Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

Sirius: TURANDOT (Wed, Oct 28, 2009)

2009-10-28 | メト on Sirius
今日は『トゥーランドット』の初日でした。
HDの予定もある『トゥーランドット』ですが、ジョルダーニの低音がまともに出ない”誰も寝てはならぬ”といい、
ワブリングの進行度が心配なレイミーのティムール役といい、
いたるところに地雷がばらまかれているような恐ろしい公演です。

そして、あたかもそれだけでは十分ではない!といわんばかりに、
ゲネプロを見た友人からさらにぎょっとするような話を聞きました。
それは、トゥーランドット役に扮するマリア・グレギーナの化粧が、
映画『ソウ(Saw)』のマスクにそっくりだというのです!!!!
きゃああああっーーーー!!すっごく怖いんですけど!!



しかも、彼女が近年登場した演目(『マクベス』の夫人役など)を聴くにつけ、
その強引で危なっかしい歌いっぷりに、このトゥーランドット役が本当に手に負えるのだろうか、、
とキャストが発表になった時から、疑問に思って来た私です。
それでも、リハーサルは結局ずっとグレギーナで通されました。

しかし!!!!
なんと、びっくり!
今日の初日の公演からSawのマスク、いえ、グレギーナが降板。
ほとんど全くと言っていいほどリハーサルを行っていないはずの、
Bキャストのリーズ・リンドストローム(よくぞNY入りしてました!)が急遽登板!!

一幕では全く出番がない設定のトゥーランドット姫なので、
二幕の開始ぎりぎりまで調整にはげんでいたそうで、心なしか、
インターミッションに登場し、最近の演出、およびもうすぐプレミアを迎える『死者の家から』について語る
ピーター・ゲルプ氏の話が長い、長い。時間引き延ばし作戦か?

そして、いよいよ、トゥーランドット姫の登場。
もちろん、リハを全然行っていないのですから、細かい部分でぎくしゃくしている部分はあるのですが、
声は、グレギーナより全然トゥーランドット向けで、全然悪くないではないですか!
グレギーナのあの野太い声は、実はあまりトゥーランドットには向いていない、と思いますが、どうでしょう?
逆にこのリンドストロームは氷のような鋭さ、それでいて耳障りでない声、
かつシリウスで聴く限りは適度なサイズもあって、
最近聴いたこの役を歌ったソプラノの中では、こと声質だけに限っていうと、断トツで適性があると思います。
個人的にはグレギーナに変わって11/7のHDの公演で歌ってくれてもいいかも、、とすら思います。
もちろん、その場合は細かいところを短時間で猛烈に練らなければなりませんが。
まだまだ熟しきっていない部分もありますが、大体出来が想像できてしまう、
また最近大きな失敗をしないことに神経が向きすぎて、全く歌唱がスリリングでないグレギーナよりは、
リンドストロームの方が、賭ける価値があると思います。仮に結果が思わしくない方に出ることになっても。

思わぬ彼女の健闘に観客以上に大喜びだったらしいのはジョルダーニで、
二幕の後、カーテン・コールに現れた時、彼女に花を持たせ観客の歓声を一身に浴びさせながら、
エキサイトして嬉しそうにぴょこぴょこ飛びはねる彼女と、抱き合って喜びを分かち合ったそうです。
(ホストのマーガレット嬢談。注:この日の音源を聴きなおして二人の様子について加筆修整しました。

そのジョルダーニは、”誰も寝てはならぬ”の低音は相変わらずへしゃげてましたが、
最後の高音は125周年記念ガラの時よりはずっと力強く歌っていて、
リンドストロームに負けじ、と頑張っていました。

リュー役については私のベストは数年前に聴いたヘイ・キョン・ホンで、
(っていうか、あんな素晴らしいリューを現役で歌える人を舞台に出さないなんて、
メトはどうかしていると思う!!)
それに比べるとかなり大ざっぱな感じがしますが、ポプラフスカヤもそつなくまとめていました。
彼女は割りと高音が安定しているソプラノだと思います。
ただ、”お聞き下さい、王子様”の最後、もう少しオケの旋律をよく聴いて合わせてほしかった。
この部分は指揮のネルソンズがなかなか巧みな音の置き方をしていて、
これに合わせて歌っていれば、すごく美しい出来になったと思うので。

