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太陽研究の大きな課題“コロナ加熱問題”を解明できるかも。太陽観測ロケット“FOXSI-3”が打ち上げと観測に成功!

2018年09月30日 | 太陽の観測
太陽観測ロケット“FOXSI-3”が、世界で初めて軟X線の低エネルギー域で太陽コロナを撮像分光観測することに成功しました。

わずか6分間の観測で、これまでに誰も手にしたことがないデータを手に入れることができたんですねー

これにより期待されるのが、高エネルギー現象やナノフレアの理解が進むこと。
太陽研究における大きな課題も解明されるかもしれませんよ。


“FOXSI-3”の打ち上げと世界初の観測

国立天文台や名古屋大学が研究を進めている“FOXSI”は、観測ロケットで太陽のコロナが放つX線を集光撮像分光観測する日米共同プロジェクトです。

その3号機になる“FOXSI-3”が、9月8日にニューメキシコ州のホワイトサンズ観測ロケット打ち上げ場から打ち上げられました。

“FOXSI-3”は最高到達高度約300キロの弾道軌道で約15分間飛翔。
X線輝度の異なる3つの太陽コロナ領域“活動領域”、“静穏領域”、“太陽の北極域”を約6分間観測しています。
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研究チームと“FOXSI-3”が搭載された観測ロケット。
“FOXSI-3”に搭載されているのは、硬X線域(主に4~20キロ電子ボルトの高エネルギー域)を観測する6本の望遠鏡と、軟X線域(主に0.5~10キロ電子ボルトの低エネルギー域)を観測する1本の望遠鏡。

この望遠鏡を使って、広い範囲のエネルギーのX線を観測して太陽コロナの超高温プラズマや、非熱的プラズマを詳細に調査できるようになっています。

このうち今回新たに採用されたのが軟X線域用の望遠鏡です。
1秒間に250枚の撮像が可能なカメラや、可視光線を遮りX線だけを透過するフィルターなどにより、世界で初めて太陽コロナの軟X線撮像分光観測に成功したんですねー
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“FOXSI-3”に搭載された7本の望遠鏡(左側)と7個の検出器(右側)。
“FOXSI-3”の科学的目的は、太陽コロナにおけるエネルギー開放・粒子加速・加熱などの高エネルギー現象の理解です。

そのうちの1つが“ナノフレア”がコロナ加熱へどのように影響しているかを調べること。

太陽の表面温度は約6000度なのに、数千キロ上空のコロナの温度は100万度という超高温になります。

この加熱メカニズムはまだ分からず… なぜ、こんなに高温になるのでしょう?
“コロナ加熱問題”と呼ばれるこの謎の解明は太陽研究における大きな課題になっているんですねー

  “ひので”と“IRIS”がとらえた太陽コロナ加熱メカニズム
    

“ナノフレア”は、通常の太陽フレア(爆発現象)の10億分の1程度の極めて小さなフレアです。
でも、この現象によって1000万度の高温のプラズマが生成されると考えられていて、コロナ加熱を引き起こす有力な候補の1つと見られています。

今回、わずか6分間の観測で、これまでに誰も手にしたことがないデータを手に入れることができました。

今後、このデータを解析すれば、“ナノフレア“とコロナ加熱の関係について何か分かってくるのかもしれません。

太陽コロナの中に1000万度の高温プラズマが恒常的に存在すれば、問題は一発で解決できそうですね。
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2017年8月に北米で見られた皆既日食のコロナ。


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誕生は10億個の彗星の衝突から! 多様な物質や地形から分かる冥王星がたどった豊かな歴史

2018年09月28日 | 冥王星の探査
多くの研究者が「クレーターだらけの退屈な氷の塊」っと思っていた冥王星。

でも、NASAの探査機“ニューホライズンズ”の観測により、そのイメージは変わることになりました。

実際の冥王星はハート模様やクジラのような模様、氷河や氷の火山などが見られ、驚くほど多様な物質や地形に彩られていたんですねー

今回は2006年まで太陽系の第9惑星で、現在は準惑星に分類されている冥王星誕生のお話し。

冥王星の観測データと、探査機“ロゼッタ”で得られた彗星の化学組成のデータから分かってきたことは、冥王星はたくさんの彗星が集積して形成された天体だということでした。


2つの探査機の観測データから得られた理論

アメリカ・サウスウエスト研究所のチームが、2つの観測データを組み合わせて新しい理論を構築しました。

用いられたのはNASAの探査機“ニューホライズンズ”による冥王星の観測データと、ヨーロッパ宇宙機関の探査機“ロゼッタ”による“チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星”の観測データ。

