時事解説「ディストピア」

ロシア、イラン、中国等の海外ニュースサイトの記事を紹介します。国内政治、メディア批判の記事もあります。

海外メディア、アベノミクスの破綻を報じる

2015-12-29 00:08:38 | アベノミクス批判
アベノミクスは開始当初から多くの左派系エコノミスト・学者から批判を受けてきた。

代表的な論者として、下関市立大学の関野秀明氏、
エコノミストの浜矩子氏、ケインズ経済学者の伊東光晴氏などが挙げられる。

筆者が特に推しているのは関野氏で、彼が共産党が発行する経済誌『経済』に
定期的に投稿するアベノミクス批判からは、かなり勉強させてもらった。

まぁ、その勉強の発端になったのは立命館の松尾匡教授からの激励なのだが……
知らない人のために紹介すると松尾教授は左翼を自認するリフレ派の経済学者で、
以前から一貫してアベノミクスを支持してきた方である(本人は否定するかもしれないが)


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まず、このエントリー、アベノミクスで正規雇用者も増え始めた!!
では、「生産年齢人口」(15歳~65歳人口)に対する割合で、
正規雇用、非正規雇用の推移が計算されていて、正規雇用の比率の増加が示されています。

これによれば、非正規雇用の率は、民主党政権下から引き続き、一貫して増えています。

他方、正規雇用の率は、民主党政権下では2009年の40.4%から
2012年の40.5%へと0.1%ポイント上昇しただけだったのに対して、
その後、2014年(10月までの平均)の41.1%にまで、2年で0.6%ポイント増えています。
とても見やすい折れ線グラフにされていますので、リンク先をご覧下さい。

さらに、もう「非正規雇用がー」は通用しない
というエントリーでは、率ではなく絶対数で見ても、
2014年に入って「正規社員は4-6月期、7-9月期と連続して前期比で増加している。
しかも、7-9月期は前年同期比でも10万人増加している。」という指摘がなされています。
これもグラフ入り。
データ、グラフ元は「労働力調査(詳細集計)平成26年(2014年)7~9月期平均(速報)」

また、
正規雇用を希望する人 非正規のほうがいい人というエントリーでは、
上記「労働力調査」から、正社員の仕事がないから不本意ながら
非正社員に甘んじている人の数と、その人たちの非正社員に占める割合をグラフにされています。
これも2013年、2014年の間で傾向的に下がっていて、特に2014年に入ってからは、
データのある第3四半期まで下がり続けていることが見て取れます。

そもそも、雇用が増えているのが非正社員だったとしても、
今まで職がなかった人が職にありついたならば、
「ありがたい、この職をまた逃したくない」という気持ちが真っ先にくるのは当然ですから、
言葉の使い方を慎重にしないと、「非正規が増えているのはいけません」的な
言い方だけしていたのではこうした層の人たちから反発を買う恐れがあります。

気がついたら、こうした層の人々がこぞって
自民党の支持者になって日の丸を振っていることになりかねません。

それに、「総雇用者所得」で見ると増えているとする
安倍さんの言い訳もあながち無視はできません。消費需要につながるのは、
一人当たり賃金ではなくて、総雇用者所得だからです。

http://matsuo-tadasu.ptu.jp/essay__141215.html
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上のページでは、正規雇用者数が増えているとか倒産件数が減っているとか、
アベノミクスの恩恵は、こんなにもあるのだと熱弁を振るっているのだが、
雇用を創出したという主張はアベノミクスの生みの親の一人である浜田宏一氏も唱えている。


なぜアベノミクスで庶民の給料は上がらなかったのか?


伊藤元重教授「これから創造的破壊が起きる」
――アベノミクスと働き方変革の因果関係とは?



伊藤教授は直接には雇用情勢が改善されたとは述べないが、今後、アベノミクス効果で
労働力が不足する(売り手市場になる)と語るそれは、松尾・浜田両教授に通じるスタンスだろう。

松尾氏はエッセーの末文に
安易な「アベノミクス失敗」論はやめてほしいし、
 そもそも何度も言いますが、「アベノミクス」という言葉を
 反対側の陣営が口にするのはやめて下さい。2016年に好況の熱狂の中で、
 安倍応援アイドルが「アベノミクス!アベノミクス!」と叫んで踊り回ったらどうする!」
と記しているが、同氏によると来年の選挙時には日本は好況になっているらしい。