レイミーのティムールはかなり音がもがもがうがうがしていていました。
この役はもう歌わない方がいいかな、、。


Lise Lindstrom replacing Maria Guleghina (Turandot)
Marcello Giordani (Calaf)
Marina Poplavskaya (Liu)
Samuel Ramey (Timur)
Conductor: Andris Nelsons
Production: Franco Zeffirelli
Set design: Franco Zeffirelli
Costume design: Dada Saligeri, Anna Anni
Lighting design: Gil Wechsler
Choreography: Chiang Ching
ON

***プッチーニ トゥーランドット Puccini Turandot***


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5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
グレギーナ (チャッピー)
2009-10-29 22:11:40
向いてない、に一票。
ナブッコやマクベスの激情型ヒロインのイメージが強いです。
それにしてもSAWのマスク、怖すぎ・・

あと映画ついでで質問。
Greek Fireはいつ公開されるのですか?
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レイミー (keyaki)
2009-10-30 09:56:34
>この役はもう歌わない方がいいかな、、

ティムールは、なんでも歌う専属歌手か、若いバス歌手が劇場デビューで歌うものですよね
レイミー....今さらなんでティムールなんか歌うんですか....ティムールは特に静かに歌う役なんで、揺れが目立つと思いますし。しかし、《アッティラ》のアッティラではなくてレオーネ???って、そこまでして舞台に立ちたい...のかな。私としては、世界の主要歌劇場で主役を張ってきた歌手は「横綱」であって欲しいんです。つまり、脇役をオファーされるようになったら「引退」しかないってことなんですけど。

ドミンゴ(1941.1)、ライモディ(1941.10)、レイミー(1942.3)とほぼ同年ですので、ライモンディのファンをしているとレイミーの動向も自然に目につくので気になります。それにバス歌手同士なのにめずらしくライモンディと共演もしてます。《ランスへの旅》、ボリス(演奏会形式でレイミーはピーメン)、《フィガロの結婚》なんですけど。

レイミーの揺れ揺れ問題は2003年くらいからありましたが、ちょっと前までは、揺れていても主要な役で舞台に立ってたんですよね。揺れがはじまった頃には、メトの常連さんたちも、いくらなんでもひどすぎる、吐きそうになった...船酔いの薬が必要..メトもいつまで舞台に出すんだ...と厳しいことを言ってましたが、スペインとかパリでも主役級で頑張ってました....しかし、レビューには必ず、まず「揺れ」のことが書かれていました。「揺れ」ていてもレイミーという名前でもっていたんだと思いますが、いつのまにか脇役にシフトしてメトの専属っぽいことをやってるんですね。レイミーはけっこう下積みが長かったので、脇役をやることに抵抗がないのかもしれませんけど.....
ライモンディは、ドミンゴ同様にまだ自分の歌いたいものを歌える立場を維持してますが.....引き時って難しい...ファンとしても複雑です。
返信する
メト専属 (keyaki)
2009-10-30 10:33:38
連続で失礼します。
皇帝をチャールズ・アンソニーさんがやってるんですね。この方、メトのDVDとか映像には必ずと言っていいほど出ているテノールさんなので、私は勝手に「メト名物ニコニコおじさん」と言ってるんですけど...ニコニコはカーテンコールでいつも大物歌手たちと並んでニコニコしているからなんですけど...
確か、パヴァロッティの引退公演で、同時に彼のメトデビュー50周年記念だった..それに80才じゃないですか...
彼ほど大物スター歌手と共演しているテノールはいないでしょうね。これは、ぜひとも本を書いて欲しいですね。
まさかレイミーは、バスのチャールズ・アンソニーを目指しているってことはないですよね...
返信する
私の時は? (ゆみゆみ)
2009-10-31 23:51:18
いよいよ11月でございます。
2度目の「トゥーランドット」が見れるとワクワク。21日には、誰が歌ってくれるのでしょうか?
レイミーの揺れ問題。楽しいです。
私は「ドンカルロ」の時に(メトでの)始めて聞いて驚きました。でも、今年春のレポレロは、揺れもまったく気にならず、良い年令のレポレロで私は見直しちゃいました。
返信する
おてもやん/カメオ的に/不思議ですよね (Madokakip)
2009-11-01 13:06:27
頂いた順です。

