〇549の10の2『自然と人間の歴史・日本篇』消費税増税(2019.10~)の対案はあるか(予算均衡定理・後編)

2019-03-29 10:50:59 | Weblog
549の10の2『自然と人間の歴史・日本篇』消費税増税(2019.10~)の対案はあるか(予算均衡定理・後編)
 
 ここで、この予算均衡定数の定理につき、わたしなりに簡単に解説をさせてもらいたい。 
 まず、ここで(4)式はどのようにして導かれるのでしょうか。
     1
     ――――  △G     (4) 
     1-a  

ここでは閉鎖経済(外国との関係を捨象)を想定し、貯蓄が国民所得に平均貯蓄性向(s)を乗じたものだといたしましょう。そうなると、
S=sY=I
Y=(1/s)I

         1
 (参考)Y=  ――――  ×I(一般の教科書ではこちらの表現) 
         1-α  


 つまり新投資が決まると、需給が均衡に向かうように働き、Y=(1/s)Iが先ず決まります。そして、生産技術がいま短期分析で一定の場合でいうと、その生産技術に体化した雇用量が決まると考えるのです。
 ところで、この式のなかのsは、平均消費性向をaとすると(1-a)と置き換えられます。
Y=(1/s)I=(1/1-a)I
 そこでいま新投資需要Iが政府によって投入されると、その需要を満たすためにY=Iだけの産出高が生まれる。そうなると、aIだけの消費需要が派生し、それを満たすように同額の派生所得が生まれます。aIの所得からはaの2乗×Iだけの派生需要、そしてそれを満たすための新たな産出高が見込まれます。結局、Iだけの投資需要の追加は、
I+aI+aの2乗I+・・・・だけの需要と所得を生み出す理屈になります。
一般に、初項がa、公比がr(rの絶対値<1)の無限等比級数の合計Aは
A=a + ar + ar^2 + ar^3 + ar^4 +...+ ar^n-1 + ar^n + ..①
ここで①式の左辺と右辺に r をかけます.
rA=ar + ar^2 + ar^3 + ar^4 +....+ ar^n + ar^n+1 + ...②
その上で、①の両辺から②の両辺を差し引きます。②の方が最初の項aが多いだけなので次のように整理できます。

   A - rA = a                     ③

従って、次のとおりになります。

     a
  A = ---------                     ④
     1 - r

これから、初項が1、公比がa(aの絶対値<1)の無限等比級数の合計Sは次の通りになります。

S=1+a+a二乗+・・・・・+aのn-1乗=(1/1-a)⑤

 投資の持つ乗数効果の数学的説明には、つぎのようなアプローチもあります。
Y=C+I+G ⑥
ここでYとはGDP(国内総生産)、Cとは民間消費、Iとは民間投資、Gとは政府投資といたしましょう。
C=α+βY  ⑦
ここでCというのは一国の消費関数、α(アルファ)は基本消費、β(ベータ)は限界消費性向と呼ばれるもので、たとえていうとGDPが1万円増えれば消費支出はβ万円増えることになります。
0<β<1のことを限界消費性向といいます。
この2つの式からCを消去すると
Y=α+βY+I+G
この式を変形すると
Y-βY=α+I+G
(1-β)Y=α+I+G
したがって、Y=α/(1-β)+{【1/(1-β)】(I+G)} ⑧
この式で第2項に目を向けましょう。そこで1/(1-β)のことを乗数(m)といいます。この式で投資Iが10兆円増えるとGDPは10兆円×m万円だけ増えることになるでしょう。

 そこでいま、民間可処分所得が税金によって10兆円減ったといたしましょう。そのとき国民の貯蓄率(国民所得のうち貯蓄にまわす割合)が20%とすると、人々の消費需要は10兆円まるごとは減らず、10兆円×0.8=8兆円だけが減ることになるでしょう。

 したがって、その国の限界消費性向が0.8(80%)であるなら、政府が増税による収入増10兆円を財政支出に投じれば、それと同額である10兆円分の総需要の増加が見込まれることになり(上記の(7)式)、その場合には10兆円から8兆円を差し引いた2兆円分の総需要の増加が見込まれることになるでしょう。
 
 以上のことは、ケインズが(一般人の消費ではなく)投資こそが社会全体の所得向上の主要な手段であると考えていたことと一致しています。


○考えられる意見の検討、1番目

 関連して、仮に、政府支出の増大によって景気対策を行おうとしても、現在の国の財政状況をみると、その財源を消費税増税などで賄うしかなくなっているのではないか、という意見がありますが、どのように考えればいいのでしょうか。