「足下では景気回復の恩恵を感じる人が確かに増えていて、
 それが内閣支持率の増加に結びついていることは間違いない」
 (http://matsuo-tadasu.ptu.jp/essay__150218.html)

「マスコミなどでは、「景気回復の実感はない」と
 決まり文句のように言っていますけど、そんなふうにおっしゃる人はたいてい、
 もともと安定して、比較的まともな賃金の職の人なんですよね。
 過去20年の「改革」不況で最も苦しんできた層の人たちの間では、明らかに事態が動いています。
 
実感はない派の人たちは
景気回復がコケて安倍さんに失脚してほしいあまり、現実から目をそむけているのかもしれません

が、今後、景気回復を否定するようなことを言えば言うほど、私たちが最も依拠すべき
こうした層の人たちを、かえって安倍さんの側に追いやる結果になる
でしょう。」
 (http://matsuo-tadasu.ptu.jp/essay__140503.html)

とまぁ、自信満々に述べていた松尾氏だが、その後、日本経済はどうなったのだろうか?
スプートニク紙は次のように伝える。

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アベノミクスは死んだ、経済蘇生は失敗
(2015年12月28日)

日本政府のあらゆる尽力にも関わらず、日本経済は全く蘇生する気配を見せていない。

大規模支援の甲斐なく状況はますます下降線をたどっており、
先週発表された統計は二重のショックを国民に与えた。

先週、日本の失業率が今までの3.1%から3.3%に上昇したことが明らかにされた。
この数値は今年1月からの間で最高で、これにより主婦の財布の紐が引き締められた。

ところが今、明らかにされていることはそれよりも更にひどい。
小売業の売り上げも当初の予測の0.6%ダウンを上回り、
最新の調査では1%減少していることが明らかになった。


2014年に行われた消費税増税による、その前後の影響を考慮しない場合、
この売り上げダウンは2011年の東日本大震災以来、最大となっている。


工業生産の景気もいまひとつ。11月、指標は3ヶ月間で初めて落ちたが、これは
世界第3位の経済大国の復興は少なくとも2016年の初めに持ち越されたことを示している。

メーカーは近い将来にも生産拡大を考慮しているものの、
弱弱しいデーターは期待された輸出と需要の増加で経済は押し上げられ、
2%の目標レベルまでインフレを速めるという日本銀行の予測に疑問を呈すものとなった。

個々の指標が物語るのは、異常高温気象による冬物の被服販売に大きな損失が出て、
これにより小売販売が年間で1%落ちこんだ事実。

エコノミストらは輸出における再生の兆候はすでにあることから、
工業に方向転換が起きることは期待できると指摘している。

一方で需要は依然として低いままで、とても経済復興に力を貸すどころではない。

続きを読む http://jp.sputniknews.com/business/20151228/1380251.html#ixzz3vcpLtgAj
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・・・景気回復ねぇ

最近、アベノミクスの宣伝があまりされないからおかしいと思っていたら、
いつのまにか、こういう事態になっていたという笑えない話。

そもそも、この経済政策は経済史の視点から見れば安倍オリジナルのものではなく、
むしろ、小泉純一郎の経済政策をそのまま踏襲したものである。
それを説明するために、中国の人民網の解説記事を提示しよう。



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「アベノミクス」は日本を損なう

~中略~

「アベノミクス」は何も新しいものではなく、金融緩和とその関連政策の総称に過ぎない。
経済の遅れた国では、紙幣の無闇な発行は、壊滅的な悪性のインフレを引き起こす可能性が高い。
経済の発達した国では、政府が紙幣を増刷しても財産を作り出したことにはならなず、
資源の間違った配置をもたらし、内部の危機を引き起こす。

日本は貨幣の潤沢な先進国であり、貨幣増刷によって引き起こされる
物価上昇の効果は明らかでなく、やはり厳しい問題が生まれている。

「アベノミクス」は物価の下落を恐れ、消費を奨励しており、
 民間の貯蓄は減り、政府の負債率は世界一に達している。

インフレで利益を得ているのは大企業である。

大企業は市場に障壁を形成し、小さい企業のチャンスを減らしている。
日本企業には年功序列の習慣があり、年齢の高い社員が高い地位を占め、
若い社員はなかなか昇進できず、会社の人材コストは高い。

