1月29日 キャッチ!世界のトップニュース
アイルランド島は
北部はグレイト・ブリテン島から入植したプロテスタント系の住民が多く
1921年にカトリック教徒が多い南部と分割され
「北アイルランド」としてイギリスの構成国の1つとなった。
1960年代からは
南のアイルランドに帰属を求めるカトリック系住民と
それに反対するプロテスタント系住民の対立が激化したが
1998年に和平合意がなされ
互いにEU加盟国として安定した関係を築いてきた。
しかしEUとの離脱交渉で
アイルランド島に限り国境の現状維持を目指した特別な枠組みを模索した政府案が
議会で否決された。
もし自由な人と物の行き来ができなくなれば
アイルランとの隔たりによって経済ばかりか
住民同士の関係にも悪影響が及ぶのではないかと住民の間では不安が広がっている。
緑の丘陵が続くイギリスの北アイルランドとアイルランドの国境地域。
ふたつの国を隔てるものは何もない。
この“解放された国境”をいかに守るかが
いまEU離脱交渉の最大の焦点となっている。
北アイルランド側の国境の町ニューリーの駅。
早朝 アイルランドの首都ダブリンに向かう列車には多くの通勤客が乗っている。
物価の安い北アイルランドで暮らし
給与の高いアイルランドに毎日通っている人は少なくない。
(通勤者)
「パスポートのチェックもありません。
ここの人々に国境は存在しないのです。」
2つの国を自由に行きかうのは人だけではない。
ニューリー近郊の港で扱う積み荷の量は年間365万トン。
多くは税関検査を受けず
そのまま隣国アイルランドに向かう。
ニューリーでカーペットの輸出入を営む男性。
ベルギーやトルコ インドなど
6か国から買い付けた製品をインターネット上で販売している。
物の行き来が自由なことを生かし
EU加盟国からの注文には48時間以内に商品を届けることをセールスポイントにして
売り上げを拡大してきた。
イギリスがEUから離脱し
EUとの間で関税や税関検査が導入されたら
今のビジネスモデルが成り立たなくなると表情を曇らせている。
(カーペット販売店経営者)
「アイルランド側へ移転したくないですが
事業のことを考えると全てが選択肢になります。」
ニューリーの住民の不安は経済面だけではない。
2人の子どもを持つヘンリーさん。
幼いころ北アイルランド紛争を経験したヘンリーさんは
住民の間で宗教をめぐる対立感情が再び表面化するのではと不安を隠せない。
国境からおよそ7kmのニューリーには
紛争当時 いたるところに検問所が設けられた。
そこに駐在する兵士や警察官を狙って独立派の武装組織が攻撃を繰り返し
住民にも犠牲者が出たという。
(ヘンリーさん)
「この子たちが
私たちが経験したような暴力と混乱の中で生活することは考えられません。」
一方カトリック系の政党「シン・フェイン」は
国家要管理が復活すれば
北アイルランドとアイルランドの統一の是非を問う住民投票の実施を求めると主張している。
(シン・フェイン党 ミッキー・ブレイディ議員)
「わが党が住民投票で負けると他党が思うなら
実施すればと思います。
それでこそ民主主義と言えるでしょう。」
ニューリーの町でもこの住民投票に賛同する声が聞かれる。
(住民)
「25年たてばアイルランド島は統一します。
離脱のおかげです。」
「統一が実現すればいいですが
まず景気を良くしてほしい。
離脱は災難です。」
ヘンリーさんは
離脱をめぐる議論によって知らず知らずのうちに寛容さが失われていっていると感じている。
いる。
(ヘンリーさん)
「2つの宗派の対立が再び姿を現し緊張を生み出しています。
離脱の混乱で対立感が吹き出し
どちらかを選ぶように強要するのです。」
メイ首相の協定案の細かい内容もさることながら
離脱そのものへの不安が強い。
北アイルランドの人々は総じて人懐こくて話好きだが
「離脱」といった瞬間に「話したくない」と拒絶される。
市民からすると
EU離脱で社会も経済も和平が揺さぶられるのは“自明の理”のはずなのに
政府はそれをわかろうとせずに離脱の議論を始めたのかという不信感が再び浮上している。
こうした不安につけ込むかのように
和平を揺さぶろうとする勢力によるとみられる暴力も起きるようになっていて
地元の警察は
国境管理が導入されれば事件はさらに増えるだろうと警告している。
メイ首相は歴史的な敗北を喫したにもかかわらず
大枠では自らのまとめた離脱協定案を捨てきれていない。
「北アイルランド問題についてEUと再協議」を盛り込んだ代替案を議会で採決にかけ
膠着状態の打破を試みる。
メイ首相としては
もし議会の支持を取り付けられれば“英議会の意思”を盾にEU側に修正を求める構えである。
EU側も協定案にこれ以上の譲歩には応じない構えを崩してはおらず
筋書き通りに事が進む見通しは全く立っていない。
メイ首相の戦略は“合意なき離脱”という最悪のカードを前に
どちらが先に折れるのか
度胸試しをするゲーム・オブ・チキンだといわれているが
離脱まであと60日を切っている。
一方で第2の国民投票を求める動きも出ている。
またあくまでもEUとの再交渉を求める離脱派もいて
時間切れによる“合意なき離脱”に落ちいってしまう状況になりかねない。
イギリスは自らが選んだ離脱によって極めて追い詰められた状況になっている。