晴れ、28度、87%
亜熱帯から熱帯にかけて夏に咲く花は、目にも鮮やかですが香り高い花が沢山あります。東南アジアのリゾート地のホテルの宣伝写真によく使われている、水槽に浮かべ白い花弁に中央が鮮やかな黄色い花、これがプルメリアの花です。見るからにたおやかな花ですが、香りが空気を包み込むように濃厚です。香港では、かなり高い木に成長し上向きに花をつけます。この木の下を通っても、花の匂いはしません。落ちている花を拾い上げて、やっとその香りに触れることが出来ます。 左上に小さく白く見えているのが、プルメリアの花です。葉姿も、葉の濃いグリーンも暑さにも関わらず、凛としています。花弁の色は白が一般的ですが、濃いフューシャーピンクの花もあります。香港では、暑い間半年ばかりも咲き続ける花です。
6月に入ると、暑さがひとしお強くなります。もう20回以上も香港の夏を経験しているのに、なぜかこの6月は、体が重く感じます。もっと暑くなる7、8月には、暑さに慣れてかえって調子がいいくらいです。
朝走り始めて5、6年目のことですから、もう10年も前のことです。まだ40代半ばでしたから、今よりずっと体力がありました。あの頃は今より遅く走りに出ていました。朝日の強い日差しを顔に真っ向から受けて、東に向かいます。ちょうどこの6月、走りながら明日から走るのをもう止めようと、何度も思いました。気力も低下していたのだと思います。毎日、止めようと思うわけです。私がUターンしてくる辺りには、ちょうど目線の当たりに木を植えるスペースがあります。ところが灌漑施設はない上に、水はけの悪い土なのでどんな苗木を植えてもすぐに枯れていました。何も植わっていないその花壇に、あるとき30センチ程の真っ直ぐな木が2本、ポツンと立っていました。どう見ても苗木ではなく、挿し木です。しばらくすると、その裸の木から小さな芽が吹きました。その芽は、6月の暑さで瞬く間に先細りの緑の濃い葉に成長しました。Uターンする場所ですから、そこまで走らなければ、その葉の成長が見られません。そのうち、小さな芽の間に、白いつぼみを付けました。Uターンするその場所は直線で随分手前から、ポツンと立っている2本の木の様子が見えます。あら、またつぼみを付けたわ、とか、葉が多くなったわねとか。その2本に会える楽しみが、あの年の6月、私が走り続けることが出来た大きな理由です。
実は、その時まで、本にも良く出て来るプルメリア、またはフランジパニと言われるその花を実際には知りませんでした。横を通っても香りがしません。立ち止まり花に顔を近づけてやっとその甘い香りに出会えます。花の名前が解ると、朝の挨拶に走りに出るようになりました。走るのを止めたい気持ちを、いつの間にか忘れていました。秋口になった頃、ある朝行くと花壇の土が全部掘り起こされて、プルメリアの2本の木は姿を消していました。その後植えられたブーゲンビリアとカポックが、元気に根付いています。
誰かがあそこに2本のプルメリアを挿したのだと思います。その2本が、暑くて辛いなと、走るのを止めようとした私を、数ヶ月の間、励まし続けてくれました。今朝も、Uターンするときあの2本のプルメリアがポツンと立っていた様子が、目の前に浮かびました。