Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

Sirius: LA FILLE DU REGIMENT (Tue, Apr 29, 2008)

2008-04-29 | メト on Sirius
4/26のライブ・イン・HDで素晴らしい公演を見せてくればかりの『連隊』。
今日のシリウスに乗る公演はどうでしょうか?

まず、聴き始めて思うのは、やっぱりこの作品、特にこの演出では、
コメディックな演技という、視覚の部分も大きいので、シリウスで聴いているだけでは、
フラストレーションがたまる。
あの、デッセイのアイロンがけを、パーマーのおかしな叔母ぶりを、
フローレスのぴかぴかの舞台姿を、コルベリのつるっぱげ頭を見たい!

というわけで、片翼がない状態のものを語るのは難しいので、
今日は歌唱の印象を、それもピン・ポイントで。

まず、素晴らしい公演のすぐ次の公演ではたまにあることですが、
テンションを前回と同じほどに保つことが難しく、少しエンジンがかかるのに時間が。

デッセイの歌唱、特に頭のシュルピスとの二重唱、そしてその後に続く連隊の歌に、
そのような印象を持ちました。
ライブ・イン・HDの時のほうが、もっとエッジがあって良かったように思います。
(とはいえ、今日の歌唱でも素晴らしいのですが。)
フローレスとの二重唱あたりからくらいでしょうか?歌がのってきたのは。

さて、そのフローレスの方も、今日は立ち上がりが少し、ライブ・イン・HDのときと比べて、
彼の基準からすると、やや微妙に苦労しているような印象を受けました。
当然、音が外れているわけでも、明らかな失敗をしているわけでもないのですが、
いつもだと楽々に出ているような印象を受ける声が、今日は一生懸命コントロールしているおかげで、
おさまっている、というような感じとでもいいましょうか。

Mes Amisの高音も、最後の長く延ばす音を含め、後半4つほどの音は、
ややざらっとしたテクスチャーもあって、初日(NYタイムズで公開されている音源)、
ライブ・イン・HDの日、今日と聴き続けてきた中では、一番元気がない出来に思えました。
それでも、猛烈に盛り上がってアンコールさせずに終わらせるかと吠え続ける観客たち。
いやー、しつこいですね、今日の観客は(笑)。
ライブ・イン・HDの日の公演の客に足りなかったのは、このしつこさだな。
しかし、観客とは本当に獰猛で欲張りな動物だ、と実感。

でも。この一回目の出来を聞くに、もう一回歌うのはリスクがありそうだし、
どうするんでしょう?と思っていたら、なんと、王子、アンコール!!
来ました!!
ええっ?!本当に??!!!

思わず耳を傾ける観客とスピーカーの前の私。
しかし、ここが彼のすごいところ。
なんと、二度目の出来が最高。素晴らしいじゃありませんか!!
すごい精神力です。やっぱり彼は只者じゃない。
この二度目の出来は、ライブ・イン・HDで聴いたハイC9連発と同じくらい素晴らしかったです。

ということで、私の中では仮説が出来上がりました。
もちろん、客とのケミストリー(というか、客のしつこさ?)というのも大事なポイントなんでしょうが、
それに加えて、フローレス自身が、一度目のハイC9連発の出来を自分でどう評価しているか、
というのもアンコールのあるなしを決める重要なファクターなんではないでしょうか?
今までのところ、一回目にほんの少しでも出来に不足があったときに、
必ずアンコールがあるという法則になっているように思います。
次の公演は金曜日。この法則が真か偽か、オペラハウスの中で、しかと確かめて来たいと思います。
そのためには、今日から、私もしつこくする練習をしておかなくては。

この二度目のハイC9連発が大成功してから、一気に公演がヒート・アップ。
デッセイが丹念に歌う”さようなら Il faut partir"が泣かせます。

ニ幕の”富も栄華の家柄も Par le rang et par l'opulence "でも、
デッセイが、ディテールに及ぶまで、これ以上ないほど完璧な歌唱を聴かせて観客から大喝采。
高音のなんとまた綺麗だったことか、、。
デッセイはこの後、幕が降りるまで、ありえないほど完成度の高い歌を披露し続けてくれました。

そして、フローレスの”マリーの側にいるために Pour me rapprocher de Marie ”。
こ、これは!!!!す、す、す、素晴らしい!!!!
ライブ・イン・HDで少し危なっかしい感じもしたDフラットが完全に決まって、
お客さんも大熱狂。

いやー、第二幕以降については、これはライブ・イン・HDの日をもしのぐ出来になってます。
この二人はどこまで行けるのか、、、本当にすごいです。

あまりの盛り上がりぶりに、パーマーがピアノを弾きながらおどける場面では、
アドリブで、『魔笛』の夜の女王のアリア”復讐の心は地獄のように燃え”からの
フレーズまで飛び出す始末。
(これはライブ・イン・HDの日にはなし。)

いやー、最後にはビジュアルがないことなど忘れて、スピーカーの前で
微笑み、笑い転げ、そして、ほろっと来てしまいました。
これこそ、音楽の力。

ニ幕に関しては、冒頭でコンマスのニック・エネット氏が弾くヴァイオリンもつややかで、
なんともいえない色気があったうえ、それに応えるかのように、
”富も栄華の家柄も Par le rang et par l'opulence ”にのるチェロの演奏も美しく、
オケも見事に公演を支えていました。

今日オペラハウスにいる方たちはこんなすごい公演(特にニ幕!)を見れた幸運を喜ぶべし!!!
しかし、やや重かった出だしをひっくり返したのは、やはり、フローレスのあのアンコール。
アンコール・パワー、恐るべし、なのです。

Natalie Dessay (Marie)
Juan Diego Florez (Tonio)
Alessandro Corbelli (Sgt. Sulpice)
Felicity Palmer (Marquise de Berkenfield)
Donald Maxwell (Hortensius)
Roger Andrews (Corporal)
David Frye (Peasant)
Marian Seldes (Duchesse de Krakenthorp)
Conductor: Marco Armiliato
Production: Laurent Pelly
Set Design: Chantal Thomas
ON

***連隊の娘 ドニゼッティ La Fille du Regiment Donizetti***

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