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ホットジュピター“WASP-76b”は光輪が確認された初の系外惑星かも? 虹色の円が何重にも重なる大気現象のメカニズム解明へ

2024年04月19日 | 系外惑星
最も研究されているホットジュピターの一つ“WASP-76b”では、金属鉄の雨が降るような極端な環境があると推定されています。
でも、観測データのすべてを科学的に解釈できる訳はなく、多くの謎も残されているんですねー

今回の研究では、“WASP-76b”の謎の一つである、“ターミネーターゾーン(昼側と夜側の境目)”における反射光の非対称性について調べています。

その結果、“WASP-76b”では“光輪”と呼ばれる大気現象が発生しているかもしれないというユニークな結果が得られました。

もし、この結果が正しい場合、“WASP-76b”は光輪の発生が確認された初の太陽系外惑星(系外惑星)になるそうです。
この研究は、ポルト大学のLlivier Demangeonさんたちの研究チームが進めています。
図1.“WASP-76b”で発生している光輪のイメージ図。(Credit: ESA & ATG)
図1.“WASP-76b”で発生している光輪のイメージ図。(Credit: ESA & ATG)


恒星に常に同じ面を向けている惑星の激しい気象現象

金属鉄の雨が降っていると推定されるのは、うお座の方向約640光年彼方に位置する系外惑星“WASP-76b”です。

質量は木星よりもやや小さいガス惑星で、中心星(恒星)“WASP-76”の周りをわずか1.8日で公転しているホットジュピターです。(太陽系で一番内側を回る水星でも公転周期は88日になる。)

恒星から“WASP-76b”までの距離が、約500万キロ(太陽から地球までの30分の1)しか離れていないので、“WASP-76b”は潮汐力によって恒星に常に同じ面を向けて公転しているようです。
この現象は、月が地球に同じ面を向けているのと同じですね。

この現象を“潮汐ロック”といい、主星と向き合う昼側と反対の夜側が固定されることで、“WASP-76b”は昼側と夜側とで1000℃以上という極端な温度差が生じる環境となり、昼側から夜側に向かう猛烈な大気の流れがあると考えられています。(※1)
※1.“WASP-76b”の昼側の気温は、観測値では約2200℃(2500±200K)。でも、ターミネーターゾーンで鉄の雨が降っているという推定の元となった中性鉄(イオン化していない鉄原子)の存在度を説明するには、昼側では2400℃以上、夜側では1400℃以下の気温が必要となる。
図2.系外惑星“WASP-76 b”のターミネーターゾーン(イメージ図)。昼側から運ばれた鉄の蒸気が、低温の夜側で冷えて雨粒となって降り注ぐ様子が描かれている。(Credit: ESO, M. Kornmesser & L. Calçada)
図2.系外惑星“WASP-76 b”のターミネーターゾーン(イメージ図)。昼側から運ばれた鉄の蒸気が、低温の夜側で冷えて雨粒となって降り注ぐ様子が描かれている。(Credit: ESO, M. Kornmesser & L. Calçada)
この激しい気象現象によって、昼側で蒸発した金属鉄が大気の流れに乗って、ターミネーターゾーンで凝縮することで“鉄の雨”が降っていると推定されています。

太陽系では決して見られないこの気象現象は、まったくの憶測で考えられたものではなく、多くの観測データを統合して得られたものです。

ただ、まだ適切な解釈が与えられていない観測データもあるんですねー
その一つが、ターミネーターゾーンの明るさの違いです。

本来、ターミネーターゾーンの明るさは、どの場所を見ても同じはずです。
でも、実際に“WASP-76b”で分かったのは、東半球のターミネーターゾーンの方が西半球のターミネーターゾーンよりも明るい、という違いがあることでした。

これまでの研究で使われる惑星の大気循環モデルでは、この差を説明することができていません。


局所的に光が増すような大気現象

今回の研究では、“WASP-76b”のターミネーターゾーンの明るさの違いについて、ヨーロッパ宇宙機関とスイス宇宙局が打ち上げた系外惑星観測衛星“ケオプス(CHEOPS)”の観測データを用いて進めています。

“ケオプス”は2020年からの3年間で、“WASP-76b”の観測を合計で23回行っていました。
また、研究チームでは“ケオプス”の観測データと他の宇宙望遠鏡(“TESS”、“ハッブル”、“スピッツァー”)の観測データを比較。
これにより、“WASP-76b”から来る反射光の光学的性質について正確な分析を行っています。

その結果分かったのは、東半球のターミネーターゾーンからくる反射光には、特定の狭い方向かつ非常に狭い範囲から来たものが含まれていることでした。

つまり、東側のターミネーターゾーンでは、局所的に光が増すような大気現象が起きていることになります。
このような光学的現象は地球でも起きていて、“光輪(グローリー)”と呼ばれています。

