、以下のプロセスを経て発生する現象です。

X線バースターである中性子星は、普通の恒星を伴星とした連星を成しています。

伴星からは水素やヘリウムが流れ出し、数時間から数日かけて中性子星の表面に降り積もっていくことに。

中性子星の表面は重力が強いので、降り積もった物質は圧縮されて核融合反応が発生。
ここでの主な反応は、水素の原子核… すなわち陽子が他の原子核に衝突・吸収されるものなので、原子番号が1つずつ増える“陽子捕獲”という核融合反応が進行します。

陽子捕獲による連続的な核融合反応は“rp過程”と呼ばれています。

このrp過程と、それによって生じた不安定な原子核の崩壊によるエネルギーが合わさって起こるのがI型X線バーストで、通常は10秒から100秒ほどX線放出が連続します。

I型X線バーストの性質は、中性子星の物理的な特性と、rp過程で現れる原子核の特性によって決定されることになります。

合成が難しい原子核を大量に合成する

中性子星のような極限の環境を実験室で作り出すことはできません。
でも、rp過程で現れる原子核を合成して、その性質を測定することは可能です。

ただ、これらの原子核の合成は可能とは言え困難であり、合成された原子核はすぐさま崩壊して消えてしまいます。

精度の高いデータを得るためには、「合成が難しい原子核を大量に合成しなければならない」という矛盾に挑まなければならないので、これまで詳しく研究することは困難でした。
今回研究対象になった原子核(赤色および水色)。これらはゲルマニウム64“Ge-64”に対して、核反応や崩壊で生成するものか、逆に生成の素になる原子核である。(Credit: X. Zhou, et.al.)
今回研究対象になった原子核(赤色および水色)。これらはゲルマニウム64“Ge-64”に対して、核反応や崩壊で生成するものか、逆に生成の素になる原子核である。(Credit: X. Zhou, et.al.)

特異点核種はrp過程に影響を与える

今回の研究では、X線バースターで起こる核反応の中でも特に重要な原子核“ゲルマニウム64”の性質を決定するため、“ゲルマニウム64”と非常に似ている原子核(ゲルマニウム63、ヒ素64、ヒ素65、セレン66、セレン67)の精密な質量の測定を行っています。
この研究を進めているのは、中国科学院のX.Zhouさんたちの研究チームです。
それでは、なぜ“ゲルマニウム64”そのものでなく、それと似た原子核を測定するのでしょうか?

それは、“ゲルマニウム64”が“待機点核種(Waiting-Point nuclide / WP nuclide)”と呼ばれる原子核の1つだからです。

待機点核種は陽子捕獲や崩壊によって、原子核が変化するまでの時間が他の原子核に比べて長いので、rp過程全体の進行を遅くする働きがあります。

このような待機点核種の働きは、I型X線バーストのエネルギー放出量や放出時間にも影響しています。

I型X線バーストのデータは、実験室で作ることができない中性子星の物理的な性質を知る手掛かりになるので、待機点核種の性質を知ることはとても重要なことになります。

ただ、待機点核種がrp過程に与える影響を知るには、核反応によって待機点核種に変化する原子核や、待機点核種から合成される原子核の性質も知る必要があります。

これらの原子核の性質を待機点核種と比較することで、rp過程が待機点核種によってどの程度“待たされる”のかを知ることができるわけです。

研究チームでは、寿命が短く合成が難しいこれらの原子核を合成するため、蘭州重イオン加速器装置施設“HIRFL(Heavy Ion Research Facility in Lanzhou)”で大量の原子核を合成する実験を行い、多数のデータを取得し分析を実施。

