11月26日 NHKBS1「国際報道2020」
北朝鮮に近い 韓国ヨンピョン島。
2010年11月
北朝鮮軍の砲撃を受け
民間人を含む4人が死亡した。
ソウル近郊のインチョンから船で約2時間半。
ヨンピョン島。
島の高台にある展望台からは北朝鮮側の島が見える。
その向こうの陸地までも10キロほどしか離れていない。
島では韓国軍が訓練を行ない警戒に余念がない。
2010年11月23日
北朝鮮の砲撃が島の静けさを切り裂いた。
80発もの砲弾が着弾。
住宅にも被害が出て民間人2人と兵士2人が犠牲になったのである。
当時アメリカはオバマ政権。
“北朝鮮が非核化に動かなければ直接交渉はしない”
「戦略的忍耐」というというアプローチで圧力をかけていた。
それに北朝鮮が反発を強めるなかで起きたヨンピョン島への砲撃で南北の緊張は一気に高まった。
島にはいまも破壊された建物や砲弾が当時の姿のまま保存されている。
「ここ一帯が全ても得てしまいました。
今は建て直されましたが。」
民宿を営むソンさん。
10年前の砲撃の様子をいまも鮮明に覚えているという。
(ソンさん)
「まさに戦場でした。
一方的に攻撃されました。
住民は不意打ちされたのでどうすることもできませんでした。」
島では事件を受けて北朝鮮に対する備えが強化された。
新たに8か所の避難施設を建設。
頑丈なシェルターでは約460人が1週間ほど過ごすことができる。
ソンさんは被害を受けた民宿を修復し営業を続けている。
静かな島は砲撃以降大きく変わった。
(ソンさん)
「いろんな施設を作るために行き来する人も増えました。
好奇心で“ヨンピョン島にいってみたい”と来る人もいます。」
南北をめぐる緊張がいかに自分たちの生活に直結しているか
砲撃事件で思い知らされた。
(ソンさん)
「以前は南北関係にあまり関心を持ちませんでしたが
事件後は南北関係のニュースを関心を持ってみるようになりました。」
しかしこの10年
南北や米朝の関係は一進一退を繰り返すばかりで大きな進展は見られなかった。
2017年 就任当初は北朝鮮に強硬姿勢だったトランプ大統領。
(アメリカ トランプ大統領)
「ロケットマンは自滅の道を歩んでいる。」
翌年には一転して史上初の米朝首脳会談を行ない
キム・ジョンウン委員長との蜜月ぶりをアピール。
朝鮮半島は融和ムードに包まれた。
ヨンピョン島でも北朝鮮軍から狙われるのを警戒して消されていた灯台に45年ぶりに灯が灯されるなど
雰囲気が和らいだという。
(島民)
「トランプ大統領は文大統領とキム委員長と会い対話をしたので期待が持てた。」
しかし融和ムードは長続きしなかった。
米朝首脳会談は3度行われたものの
アメリカは“北朝鮮の非核化への動きが足りないとして制裁の解除に応じず
朝鮮半島は再びこう着状態に陥っている。
2020年9月には
(KBS 韓国 9月24日放送)
「ヨンピョン島会場で行方不明になった我が国民が北朝鮮の銃撃で亡くなりました。」
ヨンピョン島のすぐ近くで韓国の船の乗組員が北朝鮮軍によって射殺される事件が起き
衝撃が走った。
(島民)
「今も不安だ。」
「いつまた砲撃が起きるか分からない不安はいつも持っている。」
北朝鮮との最前線で国際情勢に翻弄されてきたヨンピョン島の人たち。
アメリカの政権が変わる今後
南北関係の改善が実現することをソンさんは望んでいる。
(ソンさん)
「トランプ氏は見当がつかない人だったが
バイデン氏の方が民主主義的で安心感があります。」
しかし同時にその道のりは容易ではないとも感じている。
(ソンさん)
「最近 北朝鮮と歩み寄ったりとか往来ができたりするのかと期待もしたが
結局足踏みでした。
どうしようもなく
簡単なことではないと感じています。」
島は一見すると穏やかな様子だが
軍服姿の人が目立ち
なかにはすぐに非難できるよう荷物をまとめていっるという人もいた。
9月にはすぐ近くの海域で北朝鮮による韓国船員の射殺事件も起きていて
今も不安と隣り合わせの状況が続いている。
国際協調を重視するバイデン氏であれば
米韓が協力して北朝鮮問題にあたっていけるだろうという見方が出ている。
ムン政権への助言を行なってきた専門家は
(北韓大学院大学 ヤン教授)
「バイデン政権は北朝鮮の非核化や朝鮮半島情勢について
ムン大統領の話に耳を傾けるだろう。」
ただ北朝鮮との融和政策を掲げるムン政権としては
首脳会談を立て続けに行なったトランプ大統領の再選が望ましいとの見方があったのも事実である。
首脳同士の対話で北朝鮮に対応しようとしたトランプ大統領とは異なり
バイデン氏は実務者間で協議を重ねるボトムアップ方式で北朝鮮と向き合っていくとみられ
成果が出るには時間がかかるというデメリットがある。
残りの任期が1年半を切っていて北朝鮮との関係に進展を得たいムン大統領としては
焦りを募らせることになりそうである。