光輪は、虹色の円が何重にも重なっていて、一見すると虹に似ています。
でも、生じるメカニズムはそれぞれ異なっていて、光輪と虹は別の現象になります。(※2)
※2.一般的な虹は水滴の内部で屈折・反射した光が色(波長)ごとに分解されることで生じる。これに対し、光輪は虹が生じる時よりもずっと小さな水滴で発生し、より複雑な現象(水滴の近くを通過する光で生じるトンネル効果と干渉)によって発生すると考えられている。
また、地球で光輪が観測されるときは、光輪がしばしば観測者自身の影を囲っている状態で発生し、光輪と影がセットになったものは“ブロッケン現象”と呼ばれています。
図3.地球で発生している光輪をとらえた衛星画像。(Credit: NASA Earth Observatory image by Joshua Stevens, using MODIS data from LANCE/EOSDIS Rapid Response)
図3.地球で発生している光輪をとらえた衛星画像。(Credit: NASA Earth Observatory image by Joshua Stevens, using MODIS data from LANCE/EOSDIS Rapid Response)
光輪は、これまで地球と金星(※3)で観測されていますが、今回の研究が正しければ、“WASP-76b”は光輪の発生が確認された初の系外惑星になります。
※3.金星の大気には水がほとんど含まれていないので、金星の光輪は地球とは別のメカニズムで生じていると考えられる。金星大気には硫酸が豊富に含まれているが、純粋な硫酸では観測された現象を説明できないと考えられる。硫酸の滴の中心部に塩化鉄が含まれているか、あるいは滴の外側を単体の硫黄の殻が覆っていることで生じるとする説があるが、詳細は判明していない。
光輪として観測される光は非常に狭い角度に集中するので、“WASP-76b”と“ケオプス”が完璧な配置で並び、かつ光輪が発生する大気現象が揃わないと観測できません。
このような条件が、これまで他の系外惑星で光輪が観測されてこなかった理由となります。


光輪が発生するメカニズムの解明

地球では光輪の発生は珍しく、その上短時間で終わってしまいます。

“ケオプス”による“WASP-76b”の観測期間は短いので、高い頻度で光輪を観測するには、光輪が発生する大気条件が長期間維持されているか、高頻度で大気条件が揃っている必要があります。
でも、“WASP-76b”で光輪が発生するメカニズムの詳細は、ほとんど判明していません。

地球の光輪は大気中の水滴によって発生しますが、鉄も蒸発する“WASP-76b”の大気中に水滴があるとは考えられません。
でも、金属鉄が雨として降っているとすれば、水滴ならぬ“鉄滴”が光輪の発生に関与している可能性はあります。

ただ、高温の“WASP-76b”では、もっと複雑な大気化学現象が想定されます。
なので、研究チームではそれほど単純ではないと考えています。

高温で蒸発する物質(※4)がいくつか滴の候補として挙げられていますが、今のところどれが正しいのかは分かっていません。
※4.金属鉄のほかに、二酸化チタン(Ti02)、酸化アルミニウム(A1203)、チタン酸カルシウム(CaTi03)、硫化鉄(FeS)が候補に挙げられている。
また、“ケオプス”の観測データの解釈については、光輪以外で説明できる可能性も残されています。
このことから、“WASP-76b”で光輪が発生しているかどうかを確定するには、より多くの観測結果が必要となります。

“WASP-76b”が真の意味で光輪の発生が確認された初の系外惑星となるのでしょうか? それとも否定されるのでしょうか?
このことがはっきりするまでには、もう少し時間がかかるのでしょうね。


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なぜ表面温度が高いの? 観測的な証拠によって潮汐ロックが証明された初のスーパーアースを加熱しているもの

2024年04月18日 | 系外惑星
太陽以外の恒星を公転する“太陽系外惑星(系外惑星)”が初めて見つかったのは1995年のこと。
これまでに発見されている系外惑星の多くが、恒星のすぐ近くの軌道を公転しているものでした。

これらの系外惑星は、恒星から受ける潮汐力が大きいことから、地球の月のように公転周期と自転周期が一致し、常に同じ面を恒星に向けている“潮汐ロック”をしていると考えられています。

ただ、系外惑星の潮汐ロックは、ほとんどの場合推定にとどまっている状況です。
特に、地球より大きな岩石惑星“スーパーアース”では、これまで観測によって実証されたことはありませんでした。

今回の研究では、スーパーアースの一つ“LHS 3844 b”について、NASAの赤外線天文衛星“スピッツァー”の観測データを惑星モデルに当てはめることで、潮汐ロックの証拠が見つかるかどうかを検証しています。

