奥深くのがん、治療難しく 細胞間の「宅配網」に活路 薬、隅々に行き渡る
人体には、飲食店から料理を取り寄せる宅配網のようなしくみがある。配達員は注文に応じて細
胞から細胞へ生体物質を達ぶ。この配達員のかばんに治療薬を詰めたところ、体の奥深くのがんに効き目があった。治療が難しいがんを治せる可能性が出てきた。
このかばんを「エクソソーム」という。直径100ナノ(ナノは10億分の1)メートル程度の微小なカプセルで、血液1ミリリットル中に約50億〜100億個ある。体の中のあらゆる細胞が放出し、料理の代わりに蛋白質や「マイクロRNA(リボ核酸)」と呼ぶ物質を運ぶ。この方法で、ウイルスに感染した際に仲間の細胞に免疫反応
を呼びかけるなどしている。
大阪大学では、約1割の卵巣がん患者で働いている遺伝子を抑え核酸医薬をエクソソームに詰め込んだ。卵巣がんを再現したマウスのおなかに入れると、30分後にはがん細胞が取り込み、正常な細胞には届かなかった。
エクソソームは血液に乗ってがん細胞に向かう。到着すると静かに薬を取り出す。薬が確実に効けば、がん細胞を内部から壊せる。
実験では、同じような方法で毎週2回のペースで3〜5週間投与したところ、マウス5匹でがん
が大幅に小さくなったという。
(コメント;「マウス5匹」といわれても何匹中の数字なのかを示さないと学術記事とはいえません)
卵巣がんは早い段階では自覚症状が少なく、気づかないうちに症状が進む。年間約1万3千人の
患者が見つかる。手術や化学療法もあるが、半数以上で再発してしまう。
遺伝子を狙って「がん」を治す核酸医薬は有効だが、血液中で分解しやすく、がん細胞までうまく届ける技術が必要だった。
これまでも、薬物を効率よく送り込む研究がなかったわけではない。
脂質の膜からできた「リポソーム」というカプセルや、「ミセル」と呼ぶナノ粒子がつくられ
てきた。ただ、人工の粒子は毒性を持っていたり、細胞にうまく取り込まれない懸念がある。
生体のエクソソームを使えば、壁を乗り越える可能性がある。細胞同士が情報をやり取りするし
くみに便乗しており、がん細胞に見破られにくい利点がある。
エクソソームは、免疫拒絶反応が起こりにくい。このため、ほかの種類のがんにも、薬を確実
に届ける足がかりとなると期待している。
東京医科大学では牛乳が含む工クソソームを研究する。牛乳は手に入りやすく、量産もしやすい。牛乳由来のエクソソームのカプセルに抗がん作用のある核酸医薬を詰める実験にも成功した。
マウスの体に入れて、毒性やアレルギー反応などの安全性も確認した。国内の企業と連携して免
疫細胞を活性化させる薬を配達するエクソソームの開発を進めている。
1980年代ごろから着目され始めたエクソソームは、当初は細胞の老廃物を外へ運び出すゴミ袋と思われていた。
2000年代に入り、細胞同士の情報伝達に欠かせない物質を含んで体内を行き交う様子が明らかになった。
海外でも治療に使う動きが出てきた。体内の宅配網を生かし、がんや感染症など多くの病気の治療につながると研究者らは期待する。
(日経新聞・朝 2020.11.16)
人体には、飲食店から料理を取り寄せる宅配網のようなしくみがある。配達員は注文に応じて細
胞から細胞へ生体物質を達ぶ。この配達員のかばんに治療薬を詰めたところ、体の奥深くのがんに効き目があった。治療が難しいがんを治せる可能性が出てきた。
このかばんを「エクソソーム」という。直径100ナノ(ナノは10億分の1)メートル程度の微小なカプセルで、血液1ミリリットル中に約50億〜100億個ある。体の中のあらゆる細胞が放出し、料理の代わりに蛋白質や「マイクロRNA(リボ核酸)」と呼ぶ物質を運ぶ。この方法で、ウイルスに感染した際に仲間の細胞に免疫反応
を呼びかけるなどしている。
大阪大学では、約1割の卵巣がん患者で働いている遺伝子を抑え核酸医薬をエクソソームに詰め込んだ。卵巣がんを再現したマウスのおなかに入れると、30分後にはがん細胞が取り込み、正常な細胞には届かなかった。
エクソソームは血液に乗ってがん細胞に向かう。到着すると静かに薬を取り出す。薬が確実に効けば、がん細胞を内部から壊せる。
実験では、同じような方法で毎週2回のペースで3〜5週間投与したところ、マウス5匹でがん
が大幅に小さくなったという。
(コメント;「マウス5匹」といわれても何匹中の数字なのかを示さないと学術記事とはいえません)
卵巣がんは早い段階では自覚症状が少なく、気づかないうちに症状が進む。年間約1万3千人の
患者が見つかる。手術や化学療法もあるが、半数以上で再発してしまう。
遺伝子を狙って「がん」を治す核酸医薬は有効だが、血液中で分解しやすく、がん細胞までうまく届ける技術が必要だった。
これまでも、薬物を効率よく送り込む研究がなかったわけではない。
脂質の膜からできた「リポソーム」というカプセルや、「ミセル」と呼ぶナノ粒子がつくられ
てきた。ただ、人工の粒子は毒性を持っていたり、細胞にうまく取り込まれない懸念がある。
生体のエクソソームを使えば、壁を乗り越える可能性がある。細胞同士が情報をやり取りするし
くみに便乗しており、がん細胞に見破られにくい利点がある。
エクソソームは、免疫拒絶反応が起こりにくい。このため、ほかの種類のがんにも、薬を確実
に届ける足がかりとなると期待している。
東京医科大学では牛乳が含む工クソソームを研究する。牛乳は手に入りやすく、量産もしやすい。牛乳由来のエクソソームのカプセルに抗がん作用のある核酸医薬を詰める実験にも成功した。
マウスの体に入れて、毒性やアレルギー反応などの安全性も確認した。国内の企業と連携して免
疫細胞を活性化させる薬を配達するエクソソームの開発を進めている。
1980年代ごろから着目され始めたエクソソームは、当初は細胞の老廃物を外へ運び出すゴミ袋と思われていた。
2000年代に入り、細胞同士の情報伝達に欠かせない物質を含んで体内を行き交う様子が明らかになった。
海外でも治療に使う動きが出てきた。体内の宅配網を生かし、がんや感染症など多くの病気の治療につながると研究者らは期待する。
(日経新聞・朝 2020.11.16)