そして、分かってきたのが冥王星がどのように形成されたのかを説明する新しい理論でした。
  研究チームはこの新しい冥王星形成モデルを“巨大彗星・宇宙化学モデル”と呼んでいる。
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“ニューホライズンズ“が撮影した巨大な氷床“スプートニク平原”は、
冥王星表面にあるハート模様の左半分を占めている。
今回の研究で中心になったのは、冥王星の“スプートニク平原”にある窒素の豊富な氷でした。
  “スプートニク平原”は大きな氷床で、
  “トンボー領域”という明るいハート型地形の左半分を形作っている。


研究チームは、“チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星”に似た化学組成を持つ彗星や別種のカイパーベルト天体がおよそ10憶個ほど集積して、冥王星が作られたと仮定。

すると、冥王星に存在するであろう窒素の量は、実際に“ニューホライズンズ”で観測された“スプートニク平原”の窒素の量とほぼ同じになる っという興味深い結果が得られたんですねー
  さらに、彗星が集まって冥王星ができたというモデルに加えて、
  太陽に近い化学組成を持つ低温の氷が集積してできたというモデルについても
  同様に調査している。



冥王星にもあった豊かな歴史

今回のモデルを作る上で研究チームが進めたのは、現在の冥王星の大気や氷床に存在する窒素の量の把握でした。

それだけでなく、冥王星ができてから現在までの数十億年にわたって、どれくらい窒素が大気から宇宙空間に逃げたのかについても見積もっているんですねー

さらに、より完全なモデルにするために必要だったのが、窒素に対する一酸化炭素の比率についてもモデルと観測値とを合わせることでした。

ただ、このモデルによる予測では、現在の冥王星に存在する一酸化炭素の量が実際よりも多くなってしまうことに…

これについては、一酸化炭素の氷の中に埋もれているか、あるいは液体の水の作用で分解されてしまったと考えることもできます。

冥王星の元々の化学組成は、冥王星を形作った彗星の組成を引き継ぐことになり、のちに液体の水によって科学的に変えられた。
っということが今回の研究から示唆されたことになります。

もしかすると、冥王星の地下海の水によって変化したという可能性もあります。

今回の研究は“ニューホライズンズ”や“ロゼッタ”ミッションの成果を基にして、冥王星の起源や進化に関する理解をさらに広げるものとなりました。

そして新たに分かってきたことは、今日の冥王星に見られる特徴は、遠い昔から現在までの冥王星の形成過程に由来していたことでした。

冥王星は退屈な氷の塊ではなかったんですね。
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“ニューホライズンズ”の可視光・赤外線撮像分光装置“Ralph”がとらえた冥王星の表面の組成。
左上から時計回りに、メタン(CH4)、窒素(N2)、一酸化炭素(CO)、
水(H2O)が豊富な領域を表していて、“スプートニク平原”に窒素が多いことが分かる。


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天王星の自転軸はどうやって横倒しになったのだろう? シミュレーションから分かった天体衝突のシナリオ

2018年09月23日 | 天王星・海王星の観測
今回は、望遠鏡を使って発見された最初の惑星“天王星”のお話し。

天王星は太陽系7番目の惑星で、太陽からあまりにも遠いので公転に84年もかかるんですねー
不思議なのは、天王星の自転軸の傾きがほぼ横倒しになっていること。

天体の衝突が原因として考えられていたのですが、シミュレーションの結果からより詳細な衝突のシナリオが明らかになったようです。

かするように衝突したのは地球の2倍の天体

天王星の自転軸は公転面に対して97.9度傾いていて、ほぼ横倒しの状態で太陽の周りを回っています。

この大きな傾きの原因として考えられているのが、約40億年前に起こった天体衝突です。
ただ、その詳細なシナリオは分かっていませんでした。
ハッブル宇宙望遠鏡が2000年に撮影した天王星。
ハッブル宇宙望遠鏡が2000年に撮影した天王星。
今回の研究では、天王星の自転軸の傾きに影響を与えたとされる衝突を、コンピュータ・シミュレーションによって詳しく調べています。

50通り以上の衝突シナリオのシミュレーションから分かったのは、衝突は正面からではなかったこと。
地球の2倍以上の質量を持つ天体が、元々の天王星にかするように衝突したようです。