その結果、高精度な原子核の質量測定を行うことに成功しています。

合成された原子核のうちヒ素64とセレン66は、今回初めて高精度な質量の測定に成功しています。

特に、セレン66は非常に合成が難しい原子核の1つとして知られていて、関連研究の難題の1つが今回の研究で解決されたことになります。
今回の研究結果に基づいた“GS 1826-24”の地球からの距離(左側)と密度(右側)の推定結果。距離は、今回の研究結果(Updated)と従来の推定値(AME’20)が重なっておらず、全く異なる値であることが分かる。密度は、今回の研究結果(水色)が、他の推定結果(灰色)に比べて低密度の領域(グラフ下側)に分布していることが分かる。(Credit: X. Zhou, et.al.)
今回の研究結果に基づいた“GS 1826-24”の地球からの距離(左側)と密度(右側)の推定結果。距離は、今回の研究結果(Updated)と従来の推定値(AME’20)が重なっておらず、全く異なる値であることが分かる。密度は、今回の研究結果(水色)が、他の推定結果(灰色)に比べて低密度の領域(グラフ下側)に分布していることが分かる。(Credit: X. Zhou, et.al.)
今回の研究結果に基づくと、“GS 1826-24”というX線バースターは地球からの距離が約6.5%遠くなり、重力による赤方偏移の値が4.8%小さくなることが分かりました。

このことが意味しているのは、“GS 1826-24”の密度が中性子星としては低いこと。
低密度の中性子星の存在は、中性子星の基本的な物性の理解、ひいては物質一般に関する理解を変える可能性もあります。

今回の研究結果をX線バースターのデータに当てはめることで、早くもX線バースターの実験が1つ書き換えられたことになりますね。


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宇宙で最初に生まれた星々の中には太陽140個よりも重い巨大質量星が存在していた! 電子対生成型超新星の痕跡で分かったこと

2023年06月25日 | 宇宙 space
国立天文台と中国国家天文台などの研究チームは、すばる望遠鏡を用いた観測により、宇宙で最初に生まれた星々の中には太陽140個分以上の重さの巨大質量星が存在したことを初めて明確に示しました。

ビッグバン後の宇宙で、どのように星が生まれてくるのかを理解するうえで重要な研究成果になるようです。
図1.巨大質量の初代星による超新星爆発のイメージ図。星団のなかで最も質量の大きな星が最初に爆発し、周囲に物質を放出すると考えられる。(Credit: 中国国家天文台)
図1.巨大質量の初代星による超新星爆発のイメージ図。星団のなかで最も質量の大きな星が最初に爆発し、周囲に物質を放出すると考えられる。(Credit: 中国国家天文台)

初代星には大質量星が多く含まれていた

宇宙で最初に生まれたのは、どんな星だったのでしょうか?

このことは、ビッグバン後の宇宙でどのように物質が集まって天体を形成するようになったのかを、解き明かすうえで最大の疑問のひとつになっています。
最初の天体形成は、ビッグバン後の宇宙に存在した物質密度の不均一から始まる。膨張する宇宙のなかで、密度の高いところには重力の作用でますます物質が集まり星が生まれる。
最初の星々(初代星)は、水素とヘリウムのみから成るガス雲から生まれ、星の中の核融合や超新星爆発によって新たな元素を作り出し、多様な物質の世界を形作る最初の一歩になりました。

そんな初代星には、現在の宇宙にはほとんど存在しない大質量星が多く含まれていた可能性が理論的に示されています。

太陽の140倍を超える質量の星は、強烈な紫外線放射で星の周囲だけでなく宇宙全体の環境を変えるとともに、爆発エネルギーの大きな超新星(電子対生成型超新星)爆発を引き起こして、次世代の星の形成にも大きな影響を与えた可能性があります。
これまでの“すばる望遠鏡”の観測でも、通常の重力崩壊型超新星では説明できない特異な組成を持つ星が見つかっていて、巨大質量星の存在は示唆されていたが、超新星の理論モデルで説明しきれない問題も残されていた。(ハワイ観測所 2014年8月21日 観測成果)

ビッグバン後まもなく誕生した低金属星の組成

大質量星の存在を示す明確な観測的証拠を求めて、遠方の銀河や銀河間物質の観測とともに、天の川銀河の中の年齢の高い星の観測が行われてきました。

年齢の高い星はビッグバン後まもなく誕生し、水素とヘリウム以外の元素をわずかしか含まないのが特徴で、“低金属星”とも呼ばれます。

低金属星の中には、初代星が放出した物質を取り込んだガス雲から生まれてきた“第2世代”とも呼べる星もあり、その星の元素組成は初代星の超新星が作り出した物質を記録しています。

