Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

A TRIBUTE TO BEVERLY SILLS (Sun, Sep 16, 2007)

2007-09-16 | 演奏会・リサイタル
今年のオフ・シーズンは、ビヴァリー・シルズに続いてパヴァロッティが亡くなるというオペラ・ファンにとっては大変寂しい出来事が続きました。

世界的な知名度では、パヴァロッティに敵いませんが(というか、オペラ界で彼に敵う人はほとんどいない。)、
ビヴァリー・シルズはニューヨークのオペラ・ファンにとって特別な存在でした。

① 生粋のニューヨーカーである(ブルックリン育ち)。
② ルドルフ・ビング(メトの歴史上、いい意味でも悪い意味でも最も有名な総支配人)のご寵愛がなかったために、
テレビやらで全国的な知名度を誇りながらも、メトに呼ばれたのは引退のたった5年前。
それまではずっとニュー・ヨーク・シティ・オペラのスターとして活躍。
③ プライベートでの不運(お子さんは耳が不自由)にも関わらず、いつも明るいパーソナリティで知られていた。
④ 引退後はメトのボード・メンバーとして、幅広いネットワークを駆使して寄付金調達に尽力。
メトのギルド・メンバーだった人なら、彼女の署名入りで送られてきたいくつもの寄付金依頼の手紙を覚えている人も多いはず。。
⑤ 引退後は、メトの土曜マチネのラジオ&テレビ放送でも活躍。ライブHDで、ドミンゴなどにインタビューしていたおばちゃんが彼女です。

一時期、NYのイエローキャブに、扉が閉まる度に、”安全のために、シートベルトをしましょう”という録音メッセージが流れるものがありましたが、
(そういや、最近見ない。あれはドライバーの間での一時の流行だったのか?)
男性版はドミンゴ、女性版はビヴァリー・シルズの声でした。
あの頃は、ドミンゴはともかく、なんでビヴァリー・シルズ??と思ったものですが、
こうやって彼女の経歴を見ると、なるほどなー、と思います。

その彼女をしのぶ会が今日行われました。
チケットは何と無料で、12時から配布開始。
一人二枚限定、早い者勝ち。
ドミンゴやらネトレプコ、デッセイといった豪華な布陣もあって、
チケットがまたしても熱い争奪戦になることは間違いないものの、
歌の数が極めて少なく、四曲中一曲しかオペラのアリアではないこと、よってオケが入っていないこと(私は”オペラ”が好きなので、それではちょっと物足りない。贅沢言ってすみません。)
また、週末はmyわんことの時間を大切にする!というのが私のモットーであることなどにより、
チケットが取れなければ、ラジオの生放送を聴くというチョイスもあるので、
9時半までは犬の散歩を実行し、その後オペラハウスに向かいました。
当然のことながら、すでに長蛇の列で、”7時から並んでんのよ、私たち。”と言うギャルたちも。
本を読みながら2時間過ごす。とうとう列が動き始め、先頭の方がオペラハウスに入り始めたものの、ここからがさらなる拷問。
即席で作られた順路をこれでもか、というほど歩かされ、やっとボックス・オフィスまでたどり着く。
ああ、この調子だと、もう上の方の席の、それも後ろの方しか残ってないだろうな、と思いながら、
”一枚お願いします”と言って、受け取ったチケットを見てびっくり!
平土間の7列目!端の方だが、フルのオペラだとセット全体が見れなくて、いまいちだけど、
今日は、歌手が常に真ん中で歌うので、ぜんぜん関係ない!
なんてついてるの~
家に向かうバス停で、私のはるか前方に並んでいたはずの女性のチケットが見えたのですが、
2枚、バルコニー席でした。
いい席を取りたいなら一人で行動すべし!一枚だけならいい席を取れる可能性が俄然高くなります。
(この法則は、今まで普通の公演のチケットを間際で買う際にも証明済み。)

朝方並んでいたときは、みんなキャンプにでも行くようなカジュアルな格好で、
しかも、お風呂に入ってない人がいるのか、すえた匂いがどこからか漂ってきて、
こんな人の隣になったらしゃれになんない、お願いだから、会の前にはシャワー浴びてきてよね、
という人が何人か列に混じっていたのですが、
夕方5時前に、オペラハウスに再度あらわれると、なんだか、みんな着替えてきたのか、
朝の格好はどこへやら、みんなちゃんとした格好してる。ほっ。

