Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

タン・ドゥンが駄目ならルーファス!のはずが、、

2008-08-28 | お知らせ・その他
メトの観客の平均年齢を下げ、定番レパートリーに疲れた常連客の心を再び取り戻すには
どうすればよいか?
(私は全然疲れてませんが、そのようなオペラヘッドも存在するのはこちらの記事の通り。)

そんな問いを絶え間なく投げかけ続ける支配人ゲルプ氏、
時に、それは、タン・ドゥンの珍作品として結晶し、我々オペラヘッドたちに軽い眩暈を引き起こさせも
するわけですが、彼の探索はまだまだ続いているようです。

タン・ドゥンが駄目なら、これでどうだ!と振り出して来たのは、
ルーファス・ウェインライト。
NY州はラインベックの出身で、育ったのはNY州とカナダのモントリオール、
現在30代半ばのシンガーソングライターで、
(ネットで彼の歌を聴いていただければわかると思いますが、ジャンルわけがしずらく、
大体、ロックだの、フォークだの、そういったジャンル分けそのものが現在
無意味になりつつあるので、シンガーソングライターという表現にしました。)
彼が1998年にデビューしたときには、ほとんどオペラ以外の音楽を聴かなくなって来ていた私にも、
”逸材の登場!”と、日本のロック雑誌『Rockin' On』や
アメリカのローリング・ストーン誌などでも絶賛され、
話題になっていた記憶があります。
映画『シュレック』や『アイ・アム・サム』などに彼の歌が使用されていたので、
ご存知の方も多いかもしれません。

なんと、その彼に、ゲルプ氏率いるメトが、新作をコミッションしていたようです。
というのも、ルーファス自身、オペラが大好きで、
彼のファースト・アルバムに収められている”バルセロナ Barcelona” という曲は、
ヴェルディの『マクベス』のリブレットから詞を引用していることでも知られています。
(ちなみに、第三幕、マクベスと魔女が登場するシーンの、”Fuggi regal fantasma 
消えよ、王の亡霊よ!”という言葉がそれです。)

そして、そのルーファスがメトのために書く予定だったオペラのタイトルは、
その名もこてこての、『プリマ・ドンナ Prima Donna』で、
内容は、”1970年代のパリで、年老いていくあるソプラノの人生の一日。”
って、それ、思いっきり、マリア・カラスのことじゃ、、、?!
カラスを愛しまくっている私ですし、タン・ドゥンよりは作品が化けるかもしれない可能性もあったので、
これはかなり楽しみにしていたのですが、
どうやら、この企画、残念ながら、作品がほとんど出来上がったところで頓挫してしまったようです。

理由は、どうやら、ルーファスが、”リブレットはフランス語で書く!”と言って譲らなかったことと、
2014年(!)になるまで、メトが新作をスケジュールに組み込める余地がない、という二点。
大体、ゲルプ氏自身、2014年までメトにいるんだろうか、、という素朴な疑問はさておき、
フランス語云々について、私は、”フランス語では、なぜいけないの?”という感じなのですが、
ゲルプ氏は、英語での新作、ということにものすごいこだわりがあるらしいです。

ゲルプ氏が語ったところによると、ルーファスが、フランス語で作品を
書き始めたというのも知っていたそうなのですが、
”英語に切り替えてくれるだろう、と期待していたのだけど、
どうしても彼はフランス語で書きたかったようだね。”
って、、、何を根拠に切り替えてくれる、と思ったのか、、。

さらに、”メトで、英語でも可能であるのに、英語でない新作オペラを上演するということは、
それだけで、集客の面で障害になるのです。”とまで。

確かに、字幕を読むという行為に拒否反応がある方もいるでしょうし、
そういった一面もあるにはあると思いますが、
しかし、各言語にはその言葉が持っている音やリズムやカラーがあって、
そのオペラにつけられた音楽や描こうとしている内容に合う音を有した言語、
合わない言語、というのは絶対あると思う。
実際、マリア・カラス(をモデルとしたソプラノ歌手)のフランスで過ごした最後の日々の一日を
描く作品であるならば、確かに、英語じゃないよな、、という気もします。

ルーファスの方も、最初は、一旦フランス語で書いて、
それを後で英訳にしたものを作品につけ直すことに同意していたそうなのですが、
一旦作曲の作業が進み始めると、
”フランス語の言葉が書いた音楽にあまりにも密接に結びついてしまった。”
と語っているそうで、でも、それってとっても当たり前のことだと私は思うのですが、、。
なぜに、そのように音と言葉が溶け合っている状態を壊してまで英訳にしなければ
いけないのか、私には全くわかりません。
大体が、英語って、あんまりオペラにのりやすい言葉ではもともとないと思う。

ルーファス・ファンの方は、そんな大作がお釈迦に、、と嘆くことなかれ!
どうやら、メトとの企画がぽしゃった後、
マンチェスターがこの作品を受け入れ、2009年7月のインターナショナル・フェスティバルで、
プレミアされることになっているようです。
どんな作品かご興味のある方は、2009年はイギリス旅行を企画いたしましょう。