Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

メト2008年シーズンキャスト変更 & またしても!のチケット狂騒

2008-08-12 | お知らせ・その他
サブスクリプションのエクスチェンジ(サブスクリプションの中の個別のチケットに
ついてもともと組まれていたセットとは違う別の公演に交換してもらうこと)
およびオペラギルドの会員向けのチケット販売が8/11に始まり、
また8/17には一般向けのチケットもリリースされるとあって、メト関連がにぎわしくなってきました。

① ネトレプコ、2008年シーズンの『ラ・ボエーム』を降板

新シーズンでは、『ラ・ボエーム』と『ランメルモールのルチア』のニ演目で
メトに登場予定だったネトレプコですが、産休を数週間延長したい、という本人の意向で、
『ラ・ボエーム』への出演がキャンセルになりました。



Bキャストのミミに予定されていたコヴァレフスカが棚ぼた式で、
ネトレプコの公演分を含め、全日程を歌うようです。
ロドルフォは2007-8年シーズンと同じヴァルガスと2006-7年シーズンの『三部作』ジャンニ・スキッキで
リヌッチオを歌ったジョルダーノのダブルキャスト。
しかし、ネトレプコのために最初に予定されていた『マノン』の演目そのものを
『ラ・ボエーム』に変更し、そして、その『ラ・ボエーム』まで降板、、。
『ラ・ボエーム』のすぐ後に控えている『ルチア』には登場するそうですが、
ゲルプ氏からネトレプコ嬢への、
”ルチアのHDは絶対にやってもらわにゃ。”という激烈なプレッシャーを感じます。
キャンセルするなら『ラ・ボエーム』でなく、『ルチア』にしてほしかった気もしますが、
そのためには公演の順序を逆転させなければならず、
さすがにアンナ様といえども、それをひっくり返すまでの女王ぶりには至っていないようです。

このほかにも、一番最初に発表されたキャスティングからの変更として、
『カヴ・パグ』のアラーニャの公演分に、サントゥッツァ役としてワルトラウト・マイヤーが入っていたり、
『トロヴァトーレ』のキャスティングのコンビが微妙な組み合わせ方に変更されていたりするので、
お目当てのキャストでご覧になりたい方は、公演の日まで、
まめにメトのサイトをチェックされることをおすすめします。

② 去年に続いて今年も大混乱!今年は題して”チケット交換の悪夢”!!!

昨シーズンのチケット販売にまつわる大失態も記憶に新しいところ。
個人的には新シーズンのチケット発券のプロセスはましかな?と思っていたのですが
(コンファメーションもきちんとタイムリーに届いたし、
ボックスオフィス止めのチケットが郵送されてくるというような珍妙な出来事も今のところなし。)、
とんでもない!私の知らないところで、こんな大変なことになっていました!
またしても、やらかしてしまったか、メト?!
8/11のNYタイムズの記事によると、サブスクライバーのチケット交換がらみで
大混乱&大騒動をひきおこしてしまったようです。

メトにあらかじめきめられた複数の公演のセット券のことをサブスクリプションといっていますが、
(そして、そのサブスクリプション・チケットを購入する人をサブスクライバーという。)
このサブスクリプションのチケットの一部、または全部の公演を、
きめられた公演以外の日に交換できるエクスチェンジというシステムがあります。
ヴォルピ旧支配人の頃のように、サブスクリプションのオーダーを入れると同時に
エクスチェンジの希望も聞いてくれるという大らかな時代もありましたが、
ゲルプ支配人になってからというもの、メトのチケット・セールスは一層好調をきわめ、
私個人も、全体的にチケット入手が熾烈化しているのをこの身をもって感じます。
また、ゲルプ支配人は、ヴォルピ旧支配人の頃のように、
オペラハウスで長年踏襲されてきたチケット販売の風習をなんとなく放置しておく、
ということが一切なく、無駄なところは全て切り詰め、
また、年季の入ったオペラファンには考えもしない視点でものを見る傾向が
あるのは”リングナッツ激怒事件”でも伺われるとおり。

さて、そのゲルプ氏的視点が次にターゲットにしたのは、サブスクリプションでした。
氏の素朴な疑問は、”サブスクリプションとはセットでチケットを購入するもので、
それだからこそ、値段も若干のディスカウントがされている。
なのに、それを一部(もしくは全部)交換、とはおかしくないか?
いらないチケットは他人に譲るか、ボックスオフィスに寄付返しすべき。”

確かにこのサブスクリプションのチケット交換(エクスチェンジ)が、
ボックスオフィスに膨大な仕事を課し、
かつエクスチェンジは公演の一週間前まで受け付けられるので、
一度抑えられたはずのチケットがずっと後になって流出するなど、
早くチケットの手配をした人よりも、後でチケットの購入手続きをした人のほうに
いいチケットがまわってしまう、という理不尽な事態も生じていたのでした。