その結果、得られたのは潮汐ロック以外の可能性を排除するもの。
このことから、“LHS 3844 b”は観測的に潮汐ロックが証明された初のスーパーアースとなるようです。
この研究は、北京大学のXintong Lyuさんたちの研究チームが進めています。
図1.“LHS 3844 b”は全体が黒い色をしていると推定されている。(Credit: NASA, JPL-Caltech & R. Hurt(IPAC))
図1.“LHS 3844 b”は全体が黒い色をしていると推定されている。(Credit: NASA, JPL-Caltech & R. Hurt(IPAC))


恒星の潮汐力により惑星の自転周期と公転周期が一致する現象

月は常に表側を地球に向けているので、私たちは裏側を見ることはできません。
これは、地球から受ける潮汐力によって月の自転周期が長くなり、公転周期と一致する値に固定されたことで生じる現象です。

潮汐ロックと呼ばれるこのような現象は、月に限らず、木星のガリレオ衛星や冥王星の衛星カロンなど、多数の例が知られています。

系外惑星では、しばしば恒星のすぐ近くの軌道を数時間から数日の周期で公転する例が知られています。
これらの惑星も恒星からの潮汐力を受けることで、潮汐ロックの状態にあるのではないかと考えられています。

でも、近いと言っても数光年離れている系外惑星の自転周期を測定することは簡単ではありません。
なので、潮汐ロックの状態にあると推定されている例のほとんどは、観測的に実証されている訳ではありません。

特に、地球よりも大きな岩石主体の惑星“スーパーアース”の潮汐ロックの例は、こえまで知られていませんでした。

スーパーアースが恒星の近くを公転していれば潮汐ロックを受けている可能性は高まります。
でも、それだけでは潮汐ロックの証拠として十分と言えないんですねー

例えば、長い間潮汐ロックを受けていると考えられていた水星です。
水星は、実際には2回公転する間に3回自転するという、公転周期と自転周期が2:3の共鳴関係にあることが判明しています。

これは、潮汐力による自転周期の固定が、潮汐ロック(1:1)以外の値でもあり得ることを意味している現象と言えます。
なので、恒星の近くを公転しているスーパーアースが、必ずしも潮汐ロックを受けているとは限らないことになります。

木星と似たタイプの惑星であるガスが主体の“ホットジュピター”とは異なり、潮汐ロックを受けているとみられるスーパーアースは大気をほぼ失っていて、恒星からの放射や宇宙から飛来する宇宙線などが地表に直接降り注ぎ、岩石が大きな風化を受けていると推定されます。

スーパーアースの岩石が風化している状況を知ることができれば、太陽系の中にある岩石主体の天体の風化度合いを知る手掛かりになるはずです。

このことから、スーパーアースが潮汐ロックを受けているかどうかは、その惑星における岩石の風化度合いを決定する大きな指標となります。
でも、潮汐ロックの実例が見つかっていないことが、研究を進めの妨げになっている訳です。


観測的な証拠によって潮汐ロックが証明された初のスーパーアース

今回の研究で対象となったのは、スーパーアースの一つ“LHS 3844 b”です。

“LHS 3844 b”は、多くの観測と研究が行われている系外惑星の一つで、国際天文学連合(IAU)が2022年に行った“太陽系外惑星命名キャンペーン2022”で“クアクア(Kua'Kua)”という固有名が付けられています。

“LHS 3844 b”は、NASAが運用していた赤外線天文衛星“スピッツァー”による観測データを分析した2019年の研究で、多くの性質が推定されています。
例えば、昼の温度は770℃(1040K)なのに対して、夜はほぼ絶対零度(0K)で、昼夜の温度差が1000℃もある極端な環境が示されてました。

昼夜にこれほどの温度差があり、特に夜側が低温であることから考えられるのは、“LHS 3844 b”には熱を伝達する大気はなく、かつ永久に昼夜が固定されている潮汐ロックを受けていることす。
でも、2019年の時点では、あくまでも推定にとどまっていました。
図2.“LHS 3844 b”の表面温度を、公転軌道の離心率と、自転周期が同期しているかどうかで推定したもの。潮汐ロックを受けている場合(赤色)が、表面温度を最もよく表している。例えば水星のような3:2の共鳴関係にある場合、潮汐力による加熱で1万℃以上の高温になってしまう。(Credit: Lyu, et al.)
図2.“LHS 3844 b”の表面温度を、公転軌道の離心率と、自転周期が同期しているかどうかで推定したもの。潮汐ロックを受けている場合(赤色)が、表面温度を最もよく表している。例えば水星のような3:2の共鳴関係にある場合、潮汐力による加熱で1万℃以上の高温になってしまう。(Credit: Lyu, et al.)
そこで、研究チームでは、大気がないという前提で“LHS 3844 b”のデータを惑星モデルに当てはめ、潮汐ロックを受けている場合と受けていない場合とを比較する形で、実際の観測データと最も一致するモデルを探しています。
その結果、永久に昼夜が固定されている潮汐ロックを受けている場合に、観測データを最もよく説明できることが判明しました。