席に着くと、なんと私のすぐ前に、”7時から並んでんのよ、私たち”のうちの二人が!
この二人がいかにもいまどきの若い子たち、という感じで、
その片方は、これからクラビングですか?とたずねたくなるような赤いワンピ。
その二人の会話中、いきなりブロンドの小娘が
”なんか私たちより全然後ろにいた人がこのあたりにいるけど、なんで?”
と失礼なことを抜かしたので、
”ふん!一人で行動する人へのご褒美なのよ!
だけどさ、あんた、なんで追悼の会で、赤のドレスなんか着てくるわけ?
このTPOをわきまえない馬鹿娘が!”と心の中で叫んでおきました。

やがて、スクリーンにビヴァリー・シルズの昔の映像が映し出され、
彼女の歌声をしばし楽しんだ後、ピーター・ゲルプ支配人からのスピーチ。

そして、ドミンゴとレヴァインが登場。



レヴァインのピアノ伴奏(!!)により、ヘンデルの『セルセ』から、”オンブラ・マイフ”。
選曲によってはまだまだ元気な歌を聞かせてくれるドミンゴなのに、
(ヴォルピ支配人の引退ガラでのサラスエラからの曲なんか、本当に聴かせてくれた!)
この曲が合わないのか、少し元気がない感じがしたのが残念。
だけど何よりも今日の聴衆は一体!
いくら無料でオペラに興味がなく、ドミンゴを聞きにきたんです!という人が混じっているとはいえ、
最後の、二回繰り返される、soave piuの、一回目で拍手が出るという、これは一体何?
っていうか、どうやったらここが曲の終わりと思えるのだろう?
携帯電話の電源を切ってない人もいるし、最悪です。
無料のイベントって、親切な考えだとは思うけれど、私はお金をとった方がいいと思う。
この世の中、お金を払わない限り、与えてもらっているものの価値がわからないという人が多すぎです。
レヴァインのピアノがなかなか良くて驚いた。
(しかし、贅沢な伴奏はドミンゴにしかつかないみたいで、
後の歌手はCraig Rutenbergというアカンパニストによって演奏されました。)

その後、ブルームバーグ市長、バーバラ・ウォルターズ、キャロル・バーネットのスピーチがあって、ネトレプコが登場。
グレーのドレスが似合っておりました。



曲はリムスキー=コルサコフの”夜鳴き鶯(東方のロマンス)”。
彼女はなんか、貫禄が出てきましたねー。
舞台で一瞬にして曲の雰囲気を作り出すところはさすが。
私はRCWSのガラの時に、
彼女に一番合っているのはロシアもの!との思いを強くし、
そのロシアものを歌ってくれたのは嬉しかったのですが、
ただし、変化してしまった声をまだうまく御しきれていないような、若干の違和感が残る歌唱だったのが悔やまれる。
一曲だけ歌うというのは結構難しくて、まだ声が乗り切れていない部分もあったのかも知れませんが、
少し声量のコントロールも、らしくない乱れが見られました。
声変わりしてしまった少年が、新しく手にした大人の声をどうコントロールすればいいのか四苦八苦している、
というのに近いイメージか。
そう遠くなく、時が解決してくれるのを祈ります。がんばれ!

リンカーン・センターのチェアマンBennack氏と、シティ・オペラからSusan Bakerがスピーチを行った後、
John Relyeaが登場。
Susan Bakerが彼を紹介した際の発音では苗字の発音はラリーエに近いのですが、
ここではRelyeaと英語表記にします。

彼の歌は素晴らしかった!
もともとネイサン・ガンの出演(シューベルトのRosamundeからRomanzeを歌う)予定だったのが病気により、
Relyeaが急遽代役で立ったのにもかかわらず、
選曲のよさ(シューベルトの”音楽に寄せて”に変更)と、非常に謙虚な折り目正しい歌唱で、
この会の精神を最も忠実に体現していたのが彼の歌だったと思います。
この豪華な出演者の中で、観客から思わずBravo!の声がとんだのは彼ただ一人。
本人もびっくりしたのか、嬉しそうに顔を紅潮させて退場する姿がほほえましかったです。
いやいや、Bravoに値する素晴らしい歌唱、well-deserved!です。
でもその謙虚さもいつまでも忘れないで~!