 そこで、所得分配の階級的性格について考えてみましょう。

所得が増加(減少)するにつれ人々の消費の割合が減って(増えて)いくのは改めて証明を必要としない自明の事柄だと言われますが、それは心理法則でしょうか。そうではありません。理由は、同じ「所得」でも労働者の所得と資本家の所得ではそのあり方が異なるからです。
 いま貯蓄をS、労働者の所得をW、資本家の所得をP、労働者と資本家の所得に占める貯蓄の割合をそれぞれsw、spとすると、Sは両方の所得の合計したものですから、次式が導かれます。

S=swW+spP  ①
さて国民所得はY=W+Pなので、①式をこのYで割ると、

S/Y=sw+P/Y(spーsw)  ②
この式においてS/Yは国民経済全体に占める貯蓄の割合(貯蓄率)、
P/Yは資本分配率。

 ここで資本家の貯蓄率(sp)は労働者の貯蓄率(sw)より大きいと考えられることから、国民所得の分配問題とは優れて階級的な問題であることが分かります。

spーsw>0  ③

 もちろん、これには「資本家の貯蓄率(sp)は労働者の貯蓄率(sw)より大きいとは思わない」との反論が出されるかもしれません。


○考えられる意見の検討、2番目

(4)では、どのようにすれば国民経済を発展させるに足るだけの財源を確保できるのでしょうか。

 Y=α/(1-β)+{【1/(1-β)】(I+G)} ⑧
この式で第2項に目を向け、そこで1/(1-β)のことを乗数(m)といい、この式で投資Iが10兆円増えるとGDPは10兆円×m万円だけ増えることになる計算でした。

 そこでいま資本家階級の消費性向を0.5とし、労働者階級のそれを0.8と仮定してみましょう。
 なぜこんなに限界消費性向に開きがあるモデルを採用するのかといぶかる方もいるかもしれません。とりあえず、ここではそれは私たちの経験から言えることではないかと申し上げておきましょう。マルクスの再生産表式によれば、資本家階級は剰余価値Mのうち自らが消費支出したMKを除いた残余をつねに次期の蓄積需要に振り向けるとは限りません。
 通常、その一部は貨幣の保有増加や各種の金融資産の増加に振り向けられていると考えるのが自然の成り行きだと思います。一方、労働者階級は原理的には「裸一貫」、「食べるに追いつく貧乏なし」のたぐいで、大方の人がその日暮らしだと考えられますが、ここでは労働者階級の標準世帯で測ると消費性向が0.8ぐらいと仮定した方が、現実味があると考えます。
 いまある国に資本家階級が100万世帯、労働者階級が1000万世帯あるとしましょう。資本家階級の自由になる所得が各世帯で年当たり3000万円とすると、消費性向は0.5(50%)なので、3000万円×100万世帯×0.5=150兆円だけ消費することになるでしょう。一方、労働者世帯の消費支出は年当たり500万円として、消費性向は0.8(80%)とより高く、したがって500万円×1000万世帯×0.8=400兆円になると仮定しましょう。

 いま政府の需要追加策により、これらモデル世帯に各々10万円の臨時収入があったなら、両階級の消費行動はどうなるでしょうか。このとき、年収が3000万円の資本家階級ではその10万円の48%(βK)=4万8000円を消費にまわし、他方の労働者階級は10万円の79%(βL)=7万9000円を消費するといたしましょう。
 すると社会全体で測った追加所得の中から消費にまわった総額としては、次のとおりになるでしょう。

資本家階級:
10万円×100万世帯×0.48=4800億円
労働者階級:
10万円×1000万世帯×0.79=7兆9000億円
両者の合計は8兆3800万円となります。
 
 今度は、労働者階級世帯の追加所得を10万円から2倍の20万円に増やし、資本家階級に対しては高所得を理由に政府による追加所得の支給対象からはずしたといたしましょう。すると、増加分の消費総額はつぎのようになるでしょう。なお、そのときの労働者階級の限界消費性向(βL)を0.75としておきます。

労働者階級:
20万円×1000万世帯×0.75=15兆円

 したがって、この例では、両階級に対し等しく財政支援を行ったときに比べ、高額所得世帯としての資本家階級(自営業者のことではありません。)に対する財政支援を基本的に行わず、代わりに労働者階級をはじめとする勤労者にその分の財政支出を振り向けた方が、社会全体で見た消費需要の増加はより大きくなることがわかります。
 なお、このことは、当面資本家階級の社会での役割を否定する意味ではなく、国民経済が某かうまく回るようになることによって、この国の全ての人々に経済的恩恵が回るようになるのではないか、という道理を説明するものです。(以上は、ホームページ、丸尾泰司「戦後日本の政治経済社会の流れ」より転載。詳しい展開はそちらを参照されたい。)
(続く)
 
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