日暮しの種 

経済やら芸能やらスポーツやら
お勉強いたします

楽しんで生きるぞ “明日のこころだァ”

2020-12-05 07:13:29 | 編集手帳

11月8日 読売新聞「編集手帳」


 俳優の小沢昭一さんには多くの顔があった。
舞台や映画の傍ら、
消えゆく放浪芸を訪ね歩いた。
ラジオの「明日のこころだァ」を懐かしむ方もあろう。
「変哲」と号し、
俳句を楽しむ人でもあった。

その小沢さんが愛した名句がある。
小林一茶の〈ことしから丸儲(まるもうけ)ぞよ娑婆(しゃば)遊び〉だ。
著書に引用なさっている。
丸儲に娑婆と来ると、
何やらレバノンへ出国した御仁(ごじん)を連想したりもするが、
そういう句ではむろんない。

一茶は文政3年10月、
西暦で言えば1820年の秋、
雪道で転び、
中風を発病したという。
句を手控えた『八番日記』を見ると、
嘆息しきりでもない。
それでも内心は不安だったらしい。

幸いに回復し、
迎えた翌年正月、
かの句が現れる。
し、
あの世行きかと思った身だ、
この世(娑婆)にいられるのは儲けもの、
楽しんで生きるぞと歓喜があふれ出すかのようである。

200年後のわれらも、
コロナで蟄居(ちっきょ)の日々である。
年明けに〈娑婆遊び〉と言えたらいい。
収束はその先でも、
いつかはそうなると思っていたい。
当欄は時々、
小沢さんの名文句を自分につぶやいてみる。
「明日のこころだァ」と。


コメント