ビヴァリー・シルズのお兄さんのスピーチがあった後、
ビヴァリー・シルズが8歳の頃に"Uncle Sol Soves It"という映画に出演し、その中で、
"Il Bacio"という曲を歌うシーンが写しだされました。
その後の声の片鱗はあるのだけれど、持っている技術以上の歌に挑戦しているために崩壊寸前!
”まあ、子供のころのかわいい映像ということで。。”と観客が流しているところに、
その後すぐにスピーチに立った元リンカーン・センターの代表Leventhal氏が、
”ま、完璧なピッチで歌えるまでにはまだだいぶ道のりがあったわけで。。”
といきなり辛口なコメントを!
あの、これ、しのぶ会なんです。。身内の人も出席してるんです。
空気を読めない恐ろしい人です。

続いてシティ・オペラの指揮者、Rudel氏のスピーチがあって、
いよいよトリのデッセイが登場。
ああ、初の生デッセイ。
曲は、R.シュトラウスの”私は花束を編みたかった”。
彼女の声は、CDで聴くのとは全然印象が違いました。
弱音での高音がすこしシャロー(豊かでなくやや空虚な音)になる傾向があり、
声量そのものもはっきり言ってものすごく軽いのですが、
歌へののめりこみはすごいです。
わりと直立不動で歌う人ばっかりだった今日の会で、
一人、身振り手振り熱いしぐさを加えて歌う様子がいじらしい。
しぐさ、というよりも、彼女の場合、内からでてきて押さえられない、といった感じに近い。
弱音でない高音に独特の温かみがあるので、レパートリーによってはいい歌唱が聴けるのではないか、と思いますが、
プレミアのルチアでどんな歌を聴かせてくれるのか、ちょっと想像がつきません。
CDでは軽くても、割とシャープな感じの声質なように聞こえたので、
むしろ温かい声音なのが意外でした。
やっぱり、生で聴くまではわからないものです。

最後にはなんと、ヘンリー・キッシンジャー氏が登場。
ものすごく体に対する頭の比率が大きくてびっくりしましたが、
そのせいなのか何なのか、そのスピーチが、マイクロフォンなしでもOKに思える豊かな声量で、
この人が歌手になってたら、名バス・バリトンになってたんじゃないかと思えてきました。
彼を政治家にしておいたとはなんともったいない!


HANDEL "Ombra mai fu" from Serse
Placido Domingo/James Levine

RIMSKY-KORSAKOV "Nightingale and the Rose (Oriental Romance) - Plenivshis 'rozoy, solovey Op.2 No.2"
Anna Netrebko

SCHUBERT "An die Musik D.547 (Op.88 No.4)"
John Relyea

R. STRAUSS "Ich wollt'ein Strausslein binden Op. 68-2"
Natalie Dessay

Metropolitan Opera House
Orch G Even

***ビヴァリー・シルズ 追悼会 A Tribute to Beverly Sills***

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6 コメント

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ありがとうございます♪ (娑羅)
2007-09-17 22:13:34
実は私、John Relyeaのファンでもあるのです
本命は、Hvorostovskyなんですが、今年のHDシアター(って言うんですかね?)での「セビリアの理髪師」バジリオ役で、まず彼の声にぶっ飛び、「清教徒」のジョルジオ役で完璧ファンになりました。
さらに、ザルツブルグ音楽祭「魔弾の射手」のウェブラジオ放送で、彼のカスパールを聴いて、またまたぶっ飛び。すっごい声ですよね~。

いや~、彼のAn die Musikが聴けたなんて、madokakipさんは幸せ者です!
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娑羅さんのことが浮かびました (Madokakip)
2007-09-18 05:46:04
朝、チケットをとりに行ったときに、代役の発表をみて、
John Relyeaの名前で、娑羅さんのことが真っ先に思い浮かんだのですよ。
ファンだとおっしゃっていたので。。
周りがドミンゴ、ネトレプコ、デッセイというメンバーで相当プレッシャーがあったと思うのですが、
それを思いっきりいい方向に跳ね返した、素晴らしい歌唱でした。
実直で、思わず胸があつくなるような。。
これからどんどん活躍してほしいですね!
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ヘンリー・キッシンジャー (yol)
2007-09-18 21:56:51
ヘンリー・キッシンジャー氏がどれほど顔が、ということを表してませんか、この写真?大きなパヴァと身体のサイズが違うのに顔のサイズはほぼ。
http://www.americanphoto.co.jp/pages/celebrity/K/Previews/Plans-14366.jpg