これは労働法の保護によるものであると同時に、インフレ政策の擁護とも関係がある。
日本人は極度に勤勉な労働なしには、生活水準の低下を防ぐことができないのである。

だが日本の物価上昇は明らかでなく、政府のデフレへの恐れを呼び、
量的緩和の推進を促している。生活水準がなかなか上がらないのもインフレによる悪影響である。


政府による刺激を過度に信じ、紙幣増刷によって
成長を促進できると考えたことは、日本の過去20年の最大の間違いだった。


市場化改革が大々的に進められた小泉時代にあっても、この考えは転換されなかった。

2001年に小泉純一郎が首相に就任すると、民営化と自由化の改革が始められ、
中でも難題となっていた郵政改革の実現が旗印とされた。

この改革において、
小泉首相は自らの政治生命を賭けることも厭わず、郵政系統の民営化を推進した。
通貨政策の分野では、小泉首相とそのブレインは掛け値なしの「インフレ派」であり、
日銀に通貨政策の緩和を繰り返し求め、「デフレ」と対決しようとした。


でたらめな通貨政策は小泉改革の寿命を縮め、
いくつかの民営化改革を行ったほかは、日本に持続的な活力を与えることはできなかった。


~中略~

経済発展に対するインフレのマイナス影響は、
短期的に大きく現れるものがあるだけでなく、長期的にゆっくりと出てくるものもある。


その道理は多くの経済学者の古くからの関心となってきた。
ハイエクはかつて、インフレは、政府が紙幣を増刷し過ぎた時だけに起こるもので、
それ以外にはあり得ないと指摘している。インフレの危害は、
オーストリア学派の経済学者によってとうの昔に研究されていたのである。

それにもかかわらず今日の日本政府が(そのほかの多くの国の政府も)
デフレへの対決姿勢を崩さず、インフレを頑強に追求しているのには、ため息を禁じ得ない。

http://j.people.com.cn/n/2015/0915/c94476-8950183-2.html
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これは9月に書かれた記事だが、1ヵ月後にはこういう記事が書かれた。




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アベノミクスに疲れの色

日本政府はこのほど10月の月例経済報告を発表し、経済情勢への総括判断を下方修正して
「一部に弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている」とした。

日本政府が総括判断を下方修正したのは1年ぶりのことだ。人民日報が伝えた。

最近、日本経済には再びデフレの兆しがみえている。

アベノミクスの「3本の矢」の効果がはっきりと出ていない状況の中、
9月14日にうち出された「新3本の矢」は具体性の乏しさや目標と実際との乖離が指摘されている。

▽物価指数は低下 国民の実質負担が増加

今年4月以降、日本政府は経済の総括判断で「緩やかな回復」という表現を維持してきた。
共同通信社は、安全保障関連法案が批判を受ける中、支持率の一層の低下を避けるため、
日本政府は経済の実際の状況を覆い隠すことにしたと指摘する。


日本政府は2013年初頭にアベノミクスの「3本の矢」をうち出し、
1本目の「大胆な金融政策」では3年以内にインフレ目標2%を達成し、
日本経済の長年にわたるデフレ傾向を打破するとされた。

40%を超える大幅な円安、食品やエネルギーの輸入価格の高止まりにより、
日本は生鮮食品を除く消費者物価指数(CPI)が14年度は前年度比2.8%上昇した。

だが消費税率アップや国際原油価格の大幅下落の影響により、
CPIは4月以降、0.3%を下回る低水準をうろうろしてきた。

今年8月にはさらにマイナス0.1%にまで低下し、28カ月ぶりの低下となった。

~中略~
指摘しておくべきことは、日本の食品価格はここ2年間に大幅に上昇したが、
消費者物価指数を算出する際には生産食品を除外するため、
インフレ指数は低下しているものの、国民の実質的負担はかえって増加しているということだ。

日本政府は2年連続で企業の賃上げを誘導してきたが、
今年6月末現在、従業員の実質所得は前年同期に比べ3%低下した。

米国の格付け会社スタンダード・アンド・プアーズは9月に日本国債の格付けを引き下げ、
アベノミクスの効果に疑義を呈し、経済成長が鈍化したため、
11年度から14年度にかけて日本の平均所得は減少し、
日本経済はデフレからなお脱却できず、巨額の財政赤字を背負うことになったと指摘した。

日本銀行(中央銀行)が発表した9月の全国企業短期経済観測調査(短観)によると、
大規模製造企業の業況判断指数(DI)は12で、前回調査時の6月より3ポイント低下し、
2四半期ぶりの低下となった。経営者は経済の見通しにますます慎重な態度を取るようになっている。

