みみずく医者の備忘録

名古屋市名東区の内科開業医です。日々の出来事や診察室でのエピソードなどを織り交ぜて綴ります。個人的なメモ代わりです。

大動脈瘤・破裂前の治療が大切

2012-10-26 00:26:28 | 医療一般
大動脈瘤は「サイレントキラー」 破裂前の治療が大切

大動脈瘤は心臓から全身に血液を送る大動脈の壁が瘤(こぶ)のように膨らむ病気だ。
ある日突然、大動脈が破裂すると大出血を起こし、高い確率で死に至る。
自覚症状がほとんどなく進行するため、「サイレントキラー」と呼ばれる。
破裂前に治療をするのが大切で、患者の負担が少ない血管内治療も普及しはじめた。

■大動脈瘤は大動脈の様々な場所にできる
血管壁は3層構造になっているが、瘤ができた壁の構造で真性、仮性、解離性に大別できる。
瘤の形でも嚢(のう)状と紡錘状の2つに分かれる。

年に1万5000人死亡
■瘤ができる主な原因は動脈硬化。
血管壁がもろくなり高血圧の影響で瘤ができる。
直径2~3センチメートルだった大動脈が1.5倍以上に膨らんでしまう。
それが限界を超えると破れる。
動脈硬化は年齢とともに進むので、誰にでも起こりうる。
患者は70~80代が中心で男性が女性の約4倍。
厚生労働省の調査によると、この病気による年間の死亡者数は約1万5000人。

■発症すると病院に運び込まれても約半数が亡くなるといわれほど致死率が高いが、大動脈に瘤ができても自覚症状はまずない。
胸部の一部に慢性的な瘤があると声がかすれる場合もあるが、限られたケース。
大半の患者は破裂直前に激しい痛みに襲われる。
破裂したら大出血を起こしショック状態になることもあり、非常に危険。

■重要なのが破裂する前に治療をすること。
健康診断や人間ドックなどで瘤が見つかる例も多い。

■瘤が大きくなるほど破裂する危険が高まる。
このため、瘤が見つかったら定期的に検査するなどして治療するか判断する。
家族歴などにもよるが胸部で5センチメートル以上、腹部で4センチメートル以上が目安。
医師が患部の位置や形、周囲の状況なども考慮して決める。

■治療は大動脈の瘤の部分を人工血管で置き換える手術が一般的。
腹部ではステントグラフトという器具を使う血管内治療が普及している。
この器具は網目状の金属製ばねをつけた人工血管。
折り畳んだ状態でカテーテル(細い管)を使って脚の付け根の動脈から入れ、患部で開いて大動脈の壁を内部から固定する新しい手術。

■従来の腹や胸を開き人工血管で置き換える手術と比べ、患者の負担が小さい。
手術をしても1週間程度で退院できる。
血管の形状などから適用しやすい腹部では手術の半数以上で使われている。

■胸部大動脈瘤では利用は一部にとどまっているが、さらに適応範囲が広がり、患者の多い胸部でもステントグラフトが使われる時代になる。

年齢で手術選ぶ
国立循環器病研究センターは年齢を目安に手術法を決めている。手術負担が大きい75歳超の患者にはステントグラフトを使い、それ以下は通常の手術をする。
日本は通常の手術でも成績がいい。
ステントグラフトを使う必要がない場合もある。
国内では、急性でなければ腹部大動脈瘤の開腹手術の死亡率は1%以下。

ステントグラフトは10年以上の長期の安全性を示すデータがそろっていない。
患者の半数ではステントグラフトを入れても瘤の大きさが変わらない。
入れたのに血液が漏れる場合などがあり、手術後に念入りに確認する必要があると注意を促す。

大動脈瘤は決め手となる予防法はなく、この病気のためだけに定期的にCT検査などを受けるのは医学的証拠が不足しており推奨されていない。
ただ食生活や運動などに普段から気を配り、動脈硬化の進行を遅らせればリスクを下げられる。
反対に高血圧や高脂血症、たばこはリスクを押し上げる要因。
手術成績が明らかに落ちてしまうので禁煙は必須。

出典 日経新聞・夕刊 2012.10.26 一部改変
版権 日経新聞社












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