今回の件の帰趨を予測する上で、どうしても把握しておかねばならないことは、ドル通貨の信用を支える臨界点はどこにあるかということです。
この臨界点が分かれば、その地点までは今のドル高がある程度維持されると思われます。
これまでにアメリカ政府が、金融システムの崩壊を防ぐために追加支出を決めた金額は、以下の通りです。(最新日付順)
1.不良債権の買い取り枠:7000億ドル
2.MMFの政府保証:500億ドル
3.金融機関からのモーゲージ担保証券の買い取り枠:100億ドル+α
4.AIG支援:850億ドル
5.リーマン・ブラザーズ破綻処理支援:1380億ドル(JPモルガン経由)
6.GSE救済:2000億ドル(最大)
7.TAF(入札型タームもの貸出):2000億ドル(緊急流動化対策)
8.ベア・スターンズ救済:290億ドル
以上で、計1兆4120億ドルにも達します。ざっと1兆4千億ドルです。
問題は、これだけの救済資金ではまだまだ終わらないことです。銀行間貸し出しにまで政府保証を付ける話まで飛び出しております。これはさすがにG7では認めませんでしたが。
今、日米の長期国債の金利まで上げている(価格は低下)のは、こうした巨額の政府支出による通貨価値の下落を見込んでのことです。
今後価格が下落する株式を誰も買わないのと同じ理屈ですね。価格が下がる債券を買うくらいなら、今売って現金(ドルや円)にする動きが出るのは当然です。
話は突然変わりますが、この重要な時期に経済学者のコメントが、少なくとも筆者には聞こえてこないのはどうしてでしょう。
今回の金融恐慌が、世界経済恐慌に発展せず首尾良く乗り切れるかどうかは、アメリカを始め、世界の中央銀行の金庫がどこまで耐えられるのかにかかっております。
つまり、今後の政府支出の増大が、通貨価値の劇的な下落につながらない、その臨界点を、何故、学問的に解き明かした研究が発表されないのでしょうか?
際限のない紙幣の印刷、つまり国債の発行は、通貨の将来価値の下落から市中では買い手がいなくなります。そのため、中央銀行が国債の引き受け手にならざるを得なくなり、これがハイパーインフレにつながる理論は、誰でも理解はしております。
知りたいのは、このハイパーインフレを避ける限界値を知りたい訳ですが、今こそ経済学者は理論的な根拠を明らかにした論文を公表すべきではないでしょうか。
意外と何も持っていないのかも知れません。
今回の金融恐慌を通じての、金融機関の不良債権額が最大3兆2千億ドルという試算まであることを考えれば、上述の政府支出との差(3兆2千億ドル-1兆4千億ドル)の1兆8千億ドルをアメリカ(及び日欧)は追加負担できるのかという点が、ドルが崩壊するのかどうかを予測する上で、非常に重要なポイントになってきます。
アメリカは、米国債や株式、社債などを海外の投資家に買って貰い、それで財政赤字と貿易赤字のファイナンス(穴埋め)を過去行ってきております。その額は年間で1兆ドル規模必要とされておりました。その2倍規模の追加資金が、今回の金融恐慌によって必要とされている訳です。
ちなみに、海外の投資家によるアメリカへの資金提供の実態は、対米証券投資のデータで確認できますが、そのデータに異変が現れ始めております。最新データの7月度は、それまでの数百ドル程度の買い越しから一転、たったの61億ドルの買い越しにまで激減しております。
8月度、9月度の数字がどうなっているのかに注目したいと思います。
もし買い越しがなくなり売り越しに転じているなら、金融恐慌対策の1.4兆ドルと本来の赤字ファイナンス分の1兆ドルを加えた2.4兆ドル以上が最低限不足することになります。
バブル崩壊の過程で日銀が積み上げた資産(=負債)の合計は150兆円程度です。FRBが240兆円(≒2.4兆ドル)のマネーを仮に供給できるにしても、バブル崩壊時の日本と異なり、たかだか700兆円程度の預金量しかなく、財政赤字と貿易赤字分を外国からの借金に依存しているアメリカは、海外からの資金の流入がない限り、それは通貨価値の下落を招く以外の何ものでもありません。財務省が発行する新規国債を外国が買わなくなればFRBが引き受ける以外にはないからです。
この状況に落ち込む可能性が高まっているのが今の現状かと思います。
そうなると、長期国債価格の下落による金利上昇は、今のアメリカのインフレ率5.4%に10年物国債の金利3.8%を足した9.2%に限りなく収斂するばかりか、FRBによるドル紙幣の過剰発行によりインフレ率が更に上昇し、それに伴い金利も更に上昇するというスパイラル現象に入る危険性が高まります。
もちろん3ヶ月ものの短期市場金利も、FRBが政策金利が1.5%から1%あるいは0.5%と下げたとしても、今回2%の政策金利の元でも短期市場の金利(米ドルLIBOR)が、リーマンの破綻以降、5%近くまで達したと同じ状況を招きます。
そのため、景気悪化に伴う物価上昇率の沈静化ともあいまり、実質金利(市場短期金利-消費者物価指数)はこれまでのマイナス3%程度からプラスに転じます。この実質金利がプラスになるということは、物価上昇による機会損失よりも、金利負担の方が大きくなることを意味し、そのため、企業や個人の消費が減退する効果を生み出します。そうなると、日本のバブル崩壊後と同様に、いわゆるデフレ経済へと落ち込んでしまうという訳です。
しかも、このデフレ経済が世界的に進行するため、デフレスパイラルに落ち込む可能性すらあり得ます。この段階で世界経済恐慌が正式に世の中に認知されることとなりますが、果たして、これを避けるために、2.4兆ドル以上もの巨額のファイナンスを、日銀を始めとする海外の中央銀行が出来るのかどうかが焦点となります。
これが出来なければ、ドルの暴落が起こり、株式市場も更に暴落し、当然、引き受け手のないアメリカ国債も価格が暴落(金利上昇)し、世界経済が未曾有の事態に陥ることは避けられないのでしょう。
ちなみに、日銀の資産(=負債&資本)残高は、9月末現在で112兆6千億円です。後40兆円程度の余裕しかありません。その他の国々の中央銀行分も合わせて、計240兆円分を拠出できるのかどうか?
