7月30日 編集手帳
日本の中学生は、
1年生で『少年の日の思い出』(ヘルマン・ヘッ セ)、
2年生で『走れメロス』(太宰治)に触れる。
国語教科書を発行する5社全てが採用している。
3年生は近代中国の文豪魯迅の『故郷』を読む。
荒廃した
郷里に失望する主人公だが、
再会を約束する子供らの言葉に未来を思う。
希望を道に例え、
〈もともと地上には道はない。
歩く人が多くなれば、
それが道になるのだ〉という結びに励まされる生徒も多かろう。
国際法が出来上がるさまも、
道に例えられる。
法律を作る「国会」のない世界で国々の歩みが積み重なり、
やがて、
そこを通ることが正しいと誰もが確信する。
警察もなく、
互いに約束を守ることが生命線である。
南シナ海問題をめぐる仲裁裁判の判決を、
中国は紙切れと呼んで無視している。
「裁判は拘束力を有する」と記した条約に署名したことを忘れたのだろうか。
紛争を「紙切れ」で解決することを目指して国際社会は歩いてきた。
中国の前に二つの道があるわけではない。
各国と肩を並べ、
法が通じる道を踏み固めながら進むか、
前近代の荒野にひとり迷い込むかである。