特に巨大質量星が起こす電子対生成型超新星は、通常の重力崩壊型超新星とは大きく異なる元素組成を作り出します。
なので、低金属星の組成を測定すると、その痕跡を見分けることができると考えられています。
太陽質量の数十倍の大質量星は、進化の最期に中心部の崩壊とともに大爆発(重力崩壊型超新星)を起こし、ブラックホールもしくは中性子星を形成する。その際に放出するのが、炭素から鉄までの多様な元素になる。これに対し、太陽質量の140倍以上の大質量星では、中心部があまりに高温になるので、電子・陽電子対を形成して崩壊し、その際に起こる核融合の暴走で爆発(電子対生成型超新星)する。さらに、太陽質量の300倍を超えると核融合の暴走でも星の崩壊を止めきれず、ブラックホールになるとされている。

巨大質量星が起こす電子対生成型超新星の痕跡

国立天文台と中国国家天文台などの研究者からなる国際研究チームは、中国の分光探査望遠鏡“LAMOST”で天の川銀河のなかの低金属星を多数見つけ出し、すばる望遠鏡を用いた観測で詳細な元素組成を測定する研究を積み重ねてきました。

そして、そのうちの1つである“LAMOST J101051.9+235850.2”が、電子対生成型超新星が作り出す特徴的な元素組成を示すことを発見しました。(図2,3)
研究チームは、分光探査望遠鏡“LAMOST”による分光サーベイで観測された星から、銀河系の初期に生まれた小質量星の候補を多数選び出し、これまでに約500天体を“すばる望遠鏡”の高分散分光器“HDS”で詳しく調べてきた。“LAMOST J101051.9+235850.2”は、“LAMOST”による探査の段階で特異な組成を持つ可能性が示唆されていて、“すばる望遠鏡”により詳しい元素組成が測定された。
原子番号の奇数番(ナトリウムなど)と偶数番(マグネシウムやカルシウムなど)の元素の組成比に大きな差があるのが、電子対生成型超新星の特徴になります。
今回の発見は、理論の予測によく一致する結果になったわけです。

これは、これまでに見つかっている中で最も明確な電子対生成型超新星の痕跡といえるもので、初期の宇宙で太陽の140倍以上の質量を持つ星が形成されたとする理論を強く支持する結果になりました。
図2.巨大質量星の痕跡を初めて明確に示した天体“LAMOST J101051.9+235850.2”の可視光線画像(SDSSによる)。しし座の方向約3000光年彼方に位置する太陽よりやや軽い主系列星で、見かけの明るさは約16等級。(Credit: SDSS/国立天文台)
図2.巨大質量星の痕跡を初めて明確に示した天体“LAMOST J101051.9+235850.2”の可視光線画像(SDSSによる)。しし座の方向約3000光年彼方に位置する太陽よりやや軽い主系列星で、見かけの明るさは約16等級。(Credit: SDSS/国立天文台)
図3.“LAMOST J101051.9+235850.2”の元素組成比(赤丸)と超新星爆発の理論モデルの比較。上段で示している10太陽質量の星が起こす重力崩壊型超新星のモデルでは元素組成と全く合っていない。中段は、85太陽質量というかなり大質量の星が起こす重力崩壊型超新星の場合で、観測結果と部分的に合うが、ナトリウム“Na”やマグネシウム“Mg”のほか、マンガン“Mn”やコバルト“Co”の組成が合っていない。下段で示したのが260太陽質量の星が起こす電子対生成型超新星のモデルで、観測結果を最もよく説明できている。(Credit: 中国国家天文台)
図3.“LAMOST J101051.9+235850.2”の元素組成比(赤丸)と超新星爆発の理論モデルの比較。上段で示している10太陽質量の星が起こす重力崩壊型超新星のモデルでは元素組成と全く合っていない。中段は、85太陽質量というかなり大質量の星が起こす重力崩壊型超新星の場合で、観測結果と部分的に合うが、ナトリウム“Na”やマグネシウム“Mg”のほか、マンガン“Mn”やコバルト“Co”の組成が合っていない。下段で示したのが260太陽質量の星が起こす電子対生成型超新星のモデルで、観測結果を最もよく説明できている。(Credit: 中国国家天文台)