この研究により、“LHS 3844 b”は観測的な証拠によって潮汐ロックが証明された初のスーパーアースになった訳です。(※1)
※1.“LHS 3844 b”が潮汐ロックを受けておらず、極めてゆっくりと自転している“疑似潮汐ロック”をしている可能性もゼロではない。でも、仮に“LHS 3844 b”が公転周期と一致しない自転をしていたとしても、その速度は約211年で1回転(“LHS 3844 b”の公転周期は約0.46日なので、約17万回公転するごとに1回の自転)よりも遅いと考えられることから、速やかに潮汐ロックを受けることになる。他に、岩石が主体の惑星は疑似潮汐ロックをしないと推定する研究もあるので、そのような自転をしている可能性はかなり低いと考えられる。


“潮汐加熱”が惑星内部を過熱している

一方、今回の研究結果からは、新たな疑問も生まれています。

2019年の研究では、"LHS 3844 b"はかなり黒っぽい色をしているので、恐らく黒っぽい溶岩“玄武岩”が表面を覆っていると考えられていました。

でも、恒星の熱を黒い玄武岩が吸収しても、“LHS 3844 b”の高い表面温度を説明することはできず…
最も簡単に説明できたのは、潮汐力によって天体内部が過熱される“潮汐加熱”でした。

潮汐加熱とは、別の天体の重力がもたらす潮汐力によって天体の内部が変形し、加熱される現象のことです。
今回の場合だと、“LHS 3844 b”が恒星の重力がもたらす潮汐力よって、変形を繰り返すことで発生した摩擦熱により、天体内部が熱せられたと考えられています。

ただ、“LHS 3844 b”が変形を繰り返すには、公転軌道が円形でない(離心率が大きい)ことが必要となります。(※2)
円形でないことで、“LHS 3844 b”は恒星に近づいたり離れたりし、変形を繰り返すことができるからです。
※2.公転軌道が真円からどの程度離れているのかを示す値が離心率。真円は0、楕円は0よりも大きくて1よりも小さく、放物線は1、双曲線は1よりも大きくなる。たとえば、月の公転軌道は離心率0.0549の楕円形なので、地球に近付く時と遠ざかる時の距離には約4万kmの差がある。地球に近付いて大きく見えるタイミングの満月はスーパームーンと呼ばれている。
ところが、今回の研究で示されたのは、“LHS 3844 b”の公転軌道の離心率が真円にかなり近い0.001未満だということ。
公転軌道がこれほど真円に近いと、潮汐力による熱はほとんど生じないことになります。

この矛盾を回避する最も簡単な説明は、“LHS 3844 b”以外にも惑星があって、軌道を乱すことで潮汐力が発生している、というものです。

これと似た状況は、木星の衛星“イオ”で生じています。
イオは木星のガリレオ衛星の一つで、太陽系の衛星の中では4番目に大きく、半径は1800キロ強と地球の3分の1にもなります。

イオの公転軌道も真円に近く潮汐ロックを受けています。
でも、他のガリレオ衛星から潮汐力を受け、内部が加熱されて高温のマグマを放出しているんですねー
内部を加熱する熱の発生量は100兆ワットと推定されていて、これは地球の熱(47兆ワット)の2倍以上になります。


宇宙風化が熱をより吸収しやすくしているのかも

加熱には、もっと可能性が高いシナリオもあります。

“LHS 3844 b”には大気がないので、太陽風や宇宙線といった荷電粒子で生じる“宇宙風化”が強く進行することになります。
すると、太陽系の水星や月のように岩石が黒っぽくなるので、熱をより吸収しやすくなります。

“LHS 3844 b”が熱い理由を宇宙風化に求めることは、実際には存在しないかもしれない未発見の惑星を仮定するよりも妥当なシナリオと言えます。
研究チームでも、宇宙風化が有力な候補で、潮汐力による加熱の可能性はあまり高くないと考えています。

それでは、“LHS 3844 b”で進行した宇宙風化では、どのような物質が生じているのでしょうか?