この衝突はとても強く、天王星の形を作り直し天体を横向きに傾けてしまいます。

でも、天王星の大気を宇宙空間に吹き飛ばしたり、公転軌道を大きく変えるほど強くはなかったようです。

衝突による影響は他にもあり、惑星の内部に溶けた氷や、偏った岩塊が残された可能性もあるんだとか。このことが天王星の磁場が傾いていて中心からズレている原因なのかもしれません。

一方、投げ出された岩や氷は再び集まり、天王星の輪や内側の衛星になることに。
さらには、衝突以前から存在した衛星の軌道を変えてしまった可能性もあるんですねー

天王星くらいの大きさの岩と氷の核を持つガスタイプの系外惑星は、NASAの系外惑星探査衛星“ケプラー”によって数多く発見されています。

なので今回のシミュレーションは、太陽系内の天王星の進化を説明するだけでなく、系外惑星の研究にも役立つことになりますね。


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恒星が暗くなった原因を調べていくと、惑星が生まれる現場で起こる衝突が関わっていることが分かってきた

2018年09月22日 | 宇宙 space
若い恒星の周囲には円盤があり濃いガスが回転しています。

このガスが恒星や惑星の材料になるのですが、ここ数年間で鉄の量が10倍も増えていることが恒星のX線観測から分かったんですねー

なぜ、円盤内で鉄の量が増えたのでしょうか?


ヒントは恒星が暗くなった原因にある

地球から約450光年彼方に位置する“ぎょしゃ座RW星A”は、誕生から数百万年ほどしかたっていない若い恒星です。

この恒星は数十年周期で明るさが変化していて、暗い期間が1か月ほど続いていました。

そして2011年のこと、この変光パターンに変化がみらます。恒星が暗い期間が約半年も続いたんですねー

さらに、2014年の中頃にも暗くなり、最も明るい状態に戻ったのが2016年11月。
でも、その2か月後の2017年1月に再び暗くなってしまいます。

MITカブリ物理学宇宙研究所の研究チームは、可視光線で明るかった2013年と、可視光線でもX線でも暗かった2015年および2017年に“ぎょしゃ座RW星A”を観測。観測にはNASAのX線天文衛星“チャンドラ”使われています。

その結果明らかになったのが、2017年に星が暗くなった原因は、高密度のガスによって星の光が遮られたことでした。


大量の鉄はどこから来たの?

鉄原始からの強い放射が見られたのが2017年のX線観測でした。

星が明るかった2013年と比べると、少なくとも10倍以上の鉄が星を取り囲んでいる円盤に含まれていることが分かります。

そこで、研究チームが考えた鉄の由来は、2つの原始惑星の衝突で生じた残骸にあるというもの。
少なくとも一方は惑星になれるほど大きく、部分的に鉄を含んでいたそうです。

“ぎょしゃ座RW星A”のような非常に若い恒星の周囲には、ガスやチリ、微小天体などで構成される円盤“原始惑星系円盤”が広がっています。

こうした円盤内には原始惑星も存在している可能性もあり、成長途中の2つの天体が衝突すると惑星の残骸ができます。

その残骸が中心にある恒星へ落ち込んでいくと、チリとガスの厚い層が形成されるんですねー
この厚い層が星からの光を一時的に遮っていたということです。
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残骸に取り囲まれた“ぎょしゃ座RW星”のイメージ図とX線スペクトル
惑星が若い恒星へ向かって落ち込むことは、コンピュータ・シミュレーションによってかなり前から予測されていました。

このデータの解釈が正しければ、今回の観測は、若い恒星が惑星を飲み込んでいる様子を初めて直接とらえたものになりそうです。

今後の観測で恒星の周囲の鉄の量が変化するかどうかが分かれば、鉄の供給源になった天体の大きさが分かる可能性もあります。

たとえば、今後1年から2年の間に鉄の量が変わらなければ、供給源になった天体の質量は比較的大きいと考えられます。

系外惑星とその形成プロセスを理解するために、現在多くの研究が進められています。

恒星や他の若い惑星との相互作用で、若い惑星がどのように破壊される可能性があるのか?

