ならなしとり

外来生物問題を主に扱います。ときどきその他のことも。このブログでは基本的に名無しさんは相手にしませんのであしからず。

書評 環境問題のウソ7 大局的な視野を持てというが

2008-08-16 22:36:41 | 池田清彦
 池田氏の言うことは面白いなあ。
以下引用(P109)
人種というのは人種差別主義者の頭の中の幻想なのだ。だから、地域個体群どうしの交配を遺伝子汚染と呼ぶのも幻想に決まっている。人間もサルも生物に変わりはないのだからこの理屈はサルにも当然当てはまる。
引用終わり
そもそも人種概念と種概念はまったくの別物なわけですが。これ、媒概念曖昧の虚偽にあたらないのかな。池田氏は生物的種概念を持ち出して交雑が進むなら同種としているわけですが、そもそも遺伝子撹乱として問題になるケースでは地理的隔離などがはたらいて事実上交雑が不可能であったということは華麗にスルーですか?タイワンザルとニホンザルについて言えば、東シナ海が両者の交雑をさせない要因となっていたわけだけどそういった歴史的背景は無視ですか。生物多様性というのは歴史的産物でもあるんだけどそういった歴史をガン無視して生物多様性について語るというのは違和感を禁じ得ないですね。
 さて、池田氏は大局的な視野を持つことを推奨しているわけですが、本人がそれがどういうことかわかっていない節があります。たとえば氏は外来生物が生物多様性を増やすといっています。たしかに局所的には生物多様性は増えたように見えるんですが、これをもっと広くたとえば地球規模で見た場合生物多様性は減少しています。どういうことかというと、まず4分割された正方形をイメージしてください。分割された4つの区画をそれぞれべつの色で塗ってください。ここで正方形は地球、分割された区画に塗られた色は各々の地域の生物多様性を表しています。つぎに4分割された区画の一つをほかの区画の3色を使って塗りつぶしてください。ここで塗りつぶされた区画だけに注目すると色は1色から3色に増えています。しかし正方形内の色は4色から3色に減少しています。このように局所的に多様性を判断するだけでは全体として減少していることがわからなかったりするのですが、池田氏の発言を見る限り氏がこういったことをどこまで自覚しているかははなはだ疑問です。