豆豆先生の研究室

ぼくの気ままなnostalgic journeyです。

竜崎喜助『生の法律学』、佐藤隆夫『人の一生と法律』

2024年01月16日 | 本と雑誌
 
 竜崎喜助『生の法律学(改訂版)』(尚学社、2002年、初版は1995年)、および佐藤隆夫『人の一生と法律(第3版)』(勁草書房、1999年、初版は1980年)を読んだ。

 ぼくはヒトの発生、成長から死亡に至るまでの時系列で、各時期にかかわる法律問題を取り上げるという内容の法学入門を構想してきた。そのうち、男と女の登場、受精卵の生成から妊娠、そして出産(出生)、子どもの権利条約に示された子どもの法的地位(親を知り養育される権利、名前を得る権利、適切な医療を受ける権利など)、そして少年非行に対する保護処分までを対象とした授業をしたことはあったが、誕生から死亡までを通して扱う授業は、現役時代には結局できなかった。
 テレビドラマの「ベン・ケーシー」は「男、女、誕生、死亡、そして無限」というナレーションから始まったが、法律では「男」とは何か?「女」とは何か?「誕生」とは何か?「死亡」とは何か?だけでも結構話すことは多い。「無限」はないが。
 一般の法学入門では、「誕生」と「死亡」の間の「人生」ないし「社会生活」にかかわる法律問題を概観する入門書がほとんどだが、ぼくはその部分はほぼスルーして(中抜き)、生まれるまでと死亡前後にこだわった。財産法が苦手だったのがおもな理由だが、それだけで半期15回の授業は十分につぶれたのである。

 こういった授業の参考になったのが、竜崎さんや佐藤さんの本だった。
 竜崎さんの本(初版)は1年生向けの「法学の基礎」という科目の教科書に使ったこともあった。同書が出版される以前に、1年生の入門科目で横川和夫「荒廃のカルテ」(共同通信社、その後新潮文庫に収録された)を講読に使ったことがあったが、竜崎さんも「少年非行」の章で同書を取り上げていたので共感したのだった。
 竜崎さんに同書を授業で使用した感想を出版社経由でお送りしたところ、お返事をいただいた。改訂版は竜崎さんか出版社から贈呈されたものだったらしく、裏表紙にそのお手紙が挟んであった。ネットで調べると、97歳でご健在のようである。

          

 佐藤さんの本書も参考にした本の1冊であった。
 表題はまさにぼくが試みた方向と一致するが、内容的はかなり多岐にわたっており、1年生の入門科目で取り上げるには難しすぎるテーマが多かった。むしろ、憲法、民法、刑法などの法学科目を一応履修した後に各科目の連関を、生殖医療、臓器移植などの現代的な課題を通じて復習する場合にふさわしい本だろう。
 佐藤さんは中川善之助さんのお弟子さんだから、家族に関するテーマも多い。氏や子の命名、胎児の法的地位、父の確定 特別養子、離婚の増加と共同親権、遺骨の所有権、死後の財産整理など・・・。
 「親権解体論」という項目もあった。ぼくは、民法が子の養育を「親権」すなわち親の権利(義務)と構成していることに疑問を持っており、本来は養育を請求する子ども権利システムとして規定すべきだと考えているので、久しぶりに再読して大いに期待したのだったが、残念ながら最近では多くの論者が唱える「親の義務論」と大差なかった。「解体」というから大々的なブチ壊しを期待したのだが。
  
 ただし、家族法を出発点とされた点では、同じく家族法から出発するぼくにも参考になった。ぼくも「家族」を縦糸にして、上の書いたように、男・女の定義から、受精卵の法的地位、生殖医療による妊娠、母子保健法による妊娠の保護、胎児治療の患者としての胎児(権利主体)などを経て、ようやく従来の入門書の始まりである「胎児の法的地位」に到達する予定だった。しかも胎児は、出産を前提とする妊娠継続の場合と、妊娠中絶における場合とでは検討事項を異にするので、「胎児」の法的地位一般を論ずることには無理があると考えている。
 なお佐藤さんにも編集者時代にお会いしたことがあったが、ネットによれば2007年に亡くなっておられるようだ。

 これらの本も断捨離のための読書だったが、著者から頂いたものでお手紙まで挟まっている本は捨てにくい。佐藤さんの本も出版社から贈呈された本だったようで、これまた捨てにくい。

 2024年1月16日 記

 ※なお、この他にも、植木哲『人の一生と医療紛争』(青林書院、2010年)という本もあった。生殖医療、周産期医療、成人医療という項目もあるが、基本的には「人の一生」よりは「医療紛争」に重点が置かれた内容だった。
        
        
 エドモンド・カーン/西村克彦訳『法と人生--裁判官の胸のうち』(法政大学出版会、昭和32年=1952年)というのもある。書名を見て古本を買ったのだが、内容の多くは法と道徳、とくに裁判手続における道徳の役割にさかれている。買ったまま放置してあったが、今回眺めてみると、「アメリカ実体法における道徳の手引き」という章に、「人の始期」「男女の関係」・・・「人の終期」という見出しの節があり、特に「人の始期」の節には「子供であるという権利」や「道徳の運用としての家族」という小見出しがあり、「男女の関係」の節には、結婚と離婚を論じる前提として「恋愛の秘密を侵されない権利」という小見出しの小節があった。少なくともここだけは読んでおこうと思う。

 さらに、ロン・L・フラー/藤倉皓一郎訳『法と人間生活』(日本ブリタニカ、1968年)という本も持っていたのだが、見つからない。誰かにあげてしまったのだろうか・・・。表紙の装丁は記憶にあるが、内容の記憶はない。

 2024年1月17日 追記
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