ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

欲望産業 / 高杉良

2005年08月27日 | 読書
最近では、銀行やネット企業まで「消費者金融」に参入しつつあるので、「消費者金融」のイメージもずいぶんと軽いものになったのかもしれないが、この小説を読んでいると古くからの「サラ金」事業者は大なり小なり「いかがわしさ」を保持しつづけているのかもしれないと思う。この小説は消費者金融最大手「武富士」への取材をもとに書かれた「小説」であり、全てが現実だとは思わない。が、武井会長の「盗聴事件」や元松井証券専務の元久氏がわずか8ヶ月で武富士社長を退任している様をみていると、やはり何か「いびつ」なのだろうと想像してしまうのだ。

帝都銀行元常務・大宮は、社内抗争に破れ結局、消費者金融の最大手「富福」にスカウトされる。そこで彼が見たものは、絶対君主として君臨するオーナー里村の姿だった―。消費者金融台頭期の光と影、そこにうごめく人間模様を活写した問題作。

そもそも主人公である帝都銀行元常務の大宮もかなりアクの強い人物で、こんな上司だったらたまらんな、と思うところはあるのだが、いかんせん、この小説の登場人物はどれもこれも好きになれない人物ばかりだ。鞄持ち・上司の顔色ばかりうかがっている人間ばかり出し(まぁ、現実もそうだったりするが)、出世のためなら平気で部下に責任を転嫁する。行き当たりばったりで、戦略などが感じられない。オーナー里村は里村でまぁ、人間味があるというか、気に入ったかどうかで全てを判断する。しかも営業所に出社すれば、御真影なみに里村の写真に挨拶をし、お客さんにお茶を出す時は女子社員が膝まづいて挨拶をする。まぁ、そんな会社、僕だったらもたないだろう。

この小説の中で、神田支店長・日高が支店の回収目標を達成するために、大手石油会社の重役夫人に取立てのシーンがある。正月、内緒で450万もの借金をしてしまった夫人に代わって夫の元に直接、返済の申し入れをしにいくのだが、それに気付いた妻が包丁を持ち出し半狂乱になる。

「死にたい。」「ずっと死ぬことばかりを考えてきました。」とその心境を吐露し、「永い間、主人に露見することばかりを恐れてきました」と語る。最初はちょっとした好奇心・小遣い稼ぎくらいの気持ちだったのだろうが、やがてそれが取り返しのつかない問題となる。しかし何故、もっと早い段階で家族に相談できなかったのだろう。夫人本人のプライドか、借金をしてしまったことの負い目か、今の生活を壊したくないだけなのか。それとも「相談」さえできない家族関係の力学が働いているのか…

しかしいったんばれてしまい、家族たちのサポートが約束されることがわかると「髪の乱れもなく、顔つきもおだやか」な姿をとりもどすのだった。果たして彼女の苦悩した日々とは何だったのか、何故、そこまで自分ひとりで抱え込まねばならなかったのか、何がそこまで追い詰めたのか。このシーンは家族という関係を考える時に非常に興味深いと思う。

この小説では、社内の改革をめぐって社長・大宮とオーナー・里村の対立と挫折が物語の軸となるのだけれど、事実、他の企業で優秀だった人物を社長として向かえるケースはこのところ増えているが、かならずしも効果が高いとは限らない。元本田技研工業副社長の入交昭一郎氏はセガの副社長(後、社長)へと転進を図るが、サクラ大戦のような成果をおさめつつも「ドリキャス」不振の責任をとる形で退任している。最近では、「MAC(apple日本法人)」から「MAC(日本マクドナル)」へと転進した原田永幸氏やNTTドコモ副社長からボーダフォン社長に転進した津田志郎氏などもいるが、もう1つ成功したイメージがない。

ケースバイケースでうまくいかなかった要因も違うのだろうが、そこには本人の実力不足というだけではなく、周囲との関係・置かれている状況が与える影響も少なくないのだろう。


欲望産業 / 高杉良

「小説 消費者金融―クレジット社会の罠」 / 高杉良

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