黒色の主な原因として、水星の場合は黒鉛、月の場合は金属鉄です。
ただ、現状の観測データではどちらの物質もあり得るので、まだ特定はできていません。

この候補を絞り込むのに必要となるのが、“LHS 3844 b”の追観測です。
観測の結果として、表面の物質のデータだけでなく、公転軌道のより詳細なデータが得られれば、今のところ表面温度を説明できる候補として残っている未発見の惑星説を、排除することもできるはずです。


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表面を厚い水の層に覆われた惑星かも!? ハッブル宇宙望遠鏡が約97光年先の太陽系外惑星で水蒸気を検出

2024年03月05日 | 系外惑星
モントリオール大学のPierre-Alexis Royさんを筆頭とする研究チームは、うお座の方向約97光年先で見つかった太陽系外惑星“GJ 9827 d”の大気中に存在する水蒸気を検出したとする研究成果を発表しました。

研究チームによると、“GJ 9827 d”のサイズは地球と比べて直径は約1.96倍、質量は約3.4倍。
主星の“GJ 9827”を約6.2日周期で公転しています。
公転軌道が主星の近くになるので、表面温度は金星に近い約425℃と推定されています。

主星の“GJ 9827”は太陽と比べて直径と質量がどちらも約0.6倍、表面温度は約4030℃の橙色矮星(K型主系列星)で、“GJ 9827 d”以外に2つの系外惑星“GJ 9827 b”と“GJ 9827 c”が見つかっています。
本研究の成果をまとめた論文は“The Astrophysical Journal Lettersに掲載されました。
図1.太陽系外惑星“GJ 9827 d”(右上)のイメージ図。(Credit: NASA, ESA, Leah Hustak and Ralf Crawford (STScI))
図1.太陽系外惑星“GJ 9827 d”(右上)のイメージ図。(Credit: NASA, ESA, Leah Hustak and Ralf Crawford (STScI))


系外惑星の大気成分

今回の研究では、“GJ 9827 d”の大気成分を調べるため、ハッブル宇宙望遠鏡の広視野カメラ3“WFC3”を使用しています。

地球から見て系外惑星“GJ 9827 d”が恒星(主星)の手前を通過(トランジット)している時に、系外惑星の大気を通過してきた主星のスペクトル“透過スペクトル”を調べています。

個々の元素は決まった波長の光を吸収する性質があるので、透過スペクトルには大気に含まれる元素に対応した波長で光の強度が弱まる箇所“吸収線”が現れることになります。

この“透過スペクトル”と“主星から直接届いた光のスペクトル”を比較することで吸収線を調べることができ、その波長から元素の種類を直接特定することができます。
図2.恒星(左)の光を利用して系外惑星(中央下)の大気組成を調べる手法のイメージ図。系外惑星の大気を構成する物質が一部の波長を吸収するので、大気を通過して地球(右)に届いた主星の光のスペクトル(透過スペクトル)を分析することで、惑星の大気組成を調べることができる。また、大気にヘイズ(もや)がある場合は、青い光が散乱して通過した光は少し赤くなる。(Credit: ESO/M. Kornmesser)
図2.恒星(左)の光を利用して系外惑星(中央下)の大気組成を調べる手法のイメージ図。系外惑星の大気を構成する物質が一部の波長を吸収するので、大気を通過して地球(右)に届いた主星の光のスペクトル(透過スペクトル)を分析することで、惑星の大気組成を調べることができる。また、大気にヘイズ(もや)がある場合は、青い光が散乱して通過した光は少し赤くなる。(Credit: ESO/M. Kornmesser)
分析した“GJ 9827 d”の“透過スペクトル”から見つかったのは、波長1.4μmに表れた吸収線でした。
研究チームでは、この波長から検出されたのが水蒸気だと結論付けています。

仮に“GJ 9827 d”の大気に雲があったとしてもその高度は低いので、ハッブル宇宙望遠鏡の観測で雲の上にある水蒸気を検出できるとされています。
このことから“GJ 9827 d”は、これまでに大気中の水蒸気が検出された最小の系外惑星になりました。


どのようなタイプの系外惑星なのか

まだ、“GJ 9827 d”の大気を構成する物質全体に対して、水蒸気の占める割合がどれくらいなのかは、結論が出ていません。

可能性として考えられるのは、
1.“水素が豊富な大気中に少量の水蒸気が含まれている場合”
2.“水素やヘリウムでできた原始的な大気を失った後に残された、水蒸気を主成分とする大気が存在する場合”
の2通りです。

前者の場合、“GJ 9827 d”はミニ・ネプチューン(mini Neptune)やサブ・ネプチューン(sub Neptune)と呼ばれるタイプの惑星ということになります。

後者の場合だと、太陽系の氷衛星のように水と岩の比率がおよそ半分ずつで、小さな岩石質の本体が大量の水蒸気に包まれている惑星の可能性があります。
ハッブル宇宙望遠鏡を運用する宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)では、その様子を“木星の衛星エウロパのより暖かいバージョン”と表現しています。

