○〇新549の10の1『自然と人間の歴史・日本篇』消費税増税(2019.10~)の対案はあるか(予算均衡定理・前編)

2019-04-02 10:55:28 | Weblog
新549の10の1『自然と人間の歴史・日本篇』消費税増税(2019.10~)の対案はあるか(予算均衡定理・前編)
 
 これまで、消費税増税に対し、いろいろな観点を紹介し、検討してきた。そこから得られたのは、この増税に同意することが大きな失政に加担することになるのではないか、という問題意識である。
 それでは、どうすればよいのであろうか。これについても、諸説を紹介している。そんな中で、消費税の増税をしないかわりになりそうな、すなわち対案となりそうなのは、ごく大まかにまとめると、次の二つであると思われる。
 一つは、国民本位で景気をよくすることだと思う。二つ目は、歳入歳出を勤労国民の暮らしの観点から徹底的に見直すことであろう。どちらにおいても当てはまることなのだが、この国の経済は本来、一握りの人たちのものでは決してないのである。
 そこで、以下では、この二つの要請を合わせ取り組んでいくときの、何かしら導きの糸、解決のヒントになりそうなものを考えたい。
 そこで今、これ以上歳出を増やしたくないとして、話を進めよう。これは、積極財政を否定するのからではなく、話を簡単にするためだ。
 すると、政府が均衡予算を組む場合、政府支出が民間所得を削って行われるときは、政府支出を増やすことで民間支出に負の影響を及ぼし、社会の有効需要は増えないのではないか、との意見があろう。
  これに対して、財政学者の林栄夫(はやしよしお)は、欧州発の「均衡予算定理」(集大成したのはハーヴェルモ(ホーベルモー))を取り上げている。林によると、この定理はまだ不十分なものであって、修正が必要であることをこう指摘している。
 「だがこれらの人々の分析は、課税と政府支出による所得再分配にもとづく乗数効果と均衡予算そのものの乗数効果とを明確に区別せずにしばしば両者を混同しておこなわれてきている。前者は、政府が課税の側面において接触する高額所得層の限界消費性向の大いさと政府支出の側面で接触する低所得層の限界消費性向の大いさとの間の実質的相違にもとづく効果を問題にする。
 これにたいし均衡予算そのものの乗数効果は、民間の限界消費性向の大いさと政府の限界収支性向の大いさとの間の相違にもとづく効果を問題にする。」(林栄夫(はやしよしお)「財政論」筑摩書房、1968)
その上で、彼自身の考え(筆者は、以下の所論を「ハーヴェルモ(ホーベルモー)・林の均衡予算定理」と呼びたい)をこう展開している。
「伝統的理論は、均衡予算を所得水準や物価水準に対して中立的であると考えてきたが、この考え方の背後には、課税は同額の有効需要を削減し、この税収入と同額が政府支出して有効需要化される、という観念がひそめられている。
 ところがケインズ財政論によれば、このような伝統的見解は明らかに利子率の変動を媒介として貯蓄と投資の均等を説く完全雇用前提の理論のうえにたつものである。
 しかし有効需要の原理からすれば、租税はその一部を有効需要化されない貯蓄部分からまかなわれ政府支出として有効需要化されると考えられる。あるいは、継起財貨サービスにたいする政府支出はそれ自身有効需要したがって国民所得の一部となるが、租税はそうではない、と説かれる。したがって租税でまかなわれる政府支出の場合でも、有効需要の純増加が生じ、その結果として乗数的所得創出効果を生じると言える。
 それは例えば、つぎのように証明される。財政がバランシングファクターとして機能する場合、政府支出増加(△G)の乗数的所得創出効果は、
        
     1
    ――――△G     (4) 
     1-a  

によって示される。aは限界消費性向である。これにたいし租税収入増加の効果は、次のように考えられる。一般的にいうと、租税収入の増加(△T)はそれと同額の有効需要を削減することはない。第1次的に削減される有効需要は、もしその税の増徴がなければ、消費にあてられるはずの所得部分に相当する。すなわちa・△Tである。したがって租税収入の増加の乗数効果を示す一般の形は、

     
  ー ――――△T     (5) 
     1-a  


である。したがって均衡予算は、政府支出の増加が同額の税収増加によってまかなわれる場合の予算としてとらえることができ、均衡予算の乗数効果は、(4)式と(5)式から、

    1      a
   ――――△Gー ――――△T     (6) 
    1-a    1-a


としてとらえられ、仮定により△T=△Gであるから

   1-a
   ――――△G=△G     (7) 
    1-a 

 となる。すなわち均衡予算の場合には、政府支出増加額と同額の乗数効果、還元すれば政府支出1単位当たり1の所得創出効果があるということになるのである。」(林栄夫(はやしよしお)「財政論」筑摩書房、1968)
 
 ちなみに、マルクス経済学者の置塩信雄は、この林の紹介した説(「均衡予算定理」)を援用して、こう述べている。
 「生産能力が巨大となり、これを正常に稼働したときに生産される商品の販路が不足すると、これを補充するための追加的需要の創出が国家に期待された。政府が諸商品に対する追加的需要を行うための財源をなにに求めるかが問題となる。
 増税による政府需要の増加という手段によって総需要を増加させることができるという議論が行われた。この議論の要点は、増税によって人々が例えば一兆円の可処分所得の減少を蒙ったとしても、人々の消費需要は一兆円は減少せず、例えば(限界消費性向を八〇%とすれば)八〇〇〇億円しか減少しないから、政府が増税による収入増一兆円を諸商品に支出すれば、差引き二〇〇〇億円だけ総需要の増加となるということである。
 この議論の論理から分るように、増税による政府需要増が総需要の顕著な増加をもたらすには、課税の増徴は限界消費性向の低い階級から行わなければならない。実際、右の例で限界消費性向が七〇%であるならば、総需要の増加は三〇〇〇億円となる。
 ところで、社会の構成員のうち限界消費性向の低いのは高所得を得ている階級である。したがって、増税による政府需要が総需要の顕著な増加をもたらすには、資本家階級から租税の増徴を行わなければならない。労働者階級への増税は、労働者の消費需要をほとんど同額だけ減少させるから、増税による政府需要によっては総需要はほとんど増加しないのである。」(置塩信雄「現代資本主義分析の課題」岩波書店、1980) 
 
(続く)
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