ならなしとり

外来生物問題を主に扱います。ときどきその他のことも。このブログでは基本的に名無しさんは相手にしませんのであしからず。

遺伝的多様性に関する私見1 遺伝的多様性と人類の関係

2010-03-04 23:40:54 | 遺伝的多様性
 新シリーズです。かねてから、遺伝的多様性についてのわかりやすい事例の紹介等が一般に向けてあまりなされてないのが不満でした。じゃあ自分でどれほどのものができるかやってみよう。遺伝的多様性についてなるべく一般の人にもわかりやすく知ってもらおうというのがこのシリーズの趣旨です。わかりにくいところがありましたらコメント欄までお願いします。
念のため断わっておきますと、これは遺伝的多様性に関する僕の私見です。僕がこう考えているからといって実際の保全生態学者がこう考えているとは限りません。そのことに注意して読んでください。
 まず、遺伝的多様性とは種ないし個体群内の遺伝的変異の大きさです。たとえばヘテロ接合度、対立遺伝子数などであらわされます。
単純に言えばある集団の中にどれだけ遺伝子のバリエーションがあるかということです。
では、遺伝的多様性は私たち人間とどういった関係にあるのでしょうか。ここでは遺伝的多様性を人間がどう利用してきたかという点から説明します。最も密接な関係にあるのは農耕、牧畜です。たとえば野生のコムギは栽培されているコムギと違って、熟すと穂からすぐに実が落ちてしまいます。しかし、栽培コムギは熟しても実が落ちることはありません。この違いは一つの突然変異によるものでこの変異が野生種から栽培種への大きな転機とされています。また、パスタの原料となるマカロニコムギはそれまでの品種から突然変異によって生じたようです。つまり、今日私たちが食べているコムギは過去に突然変異によって遺伝的多様性が増したことで食べられるようになったのです 。
つまり人間ははるか昔から遺伝的多様性の恩恵を受けて生活してきたということです。

追記3/22
コメント欄での指摘に伴い“人類”の部分を“人間”に変更しました。
また、このシリーズでは生物学的な話では“ヒト”を文化、社会的な話では“人間”を使っていきます。



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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
お久しぶりです (岩屋山亜式)
2010-03-18 02:43:50
「遺伝的多様性に関する私見」シリーズ、楽しく読ませてもらってます。

云わでも事柄かとも思いますが…

自然的存在としてのヒト=人類(ヒト科動物の総称)と、文化的存在としての人間(現世人類)とは、区別して記述した方が解り易いと想われます。

「人間になれなかった人類達」ですから…
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早速問題点が出てきましたか (梨(管理人))
2010-03-18 19:38:20
岩屋山亜式さん

>自然的存在としてのヒト=人類(ヒト科動物の総称)と、文化的存在としての人間(現世人類)とは、区別して記述した方が解り易いと想われます

1~3までを含めた指摘としてレスします(間違ってたらすみません)。一応、遺伝関係の方は生物学的な人間に対する話ですのでヒトで統一していました。確かに用語を統一しておかないとわかりにくいですよね。一応このシリーズではホモ・サピエンス以外のやつは出すつもりがないんですが、他の文献にあたられたときに混乱させるもとになってはいけませんよね。ちょっと考えて訂正するか決めようと思います。
それと遺伝関係で「ヒト」を使うのは一応、問題ないはずですよね?
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遅くなりまして申し訳ありません。 (岩屋山亜式)
2010-03-22 20:54:47
自然的存在として、生物の一種としての現世人類を指すのであれば、「ヒト」の表現で問題無いと思います。

シリーズ1での
>つまり人類ははるか昔から遺伝的多様性の恩恵を受けて生活してきたということです。
と云った場合は、文化的存在として「人間」を使った方が良いと思われます。
特に農耕・牧畜といった絡みで使われることが多いでしょうから、「ヒト」の表現は不適当と云えるでしょう。
完新世より前の現世人類を指す場合は、「ヒト」でも構わないかと思います。拡大再生産システムを有する前の人類は、ほぼ自然的存在と言い切って良いでしょうから。
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了解です (梨(管理人))
2010-03-22 21:08:34
>文化的存在として「人間」を使った方が良いと思われます。
特に農耕・牧畜といった絡みで使われることが多いでしょうから、「ヒト」の表現は不適当と云えるでしょう。

アドバイスありがとうございます。早速変更します。ほかにもここはこうした方がよいという部分があったらご指摘ください。
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コメント (さすけ)
2010-03-23 11:33:11
初めまして。
保全生態学を勉強しています。
いくつか私の理解と違っている点があったので、ご指摘させていただきます。

遺伝的多様性の概念に栽培種のコムギを例に挙げていますが、ここに違和感を感じました。

確かに野生種において「実が落ちない」という突然変異は多様性をあげていますが、
栽培種においては「実が落ちない」という形質を選抜していっているので
むしろ多様性は減少させています。

突然変異を説明するにはこの例でも良いと思いますが、
栽培種は基本的に遺伝的多様性が低いので、多様性の説明の例に使うのは
ちょっと適していないかな、と思います。

例えば、実際にコムギの遺伝子を応用しているかどうかはわかりませんが、
「実が落ちない」という遺伝子を特定すれば、他の作物(イネなど)の
形質を探る際にも使われる。というのは、「多様性と人類の関係」
というテーマで使えるかな、と思います。
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Unknown (梨(管理人))
2010-03-24 15:58:16
さすけさん
>遺伝的多様性の概念に栽培種のコムギを例に挙げていますが、ここに違和感を感じました。

確かに野生種において「実が落ちない」という突然変異は多様性をあげていますが、
栽培種においては「実が落ちない」という形質を選抜していっているので
むしろ多様性は減少させています。

突然変異を説明するにはこの例でも良いと思いますが、
栽培種は基本的に遺伝的多様性が低いので、多様性の説明の例に使うのは
ちょっと適していないかな、と思います。

いや、ここでは遺伝的多様性が増したことが人間にどういう恩恵を与えたかということですのでおかしくはないはずですが。栽培種や畜産以外となると薬に使われるものがいいんでしょうけど、そちらは知識がないのでできませんでした。
それに、栽培種は品種改良によって全体的に遺伝的多様性は減っていますが、ここでは人間に品種改良のきっかけを与えたのが突然変異による遺伝的多様性の増加というのが趣旨です。
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