今回の結果は、巨大質量の星が存在していたことをこれまでになくはっきりと示し、初期の宇宙に誕生した星の質量分布を探るうえで重要なものと言えます。

では、初代星の中でどのくらいの割合の星が巨大質量だったのでしょうか?

このことは、次に解き明かすべき大きな課題になります。
そのためには、さらに多くの星を探査し、その元素組成を測定する研究を積む必要がありますね。
研究者からのコメント動画(Credit: 国立天文台)


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潮汐力による過熱は期待できないけど、天王星の4つの氷衛星にも内部に海が存在する?

2023年06月23日 | 天王星・海王星の観測
太陽系で2番目に遠い軌道を約84年の周期で公転している惑星が天王星です。

天王星は、太陽系の惑星の中では木星、土星に次いで3番目に大きく、木星、土星、海王星に次いで4番目に重い天体。
ガス惑星と呼ばれる木星や土星、海王星と同様に、水素とヘリウムを主成分とする大気を持っていて、惑星の分類としては木星、土星、海王星と共にガス惑星(木星型惑星)に含まれ、その中でも氷惑星(天王星型惑星)に分類されています。

今回の研究で指摘しているのは、天王星の4つの氷衛星“アリエル”、“ウンブリエル”、“チタニア”、“オベロン”の地下に海がある可能性です。

土星の衛星エンケラドスをはじめ、木星の衛星エウロパや海王星の衛星トリトンなどでも、潮汐加熱によって氷衛星の内部に広大な海が存在する可能性が指摘されています。

これらの衛星は外殻から間欠泉“プルーム”が噴出するなど活動が盛んで、衛星の表面は地質学的に短いタイムスケールで更新されていると考えられています。

ただ、過去の研究で明らかになっていたのは、天王星の4つの衛星には潮汐力がほとんど働かないこと…

それでは、地下海が維持されているとしたら何が内部を温めているのでしょうか?

どうやら、放射性物質の崩壊による加熱や不凍剤の役割を果たすアンモニア、断熱性のある多孔質の岩石が関わっているようです。

氷を主成分にする天王星の5大衛星

現在、天王星には27個の衛星が見つかっています。

なかでもサイズが大きな“ミランダ”、“アリエル”、“ウンブリエル”、“チタニア”、“オベロン”は、天王星の5大衛星として知られているんですねー
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した天王星とその衛星。最も大きな5つの衛星であるミランダ、アリエル、ウンブリエル、チタニア、オベロンのほか、6番目に大きな衛星のパックも映っている。(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI)
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した天王星とその衛星。最も大きな5つの衛星であるミランダ、アリエル、ウンブリエル、チタニア、オベロンのほか、6番目に大きな衛星のパックも映っている。(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI)
これらの衛星は氷を主成分とすることから氷衛星と呼ばれていて、条件次第では地下に液体の水が豊富な層、すなわち地下海が存在する可能性があります。

特に大きいチタニアとオベロンについては、海水に不凍剤(0℃を下回る温度でも水の凍結を防ぐ物質)の役割を果たすアンモニアが融け込んでいれば、現在も地下海が維持されているのではないかとする予測もありました。

