変化を受け入れることと経緯を大切にすること。バランスとアンバランスの境界線。仕事と趣味と社会と個人。
あいつとおいらはジョージとレニー




----------------------------------------------------------------
カテゴリの 『連載』 を選ぶと、古い記事から続きモノの物語になります。
----------------------------------------------------------------
 <目次>      (今回の記事への掲載範囲)
 序 章         掲載済 (1、2)
 第1章 帰還     掲載済 (3、4、5、6、7)
 第2章 陰謀     掲載済 (8、9、10、11)
 第3章 出撃     掲載済 (12、13、14、15、16)
 第4章 錯綜     掲載済 (17、18、19、20)
 第5章 回帰     掲載済 (21、22、23、24)
 第6章 収束     ○ (28:4/4)
 第7章 決戦     未
 終 章          未
----------------------------------------------------------------
第6章 《収束》  (続き 4/4)
    ◆
「こんな所に親衛隊の隊長が自らお出ましとは珍しいですな。」
「世間話をしに来たのではない。」
そこは軍情報部の総本山とも言うべき所で、王宮から少し離れた軍本部の一角であった。親衛隊は独自の情報網を持っているが、総合力で軍には到底適わない。ルナの元には様々な勢力が終結して来ているが、戦力や持久力において国軍の足元にも及ぶまい。そうであればこそ、情報力が必要なのだ。親衛隊の隊長は、まず軍情報部が握っている情報を収集し、彼等の動きを把握しようとしていた。水面下から接触していたところ、軍統帥直轄の極秘作戦が進行していることを掴んだ。どうやらそれは誘拐・拉致作戦のようだが、ルナに関係している何かのようなのだ。統帥直轄ということは、末端にいくら接触を試みても核心には届かない可能性が高いと踏んだ隊長は、思い切って情報部の統括室にやって来たのだ。情報部の部長は親衛隊の隊長がやって来たことに驚きを隠さなかった。一般には、誇り高き親衛隊は汚れ仕事の多い情報部とは対極に位置付けられており、両者が接触するのは極めて稀なのだ。
「ブリタニア辺境伯が出撃した後、港付近で進めている情報部の作戦について、伺いたい。」
部長は顔色一つ変えなかったが、空気が一変したのを隊長は見逃さなかった。
「何のことやら……。」
「建前はいい。きっと我々はお役に立てると思う。」
「例えそうであったとして、私があなたに作戦の内容をお話するとお考えか?」
「……やはり無理だろうな。」
踵を返して退室して行く親衛隊の隊長を、部長は満足げに見送ったが、隊長が扉を開けた刹那、親衛隊が突入して来たので、部長の表情は笑顔から恐怖に一変した。
「何事だ、これはっ!?」
「すまない。お互い役目は違っても王国の治安を預かる身、こんなことはしたくなかったのだが……。」
隊長のそんな言葉とは裏腹に、親衛隊の隊員達は瞬く間に情報部を占拠してしまった。
「貴様、クーデターでも起こす気か!」
「そのつもりだ。」
あっさとり言いのけた隊長に部長は言葉を失った。しかし部長の目は、残された抵抗手段を求めてせわしなく動き続けている。
「やめた方がいい。我々はここを完全に制圧している。抵抗は無駄だ。」
「完全だと? 俺は貴様等と違う! 情報部の軍人として、陛下の信任を裏切ることは決してないぞ!」
部長のベルトには、特別な事態が発生した時にそれを知らせるアラームのスイッチが付いている。そのスイッチはクーデターのようなレベルの事態を想定したもので、数世代に渡って押されたことがなかった。部長自身もその存在を忘れていたが、親衛隊の隊長との口論の間に思い出した。そして今、それは想定した目的のために押された。親衛隊はスイッチが押されるのを停められなかったのだ。親衛隊と自分の立場が逆転したという思いから、部長の口調は落ち着きを取り戻した。
「これで終わりだ。陛下を裏切ろうとしたことを後悔するがいい。」
言いながら部長が歩き出した。多くのディスプレイが並ぶ情報部の統括室は、身動きがしずらい。銃口を部長に向けている親衛隊の隊員は、部長の歩みに沿って後ずさりしたが、その度に机や椅子にぶつかってしまった。そのみっともない姿が部長をより高慢にさせた。
「どうした、親衛隊。腹いせに俺を撃つか? それとも親衛隊用の飾りが付いたその銃には弾は入っていないのか?」
部長の高笑いが響くと同時に、統括室の二つの扉から情報部の保安隊が突入して来た。凄まじい銃撃戦を予想した部長は、巻き添えにならないように付近の机の下に隠れた。しかし、突入の足音が静まると、部屋には機械の音だけが鳴り続けていた。そして、それを打ち破ったのは突入して来た保安員の言葉だった。
「部長、正義は親衛隊にあります! 目を覚ましてください!」
一瞬の沈黙で状況を悟った部長はゆっくりと立ち上がった。
「まさか、ここまでやっているとは……。」
親衛隊の隊長が部長の前に進み出た。
「やっとお話ができる環境が整った。話を聞いてもらえますかな、部長?」
「話せる環境? 脅迫や拷問のことを親衛隊では『話』というのか!?」
「そんな野蛮なことはしないし、我々は貴方が協力してくれるものと確信している。」
部長は考えた。如何に親衛隊とは言え、保安員までをも抱き込めるものだろうか。部長以外の何者も信用しないように訓練されている保安員に限って、そんなことは常識的に有り得ない。しかし現実にはそうなった。つまり、常識と現実の辻褄を合わせる何かが存在するのだ。それが何なのかを知りたいという好奇心は、情報部の人間であればこそ尚更なのであった。
 それから暫くの沈黙を伴った睨み合いが続いた後、親衛隊の隊長と情報部の部長は、どちらからともなく会話を始めた。長い時間を掛けて話をした結果、互いの情報を突合せて見えてきた輪郭に双方ともが唖然とした。
「首謀者は、皇帝ということか……。」
「玉石を兵器に流用するとは……。」
これらの情報は、ただちにルナの元に送られた。

