植物園「 槐松亭 」

バラと蘭とその他もろもろの植物に囲まれ、メダカと野鳥と甲斐犬すみれと暮らす

枯れていいのは人間と半紙

2020年12月04日 | 書道
続報です。昨日の半紙、実際に書いてみました。いやいやこれは。とてもいいものでした。ワタシの手元にある半紙の中ではトップクラスと言ってもいいくらいです。

 書道紙は、製造当初より数年~数十年経過した方がいいと言われます。和紙の製造過程で、手漉き機械漉きに限らず、木材やパルプの不純物を溶かして紙繊維を残すため、苛性ソーダを使用するのですが、この時そのセルロース繊維もかなりのダメージがあるのだそうです。これが、出来上がって何年か経つと寒暖差、湿度の変化などを繰り返した結果、セルロースが安定し繊維全体が締まって、墨となじみやすくなるのです。また、段々乾燥していくことで、滲み方が少なくなりしっかり繊維が墨を受け止めるのです。

 専門の書道家は「枯れる」と呼びます。人為的ではなく、太陽光に当たらず、適度な湿度と乾燥が繰り返される環境で、何度何度も四季を迎えた和紙が好まれます。立体感が出せる、とか適度なカスレや滲みが出る、豊かな墨色が出来るなどと言います。ただ、乾燥してカサカサになっただけの紙は、かえって繊維が硬く粗くなり墨を寄せ付けず、筆との摩擦が過剰になるので、書きにくくなります。
 
 一方湿気の多いところで保存していれば黴が生じ、シミが出てきます。虫食いや鼠が齧るのは論外としても、保存状態が悪いと、枯れた紙にならず、日焼けして薄茶色の書きにくい紙になるだけです。うまく「寝かした」紙は、諸説ありますが10年から20年ほど経過したものがいいようであります。

 ワタシの所蔵する半紙の9割がヤフオクで落札したもので、平均20年ほどは経っていると思われます。残念ながら半数は、枯れたというより乾燥して固くなっています。腕前のせいもありますがそういう紙は上手く書けないのです。筆との摩擦音さえ聞こえるくらいでは書き味がよろしくありません。
 
 そんな中にも、いくつかは、筆を柔らかく受け止め「待っていました」とでも言うようにスッと墨を受け入れてくれる紙があるのです。滲んで広がることが少なく、紙に深く浸透するような手応えがあります。そうすることで、立体感と濃い奥行きのある字が書けるのではないか、と感じます。ワタシの力量ではそれが確たるものにはなりませんが、「あぁ、これが枯紙」なんだろうと実感いたします。

 先日届いた半紙類は、いずれもそんな書き味でありました。状態が良く保存されていて30年ほど経過したものと見えて、乾いた古い紙なのに手触りも柔らかくしなやかさが残る良紙でした。練習用にはもったいないくらいなのですが、そのためにヤフオクで探し、機械漉きなみの値段で手に入れたものですから遠慮なく稽古に使うべし、でしょう。

 更に、もうひと箱(7500円で落札)が昨日到着。出品者さんが、「20年ほど経過して、いい感じで枯れている」「使いきれないので、分けて出品します」と説明されていました。ご自分で使用していた半紙を自分用のものと取り分けて半分程処分したようです。見るからに上質の半紙でした。中に800枚ほどは書道をやる人ならだれでも知っている中国の有名な半紙「毛辺・白蓮・玉扣」で、一枚9円位で売られています。その違いは紙の厚さに有るようですがよくわかりません。(;^_^A。これだけで、落札価格の「モト」が取れたに等しいのです。

 他は6銘柄の手漉き半紙。これも大当たりです。半分くらいは輸入物、残りは国産手漉き半紙に違いありません。ワタシのにらんだところ一枚10円以上する上物です。充分に寝かした上質な手漉半紙の枯紙、これが約3千枚、欣喜雀躍・狂喜乱舞するほどのありがたいお品なのです。ただでさえ毎日の練習が楽しいのに、更に楽しさ倍増であります。

 今回の損得で換算すると・・・・・。これしきですぐに金の計算に走るのは、まだワタシが枯れていない証拠。枯紙を用いて枯淡の味わいのある書を書ける日はいまだ遠いようであります。

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