さらに、ごく最近の火山活動の痕跡と思われるデータが得られたアリエルは興味深い観測対象といえます。

でも、近年になって分かってきたのは、そのような海水は物質として不安定であり、少なくとも不凍剤の存在だけでは地下海を維持できないことでした。

一方で、近年の惑星探査機の活躍により、これまでの予想よりもはるかに多くの天体が地下海を持つ可能性が浮かび上がってきています。

活発にプルームを噴出させている土星の衛星エンケラドスをはじめ、小惑星帯の準惑星ケレス、冥王星および衛星カロンがその一例になります。
エンケラドスの南極付近には間欠泉があり、水のプルーム(水柱)が時々宇宙空間へと放出されている。
これらはどれも近年に接近探査が行われた氷を主成分にする天体であり、天王星の5大衛星はこれらの天体とほぼ同じ大きさを持っています。

他の氷天体のデータを元に地下海の有無を検討

今回の研究では、これまでに行われた氷を主成分にする天体の探査データを元に、天王星の5大衛星における地下海の有無について検討を行っています。
この研究を進めているのは、ジェット推進研究所(JPL)のJulie Castillo-Rogezさんの研究チームです。
検討されたデータは、1986年にフライバイ探査を行ったNASAの惑星探査機“ボイジャー2号”で取得されたものしかなく、5大衛星については表面の約40%分のデータしかありませんでした。

観測データは限られていましたが、それでも他の天体のデータと照らし合わせることで、内部構造を推定したり、特に重要な天体内部の熱の動きを詳細に検討することができます。

分析の結果、5大衛星の表面付近の岩石は多孔質であり、内部の熱を保持する断熱性が高いことが判明。
また、衛星の誕生直後の数百年間は寿命の短い放射性物質の崩壊で熱が発生し、その余熱が内部の氷を融かす主要な熱源になることも判明しました。

潮汐力に加熱は期待できない

一方で、他の氷天体で考慮される潮汐力は、5大衛星ではほとんど存在しないことも明らかになります。
潮汐力は、重力によって起こる二次的効果の一種。天体の各部分に働く重力と天体の重心に働く重力とに差があるため起こる。
5大衛星に潮汐力がほとんど働かないことは過去の研究でも示されていたことでした。
今回の研究で分かったのは、潮汐力が生じたのは衛星が誕生した直後の軌道が不安定だった時期のみだということ。

潮汐力が働く天体では摩擦熱が生じ、内部を温める潮汐加熱と呼ばれる現象が起きることがあります。
衛星の軌道が円形でないとき、惑星から遠いときはほぼ球体の衛星も、接近するにしたがって惑星の重力で引っ張られ極端に言えば卵のような形になる。そして惑星から遠ざかるとまた球体に戻っていく。これを繰り返すことで発生した摩擦熱により衛星内部は熱せられる。このような強い重力により、天体そのものが変形させられて熱を持つ現象を潮汐加熱という。
木星の衛星エウロパ、土星の衛星エンケラドス、海王星の衛星トリトンといった天体では、潮汐作用による惑星内部の過熱“潮汐加熱”を熱源とした低温火山活動によって、地下から水などの物質が噴出していると見られている。
でも、天王星の5大衛星では、潮汐力の影響が最も大きかったミランダやアリエルにおいてさえ、内部の過熱は放射性物質の崩壊熱よりもずっと小さいことが判明しています。

さらに、潮汐力が強すぎると表面の岩石の多孔質性が失われてしまい、余熱を保持する断熱性能がが失われてしまう負の効果も判明しました。

4つの衛星には現在でも地下海が維持されている

これらを考慮して分かってきたのは、アリエル、ウンブリエル、チタニア、オベロンはサイズが十分大きいので、現在でも地下海が維持されている可能性をがあること。
一方、5大衛星の中で最も小さく、内部の熱が失われる速度が速いミランダの地下海は、誕生から10億年後までに凍り付いた可能性があることが分かりました。

