■製作年:2010年
■監督:園子温
■出演:吹越満、でんでん、黒沢あすか、神楽坂恵、梶原ひかり、他
「非道に生きる」でその生き様に感動した園子温監督の映画。これが私にとって最初の園子温作品です。いやー、強烈な映画でした。ここまでやる?って思いたくなるような…。もし映画の役割としてカタルシスというものがあるならば、この映画はカタルシスなどは訪れることがない。逆に人間の暗部をえぐり出すような、それは嗚咽を呼び込むと言っていいような映画なのでした。話の展開や細部の描写や人間というものを見つめる視線などこれはなかなか骨太でレベルが高いんじゃないか?と感じさせる一方で、超悪趣味とも言えるグロテスクさに彩られた圧倒的な映像の提供により、見ている側の感情を無理矢理に揺さぶってくるのでした。その悪趣味な映像は本能的な恐怖感や根源的な嫌悪感をまさにダイレクトに刺激するわけで、見ていて楽しいと思えるものではありません。やっぱり嗚咽したくなるわけです。しかし嘔吐感を感じるのは視覚的に悪趣味な映像というだけではなく、その背景にある妥協しない骨太な視線で描かれた人間というこの不条理な存在というところまで、監督のメスが入っているというところが逃せないのでしょう。頭に書いたように、園子温監督の作品を初めて見たのですが、ここまで徹底して描いている作家だったとは知りませんでした。驚きを隠せません。
私が十代の終わりに見て強烈に感銘を受けた映画があります。それは今村昌平監督の「復讐するは我にあり」。緒形拳が演じる連続殺人鬼に全身の身の毛が震えた記憶があります。この園子温監督の「冷たい熱帯魚」に登場するでんでんが演じる殺人鬼もそれに匹敵、もしくはそれ以上の存在感を持った男と思いました。でんでんがこんなすごい男を演じていたとは!日本映画史に残る怪演ではないでしょうか。ド迫力の執念の演技です。ところで私が感銘を受け好きな作家の一人である今村昌平監督のそれはどこまでもリアリズムを追求した作品ですが、今回の作品を初めて見たのでなんとも言えない所もあるのですが、園子温監督のそれはリアリズムの中にも監督独自の慣性が多分に盛り込まれており、同じ骨太な映画を作るにしても好みが別れるところでしょう。
私としてはこの「冷たい熱帯魚」に登場する男たちは、リアルというか、おそらくどこかにいそうだなと思える部分があるのですが、女たちは意図的に<変>に描いているように思えてなりませんでした。黒沢あすかにしろ神楽坂恵にしろ<変>なんです。男たちに比べて全くリアル感がない。生活していない女なのです。胸を不自然に強調した服を着ているのもそうですし、その行動がことごとく納得がいかない。<変>な意味でステレオタイプ的(漫画的と言ってもいい)となっており、素直に彼女らに共感できるところがありませんでした。女性の描き方を通して死とエロス、暴力とエロス、血とエロス、笑いとエロスといった風なところに園子温監督の独自解釈が露骨に出ていると見えるのですが、そこに頷けるか否かという分かれ目が作品にあるように思えたのです。それはおそらく園子温監督の仕掛けなのでしょうが…。しかし黒沢あすかが演じている壊れた女にはまいりました。あれにはうなされます。妖艶でもありますし。でんでんといい遺体をバラバラにする場面では正視し続けるのにはホントに疲れました。公開当時は映画館でこの凄惨な場面で笑いが生じたと聞きますが、笑うしかなかったというのが正直なところではないでしょうか?館にいたわけではないので、あくまで想像ですが。ふぅ・・・ため息がでるけど傑作には違いありません。
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