 親衛隊が軍情報部を押さえた翌日には、ベルァーレが救出された。彼女が隔離されている部屋に親衛隊が踏み込んだ時、彼女を拘束していた二人の情報部員は驚きの余り何の抵抗も見せなかった。しかし、ベルァーレが見せた、引き裂かれた衣服で何とか素肌を覆い隠そうとしたいじらしい仕草と、情報部員に向けられた獣を見るかのような視線が、彼女に起こったであろう屈辱を充分に物語っていた。それを確認した親衛隊の隊員は、情報部員の脚を撃ち抜いて動けなくしてから、そっとベルァーレに銃を渡した。通常はこんなことはしない。情報部員を二人とも隊長の下に連行するのが彼の役目であったし、また、悲劇直後の女性は自らを撃ち抜いてしまう可能性があるからだ。ところが、ベルァーレの目に強い意志を感じ取った隊員は、ことの結末を彼女自身につけさせることにした。それが最良と思えたのだ。泣き叫ぶ情報部員の股間に向けられた銃口から発せられた銃弾は腿に当たり、その情報部員は激痛の余りにそこで気を失った。もう一人の情報部員にゆっくりと銃口が向けられていく過程で、彼は恐怖の余り失禁の後に気を失った。ベルァーレは銃を手放し、復讐をやり遂げるよう勧める親衛隊の手を振りほどき、そのまま立ち去ってしまった。その背中は追われることを拒否しており、親衛隊は言葉を掛けることさえできなかった。
 ことの一部始終は、親衛隊からブルータスを経てルナに伝えられた。ベルァーレの件について、ブルータスはカク・サンカクに伝えないようにと進言し、ルナもそうすべきかとも思った。整備を含めて技術の要であるカクが以前にも増して力を発揮しているのが、ベルァーレに拠るというのは間違いない。そして彼の精神は、決して打たれ強いわけではないのだ。それでもルナは、事実を伝えることにした。ベルァーレが行方をくらましてしまったことまでをも含めて。話を聞かされてカクは、大声を上げて泣いた。そしてそれは夜中まで続いた。誰も慰めの言葉を持っていなかった。あまりに悲壮なその様子から、このままカクは死んでしまうか、あるいは失踪してしまうだろうと思われた。ルナもそう思い、また、それも止むを得まいと考えた。そして、今回の謀略に対して一層の憎悪を抱くのであった。
 翌朝、ルナの前にカクが現れた。タイガー・ルナの格納庫から出て来たらしく、手も顔を油まみれになっている。カクにとってそれは珍しいことではない。増してや玉石を使った兵器の詳細を聞かされた後であれば、普段なら喜び勇んで機械と戯れたことだろう。泣き疲れた後であってさえカクが向かった先が格納庫であり、結局は機械だけが彼の心を癒せ得るということが、一層の悲壮感を醸し出していた。
「隊長、これであんたも悪魔の仲間入りだ。玉石の出番さ。」
それだけ言うとカクは、ルナの胸元のネックレスにあしらわれた玉石に手をかけながら、倒れ込んで眠りに付いた。
近くで見守っていたブルータスが訝しげに問い掛ける。
「何だ? カクの野郎、いかれちまったのか?」
ルナはカクの看病をブルータスに頼み、タイガー・ルナのコックピットに昇ってみた。
ネックレスにあしらった輝石が玉石のかけらであること、確かにカクは知っていた。その力を使うということは、答えは一つしかない。操縦桿の脇に、『デビルボタン 取扱注意』と書いた紙が張られているボタンが新設されている。昨日までは無かったものである。そして、座席の上に薄い冊子が載っていた。表紙には『空雷砲 取り扱い説明書』と記載されていた。

<最終章に続きます。>

とりあえずクリックをお願いします。
    ↓
にほんブログ村 その他趣味ブログへ
ブログランキング
人気blogランキングへ


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )