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飾釦(かざりぼたん)とは意匠を施されたお洒落な釦。生活に飾釦をと、もがきつつも綴るブログです。

ほとばしる魂@ゴッホNO3・・・小林秀雄「ゴッホの手紙」を読む

2010-12-28 | 美術&工芸とその周辺

小林秀雄の有名な「ゴッホの手紙」を読みました。読んでびっくりしたのは、小林の文章は少なくゴッホの手紙の引用がその本の大半を占めていることです。それは最後にあたる文章で小林が、<私は、こんなに長くなる積もりで書き出したわけではなかった。それよりも意外だったのは書き進んで行くにつれ、論評を加えようが為に予め思いめぐらしていた諸観念が、次第に崩れて行くのを覚えた事である。手紙の苦しい気分は、私の心を領し、批評的言辞は私は去ったのである。手紙の主の死期が近付くにつれ、私はもう所謂「述べて作らず」の方法より他にない事を悟った>と書いているように、ゴッホの魂がほとばしる言葉に超一流の評論家もそれを書くことさえできなかったということなのでしょうか。それほどにゴッホの手紙は強烈に小林の胸に突き刺さったのか…。

 

小林がこの「ゴッホの手紙」を書くきっかけになったのは、一枚の絵との出会いであるとあります。1947年に開かれた泰西名画展覧会において展示されていたゴッホの「烏のいる風景」、小林はその絵の前に来て愕然とし、しゃがみ込んでしまったと。<熟れ切った麦は、金か硫黄の線条の様に地面いっぱいに突き刺さり、それが傷口の様に稲妻形に裂けて、青磁色の草の緑に縁どられた小道の泥が、イングリッシュ・レッドというのか知らん、牛肉色に剥き出ている。空は紺青だが、嵐を孕んで、落ちたら最後助からぬ強風に高鳴る海原の様だ。全管弦楽が鳴るかと思えば、突然休止符が来て、烏の群れが音もなく舞っており、旧約聖書の登場人物めいた影が、今、麦の穂の向こうに消えたー僕が一枚の絵を鑑賞していたという事は、余り確かではない。寧ろ、僕は、或る一つの巨な眼に見据えられ、動けなずにいた様に思われる>こう小林はゴッホの絵の印象を書いています。しかし、小林に大きなショックを与えたゴッホの絵は実物ではなく複製画であったとわかるののは後日のようなのですが…

 

 

 

複製画にして強烈な存在感を放つゴッホの絵、小林と同様とまではいかなくても同じようにゴッホの複製画に触れて眩暈をおぼえるような体験した人は数しれないのではないでしょうか?ましてや小林がこの本を書いた当時は今みたいに世界中から名画が集まり展示され、気軽に?海外へ行ける時代でもなかったはずで、小林は生のゴッホを見ることなくこの本を書いたそうです(後に海外へ渡航生のゴッホの絵をみたそうですが)。それはそれで複製文化の幕開けを予感しているようなものなのかも知れません…。

 

ところで先にも書いたように、小林のこの本はゴッホの手紙がその大部分を占めているのですが、そこに小林が感じたほどパッションをボクは読み取れなかったのが正直な感想です。もちろん、ゴッホの言葉はそれぞれに心を突き動かされるような強い響きを持っているのですが、昨日に書いたテレビ番組のように映像と音楽にのって朗読されるゴッホの言葉と比べるとどうしてもボクの中に入ってくる時に弱く感じてしまうのです。小林のように説明もあまりなくゴッホがその手紙を書いたときの状況がわからないといきおい読み落としてしまう現象が起きてしまうのです。そうしたことを考えると、映像のようにわかりやすく立体的に編集されたものをただ受け取るのではなく、テキストからどれだけのことを読み取り見ていくのか?という力が問われているような感覚になりました。思うにこれがやっぱり偉大なる評論家である小林とボクとの大きな差なんだろうなと、小林秀雄による「ゴッホの手紙」を読みながら少し落ち込んでしまうのでした…。

 

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