4つの衛星に地下海が存在する場合、アンモニアに加えて塩化物が不凍剤として機能することで、地下海の平均水温は-5℃から-30℃であると推定されています。

地下海の推定される規模は、チタニアとオベロンでは深さが50キロ以下、アリエルとウンブリエルでは深さ25キロ以下になります。
今回の研究で推定された5大衛星の内部構造。アリエルとウンブリエルには深さ25キロ以下、チタニアとオベロンには深さ50キロ以下の海が地下に存在することが推定された。一方、ミランダの地下海は完全に凍結していると推定されている。(Credit: NASA/JPL-Caltech)
今回の研究で推定された5大衛星の内部構造。アリエルとウンブリエルには深さ25キロ以下、チタニアとオベロンには深さ50キロ以下の海が地下に存在することが推定された。一方、ミランダの地下海は完全に凍結していると推定されている。(Credit: NASA/JPL-Caltech)
その他の成果としては、ミランダには明確な核が存在しないこと、アリエルとウンブリエルには水を含んだ岩石の核、チタニアとオベロンは外側に水を含んだ岩石があり内側に乾いた岩石でできた核があると推定されました。
さらに、どの天体にも金属が主体の核は存在しないようです。

ただ、本当に地下海が凍結せずに現在まで残っているのかは、まだはっきりと分かっていません。

チタニアとオベロンにおける深さ50キロという地下海の規模は最大限の見積もりなんですが、氷天体の地下海としてはかなり小さい規模になります。

また、今回のモデル計算では、液体の水で構成された海ではなく、液体の水が隙間を満たした岩石の形で存続している可能性も指摘されています。

地下海の有無や、存在する場合どのような状態なのかは、各衛星の磁場を測定することで分かるかもしれません。

ただ、海水に含まれるアンモニアや塩化物が多い場合、海水による磁場はほとんど発生しなくなるので、観測による証明が困難になる可能性もあります。

NASAとアメリカ国立科学財団(NSF)は、10年ごとに“惑星科学10か年計画(Planetary Science Decadal Survey)”と呼ばれる計画書を出版していて、その時点での惑星科学における謎や課題、それらを解決するために推奨される探査や観測計画を取り上げています。

2023年はちょうど3冊目の計画が開始される時期。
その計画書の中で最優先課題として取り上げられているのが、天王星の周回探査計画なんですねー

計画にはもちろん5大衛星の観測も含まれているので、天王星の探査ミッションなどを通して、将来的には5大衛星の地下海の有無について、もっと多くのことが分かるようになるはずですよ。


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“怖いバービー”の正体は? ブラックホール? 何もないところに突然現れ、長期間に渡って大量のエネルギーを放出している天体

2023年06月21日 | ブラックホール
超新星爆発やクエーサーをはじめ、宇宙には高エネルギーな天文現象が数多くあります。

このような天文現象を一度に多数観測することも、観測能力の向上とともに容易になってきました。

でも、観測される数が増えたことで、これまでの分類には当てはまらない天文現象も多数見つかることに…
新たな謎も増えることになったんですねー

これらの天文現象に関する理解は、今もなお発展途上なようです。

突然現れた天文現象“怖いバービー”

こぎつね座に現れた天文現象“AT 20211wx”も、そんな謎多き天体の1つです。

“AT 20211wx”という名称は突発天体に付けられるカタログ名になります(ATは突発天体を意味するAstronomical Transientの略)。

この天体は、他にも小惑星地球衝突最終警報システム(ATLAS)による“ATLAS20bkdj”、ツビッキー掃天観測(ZTF)による“ZTF20abrbeie”、パンスターズ(Pan-STARRS)による“PS22iin”といった別名を持っています。

特にZTFによるカタログ名の末尾は“バービー(Barbie)”に似ていることから、“AT 20211wx”には“怖いバービー(Scary Barbie)”という通称が付けられています。

