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『アジア太平洋の民族を撮る』最近読んだ書籍から(2)

2023-06-14 08:02:30 | 日本文化の源流

市岡康子著『アジア太平洋の民族を撮る』弘文堂 2023年2月20日初版本を読んだ。興味を惹いた事柄を記す。

毛沢東の死去(1976,9,9)後、文化大革命の終結が1977年に宣言された。著者の市岡康子女史は、その3年後の1980年雲南省喜州周城の白族(ペーぞく)①田植え祭りを取材されたようである。今回の記事は、その取材された様子と当該ブロガーが考えることである。

以下、著書の内容である。“田植えの初日には旗行列がでる。10m程の竹の天辺に鳳凰をかたどった飾りと、赤と青の旗を飾った竿を先頭に、田植えの一団が田圃に向かう。鳳凰は水を司る龍を制し②、赤旗は米の生育に必要な日照を、青旗は降雨を表すという。いずれも稲の無事な生育を祈願する意味がある。

(白族旗飾り・出典:アジア太平洋の民族を撮る より)

民俗芸能研究家で文化功労者の本田安次先生は、白族の田植えに登場する竿は、沖縄の豊年祭りに出る旗頭(はたがしら)③と形態がよく似っていて、沖縄ではここにカミが宿るとされていて、共通の意味が読み取れる。

田植えはチャルメラなどの楽隊のお囃子にあわせて、白族の民俗衣装をまとった女性たちが、時には高い声で唱和しながら進んでいく。日本でも平安時代から田楽衆④が、はやしながら早乙女が田植えする風習があり、現在でも広島県の囃田や花田植えにつながっている。“

(北広島町の花田植え 現地にて)

注目したのは、以上の記述内容である。ここで先ず、「10m程の竹の天辺に鳳凰をかたどった飾りと赤と青の旗を飾った竿」との文言である。上掲の写真付で紹介されていた。これは当該ブログで過去に何度も記事にしているが、鳥をトーテムとする東アジアや東南アジアの諸民族と共通の民俗事例である。代表的なモノは、苗(Hmong・モン)族の蘆笙柱の廻りで行われる予祝儀礼と同じ意味をもっている。

本田安次先生によると、白族の稲作における予祝儀礼は、沖縄の旗頭らと、北広島町の花田植えにつながるとの事。やや話しが飛び過ぎているように思えなくもない。白族の予祝儀礼が歴史的にどの時代まで遡れるであろうか。

残念ながら東近江の『ケンケト祭り』をいまだ実見していないが、去る5月3日に滋賀県竜王町の杉之本神社で挙行されたようである。以下に掲げる写真は、文化財オンラインから借用したものである。

ケンケトとは、お囃子の音頭から、そう呼ぶようであるが、色彩豊かな衣装に身を包み、長刀振りを奉納し、五穀豊穣と住民の安全を祈願する祭りで、予祝儀礼にほかならない。由来は、織田信長の甲賀攻め(1570年)に山之上地区⑤男児は鳥の羽根を頭に飾り、小さな鐘鼓をもって踊ると云う。

これらの予祝儀礼は、まさに鳥をトーテムとする人々の民俗にほかならないが、残念ながら歴史的には信長の時代からであり、当時鳥と稲作予祝について伝承があったのか、なかったのか・・・と云う確証は得られそうもないが市岡康子女史の当該記事を読み、倭族は揚子江下流域から日本列島に移動したであろうこと、苗(モン・Hmong)族もまた漢族に追われて中国深南部に移動した。双方の本貫である呉越の地の民俗的事象が、やや短絡的思考であるものの、『ケンケト祭り』に繋がったであろうと思った次第である。

参照)ベトナム建国神話とタンロン水上人形劇

注)

①白族・ペーぞく:雲南省大理白族自治州に居住するチベット系民族。未婚の女性が頭に捲きつける白い羽根飾りが民族名の由来。

②やや事実誤認があるようだ。雲南の伝承では、鳳凰ではなく大鵬金翅鳥(たいほうきんしちょう)と呼ぶガルーダがナーガ(龍)を捕食すると云う。この伝承の本貫は、古代インドでナーガはガルーダに捕食されるそんざいである。インドから東南アジア経由で雲南にもたらされた。

③旗頭:沖縄八重山地方の豊年祭りに用いられる。旗の天辺にハッキカシラ(八卦頭)、松竹梅頭等々が存在するという。

④平安時代から田楽衆:鎌倉時代からとの説も存在する。

⑤現在の滋賀県竜王町山之上地区。

<了>

 



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