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音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

Sirius: SALOME/DON GIOVANNI (Sep 30/Oct 1, 2008)

2008-10-01 | メト on Sirius
衛星ラジオ、シリウスでの鑑賞二連発。

① 9/30 『サロメ』
びっくりした、本当に。
仕事で帰宅がやや遅くなり、開演に少し遅れてスイッチを入れたら、『サロメ』とは別の演目かと思うような
オケの演奏が聴こえてきた。
今日は開演が遅い日だっけ?と思って、よーくスピーカーに耳をそばだてて聴いてみたら、
やっぱり、それは『サロメ』からの旋律だった。
ええええっ!!!!???何これ、、?
演奏に、全っ然、この作品特有の怪しさも緊張感もなくて、
一瞬、ベル・カント・オペラの作品か何かの演奏かと勘違いしそうになりました。
何の断りもなく、いきなり、予定されていたミッコ・フランクが指揮をキャンセルし(理由不明)、
パトリック・サマーズが代役をつとめるとは聞いていましたが、
あの、オープニング・ガラで彼が振った、味のないするめのような
『カプリッチョ』
(同じくリヒャルト・シュトラウスの作品)の演奏が、危険な雰囲気を醸し出していたとはいえ、
それにしても、ここまで、、。
来週の土曜日にはライブ・イン・HDにものってしまうというのに、こんなのでいいのか?!
いや、良くないと思う。

さらに、昨シーズンの『マノン・レスコー』で、この声で本当にサロメが歌えるのだろうか、、と、
私を心配させていたカリタ・マッティラですが、今日の歌唱を聴く限り、かなりきつそうだなあ、と感じました。
というのは、彼女の声は、本来は繊細で綺麗な点が持ち味で、
どちらかというと線が細い声だと思うのですが、
(声量があるないとは関係なく、声のテクスチャーの問題)
この役にマッチしていると判断されやすい、やや鋭い響きが声にあることと、
たまたまこの役を歌って歌えなくはないスタミナや度胸(なんせ、裸で踊らなきゃいけないんですから、
たいていのソプラノは尻込みするってもんです。)があるために、
現役ではこのサロメ役の第一人者のようになってしまっていますが、
歌い方を聞くと、かなり無理をしているのは明らかです。
高音はもはや、ただただ根性で絞り出すようにひっぱっていて、ガッツはある人だな、とは思うのですが、
もともと無理な発声をしているので、音が短めになりがちで、余裕というものが全くないです。

もちろん、ラジオでは音しか聴こえないので、ビジュアル面のこと、
また声とビジュアルのバランスや統合の仕方、ということについて、
ここで語るのはフェアではなく、来週に実際の舞台を観るのを待つべきなのでしょうが、
一点だけ言うなら、歌に表情をつけるために、かなり強引な声のカラー、
いえ、もうこれはカラーという範疇を越えて、許容できるか微妙なほどに、
どすの利いた声やだみ声が多用されているのも気になりました。
私は、歌はまず歌でなくてはならず、語りや雄たけびになってはならない、という主義で、
この点、かなりコンサバであるとはいえますが、それにしても、彼女のこの役における歌唱は、
かなり個性的であるとはいえると思います。
ライブ・イン・HD(ライブ・ビューイング)はどんなことになるのだろうか、、どきどきしてきました。

(冒頭は、オスカー・ワイルドによる『サロメ』原作に挿入されているビアズレーのイラスト。
この怪しく淫靡な世界の、どこをどうすれば
ベル・カント・レパートリーの伴奏のようなオケになってしまうのか、サマーズ、、。)

② 10/1 『ドン・ジョヴァンニ』
オケの演奏が緩いことではこちらも負けてません!って、そんなこと競うな!って感じですが、
もう出だしのすかしっ屁のような数音を聞くだけで、がっくり来ます。
先週土曜の舞台では、ビジュアルや演技の面からの不満もあった私ですが、こうやって音だけ聴くと、
ラングレの指揮とそれに合わせて演奏しているオケがかなり公演自体を
生ぬるいものにしていることがよくわかります。
かと思えば、奇妙にテンポ設定が早すぎて、歌手がそんな速さできちんと歌えるわけなかろう!
と叫びたくなる個所もいくつかあるし、、、もうちょっとまともに振れる人はいないのか?


(ドン・ジョヴァンニ役のシュロットとツェルリーナ役のレナード)

ストヤノーヴァの歌うドンナ・アンナによる
”今こそ判ったでしょう Or sai chi l'onore ”の今日の出来はなかなかで、
その後に続く、ポレンザーニの歌うドン・オッターヴィオの ”彼女こそ私の宝
Dalla sua pace ”と合わせて、今日のハイライトでした。
ストヤノーヴァは、本来の調子の時は、コロラトゥーラの技術が極めて正確なのが気持ち良い。
(だから、彼女のコンディションがよいときの『椿姫』が素晴らしくても、
何の不思議もない。)
この”今こそ~”の下降音階も、今日はどの音もおろそかにせず、
音程、音の粒の大きさ、ともに綺麗に決めていたし、
(当たり前ということなかれ!これが出来ていないこの曲の歌唱のいかに多いことか!)
特になぜだか、よく知られた個所やアリアで早めに振りたがるラングレのテンポで
これが出来るのだから、やっぱり技術がしっかりしています、彼女は。