何もないところに突然現れ、長期間に渡って明るく輝く天体

“AT 20211wx”はATLASによって2020年11月10日に初めて観測されましたが、その後3年が経っても明るく輝いています。

通常、超新星が明るく輝く期間は長くても数か月であることを考えると、長期間に渡る“AT 20211wx”の輝きは注目すべき現象でした。

また、通常の超新星であれば、爆発した星が属していた銀河なども観測されるものです。

でも、“AT 20211wx”の場合、その位置に天体が観測された記録はありませんでした。

つまり“AT 20211wx”は、「何もないところに突然現れ、長期間に渡って大量のエネルギーを放出しているように見える天体」っということになるんですねー
“AT 20211wx”が観測された前後の天文画像。“AT 20211wx”が現れた場所に(左側)、発生前は何も写っていないように見える(中央および右側)。(Credit: Subrayan, et.al.)
“AT 20211wx”が観測された前後の天文画像。“AT 20211wx”が現れた場所に(左側)、発生前は何も写っていないように見える(中央および右側)。(Credit: Subrayan, et.al.)
“AT 20211wx”の見た目の明るさと、地球から約80億光年という距離をもとに計算すると、“AT 20211wx”のピーク時の明るさは7×10の38乗W、エネルギーの総放出量が1.5×10の46乗Jであると推定されます。

これは、ピーク時の明るさが太陽の約2兆倍であり典型的なクエーサーに匹敵し、エネルギーの総放出量は典型的な超新星爆発の100倍に匹敵する値になります。

ピーク時の明るさと総エネルギー、そして過去その位置に天体が見つかっていないという点で、“AT 20211wx”は非常に謎の多い天体と言えます。

“AT 20211wx”の明るさやエネルギーの値は、クエーサー以外の天体では観測史上最大規模であり、研究チームはこれを“宇宙最大”の爆発だと表現しています。

物質が降着したブラックホールの活動

パデュー大学のBhagya M. Subrayanさんたちの研究チーム、およびサウサンプトン大学のP. Wisemanさんたちの研究チームは、それぞれ独立して“AT 20211wx”の研究を進めていました。

“AT 20211wx”の正体については、2つの研究チームの見解は一致。
ブラックホールの一時的な活動であると考えています。

ブラックホールそのものは、電磁波を何も放射しないので直接観測できません。
でも、ブラックホールの周辺に物質が供給されると、強い重力によって激しくかき回されて高温に加熱された物質からは、X線から電波まで様々な波長の電磁波としてエネルギーが放出されます。
ブラックホールに物質が降着している様子(イメージ図)。“AT 20211wx”もこのような天体であると想像される。(Credit: John A. Paice)
ブラックホールに物質が降着している様子(イメージ図)。“AT 20211wx”もこのような天体であると想像される。(Credit: John A. Paice)
これを遠く離れた私たちが見れば、非常に大規模なエネルギー放出現象が突然現れたように見えるわけです。

ただ、両チームの結論は細かい点で異なっていました。

Subrayanさんたちの研究チームは、ブラックホールの質量を太陽の1億7000万倍、供給された物質は太陽の約14.28倍の質量を持つ恒星だと推定。

これに対してWisemanさんたちの研究チームは、ブラックホールの質量は太陽の1億倍から10億倍あり、供給された物質も恒星のような一塊の物体ではなく、水素やチリを含むガスのような変形しやすい物体だと推定しています。

Subrayanさんたちの研究チームよりも後に論文が公開されたWisemanさんたちの研究チームによれば、X線以外の波長での観測結果がチリの存在を示唆していることや、ガス状の物質が降着円盤を構築しているモデルの方が、潮汐力によって破壊された恒星のモデルよりも観測結果と適合していることを根拠に、ブラックホールにガスが降着した説を提唱しているそうです。
潮汐力は、重力によって起こる二次的効果の一種。天体の各部分に働く重力と天体の重心に働く重力とに差があるため起こる。
超大質量ブラックホールに星が十分に接近したことで、ブラックホールの潮汐力に引きちぎられてスパゲッティ化する天文現象を潮汐破壊現象(星潮汐破壊現象)という。破壊された星の残骸はブラックホールへ取り込まれることになる。ブラックホールへ落下する物質は角運動を持つので、降着円盤と呼ばれるへんぺいな円盤をブラックホールの周囲に作る。
ブラックホールの質量や供給された物質の正体については、現在の観測データで結論を出すには不十分とのこと。
より多くの継続観測が求められているので、“AT 20211wx”の正体に迫るにはもう少し時間が掛かりそうですね。


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