豆豆先生の研究室

ぼくの気ままなnostalgic journeyです。

ヨークシャー連続殺人事件(ミステリー・チャンネル)

2024年05月25日 | テレビ&ポップス
 
 BSテレビのミステリー・チャンネル(560ch)で、「ヨークシャーの切り裂き魔事件--刑事たちの終わらぬ苦悶」というのをやっている。
 1980年代に、イギリスのヨークシャー州(県?)で実際に起った連続女性殺害事件(このヨークシャー連続殺人事件の犯人はその手口が19世紀ロンドンで起きた「切裂きジャック」に似ていたことから「ヨークシャー・リッパ―」と呼ばれた)をモデルにしたドラマである。実際の事件では、初動捜査の失敗が犯人逮捕の遅れにつながり、捜査本部の首脳陣と現場の刑事たちの見解の対立が真犯人に接近することを妨げたのだが、ドラマでも警察内部における捜査方針をめぐる首脳陣と刑事の対立を軸に描かれていた。

 先日古い蔵書を眺めていたら、ドナルド・ランベロー「十人の切裂きジャック」(草思社)に、実際のヨークシャー・リッパ―の関連記事が挟んであった(上の写真)。
 当時の新聞記事のスクラップから、事件を追ってみると以下のようになる。
 1975年10月30日~ イギリス、ヨークシャー県リーズで第1例から第6例までの連続女性殺人事件が発生(1977年9月17日付毎日新聞による)。
 1977年 9月17日(土)毎日新聞 リーズでまた女性殺人事件が発生。
 1980年11月20日(木)朝日新聞 リーズで13人目の被害者発見。
 1981年 1月 5日(月) 朝日新聞(以下同) ヨークシャー県シェフィールドの所謂「赤線地帯」で容疑者(匿名)を逮捕。
 〃 年 1月 6日 容疑者は、ヨークシャー県ブラッドフォード在住のトラック運転手ピーター・サトクリフ(35歳)と報道。
 〃 年 1月 9日 1月5日の法廷(罪状認否か大陪審か?)は騒然とした、容疑者は3年前数回にわたって当局の事情聴取を受けていたと報道。
 〃 年 4月30日 ロンドン中央刑事裁判所(オールド・ベーリー)で、サトクリフ被告に対する初公判。裁判の中立を守るため、英国犯罪捜査法に基づいて事件はロンドン中央刑事裁判所(ボーラム裁判官)に移送。被告は13件の殺人と7件の殺人未遂を認めた。
 〃 年 5月23日 サトクリフ被告(この記事では34歳となっている)に終身刑(30年間仮出獄禁止の条件付き)の判決。
 
 スクラップはここまでである。
 2011年5月22日で判決から30年が経過しているが、仮出獄禁止の条件が解除された(であろう)サトクリフ被告(受刑者)はその後どうなったのだろうか。
 ※ ネットで調べたら、サトクリフは、2020年11月にコロナで死亡していた! 74歳だった。

   

 犯人逮捕の現場となったシェフィールドは、もともとは羊を放牧するような農村だったという。サマセット・モーム「大佐の奥方」の舞台である。その後は炭鉱業で栄え、やがて鉄鋼業の町になるが、石炭、鉄の衰退とともに町も寂れていった。この頃の歴史は、映画「フル・モンティ」の冒頭でユーモラスに描かれている。
 2014年に旅行した時は、シェフィールド駅近くにタタ・スティールの社屋が建っていたが、現在では鉄鋼の町というよりは大学町になっていた。たしか大学が3つか4つあったはずである。町はずれには巨大ショッピング・モールもあったが、市街地から向かうトラムの沿線はシベリア横断鉄道を思わせるような白樺の林だった。シベリア横断鉄道に乗ったことはないが。
 30年前にそんな事件の逮捕現場になっていたとは、旅行当時はまったく知らなかった。シェフィールドに「赤線地帯」があることも知らなかった。夕べの番組ではその現場のロケシーンもあったが、あれは実際のシェフィールドの現場で撮影したのだろうか(下の写真はシェフィールドの中心街の街並み。2014年3月撮影。事件現場とは関係ない)。

   

 昨夜はBSの番組の最終回だったが、職務質問したシェフィールドの警官が容疑者を偽装ナンバー・プレートの窃盗容疑で逮捕、勾留したにもかかわらず、連絡を受けたリーズの捜査本部は、容疑者にニューカッスル訛りがないことを理由に釈放を命じた。しかし疑念を持ったシェフィールドの警官が釈放せずに、再び現場に戻って逮捕現場の周辺を捜索したところ、容疑者が立小便をした付近で凶器のハンマーと肉切包丁を発見し、事件は一気に解決に向かう。
 捜査本部の首脳陣は、犯人と称する人物からの電話を真犯人からの電話と決めつけ、その電話の主にニューカッスル訛りがあったことに固執したために(後に偽電話の犯人は捕まっている)、捜査の方向を誤らせたばかりか、逮捕した真犯人まで危うく取り逃がすところだったのだ。
 容疑者のサトクリフは、(ニューカッスル訛りがなかったこともあり)逮捕までに9回も捜査線上に浮かびながら逮捕を免れていたという。
 驚いたことに、番組の最後に、当時の捜査本部長の実際の画像が出てきて、この男はその後捜査の回顧録を出版して4万ポンドだったかの印税を得たとキャプションが流れた。番組を見た者にとっては、ニューカッスル訛りにこだわって捜査を遅延させ、犯人逮捕の遅れによって救えたはずの被害者を出した張本人である男がよくもぬけぬけとそんな本を出版できたものだとあきれるしかない。
 番組のサブタイトルである「刑事たちの終わらぬ苦悶」というのは、そのような無能な上層部によって捜査を攪乱された現場の刑事たちの「苦悶」であり、その苦悶は犯人が逮捕されても終わることがなかったという意味なのだろう。

 2024年5月25日 記  
 
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