どちらの場合だっとしても興味深い惑星に違いはありません。

質量が比較的小さく、主星の“GJ 9827”に近い軌道を公転しているので、“GJ 9827 d”は10億年ごとに地球の質量の半分以上に相当する物質を失っていることが考えられます。

“GJ 9827 d”は、形成されてからすでに約60億年が経っていると見られています。
このことから、膨張した水素やヘリウムの大気を今も保持している可能性は低く、水蒸気の豊富な大気を持つ海洋惑星(Water world、表面を厚い水の層に覆われた惑星)と仮定する方が、ハッブル宇宙望遠鏡や地上からの観測データをうまく説明できると、研究チームは考えています。

“GJ 9827 d”は、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の重要な観測対象になっています。
なので、海洋惑星の可能性がある“GJ 9827 d”の性質が確認されると同時に、主に水蒸気でできた大気が初めて直接検出されるかもしれませんね。


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表面を覆う氷の下に海を持つ太陽系外惑星は存在している? 一部は間欠泉活動の観測で見つかるかもしれない

2024年01月26日 | 系外惑星
木星の衛星エウロパや土星のエンケラドスのように、太陽系にある氷で覆われた天体の一部には、地下に広大な海が存在していると予測されています。
その中には、地下海の有力な証拠と考えられる間欠泉が確認されている天体もあるんですねー

今回の研究では、似たような環境を持つ太陽系外惑星が存在する可能性を探るため、17の惑星について調査を実施。
その結果、いくつかの惑星には氷の下に海が存在する可能性があることを突き止めています。

また、“プロキシマ・ケンタウリb”や“LHS 1140b”など一部の惑星では激しい間欠泉活動が起きている可能性があり、噴出した水や、水に含まれる分子の存在を望遠鏡で観測できる可能性があるようです。
この研究は、NASAのゴダード宇宙飛行センターのLynnae C. Quickさんたちの研究チームが進めています。
図1.2009年に探査機“カッシーニ”が撮影したエンケラドスの間欠泉。この画像では30か所以上の噴出口が確認された。(Credit: NASA/JPL/Space Science Institute)
図1.2009年に探査機“カッシーニ”が撮影したエンケラドスの間欠泉。この画像では30か所以上の噴出口が確認された。(Credit: NASA/JPL/Space Science Institute)


表面を覆う氷の層の下に海を持つ天体

表面を氷で覆われた低温の天体は、一見すると生命に適した環境には見えませんよね。

でも、分厚い氷の層の下に大量の液体の水があるとしたら…
そう、そこには海が存在する可能性が指摘されているんですねー

では、なぜ水は凍らずに存在できるのでしょうか?
それは、氷を解かす熱源があり、“他の天体からの潮汐力による過熱”(※1)や“岩石に含まれる放射性元素の崩壊熱”などが考えられています。
※1.天体の軌道が円形でないとき、惑星(や衛星)から遠いときはほぼ球体の天体も、接近するにしたがって惑星(や衛星)の重力で引っ張られ極端に言えば卵のような形になる。そして惑星(や衛星)から遠ざかるとまた球体に戻っていく。これを繰り返すことで発生した摩擦熱により天体内部は熱せられる。このような強い重力により、天体そのものが変形させられて熱を持つ現象を潮汐加熱という。
厚い氷の層の下に海があると考えられている天体として有力なのは、木星の衛星エウロパや土星の衛星エンケラド。
これらの天体では、水を主成分とするプルーム(間欠泉、水柱)が観測されていて、氷の下の海が水の供給源だと考えられています。

では、太陽系外の惑星でも同じように氷の下に海を持つ天体は存在するのでしょうか?
仮に存在するとした場合、そのような惑星を発見する方法はあるのでしょうか?


地下海を持つ天体の条件

今回の研究では、氷の層の下に海を持つ太陽系外惑星(系外惑星)が存在する可能性を探るため、2つの性質を満たしている17の惑星を調査しています。

1つ目の条件は、地球と比べて直径はおよそ2倍以下、質量は8倍以下の天体です。
この条件に合う惑星は、地球と比べて平均密度が低いものになります。

氷は岩石と比べて密度が低いので、低密度な惑星は氷が主体になる可能性があります。
また、直径を地球のおよそ2倍以下に制限しているのは、低密度な理由が氷ではなく豊富なガスになる亜海王星(地球と海王星の中間的な性質を持つ惑星)である可能性を排除するためです。

2つ目の条件は、推定表面温度がマイナス18℃未満の惑星です。
この温度は、地球に大気が存在しないと仮定した場合の表面温度(平衡温度)と同じであり、これよりも表面温度の低い惑星では表面の水が凍っている可能性が高くなります。
大気が存在する場合の惑星の表面温度を指定することは困難なので、このような前提で計算されています。