市場では、日銀の金融政策はすでに行き詰まったとの声が聞かれる。

経済情勢が悪化すれば、日銀は必ず追加緩和を行い、これにより円がさらに値下がりし、
物価がさらに上昇し、消費が再び打撃を受けることになるという。

http://j.people.com.cn/n/2015/1026/c94476-8966933.html
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アベノミクスを否定すると野党の支持率が減るかのように語る人間もいるが、
現実では、アベノミクスに効果があるのではないかという期待が支持率を支えている。

(特に株高はそれを如実に示したものだろう)


とするならば、「アベノミクスは正しいのだ、効果があるのだ」と喧伝した
一部のメディアや経済学者の言葉こそ、安倍政権を下から支えてきたとは言えないだろうか?


少なくとも、私からすれば自分の暮らしを良くしてくれるのであれば、
自民党だろうと民主党だろうと投票するし、実際、2009年の衆院選で
民主党が自民党に大勝したのは、景気回復への期待が込められていたからだ



経済政策が正しいのであれば、好き好んで共産党や社民党に投票する人間がどこにいるだろう?
あれほど露骨な軍拡を目論みながら支持率は4割を下回ろうとしない。
それは、少なくともアベノミクスが効いているという信仰があるからではないだろうか?
(ほとんどの人間は、これ以上の経済が悪化しないことを望んでいるのである)


松尾教授が今年の6月に開いた講演会のパンフレットには
「「アベノミクス破綻」に最後の希望をつなぐ人を見るたびに、暗澹たる気持ちがいたします。
 2016/7衆参同時選挙、自民単独2/3確保し、改憲に王手をかけるために
 安倍は緻密な計画と信念を持ってやっており、2016/7頃に
 景気が良くなるように着実に手を打っています。」と予言している。


しかし、よくよく考えれば来年を待つことなく今年の9月に安保法案は可決され、
それを支えた議席数は、まさに一部の人間がアベノミクスは効果があるのだ、
アベノミクスのおかげで救われた人間がいるのだと叫ばれた2014年の選挙で得られたものだった



あの時、もし一人でも多くの学者がアベノミクスによって実質賃金は下がる一方だと
語ってくれれば、話は大きく変わったかもしれない。今とはなっては後の祭りだが。

最後になるが、松尾教授は1ヵ月後に
『この経済政策が民主主義を救う』という本を出すらしい。

アベノミクス支持者の高橋洋一氏が
『この金融政策が日本経済を救う』という本を書いていたのを思い出す。


紹介文によると、
「改憲に突き進む安倍政権のもとで、これから景気はどうなっていくのか? 
 対抗する左派・リベラル派は何をすべきか? 
 人気の経済学者による経済予測と「勝てる」提言。」とあるが、正直、どこに勝たせたいのだろう?

今年になって松尾氏は左派政党の連合を主張しているのだが、
反リフレ派の共産党がこれに耳を傾けることはまずない(正しい判断だと思う)。

とすると、社民と民主の連合なのかということになるが、民主は政治的には自民党と大差なく、
実際、歴史改竄や靖国参拝、あるいは改憲を支持したり実行する議員も党内に多く存在する。
あきれたことに維新の党と手を組むことを公言してしまったし、とても票を入れる気になれない。

左派系民主党員と社民党の連立、新党結成は、まぁ考えられなくもないものだが、
正直、単に自民党に席を取られたくないためだけに作った政党に誰が入れるだろうか。
(私は絶対に入れたくない)


松尾教授にしても、Sealdsの連中にしても、ビジョンと言うものを見せてくれないので、
単に自民党の議席や支持率を減らしたいだけの運動に見えてしまい、
その点が生活が悪化し、これ以上の経済悪化を防ぎたい保護的な大衆に響かないような気がする。

他の政党にまかせても大丈夫だろうかと思わせるには、それなりのビジョンが必要だ。
つまり、今の経済政策のどこが問題で、どう変えるべきなのかというビジョン。

「アベノミクスはそのまま継いで、改憲だけなくします」という程度の意見なら、
 自民党の左派も同じことを言っているわけで、全く効果がないだろう。

 この手の弱いNoほど与党にとって力強いYesはない。
 今の左派に必要なのは中途半端な反対ではなく、真っ向からの対決姿勢だろう。


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