ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

カモメになったペンギン / ジョン・P・コッター、藤原 和博 (訳)

2008年07月12日 | 読書
いくつかの部門にまたがるちょっと面倒なPJの事務局をやることになり、懲り固まったそれぞれ担当の「やり方」を相手に、どうマージしてどう新しいサービスを作り出していこうかと思い、思わず手にとった一冊。1時間もあれば読めてしまう寓話だけれど、その内容は十分深い。変わらなければ生き残れない――ビジネスの世界でも直面するこの課題にペンギンたちはどのように行動したのか。


カモメになったペンギン / ジョン・P・コッター、藤原 和博 (訳)


まずちょっと変わりもののペンギン・フレッドがその徴候、氷山が崩れつつあることに気付く。しかしペンギンたちは皆、保守的だ。誰もずっと暮らしてきたこの氷山が崩れるとは思っていない。そんな中で「崩れるぞ」と警告を発してみたって誰も相手にしてはくれないだろう。

見て見ぬ振りををすることは簡単だが、フレッドはそうはしない。この危機を理解し、皆を説得してくれるであろうアリスに相談する。アリスはこの一大事を理解し、リーダー会議で説明しようと考える。しかしペンギンたちは保守的で、しかもリーダー会議のメンバーの中には議論することこそが大事だと考えるものがいるほどだ。どうすればこの危機感を共有できるだろう。

フレッドは皆にこの危機的な状況を素早く理解してもらうために、証拠を並べるのでもなく理屈っぽい演説をするでもなく、模型を見せたりガラス瓶を使った実験を行う。その作戦はうまくいき、現状への甘えを手放す代わりに危機意識を高めることに成功した。

党首でもあるルイスはこの危機を乗り越えるためには「チーム」が必要だと感じた。そして選ばれたのが、経験豊富で皆の「尊敬」を集めるルイスを筆頭に、実践的で「行動力」があるアリス、信用と「好感度」が抜群のバディ、好奇心と「創造力」が桁違いのフレッド、教授と呼ばれる「論理的」で知識豊富なジョーダンの5人。それぞれタイプも違うが、変革を推進するためにはこうした個性ある「チーム」をまとめる必要がある。それをルイスは「イカ取り」を通じて実現した。

チームはこの問題にどう対処すべきかを考えていた。そんな時、フレッドが南極にはいるはずのないカモメを見つける。「もしかしたら、土地から土地へと移動しながら暮らしているのでは?」そして彼らはこれまでとは違うまったく新しい生き方の「ビジョン」を見つけ出したのだった。

新しいビジョンを伝えるためのルイスとバディのシンプルでわかりやすい「メッセージ」に加え、彼ら5人はいたるところにポスターを貼るなどして、この変革のビジョンを徹底周知をはかった。そのかいあって多くの仲間たちが協力しはじめた。しかしいいことばかりではない。これまでの自分たちの立場を守るために妨害工作をするペンギンや不安を感じているペンギン、偵察隊のボスの座を巡って政治工作に走るペンギン、また「自分でとった餌は自分の子供にしか食べさせない」という古い慣習が障害となり始めた。するとしばらくして全体の士気も低下し始めた。

5人はそれらの障害を1つ1つ取り除くことにした。だがこれだけではたりない。早めに何らかの成果を出さねばならない。フレッドは精鋭されたメンバーで偵察隊を組織した。しかし彼らが直面した課題は古くからの慣習だった。偵察隊が空腹で疲れきった体で戻ってきた時にどうすれば彼らに新鮮な魚を与えることができるだろうか。

確かに大人たちは古い慣習に縛られているかもしれない。しかし子供たちは素直にこの英雄たちに協力したいと考え、2つのことを考えた。1)両親たちがこの「英雄たちに感謝する日」の祭典に来ること、2)入場料として魚を2匹持ってくること、だ。その結果、古くからの慣習は簡単に解決し、新しいやり方が日常的なものとなった。

いよいよコロニーは移動することになった。いくつかの問題はあったものが大部分においてみんなの期待通りうまくいった。ルイスは効果的なリーダーシップを発揮し、バディは不安がる皆を励まし、フレッドはその創造力をいかんなく発揮し、教授は仲間から賞賛され、アリスは相変わらず忙しい生活を送っていた。彼らは新しいコロニーに安住するわけではなく、次のシーズンにはより条件のよい氷山を見つけて移動した。気を緩めることなく、現状に甘えることことはしないのだ。

時は過ぎ既に因習は過去のものとなった。コロニーはますます繁栄し成長した。彼らは新たなる危機に直面してもそれを乗り越える力を身につけたのだ。

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そもそもこの本は「企業変革力」などを著したジョン・コッターの作品。企業などで変革が求められた時、どのようにチームを組織し、どのように変革を推し進めていくかのエッセンスを寓話という形でまとめられている。

ジョン・コッターは変革を進めるために8段階のプロセスがあるとしている。

1)危機意識を高める
2)変革推進チームを作る
3)変革のビジョンと戦略を立てる
4)変革のビジョンを周知徹底する
5)行動しやすい環境を整える
6)短期的な成果を生む
7)さらに変革を進める
8)新しい文化を築く

これらはいずれも大事なものだろう。個人的には今回のように調整役でなければ、こういう面倒なフローはさけて、自分で勝手に必要なものごと推し進めたいところなんだけれども、そうもいかない。特に、今回のように、古い思考法・固定観念・やり方に染まりきってしまった人たちを相手にする時、3~4の変革のビジョンをどう理解させるかというのは大きな課題だと思っている。彼らもバカではない。口で説明すればその場では理解はできる。しかしそれはその場だけ。完全に落ちきっていないため、行動し始めると必ずしもそのビジョンどおりの行動をするとは限らないのだ。だからこそ、何度も何度も伝えねばならない。徹底的に、当たり前のように行動するまで。

と、6というのも大事だろう。結局、まだまだ納得しきっていない人間は多いはず。とすると、ある程度「やらせ」「アンパイ」でもいいから、「これは間違いではないのだ」ということを実際的に納得させる必要があるのだ。

もっともこうした先駆的な結果も、その価値が理解されなければ意味をなさない。新しいビジョンに基づいた「価値」の場合、古い価値観の人々にはその意味が理解できないということはおうおうにある。例えば滞在時間が仮に5分でもPV数が多いことが望ましいと考えている人たちに、こうすることでPV数が同じでも利用時間が90分になります、と提示したところで響きはしないだろう。彼らの基準はPV数でしかないのだから。しかし「時間」という価値が重要視されるように環境が変化しているのだとしたら?新しい価値観での成功事例は、新しい価値観を理解することでしか生まれないのだ。

さてさてこうしてペンギンたちは「変化」したわけだけれど、我々は「変化」できるのであろうか。ペンギン以上に保守的で、慣習に縛られ、縛られていることにも気付かない鈍感な人間たちの組織は「変革」が本当にへたくそなのだ。




カモメになったペンギン / ジョン・P・コッター、藤原 和博 (訳)


やれやれだ



1 コメント

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御礼 (おとなぎ しょういちろう)
2008-11-18 03:45:31
この本の編集を担当しましたおとなぎと申します。
お読みいただいたばかりか、このように丁寧な解説を掲載していただき、大変感激しております。
古い考えで凝り固まった方々を相手にプロジェクトを推進されているとのことで、ご苦労お察しいたします。
この本の読まれた方から同様の声を多く頂いています。少しでもこの本が”変革者”の皆さんのお役に立てればと願っております。
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