豆豆先生の研究室

ぼくの気ままなnostalgic journeyです。

『リヴァイアサン』余滴・1

2021年09月11日 | 本と雑誌
 
 ホッブズ『リヴァイアサン』だが、ぼくは、まず『リヴィアサン』第2部を先に読んだ。
 もし途中で挫折することになっても、せめて第2部の「政治共同体(Commonwealth)」と「主権者権力(sovereign power)」については読んでおきたいと思ったからである。

 そして、角田安正訳『リヴァイアサン (2)』(光文社古典新訳文庫)で「第2部」を読み終えた後に、第1部「人間について」に挑戦したのだが、最初に読み始めた水田洋訳『リヴァイアサン (1)』(岩波文庫)の訳文は、残念ながら私には難解すぎて読み進めることができなかった。

 アダム・スミス(水田洋訳)『法学講義』(岩波文庫)もそうだったが、水田氏の訳は直訳というか、原文に忠実すぎるためなのだろうか、かえって日本語としての意味がとれない箇所が頻出する。とくに指示代名詞が原文のまま「それ」「その・・・」などと訳してあるのだが、何を指しているのか理解できない場合が少なくない。
 訳注も初学者向けの基本的なものではない。さらに巻末にはラテン語版と英語版との異同に関する大量の訳注がついているのだが、これも私には残念ながら無用の長物であった。
 10ページ程度読んだ段階で、そうそうに水田訳は断念し、角田安正訳の『リヴァイアサン (1)』(光文社古典新訳文庫)に切り替えることにした。『ビヒモス』の最後の1冊が売れ残っていた駅前のくまざわ書店に行ってみると、ちゃんと文庫本の棚に角田訳『リヴァイアサン (1)』も並んでぼくを待っていたので、さっそく買って帰って読み始めた。レシートを見ると8月18日の17時05分のことだった。

          

 角田氏の訳文は、「第2部」と同様大変に読みやすかった。
 「その」といった指示代名詞はあまり出てこない。何を指しているのかが分かりにくい個所では必ずその「その」が何を指しているのかを具体的に訳出してある。3年がかりの翻訳だったという訳業の困難が訳者の「解説」に書いてあるが、その苦労話からもこの訳書が読みやすくなっている理由がよくわかる。
 おそらく徹底的に辞書を引き、直訳に近い第1稿を添削して日本語として通る訳文に改めたのではないかと想像する。編集者時代の先輩だった翻訳家でもある横井忠夫氏が、誤訳を避けるためには辞書を引きまくるしかないと書いている。
 読むのに時間はかかったし、理解も十分とは思わないが、とにかく角田訳のおかげで、ぼくは人生の終盤において『リヴァイアサン』第1部、第2部を読み終えることができた。

 原文を知りたい場面では、適宜、Oxford World's Classics の “Leviathan” で確認した。
 原文を参照して生じた個人的な疑問の最大のものは、「所有」と訳された ホッブズの“propriety”と、ジョン・ロックの“property”との関係である。
 ロックの “property” 、すなわちその人に固有の(“proper”な)ものが “property”としてその人に帰属するというのは理解できたが、ホッブズの “propriety” はどのような転義を経て「所有」ないし「私有財産」となったのか。手元の辞書によれば「私有財産」の意味はその後「廃語」になったらしい。
 ロック “property” と“propriety”は同じ変遷をたどったものなのか、違う含意があるのか。
 辞書を引くと “property” の語源欄に「中英語 proprete・・・▷PROPRIETY」 とあるが、▷の意味が「凡例」の中に見つからない。“propriety” の語源欄には「ラテン語 proprietas・・・ ▷PROPERTY」とある(小学館プログレッシブ英和中辞典[第3版])。
 類義語は⇒や( )で表記しているようだし、▶は問題となる語法や文化的な背景の説明だという。では、この▷はいったい何なのか? まさにこの両者(両語)の関係(▷の意味)が知りたいのだが。
 
 いずれにしても、ホッブズ『リヴァイアサン』第1部と第2部を読み終えたという達成感は何とも言えず、心地よい。
 そうなると、第3部、第4部はどうしたものか・・・。水田氏の書誌情報によると、河出書房の<世界の大思想>シリーズに水田洋・田中浩共訳の『リヴァイアサン』の全訳があるらしいが、水田氏ご本人が「脱落が多い」と書いているのが気になる(『リヴァイアサン (1)』岩波文庫、385頁)。他人ごとのような書きぶりからすると、河出<世界の大思想>の『リヴァイアサン』は、ひょっとすると田中浩氏単独の翻訳なのではないかと思ったりもする。図書館で借りて読んでみよう。

 2021年 9月11日 記


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