今回の金融危機で、日米欧の中央銀行10行はドル資金を緊急に供給しました。その総枠は6200億ドルです。(2900億ドルから増枠)うち日銀は1200億ドル(12兆円)で、約20%を占めております。
もし最低限必要な240兆円を10ヶ国の中央銀行が賄うためには、日銀の割当は2割の48兆円。その他のECB、イングランド銀行、カナダ、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、スイス、オーストリアの中銀を合わせて、192兆円を出せるのかどうかです。ECBとイングランド銀行は、ユーロ圏と英国内での金融危機対応があるため、かなり無理ではないでしょうか。
各中央銀行のバランスシート上の体力が、何処まで全世界で約3兆ドルという巨額の損失額に対抗できるのかが、世界経済恐慌の破局へと向かうのかどうかの、大きな分水嶺になりそうです。
この勝負の帰趨が判明するのは、今年年末から来年早々になるのではないでしょうか。
従って、今回の公的資金の銀行への注入方針をG7が決めたところで、それで今回の問題が収束する訳では決してないことを、一応頭に入れておいた方が良さそうです。問題解決に至るイバラの道はこれから長く続く筈です。
この臨界点が分かれば、その地点までは今のドル高がある程度維持されると思われます。
これまでにアメリカ政府が、金融システムの崩壊を防ぐために追加支出を決めた金額は、以下の通りです。(最新日付順)
1.不良債権の買い取り枠:7000億ドル
2.MMFの政府保証:500億ドル
3.金融機関からのモーゲージ担保証券の買い取り枠:100億ドル+α
4.AIG支援:850億ドル
5.リーマン・ブラザーズ破綻処理支援:1380億ドル(JPモルガン経由)
6.GSE救済:2000億ドル(最大)
7.TAF(入札型タームもの貸出):2000億ドル(緊急流動化対策)
8.ベア・スターンズ救済:290億ドル
以上で、計1兆4120億ドルにも達します。ざっと1兆4千億ドルです。
問題は、これだけの救済資金ではまだまだ終わらないことです。銀行間貸し出しにまで政府保証を付ける話まで飛び出しております。これはさすがにG7では認めませんでしたが。
今、日米の長期国債の金利まで上げている(価格は低下)のは、こうした巨額の政府支出による通貨価値の下落を見込んでのことです。
今後価格が下落する株式を誰も買わないのと同じ理屈ですね。価格が下がる債券を買うくらいなら、今売って現金(ドルや円)にする動きが出るのは当然です。
話は突然変わりますが、この重要な時期に経済学者のコメントが、少なくとも筆者には聞こえてこないのはどうしてでしょう。
今回の金融恐慌が、世界経済恐慌に発展せず首尾良く乗り切れるかどうかは、アメリカを始め、世界の中央銀行の金庫がどこまで耐えられるのかにかかっております。
つまり、今後の政府支出の増大が、通貨価値の劇的な下落につながらない、その臨界点を、何故、学問的に解き明かした研究が発表されないのでしょうか?
