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■日時:2012年6月16日(土)、18:00〜
■劇場:新国立劇場・中劇場
■作:オスカー・ワイルド
■演出:宮本亜門
■出演:多部未華子、成河、麻実れい、奥田瑛二、他
新国立劇場で上演した「サロメ」を見ました。「サロメ」は先週の江戸川乱歩の「黒蜥蜴」同様に、私の中では比較的馴れ親しんだ作品といえます。というのもこの題材について、とり憑かれたようにこのブログで書き続けた時期があるからです(カテゴリー:サロメ)。ただ、そのマイ・ブームが去ってから久しいので「サロメ」は久しぶり感が強く、細部は忘れかかっているものの、私の好きな作品の一つであることは変わりがありません。その「サロメ」、小説家の平野啓一郎による新翻訳の台本で宮本亜門が演出するというものでした。
その感想ですが、とても面白かったです。私はかなり偏った演劇しか見ていませんのでなんとも言えませんが、ここ数年見た演劇作品の中でもベストの部類に入るものでした。それは、オスカー・ワイルドの作品を現代的な言葉に書き換え親しみやすくした平野の台本と、宮本亜門の斬新な演出と役者の入魂の演技の三位一体のバランスがうまくとれた秀作であったということでしょう。役者で特に光っていたのは、やはりサロメを演じた多部未華子。彼女は新しいサロメ像を生み出すにあたり体当たりの演技で臨んでいると感じました。サロメは王妃の娘であり、母の淫蕩な血を受け継いでいる女の子。我が儘に育ち、勝ち気で言い出したら聞かない、自分が望むものは全て手に入ると思っている。処女でありながら乙女の純真さと恥じらう心はどこかにいってしまっていて、内なる暴力性を秘めた危険な女でもある。満月の夜のルナティックな感性が彼女の心を破壊させたのか、ヨカナーンを見たとたんに狂気の世界へと足を踏み入れていく。
これまでのよく知られたサロメ像は、ヘロデ王の性的な視線の対象となることや、それに続くダンス(オペラではその場面で肌を晒すか否なかが話題となる)により、大人びたセクシーな女性というイメージが強くあるのですが、今回のお芝居はサロメの年齢などから想定されるように、彼女は成熟した女性ではなく、むしろ例えれば高校生といったような未成熟のうら若き娘なのではないか?としてリアルな感覚をもった像として描いており、その意味で多部未華子という外見的に少女性がある役者のキャスティングは、これまでのサロメ像を打ち破るのに適していたように思えたのでした。悪魔のような狂気を秘めた女でありながらも、衣装は処女を象徴するかのような純白の白、それがヨカナーンを断首して、その首と戯れるにあたり真っ赤に染まっていくのは、サロメの話が血で塗られた悍ましいものであることと、怪物としてのサロメの狂気性、暴力性を見せるには十分であったように思えました(そしてその怪物化した少女、精神が完全にイッテしまっている難しい演技にチャレンジした多部)。また、サロメをサロメたらんと物語の中で作りあげていく脇としてのヘロデ王を演じた奥田瑛二も、多部を支えるように素晴らしい演技を見せていると感じました。
当日販売されていたカタログに翻訳をした平野啓一郎が、『聖書からフローベールに至るまで、サロメを巡る物語では、恐ろしいのは母親のヘロディアで、サロメは子供と役割分担をされていた。しかし、オスカー・ワイルドは、少女であるサロメに、残酷さと恐ろしさを併せもつ二重性を帯びさせた。そこに決定的な新しさがあった。その二重性をうまく理解できないと、サロメを単純にヘロディアとだぶらせて、大人の魔性の女と誤解してしまう。それには、やはりビアズリーの挿絵のイメージも大きかった。そこで今回は、出来るだけ、ビアズリーのイメージから自由になるところから翻訳を考えた。子供でありながら官能的、子供だからこそ残酷という二重性を明確にしなければ、この芝居の意味はわからない。』と書いてあったように、まさしくその言葉にぴったりの作品でした。※『』部分、「サロメ」カタログ(新国立劇場)から引用
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サロメ (光文社古典新訳文庫) |
平野 啓一郎 | |
光文社 |
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サロメ (岩波文庫) |
Wilde,福田 恒存 | |
岩波書店 |
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フィリップ・ジョルダン指揮,デイヴィッド・マクヴィカー演出,ロイヤル・オペラハウス管弦楽団,ナディア・ミヒャエル,ミヒャエル・フォレ | |
日本コロムビア |
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「サロメ」の変容―翻訳・舞台 |
井村 君江 | |
新書館 |
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サロメ [DVD] |
オスカー・ワイルド,トマティート | |
ポニーキャニオン |
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サロメ図像学 |
井村 君江 | |
あんず堂 |
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まんがグリム童話サロメ |
坂東 いるか | |
ぶんか社 |
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コロムビアミュージックエンタテインメント |
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