超心理マニアのためのブログ

マット・イシカワによる超能力研究の文献ガイド

超心理学における体験の問題

2008-02-14 | 21世紀の超心理学
<21世紀の超心理学(12-4)>

第12章:超心理の懐疑論に対するストームの社会-経験的考察
(4)超心理学における体験の問題

超心理現象に対して、自発的体験と実験室での統計的体験がある。
それらは安定して体験できないのだが、その理由には議論がある。
超心理現象は、そもそも実在しないので、体験は誤認識だとする
考えと、反対に実在するのだが、超心理学者の追求の仕方が悪い
ので安定して体験できないとする考えがある。

体験自体が研究者に相対的でもある(実験者効果)。いつまでも
体験できなく懐疑論に回ったスーザン・ブラックモアがいると思えば、
対照的にたびたび体験して超心理学に深く入りこんだホノートンらが
いる。体験の取り扱いにさらなる検討が必要なのである。


超心理学における社会認知的・認識論的断絶

2008-02-13 | 21世紀の超心理学
<21世紀の超心理学(12-3)>

第12章:超心理の懐疑論に対するストームの社会-経験的考察
(3)超心理学における社会認知的・認識論的断絶

研究コミュニティ同士でパラダイムが異なると、同一の対象でも
「よい説明」が異なる。対象の認識論(および説明の基盤になる
存在論)が異なるからである。

超心理学では、こうした断絶の問題が大きい。本流科学との断絶
もそうだが、超心理学の内部でも断絶がある。特異現象に対して
従来の科学の枠組みの拡張で対応できると考える人々と、科学に
代わる説明(理解)の方法が必要だと考える人々が同居している。


超心理研究パラダイムの本質

2008-02-12 | 21世紀の超心理学
<21世紀の超心理学(12-2)>

第12章:超心理の懐疑論に対するストームの社会-経験的考察
(2)超心理研究パラダイムの本質

科学史家のトマス・クーンは、研究の価値は研究領域に特有の
パラダイムによって評価され、パラダイムの異なる領域では価値
のみならず使用言語も異なり互いに通約不可能であると主張した。

クーンによれば、科学的事実は社会的に、なかば主観的に決まる
ようであるが、一方で、それは経験的実証という客観的判断で
決まるようでもある。

超心理学は、科学方法論のうえでのこうした微妙な問題を浮き彫り
にする。超心理学の発展には、多角的な、マルチパラダイムの方法
が望まれるのだろう。

http://www.kisc.meiji.ac.jp/~metapsi/psi/8-2.htm

超心理現象の特定と再現性の問題

2008-02-11 | 21世紀の超心理学
<21世紀の超心理学(12-1)>

第12章:超心理の懐疑論に対するストームの社会-経験的考察
(1)超心理現象の特定と再現性の問題

超心理現象の特定と再現性の問題は、かなり社会相対的である。

よく「超心理現象は再現性がない」と言われるが、それより再現性が
低い事象が、本流科学で事実「実在する」と特定されている。「実在」
が社会的に構成される実情を忘れてはならない。「再現性がない」と
いう批判の裏には、思想としての研究方法が潜在しており、それは
決して社会を超えた特権的地位にあるわけではない。

超心理学の否定論者は暗々裏に、自らの偏向した方法を押し付けて
いる可能性がある。超心理学者には独自の方法論を編み出す道が
拓けている。

http://www.kisc.meiji.ac.jp/~metapsi/psi/8-1.htm

超心理の懐疑論に対する社会-経験的考察

2008-02-09 | 21世紀の超心理学
<21世紀の超心理学(12-0)>

第12章:超心理の懐疑論に対するストームの社会-経験的考察

超心理学の将来は、科学的経験主義と社会学的力学で決まって
くるだろう。ストームはその関係性を社会-経験的アプローチと呼び、
超心理の徹底否定論者の分析の足がかりとしている。

