ならなしとり

外来生物問題を主に扱います。ときどきその他のことも。このブログでは基本的に名無しさんは相手にしませんのであしからず。

今回の逮捕と絡めて なぜ外来生物を運ぶことが規制されるのか

2009-08-23 21:39:42 | 外来生物
 どうもネットを見ていると今回の事件が問題なのかわからないといった意見が散見されます。そんな人たちのためにちょっとばかりなぜ外来生物を運ぶことが法律で規制されるほどやってはいけないことなのか解説します。

1.外来生物とは
 外来生物とは(意図的、非意図的を問わず)人間によって、もともと棲んでいた生息地からその生物の移動能力を超えて別の生息地(棲んでいなかった)生息地にもたらされた生物のことです。人間の活動に伴い昔からわずかながら外来生物は存在していましたが、ここ50年ほどで一気にその種類数、個体数が増大しました。原因はペットや産業目的などです。また偶然運ばれて定着してしまったというケースもあります。

2.外来生物のどこが問題とされるのか?
 外来生物というのはしばしばその土地に元来棲んでいた生物(固有種)を大幅に減少させたり、酷いときには絶滅させます。また、外来生物の中には農林水産業に被害を与えたり、人に被害をもたらしたり、生態系の機能を損なう生物がいます。このように固有種や農林水産業に悪影響を与える生物を侵略的外来生物といいます。通常、研究者などが外来生物と呼ぶものは侵略的外来生物のことを指します。外来生物問題は人を起源とした環境破壊であるので環境問題にカテゴライズされます。

3.外来生物による被害の例
ミナミオオガシラ
 このヘビはグアムに持ち込まれグアム島の鳥たちのいくつかを野生絶滅させました。たとえばグアムの固有種であるグアムクイナ(日本のヤンバルクイナに近い飛べない鳥)はグアム島ではこのヘビにより絶滅し、残った個体を捕獲、繁殖させたものがヘビのいない島に放されています。

メラルーカ
 この植物はフロリダのエバーグレイズ湿原で猛威をふるっています。この植物は吸い上げた水をすぐに蒸散させるため、湿地が乾いて別の生態系に変化させられているのです。このため湿地に生息する生物はその棲家を狭められています。

このように侵略的外来種は放っておくと甚大な被害を与えます。またどの生物が侵略的なのか否かの予測も難しいのです。そのため外来種への対策には入れない、捨てない、拡げないことが推奨されています。入れないとはそもそも外来生物を持ち込まないことで、捨てないとは持ち込まれた外来生物を人間の管理下に置くことで生態系などに影響を与えない、拡げないとは野外に出てしまった外来生物をそれ以上拡散させないことで被害を最小限に抑えることです。
日本でも遅まきながら外来生物対策として外来生物法が2005年に施行され上記の3つを基本として外来生物対策にあたっています。

4.なぜ外来生物を運ぶことが問題なのか
 今回の逮捕ではブラックバスを運んだことが逮捕の原因です。ではなぜブラックバスを運ぶことが問題となるのでしょうか。まず、ブラックバスというのはオオクチバスとコクチバスという2種類の魚の総称です。今回は奈良県の池原ダムで逮捕されたので、運ばれたバスはオオクチバスとみていいでしょう。オオクチバスはほぼ全国に生息していますが、コクチバスはオオクチバスに比べ分布が限られており奈良県でコクチバスが確認されたという情報は僕の知る限りでは無いからです。
このオオクチバスですが、この魚は北米原産の魚でIUCNという世界的な自然保護機関の作った世界の外来侵入種ワースト100に選ばれている魚です。つまりそれだけ持ち込まれた先での影響が危惧されている外来生物ということです。また、日本でもこの魚に関する研究は多くなされており、それらの研究結果から対策をすべき外来生物という合意が研究者間で得られています。このため紆余曲折を経て外来生物法で飼育や持ち運びが基本的に禁じられている特定外来生物にオオクチバスは入っています。
今回逮捕されたのは外来生物法で規制されている拡げないに反する行為をやってしまったからです。全国に拡がってしまったといえど外来生物を他所に持っていくということは外来生物の遺伝子交流を促進し、遺伝的多様性を増すことで一層外来生物を増やしてしまうことなどが危惧されます。ですから、今回の逮捕は妥当であると考えます(実名報道はやりすぎかもしれないけど)。

参考文献
移入・外来・侵略種―生物多様性を脅かすもの
外来種ハンドブック