今日もリハビリテーション病棟で働いた。といっても、リハビリテーション病棟は2つの建物にA/B/C病棟の3つの病棟に分かれているので、毎回、配属される場所が違うことが多い。今回は新しい建物のB病棟でいつものように午前中だけの半シフトをした。
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入院患者リストを引っつかみ気合を入れてナースステーションの真ん中に陣取り、6時45分から出勤しているナースから、私と、同じくゆっくり出勤してくるInchargeナースへの申し送りが早速始まった。私の役目は外来へ9時から12時まで手伝いに行くRNのカバー(代わり)だ。
すると、何だか「Dさんの足をご家族が無事に運ぶことが出来ました。車で、ここから(何とかという)町まではるばる届けに言ったそうです。」とか言っている。は?足?確かに"Leg"と言ったな…。ああ、義肢のことか。でも、その足の話が延々と続いていて何だかおかしい。私と申し送りを聞いているナースの様子もおかしい。なにやら露骨に怪訝な顔をしている。で結局私とそのナースはそろって「その足って…。」と聞き返したら、「もちろん人の足よ。数週間前に片足を手術で切断した後、病理室の冷凍庫で保管していたのを、そのまま包んでバックに入れてもって行ったわ。」とか普通の顔をして言っている。そしたら、横から別のナースが「その人はアボリジニー(オーストラリア先住民族)でね、体の一部が切断されると、その部分を生まれ故郷の地に持ち帰って儀式をするんだ。でないと、魂がその故郷で安住できなくなると信じているんだって。」と説明してくれた。反応はそれぞれで「へぇー!知らなかった。」と私。「うぇー!足ってあの切り落とした足よね!?それをあなたは普通に病理室から受け取って患者の家族に渡せたの?なんとも思わなかった??」と明らかに気持ち悪がっているナースA。「列車事故とかで飛び散った遺体なんかどうするんでしょうね。全部かき集めるのかしら。」とナースB…。と、どんどん申し送りから話が離れていく。うぇー、って言ってもタダの人間の体の一部分だったものでしょうに。体から離れた瞬間から気持ち悪いものとしてみるなんて。人間の心理は面白い。そういえば、義肢のことはなんていうんだっけ?普通にLegといっているような気がする。申し送りをしてくれた笑顔の素敵な若い切れ者ナースは、ダーウィン(NT準州)でナースとして働いた経験があり、沢山のアボリジニーの患者を看てきたのでこのようなケースには慣れているそうだ。アボリジニーの糖尿病罹患率は高い。セルフケアを怠っている人も多いそうだから当然、下肢の切除術を受ける人も多いだろう。
このような場面に出会うたびに、どんな些細なことでも患者個人の価値観・意思を尊重してケアをできる、ということはとてもすごいことだし、大切だと思う。
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私の家の近所は色々な国から移住してきた人がいる。近い順から、イギリス人の奥さん・イタリア人の老夫婦・ギリシア人とオーストラリア人のハーフの女性などと、かえってずっとオーストラリアで生まれて育った人のほうが少ない。私の息子達のチャイルド・ケア(保育園みたいなもの)の先生達は、インド・エジプト・台湾などから比較的最近家族そろって移住してきた人たち。その人たちは故郷での思い出話を時々してくれるが、日本人の旅行記やオーストラリアで見るTVでの旅行ガイドとも違った、その国の一般にあまり知られていない一面・素顔が垣間見られて楽しい。この国は本当に色々な人が共に住んでいる。
オーストラリアではこうして多民族がコミュニティに交じり合って暮らしているのが普通。なので、病院も公立病院でも通訳を無料で付けてくれたり、食べ物(例えば、宗教上の理由でのベジタリアン料理しか食べない人や、牛肉・豚肉など特定の肉類を口にしない人のために)に関しての希望などを入院時に聞くというように、フレキシブルに対応している。新しい習慣に遭遇したとき間皆で相談して対応策を練る。患者のほうもほとんどは、色々な国から来たナースやドクターにも慣れていて、毛色・肌色の違う妙なアクセントで話すナースがいてもあまり気にしない。
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オーストラリアに来て12年目。まだまだ知らない文化・慣習が沢山ある…。これからも、病棟で色々な習慣・価値観に出会えると思うととても楽しみだ。