エクスチェンジ・システム下では、当然の成り行きとして、
多くの人が、あまり人気のない公演からシーズンの目玉の公演に乗り換える例が多く、
一般のチケットセールスが始まる前に目玉の公演のめぼしい席はほとんど売り切れ、という
ケースもありました。

目玉の公演はできるだけ正規のプライスで売り、人気のない演目も出来るだけ多くチケットをさばく。
これがマネージメント側の究極の目標ですが、これを達成するには、
エクスチェンジを禁止するか、もしくは規制をかけるか、という結論に行き着いた
ゲルプ支配人が布石とした打ち出した新ルールがオペラヘッドの激怒と大混乱を招いてしまったようです。

まず、最大の変化は、ウェブでも郵送でも電話でも、
サブスクリプションのオーダーを入れる段階では、エクスチェンジの希望を出すことができなくなったこと。
これにより、エクスチェンジを希望する人で、人気公演または良席狙いの人は、
いやでもエクスチェンジ受付初日にボックスオフィスに出向かなくてはならなくなりました。
例外は一年に2000ドル以上の寄付をしているパトロンで、彼らには特別な窓口が設置されました。
(しかし、年間に2000ドル以上の寄付をする金銭的余裕のある人は、
大体がエクスチェンジなどという細かい制度自体にあまり興味がないのではないか、
と個人的には思う、、。)
このために、エクスチェンジの受付が始まった8/11には、10時の開始にもかかわらず、
朝の5時(!)にメトにあらわれた人を先頭として、長蛇の列。
しかも、この日はオペラギルドの会員への先行予約日とも重なる、という手際の悪さに、
多くの人が自分の順番が来るまでに、4時間から5時間待ち、という恐ろしい事態に発展してしまいました。
写真からも推察されるとおり、メトの常連である観客たちの平均年齢はかなり高く、
この長い待ち時間をしのぐため、高齢者には椅子が提供される場面もあったそうです。

この尋常でない待ち時間に加えて、オペラヘッズをかんかんに怒らせたのは、
エクスチェンジ一公演につき5ドルの手数料、という新ポリシー。

金さえつめば特別な窓口ですんなり交換を済ませられる、という拝金主義に、
チケット販売の日程の不備、そして、この手数料への怒りも加わって、
”メトのベース支持層を形成しているサブスクライバーを馬鹿にしやがって!”
という声があがったかと思えば、
”今日強いられた状況は、失礼以外の何ものでもない。”という怒りの言葉あり。
あげくの果てには、フィラデルフィアからやってきたという女性から、
”ピーター・ゲルプに何らかのアクションを起す団体を立ち上げようとも思う”という言葉まで!
ひーっ、おそろしいー。
”何らかのアクション”って一体どんなアクション?!
だから、オペラヘッズは粘着質で怖い、と何度もこのブログで警告を発している通りなんです、、。

これに加え、NYタイムズではふれられていませんが、ローカルのオペラヘッズ情報によると、
列に並んでいる間、複数の係員から違った内容の情報が流され、
”新プロダクションものはエクスチェンジの対象外とされ、交換できない”
”いや、四つまでならできる”などなど、情報が錯綜。
結局窓口では、今年も例年どおり、数に制限なく、
新プロ、旧プロ関係なく交換が受け付けられたようですが、こういった情報が
係員から出てきたこと事態、ゲルプ氏の考え、およびこれからの方向を示唆しているようです。

私自身は、観客、特に決まった時期にしかNYに滞在できない旅行者の方々にとっては
ありがたいシステムだとは思うものの、
今までの、収益をロックするためだけのシステムから、実際に収益をアップさせるシステムに
変更していくには、ある程度避けられない流れだと思われ、ゲルプ氏の考えも
それほどおかしいとは思いません。
エクスチェンジの存在を知ったときには、逆にびっくりしたくらいです。

むしろ、リングナッツの時にも書いたとおり、年齢の高いオペラヘッドたちが、
個々のチケットの価値が需要と供給という資本主義的な意味で
アップしているという最近のトレンドと、
それにもとづいた新しいマネジメントの考えについていけていない気がします。

リングナッツの記事に続いて言わせてもらえば、びた一文余計に払わずして、
いい席で人気の演目を見ようという考え自体が甘い!

しかし、ゲルプ氏にも一言言うなら、こういったポリシーの変更は十分時間をもって、
きちんと説明してから行うべき。
リング・サイクル事件もこのエクスチェンジ事件も、いつもいきなりな感じがするのが気になります。
これだとオペラヘッドたちが”騙された”ような気分になって当然。
収益をあげても、大切な既存のファンを失っては意味なし、です。

去年に続き、今年までも、このオペラハウスに並ぶ長蛇の人の列の写真を
当ブログにのせることになるとは予想だにしませんでしたが、
2009-10年シーズンこそは、スムーズなプロセスを期待したいものです。