ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

iPhoneをつくった会社--ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化 / 大谷和利

2008年08月17日 | 読書
アップルフリークにはたまらないかもしれないけれど、まぁ、ちょっと褒めすぎじゃない、といった感じか。現時点では iPhoneは確にそれなりの成果をあげただろうが、しかしそのインターネットマシーンという評価がどれほど日本市場にインパクトを与えたかというのはこれからの評価でしかない。iPhone発表頭初から指摘したように、日本語入力に対するタッチパネル式入力の体感的な違和感の問題や公式サービスへの未対応など以前として普及への課題は残っている。これらを無視して、ガラパゴス的日本市場において、今後もコアなiPhoneユーザ以外をどれだけ取り込めるのかというのは、かなり疑問符が残る。そういった点も踏まえると、「ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化」というサブタイトルはいただけない。結局はただのアップル礼讚のなのかと感じてしまう一冊。


iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化 (アスキー新書) / 大谷和利

簡単にメモを残しておくと、危機的状況だったアップルが短期間のうちに業界内で独自のポジションを築き上げることができた理由の1つとしては「数値による製品の差別化をやめ、トータルソリューションによる消費者の囲い込みへと転じた」ことが挙げられる。彼らのやり方は「自ら土俵を作ってルールを決める」ことであり、そのカテゴリーの中で最良の製品作りを目指している。それは多機能・万能を意味しはしない。彼らは製品とサービスを一体化したトータルなソリューションを提供し、製品単体では得られない価値を作り出している。

appleが危機的状態であったとき多くのアナリストはハードウェアを捨ててOSに特化しろ、と言った。しかしappleは自社のハードウェアとソフトウェアを融合させる道わ選択した。最近のappleの商品ラインナップを見ると、製品シリーズの最初のモデルではバリエーションを絞り込んで選択肢を狭め、一度、基本となるモチーフが固まると、そのイメージを数代に渡って継承しながら深化させていく。無闇なデザイン変更を避けて、特定のモチーフの製品をじっくり販売していくことには大きなメリットがある。消費者の目には統一した印象を与え(ブランド構築)、既存のユーザーにはすぐに古くならないという安心感を与えることができる。

スティーブ・ジョブズは不具合のあるまま「アップルIII」を出荷するという失敗から、例えスケジュールどおりにリリースできないリスクがあったとしても、製品を常に最高の状態に持っていこうという意思がある。

「Hot,Simple,and Deep」(斬新で、とっつきやすく、それでいておくが深い)

が彼らの製品リリースの目安だ。

UNIXと融合した「MAC OS X」のリリースは彼らにとっては大きな挑戦だった。「リスクをとらないことが最大のリスク」として彼らは挑戦した。「MAC OS X」は単なるPCのOSだけではなく、iPod Touch やiPhone、AppleTVにも利用される、汎用的なOSになっている。

マルチタッチ技術を買収したappleだが、新基軸のアイデアを導入した時にありがちな「やり過ぎ」感がない。例えばiPhoneなどでは、マルチタッチの利用をWebページや写真の拡大・縮小表示にとどめ、後は指による操作と画面内の動きをいかに感覚的に一致させるかに注力している。その一方でPCの操作にある程度慣れているであろうユーザーが利用するMacBook AIRでは指の本数とジェスチャーの種類によって複雑な処理までこなせることになっている。それぞれに最適化されたインターフェースを作り上げているのだ。

apple社はOSの統一を進めているが、その一方でアプリケーションが利用するデータに関しても、それらを保存するライブラリーを共有化し異なるソフトから理由できるようにしたり、同期したりできるようにしている。真にユビキタスな情報環境を目指しているのだ。

音楽配信サービスが次々に失敗する中、appleはiTunes Music StoreはiPodを販売するためのツールとして考え、採算度外視で楽曲数を揃えてサービスを開始した。手軽に1曲単位で購入できるというインフラが整えばiPodが売れる、そう考えたのだ。このような発想は、音楽配信サービスを単独で成立させようとした企業や音楽プレイヤーだけを売るメーカーからは生まれてこない。ソフトとハード、そしてサービスを統合的に開発してきたappleだからこそできたのだ。

やがてiPod/iTMSはWindowsユーザーにも浸透していく。iPhoneではMACユーザーもWindowsユーザーも対等に扱われており、どのプラットフォームやインフラと組み合わせても機能が発揮できるようになっている。しかし「iPhoneSDK」はMACでしか利用できず、iPhone向けのサービスを開発する企業はMACを利用しなければならないなど、狡猾な一面もある。

PCの軸足をMACに置きつつも、iPod/iPhoneのようなデジタルライフスタイルデバイスはMAC/Windowsに関わらずクロスプラットフォームでサポートする。MACユーザー専用だった「.mac」サービスは「モバイル・ミー」というより中立的な名前のサービスに生まれ変わり、インターネットを介したデータの同期や写真の公開などをサポートする。またPCのメールも携帯メールのようにプッシュ配信する。PCの情報管理能力と携帯電話の簡便性をiPhoneにもたらすのだ。

iPhoneは「iPod+携帯電話」ではない。「iPod+携帯電話のふりをしたインターネット機器」だ。GoogleにはPCだけでなく携帯電話からの検索リクエストが送られてくるが、携帯用ブラウザからのリクエストの71%がiPhoneのsafariからだという。iPhoneの登場により、Webデザイナーの意識もそれに応じたUIへと意識が変わろうとしている。またiPhoneSDKで開発されたアプリケーションを流通・販売するための「APP Store」を立ち上げた。販売価格の30%をAppleがシェアするというR/Sモデルで、販売可能かどうかの認定はAppleが実施する。これによって開発者は世界を相手に自らのアプリケーションを販売することが可能になった。

現在は、数多くのアイデアを出しては試みて、初期の段階でその可能性を見極め、見込みがない場合には即刻プランを変更していく臨機応変さが求められる時代だ。appleの強みは、多くのアイデアを素早く試し、即断即決で最も正しい答えを見つけ出すことができるからだ。さらに製品間の整合性やOS、ソフトウェア、ハードウェア、サービスの互換性を確保されている。

appleは高性能・低消費電力CPU「PWRficient」を製造しているPAセミ社を買収した。「PWRficient」はかってMACで採用していたパワーPCと同じIBMのPOWERアーキテクチュアに基づくものである。コンシューマー用のMACでのスイッチングは難しいかもしれないが、サーバ製品、情報家電に近いアップルTVなどでは採用されるかもしれない。PAセミ社の買収によって、CPUからサービスまでの5位一体の製品開発体制を確立し、iPhoneのさらに先にあるデジタルライフスタイルの総合企業へと飛躍する下地作りを終えたのだ。

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「アップル社の企業文化」とサブタイトルには書かれているけど、表面的なところをなぞったというレベルで、これを何かの参考にできるかというと「へー」で終わってしまう。iPhoneの戦略についてであれば、iPhoneの実像が見えてきたあたりから様々な記事が書かれているし、app storeがこれまでのキャリアのビジネスモデルを破壊する可能性があることについても、ネットで記事を探せば事足りる。

果たして、あのような発想だったり、製品開発だったり、デザインだったりがどうして生まれるのか。あの新しいもの・ブルーオーシャンをどのように生み出しているのか。我々がそのエッセンスを取り入れるにはどうしたらいいのか。そんなことを知りたかったのだけれど、まぁ、そこまで深くはない。

結局、一番求めているものは「企業秘密」ということだうか。



iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化 (アスキー新書) / 大谷和利





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