Leventhal氏のスピーチは本間公さんもびっくり。

それはそうと、デッセイよかったみたいね。数年前に出版された本を読んだら全幕で来日したことがない、とあったけれどその後来日されたのかしら?今回のコンサートは高い席しか残ってないのだけど、どう?(って聞かれても困ると思うけど。)

すっかり怒涛のオペラ週間が終って力尽きた私なので、これからしばらくはシーズンに入って生き返ったあなたのレポをとことん読んでいきます。

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うちの両親の世代の人なんかは (Madokakip)
2007-09-19 02:16:51
キッシンジャー氏といえば、私が子供の頃、
ほんと、よく名前を聞いたように思うのだけど、
そりゃ、うちの親の世代なんかの日本人からしたら、
あの顔の大きさだけでも、”外人ってすごいね。”と、
そのインパクトに押されまくったことも想像に難くありません。
私が日本の政治家で、彼との政治対談に参加したなら、もうあの顔に押されて、なんでもyesって言っちゃいそうだもん。
家に帰って、連れに彼の顔と声のインパクトがすごかったー!って話をしてたら、
アメリカ国内では、あの声で女性を口説きまくって、woomanizerとして名を馳せていたそうです。
えーっ、声は素敵かも、だけど、あの顔がそれを帳消しにするでしょ?って感じでした。

そうそう、Leventhal氏は、かなり本間さん入ってます。
その後も、いかにビヴァリー・シルズがファンドレイザーとして有能だったかを言いたかったのだと思うのだけど、
”その彼女の強引さは、それはもう、肉を運搬するトラックにむらがる犬をも引き離せるほどだった。”
。。。って、それ、ほめてんだか、けなしてんだかって感じでしょ?
そして、もう多分ご想像の通り、そんな彼のスピーチ・センス、私、嫌いではないのよ。

デッセイには、CDで勝手に抱いていたイメージを覆されて軽くびっくりしているところ。
フランスものとかを中心にしたプログラムなら、よりいいと思うわ。
24日にルチアを聴きにいくので、もしそのレポを待てるなら、また詳しくご報告するわ。
でも、今聴いておいて損のない歌手であることは間違いないと思います。







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一人って (DHファン)
2007-09-19 10:02:47
いい席取れる確率高いですよね!ラ・ボーチェのルチアーあのデヴィーア他豪華キャストのねー発売時にはネットが全然つながらなくてあきらめて昼過ぎにトライしたら、なんと1つだけ結構いい席がポカット空いてたんです!ほとんど即完売だったそうですけどね。
いよいよシーズン開幕ですね。またまたMadokakip節炸裂のレポを楽しみにしてます。
私がチケットとってあるデセイリサイタルもキャンセルないように祈ってくださいね。
返信する
奇数はオペラファンの味方 (Madokakip)
2007-09-19 11:38:53
DHファンさん、

そうなんですよね。
オペラは二人で行く人が圧倒的に多いので、
孤高のオペラファンはそこを活用すべし、ですよね。
特にメトは、各階の前方の座席は、列が後ろにいくにしたがって、左右にそれぞれ一席ずつ座席が加わる、または減っていく形になっている
(平土間は増えていく、その他の階は減っていく)ので、
早くチケットをゲットした人の座席の割り当てによって、
端があまる席が出やすいのです。
でも人気演目はそれすらものともせず、すごい勢いで埋まっていってしまうものなので、
デヴィーアのルチアをいい席で見れたなんて、
DHファンさん、ついてますね!

そうなんです、いよいよ、プレミアまで一週間弱。
天気はどんどん涼しくなっていっているというのに、
私一人、プレミアに向けて体温が上がりっぱなしです!
デッセイ、NY入りもきちんと果たして調子もよさそう、
のみならず、USオープンを観戦する余裕すら見せていたみたいなので、
プレミアは心配なさそうです。
そのままののりで、日本まで突っ走ってほしいですね。
上で登場した私の友人も行くことを検討しているようなので、
お二人からのご感想も楽しみにしています。
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