際限のない紙幣の印刷、つまり国債の発行は、通貨の将来価値の下落から市中では買い手がいなくなります。そのため、中央銀行が国債の引き受け手にならざるを得なくなり、これがハイパーインフレにつながる理論は、誰でも理解はしております。
知りたいのは、このハイパーインフレを避ける限界値を知りたい訳ですが、今こそ経済学者は理論的な根拠を明らかにした論文を公表すべきではないでしょうか。
意外と何も持っていないのかも知れません。
今回の金融恐慌を通じての、金融機関の不良債権額が最大3兆2千億ドルという試算まであることを考えれば、上述の政府支出との差(3兆2千億ドル-1兆4千億ドル)の1兆8千億ドルをアメリカ(及び日欧)は追加負担できるのかという点が、ドルが崩壊するのかどうかを予測する上で、非常に重要なポイントになってきます。
アメリカは、米国債や株式、社債などを海外の投資家に買って貰い、それで財政赤字と貿易赤字のファイナンス(穴埋め)を過去行ってきております。その額は年間で1兆ドル規模必要とされておりました。その2倍規模の追加資金が、今回の金融恐慌によって必要とされている訳です。
ちなみに、海外の投資家によるアメリカへの資金提供の実態は、対米証券投資のデータで確認できますが、そのデータに異変が現れ始めております。最新データの7月度は、それまでの数百ドル程度の買い越しから一転、たったの61億ドルの買い越しにまで激減しております。
8月度、9月度の数字がどうなっているのかに注目したいと思います。
もし買い越しがなくなり売り越しに転じているなら、金融恐慌対策の1.4兆ドルと本来の赤字ファイナンス分の1兆ドルを加えた2.4兆ドル以上が最低限不足することになります。
バブル崩壊の過程で日銀が積み上げた資産(=負債)の合計は150兆円程度です。FRBが240兆円(≒2.4兆ドル)のマネーを仮に供給できるにしても、バブル崩壊時の日本と異なり、たかだか700兆円程度の預金量しかなく、財政赤字と貿易赤字分を外国からの借金に依存しているアメリカは、海外からの資金の流入がない限り、それは通貨価値の下落を招く以外の何ものでもありません。財務省が発行する新規国債を外国が買わなくなればFRBが引き受ける以外にはないからです。
この状況に落ち込む可能性が高まっているのが今の現状かと思います。
そうなると、長期国債価格の下落による金利上昇は、今のアメリカのインフレ率5.4%に10年物国債の金利3.8%を足した9.2%に限りなく収斂するばかりか、FRBによるドル紙幣の過剰発行によりインフレ率が更に上昇し、それに伴い金利も更に上昇するというスパイラル現象に入る危険性が高まります。
もちろん3ヶ月ものの短期市場金利も、FRBが政策金利が1.5%から1%あるいは0.5%と下げたとしても、今回2%の政策金利の元でも短期市場の金利(米ドルLIBOR)が、リーマンの破綻以降、5%近くまで達したと同じ状況を招きます。
そのため、景気悪化に伴う物価上昇率の沈静化ともあいまり、実質金利(市場短期金利-消費者物価指数)はこれまでのマイナス3%程度からプラスに転じます。この実質金利がプラスになるということは、物価上昇による機会損失よりも、金利負担の方が大きくなることを意味し、そのため、企業や個人の消費が減退する効果を生み出します。そうなると、日本のバブル崩壊後と同様に、いわゆるデフレ経済へと落ち込んでしまうという訳です。
しかも、このデフレ経済が世界的に進行するため、デフレスパイラルに落ち込む可能性すらあり得ます。この段階で世界経済恐慌が正式に世の中に認知されることとなりますが、果たして、これを避けるために、2.4兆ドル以上もの巨額のファイナンスを、日銀を始めとする海外の中央銀行が出来るのかどうかが焦点となります。
これが出来なければ、ドルの暴落が起こり、株式市場も更に暴落し、当然、引き受け手のないアメリカ国債も価格が暴落(金利上昇)し、世界経済が未曾有の事態に陥ることは避けられないのでしょう。
ちなみに、日銀の資産(=負債&資本)残高は、9月末現在で112兆6千億円です。後40兆円程度の余裕しかありません。その他の国々の中央銀行分も合わせて、計240兆円分を拠出できるのかどうか?
今回の金融危機で、日米欧の中央銀行10行はドル資金を緊急に供給しました。その総枠は6200億ドルです。(2900億ドルから増枠)うち日銀は1200億ドル(12兆円)で、約20%を占めております。
もし最低限必要な240兆円を10ヶ国の中央銀行が賄うためには、日銀の割当は2割の48兆円。その他のECB、イングランド銀行、カナダ、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、スイス、オーストリアの中銀を合わせて、192兆円を出せるのかどうかです。ECBとイングランド銀行は、ユーロ圏と英国内での金融危機対応があるため、かなり無理ではないでしょうか。
各中央銀行のバランスシート上の体力が、何処まで全世界で約3兆ドルという巨額の損失額に対抗できるのかが、世界経済恐慌の破局へと向かうのかどうかの、大きな分水嶺になりそうです。
この勝負の帰趨が判明するのは、今年年末から来年早々になるのではないでしょうか。
従って、今回の公的資金の銀行への注入方針をG7が決めたところで、それで今回の問題が収束する訳では決してないことを、一応頭に入れておいた方が良さそうです。問題解決に至るイバラの道はこれから長く続く筈です。