植物園「 槐松亭 」

バラと蘭とその他もろもろの植物に囲まれ、メダカと野鳥と甲斐犬すみれと暮らす

書筆の欲 煩悩のはざまで

2020年12月10日 | 書道
書道筆をヤフオクで入手するようになって、一年近くになります。

 古い中古の筆をごっそりまとめて落札すると、非常に安上がりなのです。上質の羊毛(山羊)を使った筆などは、丁寧に使えば一生ものと言われるので、数十年前の筆でも何ら書くのには支障や不満はありません。

 特に羊毛筆でも、細嫩光鋒(さいどんこうほう)と言われる毛で作られた筆は、長く丁寧に使うと透明感のある艶やかな飴色になり、書き心地が増し、締まった味わいのある書をかける(ワタシにはまだ難しいですが)のです。恐らく、日本の書家さんのほぼすべての方が所蔵し、愛用されていると思って間違いありません。
 元は中国揚子江下流のわずかなエリアでしか飼育されない若い雄山羊の髭の毛なのですが、採れる量が極めて少ないため、その素材を確保するのが年々困難になり、今ではまがい物や質の悪い物に取って代わられた、と聞きます。 

 ですから、この細嫩光鋒を使った先揃え(穂先で真っすぐ平らに切りそろえられた)筆は、古ければ古いほど高品質で真正の細嫩光鋒筆である確率が高いのです。そして、ワタシはこういう最高級の古い筆が含まれている数本から数十本をまとめて出品されているものを探し出しては、ヤフオクで幾度か落札したのです。高価な銘名筆一本だけの出品は、未使用で出品側が価値や定価を知っているので、最低価格が数万円と高くてとうてい手が出ません。

 問題は、こういう筆は、上級者さんでないと使いこなせない、本来の滲みやカスレを上手に引き出した品格のある字にならない、ということです。とりわけ、筆軸が細身で、穂が長い長鋒筆になると、くねくねと穂先が折れ曲がったまま戻らないので、思ったように字が書けず、途中で途切れたりいたします。かといって、墨継ぎを頻繫に繰り返したり、硯で何度も穂先を真っすぐに揃えたりすれば、平板で抑揚のない書になります。

 ここで、本ブログで初の用語「渇筆」が出てまいります。これは、単純には筆の毛に空気が入り込むこと、あるいは紙と筆の間にわずかに隙間が生じることによって、筆が通った後でも白いままになる「かすれ」を出すことです。つけた筆の墨が無くなってきて文字が薄く細くなるのも、筆先がばらけて箒で刷いたようになる、あるいはちょっと筆圧を弱めたり浮かしたりすることでも生じます。
 プロの方が言う「渇筆」はただ、かすれるのではなく、濃く太い字の中に意図的に白い部分を浮きたてたり、「払い」に余韻を感じるかすれや縦画を長く抑揚をつけて下ろすなどの柔らかな線質を使うことを指します。
 この渇筆の使い方によって2次元で書かれる筆文字を立体的に浮かび上がらせることができます。上達すれば、良質な羊毛筆が、もっともエレガントな渇筆を生み出しやすいのです。

 細嫩光鋒筆、特に長鋒は上級者用で難しい、でも使う事が出来るようになれば渇筆が容易になる、のは承知です。で、まだまだ未熟なワタシは、手漉き半紙に頼り、筆先の扱いが簡単で上手に書ける兼毫筆に依存してしまうのです。 

 今、愛用する兼毫筆は、豊橋筆「筆庵」さんが出している「相生」という滑らかな書き味の筆です。羊毛筆特有の墨持ちの良さと柔らかな終筆の線質が出せます。同時に、鼬毛の特徴である穂先のまとまりや弾力によって、起筆の鋭さも生かせます。何より書き易く、取り合えず自分のイメージに近い字が書けるので、練習用に最適なのです。

 あんまり書き易いので、同じ穂の質で、もう少し大ぶりの筆を探しましたら、これが、無いんです。恐らく理由は、ワンサイズ上の筆は、一般販売するための安定した毛質と鼬毛の長さが確保できないからだと思います。羊毛だけなら十数センチの長さまでありますが、鼬は体が小さく、毛の長さの短い動物なんです。鼬筆の長鋒筆はほとんど売られておらず、作るとすれば高価な毛の長い品種コリンスキー種の毛を使うのです。それでもせいぜい出先(付け根から穂先まで)6㎝が限度に思えます。

 さほどこだわりがあるわけでもないのですが、やはり諦めきれず、似たような筆を選んでもらって、3種試してみることにいたしました。売るほど書筆はありますが、欲には逆らえません。汲めども尽きぬ物欲、と笑うなかれ、少しでも書を極めたい、上手くなりたい、その一心であります。
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