ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

ミリオンダラー・ベイビー:「生きる」ことの尊厳と「死」

2006年01月07日 | 映画♪
こういう映画がアカデミー賞をとるところにアメリカの良心を感じる一方、このような結末の映画を大衆か許容できるほど、やはり時代というのが変わってきたのかとも思う。親子とは、家族とは何か、あるいは生きるということはどういうことか、人を愛するとはどういうことか、人がにとっての死のあり方とは…様々な要素を内包しつつ、女性ボクサーと初老のトレーナーとの魂の物語。クリント・イーストウッドの最高傑作。

「自分を守れ」が信条の老トレーナー・フランキー(クリント・イーストウッド)は、23年来の付き合いとなる雑用係のスクラップ(モーガン・フリーマン)と、昔ながらのジム「ヒット・ピット」でボクサーを育成している。有望株のウィリーは、教え子を大事に思う余りタイトル戦を先延ばしにするフランキーにしびれを切らし、別のマネージャーの下へと去ってゆく。そんな折、フランキーの前に現れた女性ボクサー・マギー(ヒラリー・スワンク)。マギーはフランキーの指導を乞うが、昔気質のフランキーは女のボクサーを認めようとしない。だが連日ジムに通い詰めるマギーの一本気さに、やがてフランキーの心も揺り動かされ始めるのだった…

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正直、前半を見る限りここまでの傑作だとは思わなかった。心を閉ざした初老のトレーナーが家族愛に恵まれない女性ボクサーとめぐり合うことで「再生」していく、といったストーリー的にはありふれた「おとぎ話」かとおもいきや、後半になって物語は一気に深みを帯び始める。

もともとフランキーは(理由は不明だが)娘・ケイティと絶縁状態にある。ケイティとの関係を修復したいと思いつつもそれは実らぬ夢となっている。これに対し、マギーはいったんは家を飛び出したものの、家族という存在に大切にしている。自らが稼いだ賞金で母親のために家を買い、仕送りをする。しかし彼女の家族が彼女に期待しているものは、「金」でしかない。もちろん血の繋がっているという理由だけで「家族」というのは成り立つわけであるが、ただそれだけの理由では「家族」という絆を維持することはできないのだろう。そして家族を失った2人-フランキーとマギー-が1つの「家族」を創りあげていくことになる。

旅の途中の「アイラのロードサイド食堂」でレモンパイを食べるフランキーに対して、「パパとよく来たの」と話すマギー。このシーンなどはまさにそのことを象徴しているだろう。マギーにとっては既にフランキーが父親代わりなのだ。

そして後半、マギーは試合中に頚椎を損傷し、全身麻痺となってしまう。

自分の人生、輝ける時は終わったとして、死を求めるマギーに対して、フランキーは生きて欲しいと願う。

ここでマギーは人生に絶望し悲観して「死」を求めているわけではない。彼女は言う、

「あたしは生きた、思い通りに。その誇りを奪わないで」

だからこそフランキーは惑うのだ。マギーにとって「生きる」こととは何か、何をなすべきなのか―。そうした現実の前では、若い神父の説く神の言葉など軽く儚い。もちろんその状況を受け入れ第2の人生を謳歌するといった選択肢もある。しかし人生の絶頂を知ってしまった者にとって、しかも全身麻痺となってしまった者にとって、この先にそれに代わる何があるというのか。「半落ち」にも通じるような、問いかけがなされることとなる。

家族の臨終の場に立ち会ったことがある人ならば、一度は「安楽死」や「尊厳死」について考えたことがあるだろう。それはもちろん「苦痛」からの解放といった意味合いもあるけれど、その人がその人でなくなっていくのが分かるとしたら、あるいはもう今後「普通」に生活できないとしたら、朦朧とした意識の中でただ「生きている」というだけだとしたら、それでも延命措置を講ずるのか、という家族の側の問題でもある。生きて欲しいしまだ心臓は動いている、「だから―」あるいは「だけど―」。

それにしても「宗教」というものが一定の影響力をもっているアメリカにおいて、このような「安楽死」「尊厳死」を認めるような映画がアカデミー賞になるというのは正直、驚いてしまった。「死」をめぐる問題というのはどの国でも一般化しているということなのだろう。


【評価】
総合:★★★★☆
役者3人が素晴らしい!:★★★★★
ラストの映像もいい味出してます:★★★★★


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1 コメント

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Unknown (カオリ)
2006-01-08 00:12:12
TBありがとうございました。ワタシからもTBさせていただきます。

この作品、ほんとに哀しい映画でした。前半と後半の落差、いろいろな「家族」「愛」のかたちを考えさせられました。

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