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残像のように

2020-07-07 07:00:00 | 編集手帳

6月10日 読売新聞「編集手帳」


若手の俳人であり、
本紙社会部記者でもある山口優夢に雨を受けて咲くアジサイを描写した句がある。
<あぢさゐはすべて残像ではないか>
(『残像』角川学芸出版)

降りしきる雨のなか、
かすむ視界に浮かぶ花は残像でしかなく、
手で触れようとしても本当はそこに何もないのではないか――
夏への橋渡しをする花の、
かくもせつない咲き方を五七五に閉じ込めたものだろう。

近畿がきょうにも、
関東があすにも梅雨入りするとみられている。
今年は列島の東西でほぼ同時期にアジサイの季節を迎えることができるらしい。

というのも去年の梅雨入りは東京が6月7日で、
大阪が20日も遅い27日だった。
なかなか西にかからない前線を、
天気図に信じがたく眺めたのを思い出す。
とはいえ去年の梅雨までの歩みはわりと穏やかに過ごせた。
令和元年を初夏の清らかな空気のなかで迎え、
気がつけばアジサイが雨にぬれていた。
それに比べると、
この3か月ほどが信じがたく思える。
本当にあったことなのかと。

大阪では感染者がめっきり減り、
あの医療崩壊の迫った日々が残像になりかけている。
東京はまだまだ。

 

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