ただ、特に2つ目の条件は再検討が必要と言えます。
それは、例え独自の分厚い大気が無かったとしても、惑星表面を構成する氷などの光の反射率、そしてプルーム(間欠泉、水柱)や宇宙風化によって生成される水蒸気の薄い大気など、表面温度を変更する要素がいくつもあるためです。


内部の加熱と氷の厚さと地下海の規模

今回の研究では、エンケラドスやエウロパの観測データや最新のモデリングをもとに、氷が主体の惑星の表面温度を改めて計算。
その結果、これまでのモデルと比べて最大で30℃も温度が食い違うことを発見し、より正確な状況の把握が可能になりました。

研究チームでは、新たに得られた惑星のデータを元に、潮汐力や放射性物質の崩壊熱などを推定。
そこから氷の厚さ、氷の下の海の規模、そして間欠泉活動の予測を行っています。

まず、内部活動については、全ての惑星の内部でエンケラドスやエウロパを超える熱が発生していて、一部の惑星では地球や木星の衛星イオ(※2)を超える熱が生じていると推定されました。
この熱の発生からは、氷の下に海を形成する可能性が高いことが分かります。
※2.イオは木星のガリレオ衛星の1つで、太陽系の衛星の中では4番目に大きく、半径は1800キロ強と地球の3分の1にもなる。他のガリレオ衛星から潮汐力を受け、内部が加熱されて高温のマグマを放出していてる。内部を加熱する熱の発生量は100兆ワットと推定されていて、これは地球の熱(47兆ワット)の2倍以上になる。
図2.今回分析された惑星の内部の熱の推定値。全ての惑星がエウロパを超えているだけでなく、一部の惑星は地球やイオを超えていると推定されている。(Credit: Lynnae C. Quick, et al.)
図2.今回分析された惑星の内部の熱の推定値。全ての惑星がエウロパを超えているだけでなく、一部の惑星は地球やイオを超えていると推定されている。(Credit: Lynnae C. Quick, et al.)
推定された氷の厚さの値は、最も薄い“プロキシマ・ケンタウリb”の58メートルから、最も分厚い“MOA-2007-BLG-192L b”の38.7キロまで様々なもの。
ただ、この値は惑星全体の平均値になるので注意が必要なんですねー

例えば、エンケラドスの氷の平均的な厚さは25キロですが、プルームが噴き出している極域では10キロ未満になっているようです。
これとは逆に、氷の厚さの平均が30キロで、極域では66キロまで厚くなっているのがエウロパです。

エンケラドスとエウロパでは、表面温度や内部の熱源の配置の違いによって極域の氷の厚さが全く異なっています。
このことから、太陽系外惑星の氷も局所的に平均値より極端に薄い・厚い場所がある可能性は否定できません。
ただ、どの惑星の氷の厚さも地殻と表現される50キロを下回ることは興味深い発見になります。

さらに、一部の惑星では水のプルームの放出量が推定されています。

最も少ない“ケプラー441b”から噴出している水の量は、毎秒7.5キログラムとわずかなもの。
一方、氷の厚さが58メートルしかないと推定される“プロキシマ・ケンタウリb”では毎秒610トン、厚さ1.7キロと推定される“LHS 1140 b”では毎秒29トンの水が噴出していると推定されました。

エウロパの水の噴出量が毎秒2トンであることを考えると、いかに激しい噴出であるかが分かります。
噴出した水は、凍った粒となって惑星の周りを覆うことになります。

もし、プルームの噴出量が間欠泉のように時間と共に変化する場合、遠く離れた地球から観測すると、それは水の量の変化として観測されるはずです。
また、氷の粒の中に他の分子が含まれる場合、水と共に検出される可能性もあります。

噴出した水やその他の分子の観測は、強力な望遠鏡を使えば可能になるようです。


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なぜ、公転軌道が変化しにくい軌道共鳴の状態にある系外惑星の公転軌道が傾いているのか?

2024年01月10日 | 系外惑星
惑星同士の公転軌道の傾きは、どのように生じているのでしょうか?