第1に、風変わりで矛盾を含む超心理現象の本質が、他の科学現象
の場合と同様なかたちで受け入れ可能かどうか、精査する。

第2に、パラダイムの通約不可能性、および社会認知や認識論的
断絶などの哲学的・社会学的要因が、超心理学にどのような影響を
及ぼしているかを調べる。

第3に、信念や経験、それに科学的方法が特異現象に対する態度
に与える影響を考察する。

それによりストームは、否定論者は自分たちの立場を正当化できて
いないと主張する。


臨死体験は死にいく脳が作り出すのか

2008-02-08 | 21世紀の超心理学
<21世紀の超心理学(11-5)>

第11章:ネッペとパーマーの主観的特異事象の考察
(5)臨死体験の生理学的な検討

主観的特異事象の一例として臨死体験をとりあげ、生理学的な
検討をしてみる。

死ぬ間際には、酸欠がすすみ、神経の抑制回路が効かなくなり、
幻覚が見えるほどの興奮が起きてくる、と考えられる。トンネル
とか、光などの臨死体験に特徴的なイメージは、麻酔薬のケタミン
でも引き起こされるとされる。

以前トンネルは産道を通ったときの記憶と推測されたが、帝王
切開で生まれた人々も同様なイメージを報告するので、それでは
説明がつかない。側頭葉皮質の人工的な刺激で体験するとも
報告されている。

臨死体験を脳の生理現象で説明するには、体験があったときには、
必ずその生理現象がみられ、かつ、その生理現象からは臨死体験
の報告と同じ現象だけが報告されないとならない。しかし、実際の
ところは、その両方とも成り立たない。少なくとも、単純な形の脳の
生理現象では説明しきれないのだ。


体脱体験と明晰夢は同類か

2008-02-07 | 21世紀の超心理学
<21世紀の超心理学(11-4)>

第11章:ネッペとパーマーの主観的特異事象の考察
(4)体脱体験の心理学的な検討

主観的特異事象の一例として体脱体験をとりあげ、心理学的な
検討をしてみる。

体脱体験と明晰夢は、どちらも通常と異なる自我・意識状態に
入るという点で類似している。ところが、体脱体験では、夢見
状態で典型的な眼球運動がなくなることが知られている。
眼球運動を意識的に止めることで体脱を起こす技術さえも
主張されている。機能的な面で似通っている両者は同一の
機構であり、明晰夢で眼球運動が停止し、身体感覚のフィード
バックがなくなると体脱が体験されるのかもしれない。

また、脳の異常興奮により体制感覚の麻痺が起き、体脱が体験
されるのかもしれない。共感覚との関連もみられる。

あるいは、現実を構成する認知モデルのうち、空間イメージを
形成する働きが、入力信号の遮断から独自に働き、体脱体験に
なるのかもしれない。


臨死体験を多様な概念と見てみよう

2008-02-06 | 21世紀の超心理学
<21世紀の超心理学(11-3)>

第11章:ネッペとパーマーの主観的特異事象の考察
(3)臨死体験を多様な概念と見てみよう

主観的特異事象の一例として臨死体験をとりあげてみる。
われわれはとかく臨死体験はこれこれだと簡潔に表現しよう
としがちであるが、むしろ多様な概念と見ることが重要だ。

たとえば、トウェムロウらの82年の論文では、臨死体験を
低ストレス、感情ストレス、中毒、心臓発作、麻酔の5条件
でクラスター分析している。


幻覚、妄想、自我希薄化などの再検討が必要だ

2008-02-05 | 21世紀の超心理学
<21世紀の超心理学(11-2)>

第11章:ネッペとパーマーの主観的特異事象の考察
(2)幻覚、妄想、自我希薄化などの再検討が必要だ

幻覚:
実体がないのに感覚的な知覚があることで、霊視などの
なんらかの存在感の感知につながる。

妄想:
こうした強い印象の現れは精神疾患の典型症状であるが、
ESPの現れとも考えられる。

自我希薄化:
統合失調症とみなされる傾向があるが、霊媒の「脱魂」
でも同様の現象がみられる。

上述の諸現象の研究は、とくに急務の課題である。
その他、てんかんなどの発作も検討が必要である。


精神疾患の一部は正常な特異体験だ

2008-02-03 | 21世紀の超心理学
<21世紀の超心理学(11-1)>

第11章:ネッペとパーマーの主観的特異事象の考察
(1)精神疾患の一部は正常な特異体験だ

主観的特異事象を報告すると「自我が分離している」などの
精神疾患とみなされがちだが、正常な超常体験かもしれない。

正常な体験者は、その体験を社会文化的な枠組みのなかで、
適切に、倫理的に対処できる。また、体験にともなって生理
的な副作用を起こすこともない。

しかし、そうした体験が受け入れられてない文化においては:
・体験を否定したり、抑圧したり、補償行動をとったりする
・社会の拒絶により、不安を抱いたり神経症になったりする
・体験の実在性をうまく査定できなくなる
・社会の扱いを拒絶して、孤立感を深める
・体験を許容する小グループで活動する
という傾向が、正常者でも見られることだろう。