 チャッピーさん、

グレギーナの声は今ひとつ冷たいシャープな感じがしなくて、
どすこい感が漂うのが、トゥーランドットにはあまり向かないと私が感じる理由ですね。
どうやら降板の理由は気管支炎だったらしいですが、
今日(10/31)の夜の公演には出演したようです。
初日のリンドストロームの意外な健闘に、
お尻に火がついたかも、ですね。
11/7の公演(HDの公演です)を見に行きますが、
写真が初日のものになってしまうかもしれません。
そうなるとリンドストロームのトゥーランドットを記事の中でご紹介できますが、
写真で見る限り、綺麗ですよ。
グレギーナがSawみたいだったのは、おてもやんのような頬紅のせいなんですが、
これもリンドストロームだとおかしくないです。

 keyakiさん、

>今さらなんでティムールなんか歌うんですか

最近のメト(昔もそうだったのか、ちょっとわからないのですが)は、
こういうビッグ・ネームの歌手を、
本来若手の歌手が歌うようなチョイ役に登用することで、
カメオ出演のような観客を驚かせ喜ばせる効果を狙っている節がありますね。
今シーズンの『連隊の娘』のクラケントープ侯爵夫人役に
キリ・テ・カナワが入るのとほとんど同じ感覚です。
(クラケントープ侯爵夫人は歌がないので、
声楽的にはちょっと意味合いが違いますが。)

>脇役をオファーされるようになったら「引退」しかない

あと、聞いた話なんですが、
今『死者の家から』のリハーサルに来ているエサ・ペッカ・サロネンに
たまたまメトで鉢合わせたレイミーが挨拶をしに行ったらしいんですよ。
そしたら、サロネン、レイミーが誰だかわからなかったらしいんですよね。
そこで、”いや、サミュエル・レイミーですけれども。”と一応名乗ったところ、
感激するというよりは、
”ああ、はあ、はあ、、。”みたいなのりだったらしいんですよ。

すっごく寂しくないですか、これって、、。
少なくとも私にとってはサロネンなんかよりレイミーの方がずっと大きな存在なんですけど。
やっぱりそろそろ引退した方がいいのかもしれないですね。
っていうか、こんな風に扱われるべき歌手じゃないと思います、彼は。

>引き時って難しい...

本当ですね。ファンとしてはずっと歌ってほしい気持ちもあるけれど、
一方で成し遂げたことに値する役とか扱いを与えられなくなったら、
引退すべきなのかも、、とも思う。
本当に難しいです。

その一方で、

>チャールズ・アンソニー

この人は長いですよー(笑)
彼の場合はドミンゴ、ライモンディ、レイミー級にならなかったことで逆に息が長くなった感がありますね。
レイミーどころじゃないほどに歌はへろへろですが、
彼の場合はもはや、もう舞台に立っているだけでいい!という
名物歌手の域に達してます。

 ゆみゆみさん、

>21日には、誰が歌ってくれるのでしょうか

今のところ、グレギーナですが、どうなるでしょうね。
カラフがジョルダーニでなく、ポッレッタなんですね。
ランの後半のリチトラもこのジョルダーニも、
本来はカラフを歌うようなロブストな声ではないので、
私はむしろ、このポッレッタとウェッブという、
間に入っているテノールに面白い人がいればいいな、と
期待しているんですが、、。

>今年春のレポレロは、揺れもまったく気にならず

私も同感でした。
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