このことは惑星科学における謎の1つになっています。

有力視されているメカニズムの1つに、惑星同士の重力相互作用による公転軌道の変化があります。
でも、このメカニズムの詳細については判明していない点があります。

今回の研究では、太陽系外惑星“TOI-2202b”の公転軌道の傾きを測定。
その結果、“TOI-2202b”の公転軌道の傾きが、約26度とかなり傾いていること分かりました。

ただ、“TOI-2202b”は、公転軌道が変化しにくい軌道共鳴の状態にあると予測されているんですねー

このため、今回の研究成果は、重力相互作用によって軌道が傾くという仮説とは一致しない、とても重要な発見になるそうです。
この研究は、イェール大学のMalena Riceさんたちの研究チームが進めています。
図1.恒星の自転軸に対して、2つの惑星の公転軌道が傾いている概念図。(Credit: Malena Rice)
図1.恒星の自転軸に対して、2つの惑星の公転軌道が傾いている概念図。(Credit: Malena Rice)


惑星の公転軌道が傾くメカニズム

太陽の赤道を基準として、太陽系の惑星の公転軌道の傾きを測定すると、8つの惑星全てが10度以内に収まっています。(かつて惑星に分類されていた冥王星を除いている)

一方で知られているのが、太陽系以外の惑星系について同様に公転軌道の傾きを調べると、約3分の1が非常に大きく傾いていることです。

恒星が誕生する現場では、恒星の周りに広がる水素を主成分とするガスやチリからなる円盤状の構造“原始惑星系円盤”が存在し、その中で惑星が誕生しています。

原始惑星系円盤の回転は中心の恒星の自転と一致するので、惑星の公転軌道は恒星の赤道から見てそれほど傾かないはずです。
このため、極端に公転軌道が傾いた惑星系が誕生するには、何か別のメカニズムが働いていることが予想されます。

そのメカニズムの中で有力視されているのが、惑星同士の重力相互作用になります。

惑星が複数ある場合、公転を繰り返している間に惑星同士の距離が近くなり、重力相互作用によって惑星の公転軌道が乱れる場合があります。
この公転軌道の乱れが、極端な傾きを生じさせると考えられます。

でも、太陽系外惑星の公転軌道の傾きを測定することは困難なんですねー
なので、これまでに公転軌道が判明しているのは約100の惑星系のみでした。

この少なさから、公転軌道の変化に関する詳細なモデルを組むことが難しくなり、メカニズムの検討も上手く行っていませんでした。


軌道共鳴に近い惑星系における公転軌道の傾き

今回、研究の対象になったのは、みずへび座の方向約770光年彼方に位置する恒星“TOI-2202”を公転する系外惑星“TOI-2202b”です。

研究では、太陽系外惑星“TOI-2202b”の軌道傾斜の度合いを測定。
観測に用いられたのは、ケント山天文台のミネルヴァ・オーストレイリス望遠鏡(オーストラリア・クイーンズランド州)でした。

この観測では、“TOI-2202”からの光が惑星の公転によって変化する“ロシター・マクローリン効果”(※1)を測定しています。
光の変化は小さいので、精密な観測が必要ですが、これによって公転軌道の傾きを調べることが可能になります。
自転している恒星を遠くから観察すると、片側の半球は観測者に近付いて見え、もう片側の半球は観測者から遠ざかって見えるため、ドップラー効果によって近付く半球からの光は青方偏移、遠ざかる半球からの光は赤方偏移することになる。恒星の手前を惑星が通過するときは、青方偏移している側か赤方偏移している側のどちらかの光が遮られるので、恒星の光の波長には偏りが生じる。こうして波長に表れるドップラー効果の違いがロシター・マクローリン効果。この効果を観測することで、惑星の公転軌道がどの程度傾いているかを測定できる。
測定の結果分かったのは、“TOI-2022b”の公転軌道の傾きが約26℃(11~38度)ということ。
この値は、“TOI-2022”の惑星系を考えると、予想外の発見でした。

それは、“TOI-2022”の周りには、今回観測された“TOI-2022b”だけでなく、もう1つの惑星“TOI-2022c”があり、それぞれの公転周期が2:1の“軌道共鳴”の関係にあると考えられていたからです。

軌道共鳴は、惑星同士の重力相互作用に関する力学的な安定によって生じるもので、裏を返せば、軌道共鳴が生じている惑星系では公転軌道を激しく変化させる力学的に不安定な状況は発生しないと考えられています。

つまり、“TOI-2022”の惑星系は誕生時からほとんど変化しておらず、公転軌道の傾きが生じる理由を説明するために提唱された“重力相互作用による軌道の乱れ”のメカニズムは適用されないことになります。

一方、“TOI-2022”の惑星系が軌道共鳴に見えているのは偶然であり、実際にそのような状態になっていない可能性もあるので、より詳細な研究も必要になります。

太陽系外惑星には、恒星に極端に接近した公転軌道を持つ木星のようなガス惑星“ホットジュピタ-”をはじめ、生成メカニズムが不明な惑星がいくつもあります。

“TOI-2022b”の公転軌道の傾きの測定は、軌道共鳴に近い惑星系における公転軌道の傾きの最初の測定例で、研究は始まったばかりと言えます。
他の惑星系の公転軌道の傾きが測定されることで、この謎を解く手掛かりは増えていくことになるのでしょうね。


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