ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

無料動画「GyaO」と動画検索「googleビデオ」

2005年07月03日 | コンテンツビジネス
これまでにコンテンツ配信に携わってきた人間から意外と冷ややかな目で見られつつ、完全無料放送(配信?)GyaOが好調に会員を集めている。USEN 宇野社長のブログによると、6月12日時点で73万人だから大成功なのだろう。しかしこれまでもCMとタイアップした無料配信モデルというのは幾つもあり、にもかかわらずあまり追随するモデルが少なかった。つまりあまり上手くいかなかったということだ。果たしてこのGyaOモデルはうまくいくのであろうか。

溜池山王 社長ブログ:GyaO進捗報告とお願い

まず個人的な意見からいうと、僕も他の関係者同様、このモデルがこのままうまくいくとは思っていない。現状、コンテンツ配信ビジネスが抱える課題の1つに「ネットワークコスト」が大きいことがあげられる。映像のストリーミング配信の場合、それまでのテキストベース・画像ベースのコンテンツに比べ、遥かにネットワークコストがかかる。仮に1Mbpsの映像を配信した場合、1000人が同時に接続しただけで1Gbpsの帯域が必要となる。当面の目標が1000万人ということで、仮に1000万人の会員の0.05%が同時にアクセスした場合、5000人×1Mbpsで5Gのバックボーンが必要となる。

また映像というのは「時間」を占有するコンテンツだ。となると人がこのコンテンツにアクセスする(できる)時間帯というのは、週末や夜~深夜帯と決まってくる。当然、配信設備は最繁時をベースに構築せざろうえないため、かなり無駄な設備投資が必要となるのだ。こうした利用者が増えれば増えるほど必要となる「ネットワークコスト」をコントロールできるのだろうか。

当然CMを見てもらうことで収入をえるモデルである以上、その「えさ」となる「動画」についてはそれなりにいいものを用意する必要がある。既存に流通している「コンテンツ」であればそれを調達するための費用が、新たに魅力的な「コンテンツ」を創るのであればそのための投資が必要となる。コンテンツそのものの費用、あるいはそれを調達するために必要な営業コスト・法務コストなどを含めた「コンテンツ調達コスト」というのも決して少なくないだろう。常に集客をしていくためには、有料販売の場合のようにアーカイブ化するわけにもいかず、こちらのコストも定常的に発生することとなる。

また「PC」というデバイスを考えた場合そもそも「動画」を見るのか、という根本的な問題もある。最近では、テレビチューナー内蔵型のPCが増えてきているとはいえ、BCN総研のレポートを読む限り、「ながら」ではなく積極的にPCで映像を見たいと思うユーザーは多くないように思う。PCがTV同様、リラックスして動画を楽しめる環境にあればともかく、あくまで作業がしやすい環境だとじっくり楽しむようなコンテンツの利用は低くなるだろう。

 PCでのテレビ視聴、伸びの鍵は「PC+テレビだからこそ」のコンテンツ-BCN総研

そもそも「PC」とは「能動型」のメディアだ。好きなサイトを見るにしても、テレビのようにリモコンのボタン1つで、というわけにはいかない。PCを立ち上げ、ブラウザを起動させ、「お気に入り」から選択したり、「検索エンジン」にキーワードを入力しその結果から好きなページを探し出し遷移する。手間がかかるし、その分、ユーザーの「○○したい」という潜在的な欲求が求められる。あれだけクオリティの高いコンテンツを作り出していながらテレビが面白くないと言われている時代に、ユーザーが「GyaO」のサイトを開き、見たい番組をチェックし、そのコンテンツを選択するといった流れを作り出せるのか。

単純に「コンテンツ」が面白いかどうかではなく、デバイスとして利用しやすいか、ユーザーとの接点・コミュニケーションをどう作り出すか、そしてどう「再生」ボタンを押させるかという課題に対して、現状のGYAOモデルは目新しい仕掛けは用意されていない。

ということもあって、現行のGyaOモデルはうまくいかないだろうと思うのだが、そこはバックについているのが、売れていなくても売れているようにみせかけられる「電通」さまだ。もしかしたら「電通マジック」によってクライアントを集めてきてしまうかもしれない。

これに対して、多少気になるのが「Googleビデオ検索」だ。いきなりアメリカでは問題が続出らしいけれど、(著作権侵害で訴えられない限り)いずれこれらの問題は改善されるだろうし、ビジネスモデルの全容も見えていない。しかしこの「google」というもののポテンシャルを考える限り、「コンテンツ調達コスト」は必要なさそうだし、「集客」に関わるコストも不要となるだろう。またgoogleが作り上げるからには、単純にテレビの替わりにPCで動画を見ましょう的なものではなく、PC利用にあった形のコンテンツが中心になるだろう。

「集客力」のあるコンテンツ中心ではなく、「見たい動画と出会う場」を中心としたロングテール的な膨大なコンテンツ・アーカイブとして。

 グーグルのビデオ検索、はやくもトラブル--コンテンツの無法地帯と化すか

 「見たい人」と「見せたい人」はどう出会うか?-映像検索の可能性

そういえば、GYAOの開始にあわせてというわけでもないだろうが、NRIがテレビCMの価値が540億円失われたという報告をした。このレポートがGYAOへの期待感を盛り上げたのは間違いないだろう。そう考えると、NRIへの調査を依頼した企業というのがどこなのか、気になるところだ。

 広告業界という《旧体制》の崩壊