また、惑星が生き残る要因が何かの理解が進めば、私たち地球の生い立ちを知ることが出来るかもしれませんね。


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大質量星の一生を理解していくと宇宙のことが分かってくる

2018年09月17日 | 宇宙 space
一生を終えつつある大質量星から定期的に放出されるガス。
このガスに伴う衝撃波が、星のごく近くに形成されている様子が初めて観測されたんですねー

このことは、高い波長分解能を持つ最新の近赤外線分光装置を用いて分かったこと。
星の周囲に放出されたガスの空間構造と速度構造を詳細に調べた結果でした。

大質量星がどのように一生を終えるのか? 星の一生についての謎が解明されるかもしれません。


大質量星の影響は銀河全体の進化にも及んでいる

星雲のようなガスの濃い領域。
ここで、ガスが互いの重力によって引かれあって集まると星が生まれるんですねー

生まれたての星が、さらにガスを得ると核融合反応を起こし主系列の星になり、一生のほとんどを主系列の星として過ごし、この先の晩年期の姿は星の質量によって大きく異なっていきます。
安定した核融合を行っている時期の恒星を主系列星と呼ぶ。恒星の進化の中で最も長い期間を占め、太陽をはじめとする多くの恒星が主系列星に分類される。

質量が太陽の8倍以上もある大質量星だと、核融合反応が進むにつれ星内部からの輻射圧が非常に強くなり、星は膨張していくことに…
光の輻射によって物質の表面が受ける圧力のこと。
高原が明るいほど物質が受ける輻射圧は強くなる。

輻射圧が星表面での重力よりも強くなってしまうと、星表面のガスは宇宙空間に放出されてしまい、星は“高光度青色変光星”と呼ばれる段階に移ります。

そして、ガスの放出を続けて質量を失った大質量星は、やがて超新星爆発を起こしてその一生を終えるていきます。

このように大質量星は、晩年期に多量のガスを回りの空間にバラ撒き星間物質の形態や性質に決定的な影響を与え、超新星爆発では重元素を生成するので、星間空間の化学組成を決定する役割も担います。

さらに、大質量星は非常に明るく輝くので、星間空間の分子や原子を壊す働きもしています。

こうした影響は銀河全体の進化にも及ぶので、大質量星を知ることは宇宙を理解することにもつながるんですねー


不明な点が多い天体“高光度青色変光星”

星の一生を解明する上で非常に重要な段階が、大質量星が一生を終える準備を始めた時の姿といえる“高光度青色変光星”です。

でも、およそ1000万年といわれる大質量星の寿命に対して、“高光度青色変光星”として存在する期間はわずか1万年程度…
非常にまれな存在なので、“高光度青色変光星”の詳細については詳しく分かっていませんでした。

特に“高光度青色変光星”がどのようなガス放出を起こすのかについては、恒星進化を調べるうえで非常に大切なカギなのに不明な点が多く残されたままです。

今回の研究では、太陽の80倍程度の質量を持つ高光度青色変光星“はくちょう座P星”を赤外線で観測。
この星は5500光年彼方に位置していて、“高光度青色変光星”としては地球から最も近い天体になります。
観測には、京都産業大学神山天文台の荒木1.3メートル望遠鏡と近赤外線高分散分光装置“WINEED”を用いている。

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“はくちょう座P星”周辺の赤外線画像。
中心の星は明るすぎるので、その影響を除くためマスク処理されている。
着色された領域は1600年の大規模爆発に伴うガス放出の領域。
“はくちょう座P星”は1600年に大規模な爆発を起こしていて、その際に放出された大量のガスによって、周囲には半径約2兆キロの衝撃波が作られています。

この衝撃波の存在は以前から知られていたことなんですが、今回の観測では星の近くに半径7000万キロの別の衝撃波の存在が明らかになったんですねー

星の近くの衝撃波についてさらに詳しく調べて分かったことは、突発的なガス放出で作られた外側の衝撃波とは異なり、星からの定期的なガス放出によって作られたということ。

このような衝撃波が“はくちょう座P星”に存在することは理論的には予測されていたことなんですが、観測で存在が示されたのは今回が初めてのことでした。

また、この星から放射されている一回電離した鉄イオンの輝線のほとんどが、新しく発見された内側の衝撃波によって作られていることも分かります。
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“はくちょう座P星”の周辺ガス(イメージ図)。
中心の星から放出されたガスが周りのガスにぶつかり、内側の衝撃波を作っている。
外側の球殻は1600年の爆発に伴う衝撃波。
今回の研究により、“高光度青色変光星”からの定期的なガス放出によって作られる衝撃波の存在と、その大きさが観測で初めて明らかになりました。

このサイズは理論モデルとよく一致していたので、理論モデルの正しさを立証する結果にもなっています。

大質量星はどれだけの速さで質量を失って一生を終えるのでしょうか?

定期的なガス放出に伴う質量損失率が正確に求められるようになったことで、大質量星の進化過程の理解が進みそうですね。


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