ネッペとパーマーの主観的特異事象の考察

2008-02-02 | 21世紀の超心理学
<21世紀の超心理学(11-0)>

第11章:ネッペとパーマーの主観的特異事象の考察

ヴァーノン・ネッペは主観的特異事象という概念を提唱し、
超心理学と精神医学の接点を明確化することで、本流科学
との接続を図っている。ここでは、ジョン・パーマーとの共著
で、体脱体験と臨死体験の現象学的研究を議論している。

自発的な特異体験の超常性を科学的に「証明」するのは不
可能であるが、その体験報告を定量的・定性的に分析する
ことは、意義がある。


意味論的場が意志による進化を実現する

2008-01-28 | 21世紀の超心理学
<21世紀の超心理学(10-5)>

第10章:ハーディが心物問題に意識の観点から取組む
(5)意味論的場が意志による進化を実現する

人は、目的を達成するために願ったり欲したりして、結果的に
それを実現し、生き抜いている。この仕組みが超心理的にも
働いているとするのが、スタンフォードのPMIR理論である。
http://www.kisc.meiji.ac.jp/~metapsi/psi/5-3.htm

意味論場理論によると、思考とは意味のネットワークの変化で
あり、意志とは課題達成に向けたネットワークの駆動力である。
シンクロニシティやセレンディピティも同種の現象の現れだ。

この観点から生物進化を考えると、意志をもつことで種の進化
が強く促進されていると推定できる。人の進化では、遺伝子の
突然変異に帰すことができない人類の結びつき、全地球的な
ガイアの連関が重要な役割を果たしている。意味論的場に注目
することで諸問題の解決の方向が見えてくる。


意味論的布置の共進化

2008-01-27 | 21世紀の超心理学
<21世紀の超心理学(10-4)>

第10章:ハーディが心物問題に意識の観点から取組む
(4)意味論的布置の共進化

人格は複雑な意味論的場であり、つねに生成を繰りかえす
意味論的布置構成をなしている。たとえば芸術家の布置は、
創造的であるとか、風景を楽しむとか、芸術家に典型的な
諸々の組織状態からなっている。ある芸術家と別な芸術家は
それぞれ、その典型的な組織状態をもっているので、意味論
上の類似布置となり、相互作用を行なう。

その相互作用状態にある2つの系は、一部の意味深い同期に
によって、全体が複合状態になり、新しい状態が自己組織化
される。これはまさに共進化である。


ネットワーク力学的創発

2008-01-26 | 21世紀の超心理学
<21世紀の超心理学(10-3)>

第10章:ハーディが心物問題に意識の観点から取組む
(3)ネットワーク力学的創発

クリスティン・ハーディによると、心と脳のギャップを埋める
のは、自己組織化の力学原理だという。

理論的には、神経回路網(ニューラルネット)モデルと、
複雑系のカオスモデルを合わせた考え方である。心と脳の
2つのシステムが出会うところで、相互にコミュニケーション
がなされ、共進化が起きるのである。


まず心と物とのギャップを埋めよう

2008-01-25 | 21世紀の超心理学
<21世紀の超心理学(10-2)>

第10章:ハーディが心物問題に意識の観点から取組む
(2)まず心と物とのギャップを埋めよう

クリスティン・ハーディによると、超心理学が心に関する科学である
とすると、何らかの認知理論を基盤にすべきだと主張する。

古典的な認知理論は大きく2つであり、(1)心とは脳の挙動に
他ならないとする唯物論か、(2)それらは別々の存在であると
する心脳二元論である。後者には、心をソフトウェアと考える
計算主義、スーペリー(1978)の主張に代表される相互作用論
などがある。どれも心と脳(物)の間の関係、その間の深い溝を
埋めるには十分でない。

主観的体験の「私」のレベルと、客観的な脳の化学反応のレベル
の双方が存在し、相互作用すること、そして心の諸性質が説明
できることが必要である。それには新しい理論的枠組みが不可欠
である。